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はじめての秋

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「みよ、俺の実力を!」

 次の日、そう言って本当に鶏小屋の増築を終えたグロウは、自慢げにフフンと鼻を鳴らす。
 ぼくはあまりにも驚いてポカーンと口を開けてその建物を見ていた。
 完璧だった。
 僕の家を建ててくれた時にも思ったけれども、グロウってどうしてこんなになんでも出来るのか。
 せめて三日はかかると思っていたのに、こんなにも早く出来上がるなんて。

 そんなグロウは、早速自分の小屋作成に移っている。
 小さな物にするつもりらしいから、僕の家よりも随分と小さなものにするつもりみたいだけれども。
 そうなると、こちらもすぐに建て終わっちゃう? え? グロウのやつは何がしたいんだろう?
「グロウ、なにがしたいの?」
「何って、作業部屋を作りたいんだが?」
「そりゃそうなんだろうけど……」
 そうじゃなくて、何かが引っかかる。
 なにか違和感があるんだよなぁと思いながら、仕事へと僕も移る。

 そう、僕にはゆっくりしている暇はなくて。
 収穫を迎えた作物がたくさん待っている。
 最近では夕方までかかることも合って、本当に毎日クタクタだ。
 それでも一人でこなせる量なのは、グロウの作った数々の発明品があるからで……感謝しかないんだけど、だからこそなにか違和感があるんだ。

 まるで、自分の居場所を整理しているような、そんな違和感。
 それがグロウから感じられて、何か嫌で。

「グロウ!」
「あーん?」
 今まさに木を切り出そうとしていたグロウは面倒臭そうにこちらを向いて、なんだよといいたげな目でこちらを見ている。
 それにいなくならないよねって聞きたいんだけど、なんだかそれが肯定されてしまうのが嫌で、言えなくて。
「……なんでもない」
「なんだよー。女以外の名前は用がある時に呼べよ、気持ち悪いやつだな」
 そう余計な一言をいつもみたいに付け足して、そのまま二人で各々の作業を始める。

 何かが変わる予感がする。
 そんな予感が当たりませんようにと、願いながら僕は仕事を続けるのであった。
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