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はじまる冬
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大雪のあった日から三日たった。
あの日から家にいる時にふと物足りなさを感じるようになった。
朝起きてもおはようを言う相手も居なくって、寝る時もおやすみを言う相手が居なくって。
当然のことなのに、それがなんだか物足りなく感じるようになった。
町の除雪が追いついていないらしく、朝の温泉卵デートもなくなり。
昼からは当然のように酒場に行ってオードちゃんに会えるんだけれども、それでもなにか物足りなくて。
毎日が、不思議な気持ちだった。
「ノルズ! ちょっと部屋に来いよ」
その日はグロウが帰ってくると、すぐに部屋に呼ばれた。
「これ、出来たからよ」
そう言って渡されたのはアクセサリーを入れる箱で。
「あ、これって……」
「そう。あのフェアリークリスタルで作ったアクセサリーだ。お前はイヤリングって言ってただろ?」
ぱかりと箱を開ければ、そこにはキラリと光るイヤリングが入っていた。
「わぁ……綺麗だね、これ」
「なんでもじいさんがいうには純度がすごくいいものらしいぜ? あの日行ってよかったよな」
そう言って笑うグロウに、僕も笑顔を返す。
それなのにグロウはなぜだか変な顔をして、僕の頬を引っ張ってきた。
「なんだよ、浮かない顔して。お前、なんか変だぞ? あれか? やっぱり大雪の日に何かあったのか?」
「なかったってば! ……なかったんだけど」
グロウにこの気持ちをどう話すべきなのか、よくわからなくて。
「なんか、どっかがぽっかり開いてる気がして」
うーんと悩んで出た答えは、そんな答えだった。
「なんだそりゃ。意味がわからんぞ、意味が」
「うん。僕もわからないんだ」
本当に、わからないんだ。
今まで生きてきて、感じたことのない気持ち。
もやもやとかそういうのとも違って、ただただなにかがぽっかりとあいた感じがするのだ。
「どこがぽっかり開いてる気がするってんだ?」
「どこかが」
「それじゃわかんねーよ」
「だよねー」
あははと頭をかきながらそういうと、グロウは呆れたように口を開く。
「それってのはあれか、大雪の日にオードと二人でずっと一緒に居てからか?」
「ああ、うん。その通りなんだ」
「やることやんなかったくせに」
「そういうことじゃなくて!」
「冗談だよ。まああれだ、それはお前……」
そこでグロウは口を噤むとぽんと僕の左胸あたりを叩く。
「オードと一緒にいることが当たり前にだったのに、なくなっちまったって思ってるからだろ」
「当たり前って……たった一日だよ?」
「その一日で何か思うことがお前の中にあったんじゃねーの?」
「思うこと……」
幸せだなぁって、そうは思ったけれども。
「いつもと、そんなに変わりないと思うんだけど」
「そこに何かが違いがあったから、お前は今そのぽっかりってやつができたんだろう。……なーんか、お前が先に行っちまった気がするなぁ」
「え?」
「なんでもねーよ! ほら、下行って飯にするぞ!」
最後のあたりがよく聞き取れなくて聞き返すけれども、グロウは教えてくれなくて。
さっさと下の酒場に行ってしまうグロウを追いかけて、僕は走るのだった。
あの日から家にいる時にふと物足りなさを感じるようになった。
朝起きてもおはようを言う相手も居なくって、寝る時もおやすみを言う相手が居なくって。
当然のことなのに、それがなんだか物足りなく感じるようになった。
町の除雪が追いついていないらしく、朝の温泉卵デートもなくなり。
昼からは当然のように酒場に行ってオードちゃんに会えるんだけれども、それでもなにか物足りなくて。
毎日が、不思議な気持ちだった。
「ノルズ! ちょっと部屋に来いよ」
その日はグロウが帰ってくると、すぐに部屋に呼ばれた。
「これ、出来たからよ」
そう言って渡されたのはアクセサリーを入れる箱で。
「あ、これって……」
「そう。あのフェアリークリスタルで作ったアクセサリーだ。お前はイヤリングって言ってただろ?」
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「わぁ……綺麗だね、これ」
「なんでもじいさんがいうには純度がすごくいいものらしいぜ? あの日行ってよかったよな」
そう言って笑うグロウに、僕も笑顔を返す。
それなのにグロウはなぜだか変な顔をして、僕の頬を引っ張ってきた。
「なんだよ、浮かない顔して。お前、なんか変だぞ? あれか? やっぱり大雪の日に何かあったのか?」
「なかったってば! ……なかったんだけど」
グロウにこの気持ちをどう話すべきなのか、よくわからなくて。
「なんか、どっかがぽっかり開いてる気がして」
うーんと悩んで出た答えは、そんな答えだった。
「なんだそりゃ。意味がわからんぞ、意味が」
「うん。僕もわからないんだ」
本当に、わからないんだ。
今まで生きてきて、感じたことのない気持ち。
もやもやとかそういうのとも違って、ただただなにかがぽっかりとあいた感じがするのだ。
「どこがぽっかり開いてる気がするってんだ?」
「どこかが」
「それじゃわかんねーよ」
「だよねー」
あははと頭をかきながらそういうと、グロウは呆れたように口を開く。
「それってのはあれか、大雪の日にオードと二人でずっと一緒に居てからか?」
「ああ、うん。その通りなんだ」
「やることやんなかったくせに」
「そういうことじゃなくて!」
「冗談だよ。まああれだ、それはお前……」
そこでグロウは口を噤むとぽんと僕の左胸あたりを叩く。
「オードと一緒にいることが当たり前にだったのに、なくなっちまったって思ってるからだろ」
「当たり前って……たった一日だよ?」
「その一日で何か思うことがお前の中にあったんじゃねーの?」
「思うこと……」
幸せだなぁって、そうは思ったけれども。
「いつもと、そんなに変わりないと思うんだけど」
「そこに何かが違いがあったから、お前は今そのぽっかりってやつができたんだろう。……なーんか、お前が先に行っちまった気がするなぁ」
「え?」
「なんでもねーよ! ほら、下行って飯にするぞ!」
最後のあたりがよく聞き取れなくて聞き返すけれども、グロウは教えてくれなくて。
さっさと下の酒場に行ってしまうグロウを追いかけて、僕は走るのだった。
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