6 / 27
1、戦国時代へ
6
しおりを挟む
自信満々に名乗ったかと思えば、重孝は我慢できなかったように一気に質問を浴びせてきた。
二郎丸と同じくらいの年頃、好奇心の塊ってやつだ。
「なぜそんなに傷だらけなのだ? お主は誰で、なぜここにいる?」
「俺は田辺真人。戦で矢を射られて、治療中ってとこだ。……ここにいる理由は、正直よくわからない」
「そうか!では俺が話し相手になってやろう。光栄に思え!」
勝手に決められたが、確かに退屈してたので助かった。
スマホもゲームもない戦国時代、時間の潰し方なんて寝るくらいしかない。
「よし、じゃあそこに座れ。俺はまだ起き上がるのきついから、寝たままで話すぞ」
肩はまだジンジン痛むので、なるべく振動を与えないように話す。
すると、重孝がキラキラした目で聞いてきた。
「なあ、戦とはどんな感じだ? お主も敵を斬ったのか!?」
まだ戦を知らない子どもの憧れ。ワクワクした顔をしている。
けれど、残念ながら俺は――。
なんとなく、斎賀の人間だとは言わずにおしゃべりを続ける。
「……いや。誰も斬ってない。馬に乗るだけで精一杯だった」
「え、じゃあお主は、誰も斬らなかったのか!?」
「そうだ。俺は馬を操るのがやっとの初心者だ」
「えぇ~」
理不尽に文句を言う重孝だが、そのまま小姓さんに呼ばれて部屋を出て行った。
翌日も、なんだかんだ言いながら部屋にやってきた。
真人の唯一の得意料理、チャーハンの話で盛り上がり回復したら作ってやることになった。
そんな日々を過ごし、真人が普通に起き上がれるようになると早速チャーハンの催促が来る。
それほど楽しみにしていたのかと笑いながら作り。
勝手に動き回っても咎められないのをよいことに厨房に立ち、周囲の怪訝な視線を背に二人分を作る。
「なあ、毒味とかしないのか?」
「いつもはするけど、今は別にしなくてよい」
「そうか。じゃあ食べるぞ」
縁側に座ってチャーハンを口にかき込む。
薄味も悪くないが、たまにジャンクフードを食べたい衝動が押し寄せる。
次は揚げ物を作ろうと思いながら、横を見た。
「うまい!」
もぐもぐと口いっぱいに頬張り、「初めて食べる味だ!」と言う重孝。
口の端に米粒がついたまま大喜びする重孝を見て、悪い気はしない。
「そんなに気に入ったなら、また作ってやるよ」
すると、身を乗り出して確認してきた。
「まことか!嘘だったら鞭打ちだからな!」
「怖いなお前!でも、約束だ」
きらきらとした目で嬉しそうにしている。
――すっかり懐かれてしまったな、と思った。
その夜、羽川の当主から呼び出しがかかった。
今まで何もなかったのが不思議なくらいである。
通された部屋には食器が散乱し、家臣に怒声を浴びせる太った男がいた。
真人に気が付くと、羽川家当主が血走った目で怒鳴りつけた。
「そなた、斎賀と同じことをしたというのに、なぜこうなった!? 関所を廃したのに商人は来ず、野盗ばかり増えた! 一体どうしてくれる!」
どうやら真人が知らない間に関所を廃止したらしいが、上手くいかなかったようだ。
真人に言われても困る。
関所を廃止したとき、何もしていなかったのか?
「斎賀では兵を町に巡回させて治安を保っていたし、悪人が増えるのは当然。真似するだけで上手くいくわけが――」
職人のおじさんも言っていた。
最近、兵士をよく見かけるのは人の流通が増えたから巡回して治安維持しているんだと。
ただ真似するだけでうまくいくと思うなんて、なんてお気楽なお殿様だろう。
体格も太ってるし、斎賀のお殿様とは全然違う。
今まで鍛錬なんてしてこなかったんだろうな……。
「黙れ!役立たずめ!牢に放り込め!」
「は? ちょっ……痛!」
跪いていた人が、怒声とともに肩を乱暴に掴まれ引きずられていった。
俺も再び引きずられ、せっかく治りかけていた傷口が開き、血が滲んできた。
抵抗してもびくともしない。
半ば引きずられるようにして連れてこられたのは、じめじめとした牢屋。
空気は悪く、長時間は居たくない場所だ。
「用無しにお似合いの場所だ。せいぜい死ぬ前に情報を吐かせろ」
捨てゼリフを残して振り返りもせず去った。
肩を掴ん俺を突き飛ばし、ガチャンと扉を閉めて出て行った。
「いってえー」
肩を見ると血が滲んでいる。
せっかく良くなりかけていたのに、傷口が開いてしまったようだ。ズキズキと痛む肩を押さえる。
それにしても、丁寧に看病されていたのに、牢屋に入れられるなんて……。
勝手にさらってきて、何もしなかったのを俺のせいにされるとは。
それに部屋にはもう一人いたが、あの人は大丈夫だったのかな?
投げたお碗の中身、頭にかかっていたよね。火傷とかしてなければいいけど。
どうでもいいことばかり考えていると、隣から声がした。
「よお、新入り。何やらかした?ここは囚人を個別に収容する牢だ。集団で収容できないやつが集まっている」
「俺? 拐われてきたと思ったら、勝手に失敗を押し付けられてここに」
「はは、ここに来て何もしてないだと?そんなわけがあるか」
「敢えて言うなら、失敗を押し付けられたとも言える」
「はっ、そりゃ災難だったな。俺は南部鉄(みなべ てつ)。情報収集してたら仲間が裏切って捕まったんだ」
「俺は田辺真人、真人って呼んでくれ。それで情報収集って?」
「羽川家には色々黒い噂がある。その証拠を掴んで、敵に売ったり羽川家を脅す計画だった。仲間が失敗して捕まって、俺を売ったのさ。そいつは俺を売ったすきのゴタゴタで逃走、俺はこのざま」
「うわぁ、南部さんも災難だね」
「だろ?俺のことは鉄でいい」
「わかった。情報収集ってどうやるの? お城に忍び込むなんて忍者みたいだな」
「みたいじゃなくて、忍びだ。小さな村で皆で住んでたけど抜け出してきた。危ない仕事も自分はやらず、下っ端に押し付ける。何人帰ってこなかったか……俺はそうなりたくなくて、一人で村を出た」
身の上話をしてくれるが、俺は最初の一言しか聞いていなかった。忍者?本物!?
「……え、忍者!?本物!?すげー!」
アイドルに会ったファンみたいなリアクションをしてしまった。
思わず握手を求め、格子に手を突っ込む俺を見て鉄は吹き出した。
「くくっ、真人は面白いな。俺は18才だけど同じくらいか」
「うん、多分まだ17才。ここに来てからどれくらい経ったかはわからないけど」
「そんなに長くさらわれてたのか」
「あ、いや、ここにというか……世界というか……」
真人たちが話していると、急に牢内がザワザワし始めた。
「おい、来たぞ」
「今日やられる奴は誰だ?」
「ここ最近はなかったのにな」
「ちっ、また来やがったか」
急にドタドタと数人が牢に押しかけてきた。
真人は鉄に何が起きたのか尋ねる。
「こいつら、囚人には何してもいいと思ってる。憂さ晴らしに来るんだ。牢番もグルだからタチが悪い」
そう話しているうちに、5人ほどの集団が俺の牢の前にやってきた。
「おい、お前が新入りか。斎賀の密偵だってな」
「当主様も情報吐かせろって言ってたじゃないか」
「おい、今日はこいつにしようぜ」
鍵を外して扉を開けられる。
「うわっ!」
「来い」
「真人!」
拘束された肩はまだズキズキ痛むけど、抵抗しても無駄だ。
牢屋の外は薄暗く、湿った空気が漂っている。
「楽しみにしてろ、こっからが本番だぜ」
真人は肩を押さえつつ、次に何が起こるかを覚悟するしかなかった。
外に出ると、建物の影に連れて行かれる。
「おい、斎賀の家の者なんだってな」
「若様と毒味もさせずにお食事なされたそうではないか」
「まさか、そうして若様を懐柔しようと?」
「斎賀の密偵じゃ!」
「成敗せねば!」
「何勝手なこと言ってるだよ! そもそも拐ってきたのはお前達だろ!」
ガッ!
勝手にあれこれ言われていたかと思うと、お腹を蹴られた。
一瞬息ができなくなる。なんて理不尽だ。
「カハッ」
「こいつ弱いぞ。当主様の機嫌が悪かったのも元はこいつのせいだ。やっちまえ」
ガッ!ゴンッと足で蹴られる。
反撃したくても人数が多くて無理だ。鼻血も出てきた。
「はっ、ざまあねえな!」
「まあ、こいつは斎賀の情報を吐かせるために拷問があるだろ」
「んなっ、拷問!?」
「そうだ。持ってる情報は吐かせねばな」
「おい、どうせなら今、斎賀の情報を喋れば褒賞があるんじゃないか?」
「たしかに。おい、喋らせるぞ!」
まずいことになった。拷問だって?
そんなのされてたまるか。
そもそも、何も情報持ってないのに!
ああ、あの作戦の人選は正しかったんだな。
敵に捕まっても大丈夫なやつ。まさしく俺だ。
少し諦めかけたとき、声が聞こえた。
「そこで何をしている!屋敷内での私闘は厳禁だぞ!」
「くそっ。あと少しだったのに」
「行くぞ!」
リンチをしていた5人組が逃げていく。
止めてくれたお礼を言おうと顔を上げると、見えた顔に思わず言葉が出た。
「重孝……」
「……真人。お主は斎賀の人間だったのか?肩の傷も本当は俺達の兵に斬られたのか?なぜなにも教えてくれなかったんだ?」
目に涙をためて質問する重孝。俺が話さなかったせいだよな……。
「そうだ。矢を受けて気絶したあとに拐われてここに来たんだ。逆に敵のところにいて何もされない方がおかしかった」
「じゃあなんで一緒にいた!次期当主だって話したじゃないか!敵のはずだろ!」
重孝が泣き出した。
縄の拘束を小さな手で解いてもらい、ヒックとしゃくり上げる彼を抱きしめる。
「だってお前は俺に何もしてない。したことといえば、一緒におしゃべりしてご飯を食べたくらいだ。恨む理由なんてどこにある」
「……真人のところに遊びに行こうとしたら止められて……。悪いことをして牢屋に入れられたって聞いて忘れろって言われて……。もう会えないかと思っていたら、声が聞こえて来てこっちに来たんだ」
「そうだったのか……何も話さずにいてごめんな」
抱きしめたまま、頭をぽんぽんと叩く。
すると重孝が奥の茂みの方を指さす。
「こっち。抜け道がある」
「重孝……でも、そしたらお前は……」
「問題ない。今の兵士達しかお主のことは知らないし、私闘は禁じてるから自分からは話さない」
「そうか。でも、それでいいのか?」
「うん……。父上のすることは正しいって教えられてきたし、斎賀の兵は卑怯だって言われてきた。でも、真人は卑怯な人に見えない。今は父上の方がそう見える……。どっちを信じればいいかわからなくなってきた」
「じゃあさ、お前もここ抜け出して自分の目で斎賀を見てみたら?若様」
そこへ、誰かの声が割り込んできてバッと重孝を背後へ隠す。
現れたのは牢にいたはずの鉄だった。
「鉄! なんで……」
「牢番に『やりすぎたらお前の首が飛ぶ』と言って俺なら止められるって脅してきた。隠し持っていた忍びの道具で逃げ出したって言えば問題ないってな。真人がやばいかもと思って助けに来たが、心配は無用だったかな」
「……実はいつでも逃げれたんじゃ?」
嬉しかったが、少し脅しただけという言葉を信じても大丈夫か不安になる。
「で、さっきのはどういうことだ?」
「若様は自分が何を信じればいいかわからないって言ってただろ。だったら真人に斎賀に連れて行ってもらって、自分で確かめればいいじゃないか」
「そんなことできるわけ……!こいつは次の当主だぞ?しかも下手したら斎賀が重孝を人質に取るようなものじゃないか」
「そこでお前だろ?羽川で助けてくれたから、世間には人質と思わせておいて、実際は客人扱いにしろって。斎賀にしてみれば、自分から羽川を脅す材料が来てくれるっておいしいんじゃねえか」
「でもだからって!重孝も何か言えって!」
「……斎賀に行く」
「重孝!?」
「よし、三人で抜けだして斎賀に行くか」
「ちょっと待てって!うん?三人?」
「面白そうだから俺もついてく」
重孝は二郎丸とほぼ同年代。この時代の人質の命の軽さがわかっているのか。
しかも鉄までついてくるという。
「重孝、本気か!?敵陣に一人で行くようなもんだぞ!」
「でも、自分の目で見て確かめたい。将来当主になるなら、自分の目で確かめたい」
そう言い切って顔を上げる。
子どもの顔に宿る決意を前に、うろうろしている真人へ鉄が言った。
「じゃあ決まりだな。三人でここを抜け出して斎賀に行くぞ」
そうして、重孝の先導のもと、俺たちは夜の闇に紛れ羽川の屋敷を抜け出した。
二郎丸と同じくらいの年頃、好奇心の塊ってやつだ。
「なぜそんなに傷だらけなのだ? お主は誰で、なぜここにいる?」
「俺は田辺真人。戦で矢を射られて、治療中ってとこだ。……ここにいる理由は、正直よくわからない」
「そうか!では俺が話し相手になってやろう。光栄に思え!」
勝手に決められたが、確かに退屈してたので助かった。
スマホもゲームもない戦国時代、時間の潰し方なんて寝るくらいしかない。
「よし、じゃあそこに座れ。俺はまだ起き上がるのきついから、寝たままで話すぞ」
肩はまだジンジン痛むので、なるべく振動を与えないように話す。
すると、重孝がキラキラした目で聞いてきた。
「なあ、戦とはどんな感じだ? お主も敵を斬ったのか!?」
まだ戦を知らない子どもの憧れ。ワクワクした顔をしている。
けれど、残念ながら俺は――。
なんとなく、斎賀の人間だとは言わずにおしゃべりを続ける。
「……いや。誰も斬ってない。馬に乗るだけで精一杯だった」
「え、じゃあお主は、誰も斬らなかったのか!?」
「そうだ。俺は馬を操るのがやっとの初心者だ」
「えぇ~」
理不尽に文句を言う重孝だが、そのまま小姓さんに呼ばれて部屋を出て行った。
翌日も、なんだかんだ言いながら部屋にやってきた。
真人の唯一の得意料理、チャーハンの話で盛り上がり回復したら作ってやることになった。
そんな日々を過ごし、真人が普通に起き上がれるようになると早速チャーハンの催促が来る。
それほど楽しみにしていたのかと笑いながら作り。
勝手に動き回っても咎められないのをよいことに厨房に立ち、周囲の怪訝な視線を背に二人分を作る。
「なあ、毒味とかしないのか?」
「いつもはするけど、今は別にしなくてよい」
「そうか。じゃあ食べるぞ」
縁側に座ってチャーハンを口にかき込む。
薄味も悪くないが、たまにジャンクフードを食べたい衝動が押し寄せる。
次は揚げ物を作ろうと思いながら、横を見た。
「うまい!」
もぐもぐと口いっぱいに頬張り、「初めて食べる味だ!」と言う重孝。
口の端に米粒がついたまま大喜びする重孝を見て、悪い気はしない。
「そんなに気に入ったなら、また作ってやるよ」
すると、身を乗り出して確認してきた。
「まことか!嘘だったら鞭打ちだからな!」
「怖いなお前!でも、約束だ」
きらきらとした目で嬉しそうにしている。
――すっかり懐かれてしまったな、と思った。
その夜、羽川の当主から呼び出しがかかった。
今まで何もなかったのが不思議なくらいである。
通された部屋には食器が散乱し、家臣に怒声を浴びせる太った男がいた。
真人に気が付くと、羽川家当主が血走った目で怒鳴りつけた。
「そなた、斎賀と同じことをしたというのに、なぜこうなった!? 関所を廃したのに商人は来ず、野盗ばかり増えた! 一体どうしてくれる!」
どうやら真人が知らない間に関所を廃止したらしいが、上手くいかなかったようだ。
真人に言われても困る。
関所を廃止したとき、何もしていなかったのか?
「斎賀では兵を町に巡回させて治安を保っていたし、悪人が増えるのは当然。真似するだけで上手くいくわけが――」
職人のおじさんも言っていた。
最近、兵士をよく見かけるのは人の流通が増えたから巡回して治安維持しているんだと。
ただ真似するだけでうまくいくと思うなんて、なんてお気楽なお殿様だろう。
体格も太ってるし、斎賀のお殿様とは全然違う。
今まで鍛錬なんてしてこなかったんだろうな……。
「黙れ!役立たずめ!牢に放り込め!」
「は? ちょっ……痛!」
跪いていた人が、怒声とともに肩を乱暴に掴まれ引きずられていった。
俺も再び引きずられ、せっかく治りかけていた傷口が開き、血が滲んできた。
抵抗してもびくともしない。
半ば引きずられるようにして連れてこられたのは、じめじめとした牢屋。
空気は悪く、長時間は居たくない場所だ。
「用無しにお似合いの場所だ。せいぜい死ぬ前に情報を吐かせろ」
捨てゼリフを残して振り返りもせず去った。
肩を掴ん俺を突き飛ばし、ガチャンと扉を閉めて出て行った。
「いってえー」
肩を見ると血が滲んでいる。
せっかく良くなりかけていたのに、傷口が開いてしまったようだ。ズキズキと痛む肩を押さえる。
それにしても、丁寧に看病されていたのに、牢屋に入れられるなんて……。
勝手にさらってきて、何もしなかったのを俺のせいにされるとは。
それに部屋にはもう一人いたが、あの人は大丈夫だったのかな?
投げたお碗の中身、頭にかかっていたよね。火傷とかしてなければいいけど。
どうでもいいことばかり考えていると、隣から声がした。
「よお、新入り。何やらかした?ここは囚人を個別に収容する牢だ。集団で収容できないやつが集まっている」
「俺? 拐われてきたと思ったら、勝手に失敗を押し付けられてここに」
「はは、ここに来て何もしてないだと?そんなわけがあるか」
「敢えて言うなら、失敗を押し付けられたとも言える」
「はっ、そりゃ災難だったな。俺は南部鉄(みなべ てつ)。情報収集してたら仲間が裏切って捕まったんだ」
「俺は田辺真人、真人って呼んでくれ。それで情報収集って?」
「羽川家には色々黒い噂がある。その証拠を掴んで、敵に売ったり羽川家を脅す計画だった。仲間が失敗して捕まって、俺を売ったのさ。そいつは俺を売ったすきのゴタゴタで逃走、俺はこのざま」
「うわぁ、南部さんも災難だね」
「だろ?俺のことは鉄でいい」
「わかった。情報収集ってどうやるの? お城に忍び込むなんて忍者みたいだな」
「みたいじゃなくて、忍びだ。小さな村で皆で住んでたけど抜け出してきた。危ない仕事も自分はやらず、下っ端に押し付ける。何人帰ってこなかったか……俺はそうなりたくなくて、一人で村を出た」
身の上話をしてくれるが、俺は最初の一言しか聞いていなかった。忍者?本物!?
「……え、忍者!?本物!?すげー!」
アイドルに会ったファンみたいなリアクションをしてしまった。
思わず握手を求め、格子に手を突っ込む俺を見て鉄は吹き出した。
「くくっ、真人は面白いな。俺は18才だけど同じくらいか」
「うん、多分まだ17才。ここに来てからどれくらい経ったかはわからないけど」
「そんなに長くさらわれてたのか」
「あ、いや、ここにというか……世界というか……」
真人たちが話していると、急に牢内がザワザワし始めた。
「おい、来たぞ」
「今日やられる奴は誰だ?」
「ここ最近はなかったのにな」
「ちっ、また来やがったか」
急にドタドタと数人が牢に押しかけてきた。
真人は鉄に何が起きたのか尋ねる。
「こいつら、囚人には何してもいいと思ってる。憂さ晴らしに来るんだ。牢番もグルだからタチが悪い」
そう話しているうちに、5人ほどの集団が俺の牢の前にやってきた。
「おい、お前が新入りか。斎賀の密偵だってな」
「当主様も情報吐かせろって言ってたじゃないか」
「おい、今日はこいつにしようぜ」
鍵を外して扉を開けられる。
「うわっ!」
「来い」
「真人!」
拘束された肩はまだズキズキ痛むけど、抵抗しても無駄だ。
牢屋の外は薄暗く、湿った空気が漂っている。
「楽しみにしてろ、こっからが本番だぜ」
真人は肩を押さえつつ、次に何が起こるかを覚悟するしかなかった。
外に出ると、建物の影に連れて行かれる。
「おい、斎賀の家の者なんだってな」
「若様と毒味もさせずにお食事なされたそうではないか」
「まさか、そうして若様を懐柔しようと?」
「斎賀の密偵じゃ!」
「成敗せねば!」
「何勝手なこと言ってるだよ! そもそも拐ってきたのはお前達だろ!」
ガッ!
勝手にあれこれ言われていたかと思うと、お腹を蹴られた。
一瞬息ができなくなる。なんて理不尽だ。
「カハッ」
「こいつ弱いぞ。当主様の機嫌が悪かったのも元はこいつのせいだ。やっちまえ」
ガッ!ゴンッと足で蹴られる。
反撃したくても人数が多くて無理だ。鼻血も出てきた。
「はっ、ざまあねえな!」
「まあ、こいつは斎賀の情報を吐かせるために拷問があるだろ」
「んなっ、拷問!?」
「そうだ。持ってる情報は吐かせねばな」
「おい、どうせなら今、斎賀の情報を喋れば褒賞があるんじゃないか?」
「たしかに。おい、喋らせるぞ!」
まずいことになった。拷問だって?
そんなのされてたまるか。
そもそも、何も情報持ってないのに!
ああ、あの作戦の人選は正しかったんだな。
敵に捕まっても大丈夫なやつ。まさしく俺だ。
少し諦めかけたとき、声が聞こえた。
「そこで何をしている!屋敷内での私闘は厳禁だぞ!」
「くそっ。あと少しだったのに」
「行くぞ!」
リンチをしていた5人組が逃げていく。
止めてくれたお礼を言おうと顔を上げると、見えた顔に思わず言葉が出た。
「重孝……」
「……真人。お主は斎賀の人間だったのか?肩の傷も本当は俺達の兵に斬られたのか?なぜなにも教えてくれなかったんだ?」
目に涙をためて質問する重孝。俺が話さなかったせいだよな……。
「そうだ。矢を受けて気絶したあとに拐われてここに来たんだ。逆に敵のところにいて何もされない方がおかしかった」
「じゃあなんで一緒にいた!次期当主だって話したじゃないか!敵のはずだろ!」
重孝が泣き出した。
縄の拘束を小さな手で解いてもらい、ヒックとしゃくり上げる彼を抱きしめる。
「だってお前は俺に何もしてない。したことといえば、一緒におしゃべりしてご飯を食べたくらいだ。恨む理由なんてどこにある」
「……真人のところに遊びに行こうとしたら止められて……。悪いことをして牢屋に入れられたって聞いて忘れろって言われて……。もう会えないかと思っていたら、声が聞こえて来てこっちに来たんだ」
「そうだったのか……何も話さずにいてごめんな」
抱きしめたまま、頭をぽんぽんと叩く。
すると重孝が奥の茂みの方を指さす。
「こっち。抜け道がある」
「重孝……でも、そしたらお前は……」
「問題ない。今の兵士達しかお主のことは知らないし、私闘は禁じてるから自分からは話さない」
「そうか。でも、それでいいのか?」
「うん……。父上のすることは正しいって教えられてきたし、斎賀の兵は卑怯だって言われてきた。でも、真人は卑怯な人に見えない。今は父上の方がそう見える……。どっちを信じればいいかわからなくなってきた」
「じゃあさ、お前もここ抜け出して自分の目で斎賀を見てみたら?若様」
そこへ、誰かの声が割り込んできてバッと重孝を背後へ隠す。
現れたのは牢にいたはずの鉄だった。
「鉄! なんで……」
「牢番に『やりすぎたらお前の首が飛ぶ』と言って俺なら止められるって脅してきた。隠し持っていた忍びの道具で逃げ出したって言えば問題ないってな。真人がやばいかもと思って助けに来たが、心配は無用だったかな」
「……実はいつでも逃げれたんじゃ?」
嬉しかったが、少し脅しただけという言葉を信じても大丈夫か不安になる。
「で、さっきのはどういうことだ?」
「若様は自分が何を信じればいいかわからないって言ってただろ。だったら真人に斎賀に連れて行ってもらって、自分で確かめればいいじゃないか」
「そんなことできるわけ……!こいつは次の当主だぞ?しかも下手したら斎賀が重孝を人質に取るようなものじゃないか」
「そこでお前だろ?羽川で助けてくれたから、世間には人質と思わせておいて、実際は客人扱いにしろって。斎賀にしてみれば、自分から羽川を脅す材料が来てくれるっておいしいんじゃねえか」
「でもだからって!重孝も何か言えって!」
「……斎賀に行く」
「重孝!?」
「よし、三人で抜けだして斎賀に行くか」
「ちょっと待てって!うん?三人?」
「面白そうだから俺もついてく」
重孝は二郎丸とほぼ同年代。この時代の人質の命の軽さがわかっているのか。
しかも鉄までついてくるという。
「重孝、本気か!?敵陣に一人で行くようなもんだぞ!」
「でも、自分の目で見て確かめたい。将来当主になるなら、自分の目で確かめたい」
そう言い切って顔を上げる。
子どもの顔に宿る決意を前に、うろうろしている真人へ鉄が言った。
「じゃあ決まりだな。三人でここを抜け出して斎賀に行くぞ」
そうして、重孝の先導のもと、俺たちは夜の闇に紛れ羽川の屋敷を抜け出した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?
志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。
父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。
多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。
オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。
それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。
この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています
ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
聖女召喚に巻き込まれたけど、僕は聖者で彼女よりも優れた能力を持っていた。
アノマロカリス
ファンタジー
僕の名前は、凱旋寺聖(がいせんじひじり)という厳つい苗字の高校2人生だ。
名前から分かる通り、僕の家は300年続く御寺の一族だ。
その所為か、子供の頃から躾は厳しく育てられた…が、別に跡を継ぐという話は出た事がない。
それもその筈…上に、二人の兄と姉がいるからだ。
なので、兄や姉が後継を拒まない限り、跡目争いに巻き込まれるわけではないのだ。
そんなわけで、厳しく育てられては来たが…抜け道を探しては良く遊んでいた。
…という、日頃の行いが悪い事をしていた所為か…
まさか、あんな事に巻き込まれるなんてなぁ?
この物語はフィクションです。
実在の人物や団体とは一切関係がありません。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
「ただの経費削減ですが?」 銀河最弱の補給艦隊が、俺の「在庫管理」で最強になったようです
空木 架
SF
日本の企業で総務として働く星野明日虎(32歳)は、ある日突然、見知らぬ宇宙の帝国へと転移してしまう。彼が配属されたのは、整理整頓もままならない「銀河最弱」の補給艦隊だった!
ひょんなことから戦艦の艦長に任命されてしまった明日虎だが、宇宙の戦い方など全く分からない。そこで彼が武器にしたのは、長年の社畜生活で培った「経費削減」と「在庫管理」のスキルだった。
「弾薬の無駄遣い禁止!」「エンジンはこまめに切れ!」――ただ徹底的なコストカットと業務効率化を推し進めただけなのに、それがなぜか「天才的な軍事戦略」として周囲に大勘違いされていく。
個性豊かな仲間たちと共に、最弱だった倉庫部門を最強の組織へと育て上げる、痛快・お仕事&成り上がりSFファンタジー!
※この作品は、「小説家になろう」「カクヨム」でも連載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる