高校生、戦国を生き抜く ⚠️〜無自覚⁇勘違い⁇居候のドタバタ大騒動〜👀

神谷アキ

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1、戦国時代へ

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自信満々に名乗ったかと思えば、重孝は我慢できなかったように一気に質問を浴びせてきた。
二郎丸と同じくらいの年頃、好奇心の塊ってやつだ。

「なぜそんなに傷だらけなのだ? お主は誰で、なぜここにいる?」

「俺は田辺真人。戦で矢を射られて、治療中ってとこだ。……ここにいる理由は、正直よくわからない」

「そうか!では俺が話し相手になってやろう。光栄に思え!」

勝手に決められたが、確かに退屈してたので助かった。
スマホもゲームもない戦国時代、時間の潰し方なんて寝るくらいしかない。

「よし、じゃあそこに座れ。俺はまだ起き上がるのきついから、寝たままで話すぞ」

肩はまだジンジン痛むので、なるべく振動を与えないように話す。
すると、重孝がキラキラした目で聞いてきた。

「なあ、戦とはどんな感じだ? お主も敵を斬ったのか!?」

まだ戦を知らない子どもの憧れ。ワクワクした顔をしている。
けれど、残念ながら俺は――。

なんとなく、斎賀の人間だとは言わずにおしゃべりを続ける。

「……いや。誰も斬ってない。馬に乗るだけで精一杯だった」

「え、じゃあお主は、誰も斬らなかったのか!?」

「そうだ。俺は馬を操るのがやっとの初心者だ」

「えぇ~」

理不尽に文句を言う重孝だが、そのまま小姓さんに呼ばれて部屋を出て行った。

翌日も、なんだかんだ言いながら部屋にやってきた。
真人の唯一の得意料理、チャーハンの話で盛り上がり回復したら作ってやることになった。

そんな日々を過ごし、真人が普通に起き上がれるようになると早速チャーハンの催促が来る。

それほど楽しみにしていたのかと笑いながら作り。
勝手に動き回っても咎められないのをよいことに厨房に立ち、周囲の怪訝な視線を背に二人分を作る。

「なあ、毒味とかしないのか?」

「いつもはするけど、今は別にしなくてよい」

「そうか。じゃあ食べるぞ」

縁側に座ってチャーハンを口にかき込む。
薄味も悪くないが、たまにジャンクフードを食べたい衝動が押し寄せる。

次は揚げ物を作ろうと思いながら、横を見た。

「うまい!」

もぐもぐと口いっぱいに頬張り、「初めて食べる味だ!」と言う重孝。
口の端に米粒がついたまま大喜びする重孝を見て、悪い気はしない。

「そんなに気に入ったなら、また作ってやるよ」

すると、身を乗り出して確認してきた。

「まことか!嘘だったら鞭打ちだからな!」

「怖いなお前!でも、約束だ」

きらきらとした目で嬉しそうにしている。
――すっかり懐かれてしまったな、と思った。

その夜、羽川の当主から呼び出しがかかった。
今まで何もなかったのが不思議なくらいである。

通された部屋には食器が散乱し、家臣に怒声を浴びせる太った男がいた。

真人に気が付くと、羽川家当主が血走った目で怒鳴りつけた。

「そなた、斎賀と同じことをしたというのに、なぜこうなった!? 関所を廃したのに商人は来ず、野盗ばかり増えた! 一体どうしてくれる!」

どうやら真人が知らない間に関所を廃止したらしいが、上手くいかなかったようだ。

真人に言われても困る。
関所を廃止したとき、何もしていなかったのか?

「斎賀では兵を町に巡回させて治安を保っていたし、悪人が増えるのは当然。真似するだけで上手くいくわけが――」

職人のおじさんも言っていた。
最近、兵士をよく見かけるのは人の流通が増えたから巡回して治安維持しているんだと。

ただ真似するだけでうまくいくと思うなんて、なんてお気楽なお殿様だろう。
体格も太ってるし、斎賀のお殿様とは全然違う。

今まで鍛錬なんてしてこなかったんだろうな……。

「黙れ!役立たずめ!牢に放り込め!」

「は? ちょっ……痛!」

跪いていた人が、怒声とともに肩を乱暴に掴まれ引きずられていった。
俺も再び引きずられ、せっかく治りかけていた傷口が開き、血が滲んできた。
抵抗してもびくともしない。

半ば引きずられるようにして連れてこられたのは、じめじめとした牢屋。
空気は悪く、長時間は居たくない場所だ。

「用無しにお似合いの場所だ。せいぜい死ぬ前に情報を吐かせろ」

捨てゼリフを残して振り返りもせず去った。
肩を掴ん俺を突き飛ばし、ガチャンと扉を閉めて出て行った。

「いってえー」

肩を見ると血が滲んでいる。
せっかく良くなりかけていたのに、傷口が開いてしまったようだ。ズキズキと痛む肩を押さえる。

それにしても、丁寧に看病されていたのに、牢屋に入れられるなんて……。
勝手にさらってきて、何もしなかったのを俺のせいにされるとは。

それに部屋にはもう一人いたが、あの人は大丈夫だったのかな? 
投げたお碗の中身、頭にかかっていたよね。火傷とかしてなければいいけど。

どうでもいいことばかり考えていると、隣から声がした。

「よお、新入り。何やらかした?ここは囚人を個別に収容する牢だ。集団で収容できないやつが集まっている」

「俺? 拐われてきたと思ったら、勝手に失敗を押し付けられてここに」

「はは、ここに来て何もしてないだと?そんなわけがあるか」

「敢えて言うなら、失敗を押し付けられたとも言える」

「はっ、そりゃ災難だったな。俺は南部鉄(みなべ てつ)。情報収集してたら仲間が裏切って捕まったんだ」

「俺は田辺真人、真人って呼んでくれ。それで情報収集って?」

「羽川家には色々黒い噂がある。その証拠を掴んで、敵に売ったり羽川家を脅す計画だった。仲間が失敗して捕まって、俺を売ったのさ。そいつは俺を売ったすきのゴタゴタで逃走、俺はこのざま」

「うわぁ、南部さんも災難だね」
「だろ?俺のことは鉄でいい」

「わかった。情報収集ってどうやるの? お城に忍び込むなんて忍者みたいだな」

「みたいじゃなくて、忍びだ。小さな村で皆で住んでたけど抜け出してきた。危ない仕事も自分はやらず、下っ端に押し付ける。何人帰ってこなかったか……俺はそうなりたくなくて、一人で村を出た」

身の上話をしてくれるが、俺は最初の一言しか聞いていなかった。忍者?本物!?

「……え、忍者!?本物!?すげー!」

アイドルに会ったファンみたいなリアクションをしてしまった。
思わず握手を求め、格子に手を突っ込む俺を見て鉄は吹き出した。

「くくっ、真人は面白いな。俺は18才だけど同じくらいか」

「うん、多分まだ17才。ここに来てからどれくらい経ったかはわからないけど」

「そんなに長くさらわれてたのか」

「あ、いや、ここにというか……世界というか……」

真人たちが話していると、急に牢内がザワザワし始めた。

「おい、来たぞ」

「今日やられる奴は誰だ?」

「ここ最近はなかったのにな」

「ちっ、また来やがったか」

急にドタドタと数人が牢に押しかけてきた。
真人は鉄に何が起きたのか尋ねる。

「こいつら、囚人には何してもいいと思ってる。憂さ晴らしに来るんだ。牢番もグルだからタチが悪い」

そう話しているうちに、5人ほどの集団が俺の牢の前にやってきた。

「おい、お前が新入りか。斎賀の密偵だってな」

「当主様も情報吐かせろって言ってたじゃないか」

「おい、今日はこいつにしようぜ」

鍵を外して扉を開けられる。

「うわっ!」

「来い」

「真人!」

拘束された肩はまだズキズキ痛むけど、抵抗しても無駄だ。
牢屋の外は薄暗く、湿った空気が漂っている。

「楽しみにしてろ、こっからが本番だぜ」

真人は肩を押さえつつ、次に何が起こるかを覚悟するしかなかった。

外に出ると、建物の影に連れて行かれる。

「おい、斎賀の家の者なんだってな」
「若様と毒味もさせずにお食事なされたそうではないか」
「まさか、そうして若様を懐柔しようと?」
「斎賀の密偵じゃ!」
「成敗せねば!」

「何勝手なこと言ってるだよ! そもそも拐ってきたのはお前達だろ!」

ガッ!

勝手にあれこれ言われていたかと思うと、お腹を蹴られた。
一瞬息ができなくなる。なんて理不尽だ。

「カハッ」

「こいつ弱いぞ。当主様の機嫌が悪かったのも元はこいつのせいだ。やっちまえ」

ガッ!ゴンッと足で蹴られる。
反撃したくても人数が多くて無理だ。鼻血も出てきた。

「はっ、ざまあねえな!」
「まあ、こいつは斎賀の情報を吐かせるために拷問があるだろ」
「んなっ、拷問!?」
「そうだ。持ってる情報は吐かせねばな」
「おい、どうせなら今、斎賀の情報を喋れば褒賞があるんじゃないか?」
「たしかに。おい、喋らせるぞ!」

まずいことになった。拷問だって?
そんなのされてたまるか。

そもそも、何も情報持ってないのに! 
ああ、あの作戦の人選は正しかったんだな。

敵に捕まっても大丈夫なやつ。まさしく俺だ。
少し諦めかけたとき、声が聞こえた。

「そこで何をしている!屋敷内での私闘は厳禁だぞ!」
「くそっ。あと少しだったのに」
「行くぞ!」

リンチをしていた5人組が逃げていく。
止めてくれたお礼を言おうと顔を上げると、見えた顔に思わず言葉が出た。

「重孝……」
「……真人。お主は斎賀の人間だったのか?肩の傷も本当は俺達の兵に斬られたのか?なぜなにも教えてくれなかったんだ?」

目に涙をためて質問する重孝。俺が話さなかったせいだよな……。

「そうだ。矢を受けて気絶したあとに拐われてここに来たんだ。逆に敵のところにいて何もされない方がおかしかった」
「じゃあなんで一緒にいた!次期当主だって話したじゃないか!敵のはずだろ!」

重孝が泣き出した。
縄の拘束を小さな手で解いてもらい、ヒックとしゃくり上げる彼を抱きしめる。

「だってお前は俺に何もしてない。したことといえば、一緒におしゃべりしてご飯を食べたくらいだ。恨む理由なんてどこにある」
「……真人のところに遊びに行こうとしたら止められて……。悪いことをして牢屋に入れられたって聞いて忘れろって言われて……。もう会えないかと思っていたら、声が聞こえて来てこっちに来たんだ」

「そうだったのか……何も話さずにいてごめんな」

抱きしめたまま、頭をぽんぽんと叩く。
すると重孝が奥の茂みの方を指さす。

「こっち。抜け道がある」
「重孝……でも、そしたらお前は……」
「問題ない。今の兵士達しかお主のことは知らないし、私闘は禁じてるから自分からは話さない」

「そうか。でも、それでいいのか?」
「うん……。父上のすることは正しいって教えられてきたし、斎賀の兵は卑怯だって言われてきた。でも、真人は卑怯な人に見えない。今は父上の方がそう見える……。どっちを信じればいいかわからなくなってきた」

「じゃあさ、お前もここ抜け出して自分の目で斎賀を見てみたら?若様」

そこへ、誰かの声が割り込んできてバッと重孝を背後へ隠す。
現れたのは牢にいたはずの鉄だった。

「鉄! なんで……」

「牢番に『やりすぎたらお前の首が飛ぶ』と言って俺なら止められるって脅してきた。隠し持っていた忍びの道具で逃げ出したって言えば問題ないってな。真人がやばいかもと思って助けに来たが、心配は無用だったかな」

「……実はいつでも逃げれたんじゃ?」

嬉しかったが、少し脅しただけという言葉を信じても大丈夫か不安になる。

「で、さっきのはどういうことだ?」

「若様は自分が何を信じればいいかわからないって言ってただろ。だったら真人に斎賀に連れて行ってもらって、自分で確かめればいいじゃないか」

「そんなことできるわけ……!こいつは次の当主だぞ?しかも下手したら斎賀が重孝を人質に取るようなものじゃないか」

「そこでお前だろ?羽川で助けてくれたから、世間には人質と思わせておいて、実際は客人扱いにしろって。斎賀にしてみれば、自分から羽川を脅す材料が来てくれるっておいしいんじゃねえか」

「でもだからって!重孝も何か言えって!」

「……斎賀に行く」

「重孝!?」

「よし、三人で抜けだして斎賀に行くか」

「ちょっと待てって!うん?三人?」

「面白そうだから俺もついてく」

重孝は二郎丸とほぼ同年代。この時代の人質の命の軽さがわかっているのか。
しかも鉄までついてくるという。

「重孝、本気か!?敵陣に一人で行くようなもんだぞ!」

「でも、自分の目で見て確かめたい。将来当主になるなら、自分の目で確かめたい」

そう言い切って顔を上げる。
子どもの顔に宿る決意を前に、うろうろしている真人へ鉄が言った。

「じゃあ決まりだな。三人でここを抜け出して斎賀に行くぞ」

そうして、重孝の先導のもと、俺たちは夜の闇に紛れ羽川の屋敷を抜け出した。
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