高校生、戦国を生き抜く ⚠️〜無自覚⁇勘違い⁇居候のドタバタ大騒動〜👀

神谷アキ

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2、居候が3人

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「それはなんだい?」

顔を上げると、そこに立っていたのは旅装束の男だった。衣は質素だが小綺麗で、腰には小袋をいくつも下げている。いかにも行商人といった風貌だ。

鍋の縁に顔を寄せ、湯気を吸い込むようにして鼻を鳴らしている。

「チャーハンです。炊いた米に野菜を刻んで混ぜ、味付けしました」

「ほう……。なるほど。あの子らがあんな夢中で食っているもんでな。見てたら腹が鳴っちまった。――俺にも一杯、もらえるか?」

「は、はい! ありがとうございます!」

心臓が跳ねる。初めてのお客さんだ! 
俺は容器にチャーハンを盛り付け、両手で差し出す。

男は受け取ると、長椅子に腰を下ろし、荷を脇に置いた。匙を持つ手は迷いがなく、ぱくりとひと口。

……最初は慎重に、少しずつ噛みしめる。顎が動くたびにわずかに眉が上がり、頷いている。
よし……! いける!

俺は胸を撫で下ろした。周囲の人々も、ちらちらと男の反応をうかがっている。
ところが、半分ほど食べ進めたところで、男の手が止まった。

「えっ……あの、お口に合いませんでしたか?」

思わず声が裏返る。初めての客を逃すわけにはいかない!
焦って慌てて言葉を重ねると、鉄が低く一言。

「落ち着け」

男はしばらく俺たちを見上げ、それから口の端をわずかに上げた。

「また明日も売るのかい?」
「は、はい! しばらくはここで売るつもりです!」
「そうか。じゃあ明日も寄ろう」

それだけ言うと、また黙々と食べ始めた。

……え、え? それだけ?
評価なのか、ただの世間話なのか。けれど悪い反応じゃない。むしろ――その言葉が合図のように、周りの空気が変わった。

「おいしそうだね。私にも頂戴」
「彦助さんが気に入ってるなら間違いないな」
「なんだなんだ、飯売ってたのか」

人だかりが一気にできて、声が飛び交った。彦助、というのがあの男の名前らしい。
どうやら町でも顔の利く商人だったようだ

鉄と二人で息を合わせ、次々と盛り付けて渡す。
最初は閑散としていたのに、気づけば長椅子はほぼ満席。子供から年配まで、様々な人が嬉しそうに匙を動かしている。

さっきまで閑古鳥が鳴いていたのに、今や長椅子の大部分が埋まっていた。

初日は少なめに作っておいたから、残りはあと五人分あるかどうかだ。結果としては上々じゃないかな。
売り切れ間近の鍋を見て、真人は思わず笑みをこぼした。

「鉄、予想以上に売れたな!」
「ああ。旅人が多かったのもあるが、安い、腹持ちがいい、と評判だ」
「だろ? これから改良して味も増やしていこう!」
 浮かれ気分であーだこーだと話していた時、鉄が顎をしゃくった。
「あの二人はどうする」

鉄が顎でクイッと後ろを指す。
兄弟のことを聞かれて言葉が詰まった。

弥吉と吉助――さっきの兄弟が、空になった容器を抱えたまま、まだ椅子から立とうとせずにこちらを見ていた。
匙を動かす手を止めても、そこから動こうとしない。
けれど、食べ終わったから帰れなんて言えない。家がないのにどこに帰るというんだ。

まるで、子犬を拾って来たら親に元居た場所に戻せと言われた子供の気分だ。

部屋代すら払えていない真人が無責任なことは言えない。どうすればいい。そんな迷いを見透かしたように、宿の兄さんが声をかけてきた。

「今日の売れ行き、ずっと見てたよ。上々だったな。そこでなんだが、2人と同じ部屋に泊まるんだったらあの子たちここに置いてもいい。ただし、食事代は自分たちで。それができるなら一部屋分の値段だけでいい」

真人たちの話を聞いていたのか。
それとも、食べさせといてその後を考えていない真人達に呆れて出て来たのか。いずれにせよ、ありがたい申し出に変わりはない。

救われた気がして、鉄の顔を見やると彼は肩を竦めて笑った。

「いいんですか!? ぜひお願いします! 鉄もそれでいいよな?」
「まあそのまま返すと後味悪いしな。ただし覚悟しろよ。ますます稼がなきゃいけなくなる」
「大丈夫だ! チャーハンがあるから!」

鉄が話している最中に子供達のところにへ駆け寄った。
後ろからため息が聞こえたが、これはもういつものこと。

長椅子に座っている子供達のところへ行き、目を合わせるようにしゃがみ込む。
まず、しばらく俺たちの所に来るか聞いてみることにした。

「なあ、しばらく俺たちと暮らすか?」

 さっそく本題を投げかけると、まん丸の目を更に見開いて俺の顔を見てくる。優しい声を心がけながら詳しく説明した。

「もし行く所がないなら、俺たちとしばらく一緒に暮らさないか?売り上げにもよるけど、ちゃんとご飯も食べられる。あ、さっき飯が食えなくなるって鉄が言ってたけど売れ残ったチャーハンで少しは賄えそう。仕事はとりあえず俺たちの手伝いで。どう?」

二人は顔を見合わせている。でも、行くあてがないなら多分承諾するはず。
小さい子でもわかりやすいようにゆっくり話した。どうする、と顔を見ていると兄の弥吉は少し考え、吉助を見やってから頷いた。

「……うん。一緒に住む。ごはん、美味しかったし」
「おなかいっぱい!」

気に入ってくれたようで何よりだ。弟もお兄ちゃんと一緒がいいらしい。
頭をガシガシ撫でているとありがとう、と嬉しそうに破顔して言われた。

――こうして真人たちは四人になった。

……その後はなんやかんやあったが、四人での暮らしにも次第に慣れてきた。

弥吉と吉助は最初こそ遠慮がちに俺の後ろをついて回るだけだったのに、今では立派な戦力だ。兄の弥吉は包丁こそまだ触らせられないが、米を洗ったり野菜を刻む段取りは俺のやり方を真似てすっかり覚えた。

弟の吉助も小さな体で水汲みや洗い物を一生懸命やってくれる。
宿屋の女将さんたちからも「働き者だねぇ」と褒められて、二人は得意げに胸を張っていた。 

立ちのぼる湯気と溜り醤油の香ばしい匂いに誘われ、常連も増えた。腹持ちがよくて安い、そして日ごとに味が少しずつ変わる――そんな工夫も受けているらしい。

今日もいつものように二人を呼ぶ。

「弥吉、宿のお兄さんに頼んで台所から調味料をもらってきてくれない? 吉助は、あそこで待ってるお客さんにこれを届けて」

「うん!」

「はい!」

 名前を呼ぶと二人は元気よく返事をし、それぞれの役目に駆けていく。今ではもう俺の小さな相棒たちだ。
 その背を見送りながら、いつもの常連に声をかけた。

「彦助さん、すみません。調味料が切れてしまって……。今、弥吉が持ってきます」
「かまわんさ。ゆっくりでいい。あの子らもよう働くなぁ」

彦助――あの日、最初にチャーハンを買ってくれた商人だ。
以来、毎日のように屋台へ通ってきては茶碗を空にして帰っていく。

商売人らしい抜け目のなさを感じる一方で、人のよさそうな笑顔を見せることも多く、真人としては好感を持っていた。
だが、今日の彼はいつもと少し違った。食べる前に手を止め、まっすぐに俺を見て言ったのだ。

「真人、俺が色々な領を回る商人だってのは覚えてるかい?」
「はい、工芸を中心に扱っているんですよね」
「そうだ。そのことでな……この間、あるお得意様に“ちゃあはん”の話をしたんだ。最近気に入って、毎日通ってる屋台があるってな」

胸が熱くなる。俺の料理を気に入ってくれた証拠だ。

「ありがとうございます! そう言っていただけると嬉しいです」

「そこで、その人が“ぜひ食べてみたい”と言ってきてな。ただ、その方は事情があってここには来られん。話をしたらいたく興味を示してね。ぜひ食べたいとのことだったんだ。だから、もしよければお前が出向いて作ってみないかと。台所や食材は向こうで用意すると言っている」

事情があって来られない? 病人なのか、怪我人なのか……。なら俺が行って作ってあげれば喜んでくれるはずだ。

「鉄、俺はいいと思う。動けない人ならなおさら食べてもらいたい」

「……動けない、か。事情がそれだけならいいんだがな」

鉄は目を細めて俺を見た。あの慎重で冷静な目だ。

「まあ俺も一緒に行けるなら構わん。ただし気は抜くなよ」

「だそうです、彦助さん。二人で伺ってもいいですか?その日は屋台を休みにして子供達は宿の手伝いをしたら自由時間にします。一日くらいなら大丈夫です」

「もちろんだとも。明日商いで顔を出すから、その時に向こうの都合を聞いてこよう。おそらく、あの方ならすぐにでも呼びたがるだろう」

「わかりました!」

その時ちょうど、弥吉が調味料を抱えて戻ってきた。吉助も「おいしかったって!」と笑顔で戻ってくる。

そんな微笑ましい光景を眺めていると、鉄が小さく呟いた。

「あの商人は、ここらじゃ名の知れた大商人だ。そのお得意様となれば……俺は嫌な胸騒ぎがする」
「え、大丈夫だよ。八津左の人たちにさえ会わなければ!」

俺は軽く笑って受け流したが、鉄の横顔はいつまでも険しかった。
それでも俺の頭の中は、病床にあるかもしれない誰かに食べさせるチャーハンのことでいっぱいだった。柔らかめに炊いて、野菜も細かく刻んで……飲み込みやすくしたらいいかもしれない。いやもう雑炊作るか?

俺は知らなかった。
この「出張チャーハン」が、思いがけない騒動の始まりになることを――。
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