国を捨てて自由を掴む 🌿〜王家脱出、ブックカフェ行き〜☕️

神谷アキ

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3、真実

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昼過ぎ、子供たちが庭で走り回る声がここまで届いていた。

ここ最近の騒ぎが嘘のように穏やかな午後だった。

 どうしようかと思いながら走っている子供たちを見ていると、トントンと肩を叩かれる。

 振り返ると、「ちゃんと話せるのは久しぶりね!」と笑顔のエイミーが立っていた。
 少し軽めの外出着に身を包み、髪もいつもより丁寧にまとめられている。

「エイミー!お仕事の方は落ち着いた?」

「うん、なんとかね。最近ようやく休みが取れたの。せっかくだから、少し話でもできたらって思って」
「うん、私も久しぶりに話せて嬉しい。ちょうど子供たちも遊んでるから」

 そう言ってベンチに二人で座る。
いつもより控えめに笑うエイミーの様子に、どこか違和感を覚えた。

 表情は明るいけれど、声のトーンが少しだけ沈んでいる。

「……カイルさんは、今いないの?」

「はい。今日は朝から出かけてて。すぐ戻ると思うんですけど」

「そう……そっか」
 短い返事のあと、エイミーは視線をカップの中に落とした。
 沈黙が落ち着かなくて、サラは笑いながら話題を変える。

 話しながら、エイミーの指が小さく震えていた。
 サラはそれに気づきながらも、気を悪くしないように笑顔を保つ。

「ねえ、サラ。ちょっと買い物に付き合ってくれない? この近くに新しいお店ができたの。あなたに似合いそうな布があって。すぐに帰るし、私と一緒だから、 門の外に出られるわ」
「え、いいのかな。ちょうど外に出たかったし、少し子供たちに声をかけてくるね」

「うん。すぐ戻るだけだから、大丈夫」

 エイミーが微笑むと、どこか張りつめたような雰囲気が一瞬だけ漂った。
 その後、二人は並んで街へと出ていった。

 ──このときの私は、まさかそれが“罠”の始まりだとは気づかなかった。



 街の通りは昼下がりの陽射しで柔らかく照らされ、通りを行き交う人々の声と馬車の音が重なっていた。
 サラとエイミーは並んで歩きながら、時おり並んだ店のショーウィンドウを覗き込む。
 見慣れた街並みなのに、今日はどこか違って見えた。

「ここ、少し前にできたお店で。リボンとか小物が可愛くて、子供たちの髪飾りにも良さそう」
 サラがそう言って足を止めると、エイミーは笑顔でうなずいた。

「いいわね。……ほんと、サラは優しいわね。そういうところが、皆に好かれる理由なんだと思う」

「え? 急にどうしたの」
「ううん、なんでもない。ただ、あなたみたいな人が近くにいると、なんだか安心するの」

 サラが少し照れたように笑うと、エイミーの胸の奥が痛んだ。
 優しい声で話すその姿を見ながら、自分が今やろうとしていることを思うと喉が詰まりそうになる。

 でも、あの金髪の男──サラの“婚約者”と名乗った人物の言葉が脳裏に浮かぶ。
 「彼女は私の婚約者です。実家に連れ戻さないと、困るのですよ」

 本当にそうなのだろうか。
 信じきれてはいなかったが、あの時の自分には信じたい理由があった。
 だって、コリスの隣に立って笑っていたサラの姿を見たとき、
 胸の奥から湧き上がったのは“嫉妬”と“喪失”の入り混じった感情だったから。

「エイミー?どうかした?」
 声をかけられてハッと顔を上げる。

「ごめん、考え事してた。……ねえ、もう少し先まで歩いてみましょう。人が少なくて静かな通りがあるの」

「いいわね、少し風に当たりたいと思ってたところ」

 二人は石畳の大通りを抜け、少し外れた通りに足を向けた。
 道の両側に建物の影が伸び、通りを渡る風がスカートを揺らす。
 その奥の角に、黒い馬車が停まっているのが見えた。

「……あれ? こんなところに馬車なんて」
 サラが小さく首をかしげる。
 エイミーの心臓がドクンと跳ねた。
 約束の五日後──まさに今日。

時間も、場所も、すべてあの男の言葉通りだった。

 足を止めたサラの手を取って、エイミーは無理に笑顔を作る。
「ね、少しだけ奥の方まで行ってみない? あの馬車もお店の荷物を運んでるだけかもしれないし」
「でも……」

「大丈夫。怖くなんてないわ。私が一緒にいるもの」

 その一言に、サラは小さくうなずいた。
 それを見てエイミーは、心のどこかで“もう戻れない”と理解した。

 馬車のそばに立つフードの男が、こちらに気づいてわずかに会釈した。
 金髪が風に揺れ、その顔の端にあの不敵な笑みが浮かぶ。
 その笑みを目にしたサラが何か言おうとした瞬間──

「サラ!」

 遠くから男の声が響いた。
 見慣れた声。
振り向くと、息を切らしたコリスがこちらへ走ってくるのが見えた。
 エイミーの頭の中が一瞬で真っ白になる。
 どうして、ここが──。

「コリス!?」
 サラが驚いたように声を上げた瞬間、男の手が馬車の扉を開いた。
 風が強く吹き、サラのスカートが舞い上がる。
 エイミーの唇が震えた。

 ──いけない。ここで引き渡したら、もう……。

 だがその一瞬のためらいが、すべてを変えた。
 次の瞬間、コリスが走り込んでエイミーとサラの間に割り込み、剣を抜いた。

「サラ、下がれ!」

 金属の音が響く。馬車の前にいた男が短剣を抜き、二人の間で火花が散った。
 サラは驚きのあまり声も出せず、ただその場に立ち尽くす。

 そして──
 エイミーは、自分のしていたことの重さをようやく理解した。
 サラを守ろうとするコリスの背中を見つめながら、震える手を胸の前で握りしめた。


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