国を捨てて自由を掴む

神谷アキ

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1、『ブックカフェ ラーシャ』

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「あら、あなたがモデルをしてくれる人? スタイルいいわねぇ」

「あ、ありがとうございます」


 ビートに連れられてやって来たのは、大通りにある服屋だった。女性服を専門に取り扱っているようで種類も豊富にある。

 そこで働く店長さんがトムさんの友人であり、モデルを探しているデザイナーさんらしい。「あらあら」といいながら私の全身を観察している。


「どうだ? モデルできそうか?」

「バッチリよ! どこでこんないい素材の子見つけて来たの? 本当に助かったわ、ありがとうね引き受けてくれて」

「いえ、大丈夫ですよ。コンテストのお洋服に興味がありましたから」

「まあそうなの? それなら早速試着してみない? 髪型とかは本番として、雰囲気と細かい微調整をしたいわ。さあ、こっちへ来て」


 子供たちをビートに預け、試着室へ入る。1人で着るのは難しそうなので、手伝ってもらいながら袖に腕を通す。


「まあ、あなた腰細いのね。あ、私はノーラよ。あなたは?」

「サラです。『ブックカフェ ラーシャ』で働いています」

「もしかしてアイスが話題の? 私食べてみたかったのよねぇ。誕生祭が終わったら1度食べに行くわ」

「ありがとうございます。ぜひいらして下さい」

「ええ、わかったわ。さ、できた。着心地はどう?おかしいところはない?」

「すごく肌触りがいいです。鏡ありますか?」

「試着室を出た横にあるわよ。ついでに待っている子達に見せて感想を聞いて来てもらえる?」

「はい。わかりました」


 カーテンを開いて靴を履き、皆が待っているところへ戻る。ヒナが1番早く私に気づいた。


「わあ! サラお姉ちゃんきれいー。妖精さんみたい」

「そんなこと言ったら、妖精さんに怒られちゃうよ」


 ヒナにそう返し、頭を撫でる。とりあえず似合っているという事でいいんだよね? テルとビートの感想も聞こうと裾を広げて服を見せる。

「どう? 変じゃない?」

「サラさんすごい綺麗だね。雰囲気が明るくなる」

「ほんと? よかったぁ。ビートはどう思う?」

「あ、あぁ、綺麗だと思う……」


 テルとビートは驚いた顔をしてしたが、感想を言ってくれた。ビートは曖昧に褒めたあと、手で口元を押さえてそっぽを向いてしまった。なんだか感じ悪ーい。
 ビートとテルに洋服見せていたら鏡を見つけて、全体像を見ようと目の前まで行く。


「わあ……!」


 そこには普段の私とは違う自分がいた。白のワンピースだが、上半身はぴったりとして身体の線を強調しスカートがふんわりと膝下で揺れている。
 そして、腰から肩のところへ放射線状を描くようにして模様が付いており、上品だけど可憐な雰囲気をかもし出している。

 普段から明るい色の服は着ていないが、こんなにも印象が変わるのかと驚いた。


「どうだった? サイズがおかしいところはない? 皆の反応も良かったみたいね」


 ノーラさんが歩いて来て子どもたちの方を見る。そしてビートを見て笑いながら質問して来た。特におかしいところはないと答えると、私の髪を少しいじりながら髪型を考えているようだ。
 それも決まると、後は本番ということで今日やることは終わりになった。

 そして帰り道。来た時と同じようにおしゃべりをしながら歩いているがビートの様子がおかしい。私を見たと思うとパッと顔を逸らしたり挙動不振になっている。


「さっきから何なのビート。ちらちら私を見てきて」

「……サラはああいう色や形の服は着ないのか?」

「そうね。お店はエプロンだし、普段着はゆったり目のものを着たいから。ああいうちょっとぴっちりしているのは着たことないかも」

(パーティーを除いてね)

「そうか。それならいい。……サラにしたのは失敗だったか……」


 パーティーは今日試着したのよりも華美なドレスで、肩のあたりは出していた。未だぶつぶつと何かを言っているビートを無視して、ヒナとテルの手を握り一緒に歩く。

 少し誕生祭が待ち遠しく思えてくる。コンテストもあのワンピースを着られると思うと楽しみだ。それまでにテルとヒナに新しい服でも買ってあげようかな。


「テル、ヒナ。新しい服欲しい?」


 お城では経験できなかった、何気ない日常が楽しくて仕方がない。夕食は何を作ろうなんてここにくるまでは考えもしなかった。
 私は自分の国を捨てて飛び出してきたけど、後悔はしていない。手放したくないと思いながら手に力を入れると、両手をギュッと握りかえされた。


「新しい服? 欲しい!」

「僕はどっちでも……」


 2人の言葉に頷きながら、後ろで考え込んでいるビートを呼ぶ。
 この何気ない日々が続きますようにと願わずにはいられなかった。
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