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1、『ブックカフェ ラーシャ』
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しおりを挟む「あの……?」
「あ、カイルは大丈夫。職業柄、人を観察するクセがあるんだ」
「そうなんですか?」
「だから気にしなくていいよ」
エリオールさんはナイフとフォークでトーストを切り分けながら前を向いた。
「……あぁ、気を悪くしたらすまない」
「いえいえ、全く気にしていません」
エリオールさんがカイルさんに「ぶはっ」と吹き出す。
「おい、汚いだろ!」
「大丈夫ですか!?」
「クッ、ハハ! ごめん、面白くて」
クックッと笑いが止まらないが、カイルさんは横を向いたまま。横目でエリオールさんを見ながら、水差しで冷たい水をつぎ、一気に飲む。
「ごめんね、ありがとう。もう平気」
「はあ、わかりました」
釈然としないが、もう大丈夫そうと思い、仕事を再開する。
後ろでカイルさんとエリオールさんが話していたようだが、気にせず動き続けた。
サラが後ろを向いた後、エリオールが小声でカイルに話しかけた。
「ねえ、カイル、あれでしょ。さっきはああ言ったけど、数年前、私に話した子に似ていたから見てたんだよね? 」
店長の後ろ姿を見ながら話す。
貴族の間で話題になっていることを思い返した。
数年前のソシリス王国第2王女の誕生日パーティーに、騎士になったばかりのカイルも王子の護衛として随伴していた。
会場で警備中、窓から女の子が見えた。気になり窓際に行くと、ブロンドの髪をなびかせた女の子が1人で庭に立っている。
その美しい横顔が忘れられず、護衛対象であるエリオールに話していたのだ。
「あぁ、きっとそれはサラーシャ王女だね。今日の主役である第2王女に嫌がらせを受けているようだから、庭で時間を潰していたんじゃない?」
「なぜ嫌がらせなんて……」
「サラーシャ姫の母親は街娘だったからね。側室になった後も王妃に嫉妬され、周囲は距離を置いていたはず。王女もそれを見て真似しているんだと思う」
今回、そのサラーシャ姫が誕生日パーティーの日にいなくなった。
誘拐か逃亡かは不明。
身代金も要求されず、自ら城を出たと考えられている。
一瞬、あの王女が目の前にいるのかと思ったが、成長し顔も変わっているだろう。
籠の中の鳥状態であるはずの王女が、市井で1人で暮らせるはずもない。
「残念だね、初恋の姫だったのに」
「んな、そんなんじゃ!」
「初めてカイルが女性に興味を示したのに。私も会いたかったなあ」
「貴方は何度も外交であの国に行ってるでしょう。一度くらい会われなかったのですか?」
「そんな拗ねないでよ。私達の仲でしょ? でも見かけたことはないなあ。人前にあまり顔を出さなかったのかも」
目の前の人物が考え込む。
普段は王子と騎士の関係だが、幼少期から母が乳母で一緒に過ごしていた。
当時も王子の願いで、新人騎士だった俺に声がかかったのだ。
「そうそう、ここのチョコアイス美味しかったでしょ? カイル、この店の雰囲気好きそう」
「あぁ、ここで本を読みながら美味いコーヒーを飲めるなんて最高だな」
「やっぱり。本好きのカイルなら気に入ると思ったんだ。私は継承権がなくとも王族。頻繁には来れないけど、お土産は任せたよ」
「結局、自分のためじゃないか」
じゃれあいながらも食べ終えると、二人揃って店を出る。
どこか王女に似ている店長が気になるが、今は頭の隅に追いやることにした。
「ねえサラお姉ちゃん、次はどうするの?」
ヒナが手をベタベタにしながら聞いてくる。
今日は週に1回の定休日。
テルたちと一緒におやつ作りの真っ最中だ。
小麦粉、砂糖、ベーキングパウダー、牛乳、溶かしバターを順番に混ぜ合わせ、手で伸ばして形を作る。
子どもたちは創作意欲が旺盛で、すでにいくつか作っていた。
中にはよくわからない形や、うずまき形のものもある。
揚げるときにくっつかないか心配だ。
「見てー、ハートできた!」
「僕は星!」
私はシンプルな丸い形を作ろうと思っていたが、子どもたちの独創性には驚かされる。
「作りすぎてももったいないし、そろそろ終わりにするよ」
「えー、もっと作りたい! もうおしまい?」
「今日作って美味しかったら、また今度たくさん作ろうね」
「えー、わかった」
あとは揚げる作業。
油がはねても大丈夫なよう、子どもたちはカウンター席へ座らせる。
慎重に油に入れ、様子を見ながら取り出して、最後にグラニュー糖を満遍なくまぶして完成。
「全部食べ切れるかな?」
お皿に盛りつけると、小さな山になったドーナツができた。
店内に運ぶと、なぜかビートが2人と話している。
「よっ、サラ。話があって来たんだが、何を持ってるんだ?」
「ビート、いらっしゃい。今日はみんなでおやつ作りをしていたの。少し作りすぎちゃったから、よかったら食べて行かない?」
「よっしゃ、ラッキー。いろんな形があるな」
そう言いながら、1番上のドーナツを手に取る。
「変な形だがうまいな」
「それね、ヒナが作ったの! お花だよ!」
花びらの切れ目がくっついて丸くなった、でも内側にトゲのあるような不思議な形だ。
「あっはっはっ。これが花かあ。揚げたときにくっついたのか? でも味が美味いから合格」
「ありがとうございます。気をつけていたんだけど、くっついちゃったのよ」
ビートは笑いながら、少し拗ねている私とヒナをチラッと見る。
私もドーナツを食べようと手を伸ばすと、テルが手渡してくれた。
「テル、ありがとう」
「うん、それ僕が作ったやつ」
「そうなの? 食べてみるね」
反応を待っているのか、じっと私を見つめる。
自分が作ったドーナツも食べてもらいたかったのだろう。
「おいしい。よくできてるね」
味は変わらないが、そう言うとテルは照れたように笑った。
満足したようで、また自分の分を食べ始める。
「そういえばビート、話って何?」
「そうそう、話があって来たんだよ。今月末に祭りがあるのは知ってるか?」
「うん、お客さんがよく話してる。現国王の誕生祭だっけ?」
「そうだ。例年、現国王の誕生祭を祝日として盛大に行う。ものすごく活気のある祭りなんだ」
「それがどうかしたの?」
「ああ、そこで色々な部門のコンテストが開かれるんだが、少し問題があってな。親父の友人に服飾デザイナーがいるんだが、そのモデルが怪我をして出られなくなったんだ。それで代わりのモデルを探してるが見つからないところに、サラを思い出したんだ」
「私?」
「おう。サラはスタイルがいいし、モデルの体格に近い気がして。人助けと思って頼まれてくれないか?」
スタイルがいいと言われ、嬉しいが少し恥ずかしい。しかし、到底自分に務まるとは思えない。
「せっかく誘ってくれて悪いけど、多分モデルの代わりにはならないと思うよ」
誘ってもらったのにごめんと断ると、ヒナが声を上げた。
「サラお姉ちゃんでないの?きれいなお洋服着れないの?」
「代わりになれないって言うけど、サラさんはきれいな顔だと思うよ。だってさっきビートさんが、この店に来る若い男のお客さんのほとんどがサラさん目当てだって言ってたもん。ビートさんもサラさんのこ……ムグ!」
「お客さんが?」
「おい、何を話そうとしているんだ!」
話しているテルの口をビートが慌てて塞いだ。
しかし、テルの話を聞いて照れていた私は後半をあまり聞いていなかった。
「そういうことだ、サラ。デザイナーさんの為にもコンテストに出てくれないか? このコンテストで優勝したデザイナーの服は売れると評判なんだ」
「ヒナ、きれいなお洋服を着たサラお姉ちゃん見たい!」
「うん、僕も見たいな。その日はお店も休みだし、服のサイズが合うかどうかだけでも試してみたら?」
3人に詰め寄られ少し考える。
正式な場に殆ど出ていなかった私の顔を知る人は、ここにいないだろう。
そう結論を出して、コンテストに出ることにした。
「わかった。コンテストに出る」
「本当か!助かった、ありがとう!じゃあ早速試着しにいくぞ!」
「今から?」
「おう!早いほうがいいしな。2人も来るか?」
「「行きたい!」」
「じゃあ行くぞ」
行動が早い。ただ、私もどんな服か興味があるためすぐに出かける準備をする。
みんなでお店をでてデザイナーさんの所へ歩き出した。
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