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学園編
騎士の誓い?
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剣術の授業で上級生に重傷を負わせ救護室送りにした次の日のこと、
ほぼ全ての学園の生徒たちの中でアレクが上級生たちを半殺しにして病棟送りにしたとの噂で持ちきりになっていた。
ただ噂話とは正しく伝わらないもので一部の生徒たちはアレクが上級生が気に入らないからといって剣術の授業では禁止されている魔法を使って上級生を瀕死の状態にしたという噂まで広がっており、またそんな噂をまともに受け止めて信じてしまった者もいる。
アレクはこの数日で「初代アルテマ王の再来」から一転し「暴虐王子」「悪魔王の再来」などと不名誉な名をつけられることになった。
しかし悲しい話だけでもない。
サラはアレクの強さにもはや崇拝するほどに憧れたようでこの度大好きな父ボルトと並んで一番尊敬する男性ランキング一位へと見事昇格した。
またアイリーンもアレクの予想以上の強さに驚き、アレクの事をもっと好きになっていた。
カインとの試合で互角に渡り合い、しかも魔法で瞬殺したのだ。自身の祖父のように強い男が好きというアイリーンは、たとえアレクがモブ顔の王子であったとしても充分に好みの範囲に入る瞬間でもあった。
♢
《アイリーン視点》
「アレク様、割と、いえ、本当に強くて素敵な方でしたわ」
わたくしは舞踏会以降、アレク様に対する恋心に目覚めました。
それでもまだ恋の自覚は薄かったのかもしれません。わたくしの自己認識としては恋というより彼の婚約者としての義務感の方が優先していると思っていましたもの。
でも今回サラという小娘の存在によって少しずつわたくしの心境には変化が生じていたのです。
体力テスト以来、あのサラという小娘が頻繁に現れてアレク様に話しかけてくるようになりました。
そしてアレク様は嬉しそうにサラとの会話を楽しんでいましたわ。
それを見たわたくしは胸の辺りがモヤモヤとして胸が苦しくなりましたの。
そして心の中ではアレク様に対して静かに怒りの火を燃やしていたのです。
「アレク様、あんなにもニヤニヤと下品な笑みを浮かべていらっしゃるなんて、王族らしくありませんわ。なんだかあのお顔を見ているだけで無性に腹が立ってきました。ああ、アレク様が許せませんわ。あら、そういえばちょうどここに扇子がありましたわ。少し大袈裟に振ってアレク様に平手打ちでもしようかしら・・・」
嫉妬心。
初めての恋を知ったわたくしは己の嫉妬心に対して自分自身が驚いており、サラという小娘の存在によって改めて己の恋心を自覚する機会となったようです。
でもですね。
わたくしとしては許せるはずがありませんわ。
だって一応、殿下の護衛騎士とはいえ、男爵令嬢が王国の第一王子に懸想したとあれば、婚約者であるわたくしにとってはかなりの大問題ではありませんか。
だから私はアレク様にわるい虫がつかぬよう目を光らせておくことは大事なことだと思うのです。
あくまでもサラという小娘はアレク王子の護衛騎士であって、それ以上の関係は許されるものではないのです。
「だから私は二人を徹底的に監視しなくてはならないのです」
そうです。
そうなのです。
そうなのですわ。
「ねえ、メリアもそう思いません?」
「アイリーン様?さっきからブツブツと何を言っておられたのですか?」
「・・・何でもありませんわ」
アイリーンは自分なりの、自分にとっての最適解を見出すのであった。
♢
《サラ視点》
「はあ、昨日の殿下は強かったな」
昨日の剣術の授業でのこと、
私は自分の実力がまだまだ上級生や殿下に遠く及ばないことを知って深く落ち込んでしまっていた。
それでもアレク様の強さに感動したのは間違いない。だからこそ、主君となるべくお方と共に強くなりたいと願うことにしたのだ。
私はもっと貪欲になっても強くなりたいと願ってからアレク様とよく関わるようになった。剣術の話なども合うし、朝の鍛錬も充実して楽しい。
しかし、アレク王子との距離を埋められないことに焦りを感じていた。
そんな時、
たまたま私は校舎の廊下を歩いていたところ、隣の校舎にいた男の子のいじめの現場に遭遇していたところを目撃した。
「私の目の前でイジメとは、許さん!」
私はいじめている連中を叩き伏せていじめられた子を助けた。
「あ、ありがとうございます」
いかにもいじめられそうな雰囲気のひ弱な子はメガネをつけて淡い薄緑色の髪をしていた。髪はボサボサでそのまま肩まで伸ばしており、名前はパロム・オレアリスという。
話を聞くと、先程のいじめっ子たちに外見をよくからかわれていたので無視していたのだが、そのうちいじめられるようになり現在にいたるらしい。
「僕も強くなりたいとは思うんですが・・・」
本人も頑張って体力作りに取り組んではみたものの、1キロ走ると倒れ、腕立て伏せは10回やれば腕が動かなくなるそうだ。
私もどう言って良いかわからなかった。
「まあ、何かあったらまた相談になってやろう」
言葉に詰まった私はそう言ってなんとかフォローした。
パロムは私の行いに感動したのか終始ありがとうございました!とお礼を言いながら去っていった。
去っていくパロムの後ろ姿を見て私は深く溜息を吐く。
「はあ、弱い者イジメをしているのは私の方かもしれないな・・・」
私は強くありたいと願って己を鍛えてきたつもりだったが、自分が強ければ何をしても良いわけではない。
いじめっ子とはいえ、パロムという男の子を守るためとはいえ、私は彼らに暴力を振るったのだ。
しかもあれだけ弱ければな。
私がいじめっ子をいじめたのではないか?
剣術の授業で上級生が私にしたように、
なんとなく自分が弱い者イジメをしたという罪悪感で胸がいっぱいになった。
その後教室に戻ると何やら騒いでいる連中がいる。
どうやらさっき懲らしめた奴らだった。
もっとキツくお仕置きをしてやった方が良かったのか?
まあ今は罪悪感が薄れただけ良しとするか。
「何か用か?」
私がそう言うと、連中は調子づいて絡んできた。
「お前のせいで怪我したじゃねぇか!」
「責任取ってもらおうか!」
「慰謝料を払いな!」
話を聞けばどうやら彼らは上級生だったようだ。
しかも私のことを下級生だと知っていきなり罵ってきた。
しかしまあ、上級生でこの程度とはな。
先程もいじめを犯している割に連中は随分と弱かったからな。
弱いくせに精一杯威嚇して、態度だけは強く偉そうに見せている。
私は思わず失笑した。
「何がおかしい!」
「俺たちを馬鹿にしているのか?」
いじめっ子たちはさらに勢いづいて私を脅してきた。
クラスの生徒たちは「あいつらもう終わったな」、「可哀想に」と小声で話している。
聞こえてるぞ?
私がいじめっ子たちと教室の前で話をしているとアレク様とアイリーン様がやって来た。
「ここで何をなさっているのです?」
アイリーン様は厳しい表情でいじめっ子たちを見る。
いじめっ子たちはアイリーン様の可愛らしさに見惚れてアレク様と私を無視してアイリーン様に話しかける。
「ねえねえ君可愛いね!名前は?」
「俺たちと付き合おうよ」
「彼氏いるの?」
そんなゲスな奴らに対してアイリーン様が恐ろしくも冷たい表情で見下していた。
「私はガスタル辺境伯の娘、アイリーンと申します。そして隣にいますアレク王太子の婚約者でもありますわ。そこの女子はアレク王子の護衛騎士ですのよ?あなた達が何者か存じませんが、これ以上の不敬を働くというのであれば、二度とこの学園にいられないようになりますわよ?」
アイリーン様は美しく微笑んだ。
それは気高い強者の笑み。
しかも彼女は何か近寄れないオーラを放っている。
これは、覇気?なのか?
アイリーン様の覇気を受けたいじめっ子たちは震え上がり、逆らうことなく「すみませんでした!」「もう二度とここへは来ません!」「あいつがあの王子かよ」などと言って逃げるように去っていったのだ。
「し、信じられない」
私は驚愕した。
剣の強さとは違う女の強さ。
思えば私の母上も強かった。
あの父上でさえ母上には敵わない。
アイリーン様のもう一つの顔を見たアレク王子は「アイリーンを怒らせないように気をつけよう」と小声で呟いていた。
アイリーン様の勇ましく気丈な姿を見て私は気付いたのだ。
強さとは単なる力だけではなく、力なき女性であっても色々な強さがあり、その立場によって相応しい強さを振る舞えるようになることが必要なのだと。
さすがは父を導いてくれたガスタル辺境伯のお孫様だ。
強さとは、剣の実力だけではない。
私の目指す強さとはアイリーン様のように気高さを伴う強さなのだと悟った。
♢
《アレク視点》
僕はアイリーンと教室に向かう際、目の前でサラが上級生にいちゃもんをつけられているところを目撃した。
(うわ、関わりたくないな)
あいつらを見たら昔いじめっ子たちに苦しめられた前世を思い出してしまう。
(さっさと帰ってくれよな)
そんな時、なんとあの可愛いアイリーンが無事上級生を追い払ってくれたのだ。
その時のアイリーンはちょっと怖かったな。
僕もアイリーンを怒らせないように気をつけよう。
そんなことを思っていた時にサラが目をキラキラさせてアイリーンに話しかけてきた。
「ア、アイリーン様!ぜ、ぜひこの私のメンターになってはいただけないでしょうか!」
「え?」とアイリーンが訝しむ。
僕も思わず「は?」と驚いてしまった。
サラの一言によって周囲は一気に鎮まり、その後すぐにヒソヒソと静かに会話する人たちが増えている。
「サ、サラ、何故、アイリーンをサラのメンターに指名したんだ?」
僕は思わず困惑してサラに問いかけた。
「え?は、はい、私は将来、騎士となりお二人にお仕えしたいと願っております。ただアレク様は充分お強いので護衛騎士として私は必要もなく到底務まらないと思っていました。先程のアイリーン様はとても素晴らしく、私は強さの意味を知りました」
「まあ」とアイリーンは喜び、
「はあ」と僕は呆れた顔をする。
「私は将来王妃になられるであろうアイリーン様のように美しくかつ、芯のあるお方の強さに憧れたのです。だからこそ、アイリーン様から女性としての真の強さを学ばせていただければと思いまして」
そしてサラはアイリーンの手を取り、片膝を地につけて首を垂れた。
「アイリーン様、ぜひこの私を貴女の弟子としてくださいませ」
「あら、アレク様?よろしいのです?」
割と美形なサラがアイリーンに騎士として忠誠を誓う姿はまるで宝◯歌劇団だ。ここはベルバラかと僕はツッコみたくなった。
それと思ったのだ。
「サラは俺に生涯この身を捧げたいとか言っていなかったか?」
「え?私はお二人に忠誠を誓っておりますので、お二人に生涯お仕えしたいと申しただけですが?」
(紛らわしいんだよ!)
事の顛末を理解したアイリーンはとても満足した顔で答えた。
「サラ、貴女のような騎士を私は望んでおりました。今後わたくしの弟子として鍛えてあげましょう」
「ほ、本当ですか!?」
「はい、本日より貴女を私の弟子とします」
「あ、ありがたき幸せ!」
サラは涙を流しながら首を垂れる。そしてアイリーンは鍛錬用の短剣を取り出してサラの肩に剣を当てた。
それは騎士の誓いと同じものであった。
アイリーンは高らかに宣言し、サラはアイリーンの弟子となったのである。
周囲の生徒たちは拍手をして盛大に二人を祝福した!
数人の女子生徒たちは「す、素敵だわ!」「鼻血が出そう」「尊いわ!」などと騒いでいた。
それ以降、サラとアイリーンは一部の女生徒達から違う視線を送られる事になる。
そうした中でアレクは何やら悔しそうに涙を流していた。
♢
女生徒A「あ!アイリーン様とサラ様がこちらにいらっしゃいますわ!」
女生徒B「お二人ともお美しい・・・なんて尊いのでしょう!」
女生徒A「あ!サラ様がアイリーン様の手を取ってらっしゃいますわ!」
女生徒B「もう私、我慢ができません!は、鼻血が出そうですわ」
女生徒A「あ、アイリーン様・・・」
アイリーン「あなた、素敵なお顔から血が出ていらっしゃいますよ?これでお拭きなさい」
そう言ってアイリーンはハンカチを女生徒Bにそっと手渡した。
女生徒B「あ!アイリーン様!ありがとうございます!すぐに洗ってお返ししますので!」
アイリーン「大丈夫ですわ。わたくしいつも2枚ハンカチを持っていますから、あなたに差し上げるわ」
女生徒B「あ、ありがとうございます!家宝にします!」
アイリーン「まあ!大袈裟ね。そんなに大した物ではありませんのに」
女生徒B「いえいえ!そんなことありません!」
アレク「あ!アイリーン!おはよう!」
アイリーン「あら、アレク様、おはようございます」
アレク「今日も良い天気だね!あ、サラもいたんだね。さあ、教室に入ろうか」
アイリーン「ええ、そうですわね」
サラ「はい!」
サラとアイリーンを伴って教室に入るアレク。
そして二人(アレクは数に入っていない)の入室を見守る女生徒AとB。
女生徒A「アイリーン様、素敵だったわね」
女生徒B「ええ、本当に、今日のサラ様も凛々しくて素敵だったわ」
女生徒A・B「「今日も眼福でしたわ~!」」
サラがアイリーンの弟子となったあの日をきっかけとして一部の女生徒の間では密かに「花園」と呼ばれる会員制のファンクラブが誕生した。
そこでは「アイリーン」と「サラ」の姿絵やアイリーンの使っていたハンカチと同じ商品が手に入るとあって、百合の花を愛でる者たちの入会が殺到したという。
ほぼ全ての学園の生徒たちの中でアレクが上級生たちを半殺しにして病棟送りにしたとの噂で持ちきりになっていた。
ただ噂話とは正しく伝わらないもので一部の生徒たちはアレクが上級生が気に入らないからといって剣術の授業では禁止されている魔法を使って上級生を瀕死の状態にしたという噂まで広がっており、またそんな噂をまともに受け止めて信じてしまった者もいる。
アレクはこの数日で「初代アルテマ王の再来」から一転し「暴虐王子」「悪魔王の再来」などと不名誉な名をつけられることになった。
しかし悲しい話だけでもない。
サラはアレクの強さにもはや崇拝するほどに憧れたようでこの度大好きな父ボルトと並んで一番尊敬する男性ランキング一位へと見事昇格した。
またアイリーンもアレクの予想以上の強さに驚き、アレクの事をもっと好きになっていた。
カインとの試合で互角に渡り合い、しかも魔法で瞬殺したのだ。自身の祖父のように強い男が好きというアイリーンは、たとえアレクがモブ顔の王子であったとしても充分に好みの範囲に入る瞬間でもあった。
♢
《アイリーン視点》
「アレク様、割と、いえ、本当に強くて素敵な方でしたわ」
わたくしは舞踏会以降、アレク様に対する恋心に目覚めました。
それでもまだ恋の自覚は薄かったのかもしれません。わたくしの自己認識としては恋というより彼の婚約者としての義務感の方が優先していると思っていましたもの。
でも今回サラという小娘の存在によって少しずつわたくしの心境には変化が生じていたのです。
体力テスト以来、あのサラという小娘が頻繁に現れてアレク様に話しかけてくるようになりました。
そしてアレク様は嬉しそうにサラとの会話を楽しんでいましたわ。
それを見たわたくしは胸の辺りがモヤモヤとして胸が苦しくなりましたの。
そして心の中ではアレク様に対して静かに怒りの火を燃やしていたのです。
「アレク様、あんなにもニヤニヤと下品な笑みを浮かべていらっしゃるなんて、王族らしくありませんわ。なんだかあのお顔を見ているだけで無性に腹が立ってきました。ああ、アレク様が許せませんわ。あら、そういえばちょうどここに扇子がありましたわ。少し大袈裟に振ってアレク様に平手打ちでもしようかしら・・・」
嫉妬心。
初めての恋を知ったわたくしは己の嫉妬心に対して自分自身が驚いており、サラという小娘の存在によって改めて己の恋心を自覚する機会となったようです。
でもですね。
わたくしとしては許せるはずがありませんわ。
だって一応、殿下の護衛騎士とはいえ、男爵令嬢が王国の第一王子に懸想したとあれば、婚約者であるわたくしにとってはかなりの大問題ではありませんか。
だから私はアレク様にわるい虫がつかぬよう目を光らせておくことは大事なことだと思うのです。
あくまでもサラという小娘はアレク王子の護衛騎士であって、それ以上の関係は許されるものではないのです。
「だから私は二人を徹底的に監視しなくてはならないのです」
そうです。
そうなのです。
そうなのですわ。
「ねえ、メリアもそう思いません?」
「アイリーン様?さっきからブツブツと何を言っておられたのですか?」
「・・・何でもありませんわ」
アイリーンは自分なりの、自分にとっての最適解を見出すのであった。
♢
《サラ視点》
「はあ、昨日の殿下は強かったな」
昨日の剣術の授業でのこと、
私は自分の実力がまだまだ上級生や殿下に遠く及ばないことを知って深く落ち込んでしまっていた。
それでもアレク様の強さに感動したのは間違いない。だからこそ、主君となるべくお方と共に強くなりたいと願うことにしたのだ。
私はもっと貪欲になっても強くなりたいと願ってからアレク様とよく関わるようになった。剣術の話なども合うし、朝の鍛錬も充実して楽しい。
しかし、アレク王子との距離を埋められないことに焦りを感じていた。
そんな時、
たまたま私は校舎の廊下を歩いていたところ、隣の校舎にいた男の子のいじめの現場に遭遇していたところを目撃した。
「私の目の前でイジメとは、許さん!」
私はいじめている連中を叩き伏せていじめられた子を助けた。
「あ、ありがとうございます」
いかにもいじめられそうな雰囲気のひ弱な子はメガネをつけて淡い薄緑色の髪をしていた。髪はボサボサでそのまま肩まで伸ばしており、名前はパロム・オレアリスという。
話を聞くと、先程のいじめっ子たちに外見をよくからかわれていたので無視していたのだが、そのうちいじめられるようになり現在にいたるらしい。
「僕も強くなりたいとは思うんですが・・・」
本人も頑張って体力作りに取り組んではみたものの、1キロ走ると倒れ、腕立て伏せは10回やれば腕が動かなくなるそうだ。
私もどう言って良いかわからなかった。
「まあ、何かあったらまた相談になってやろう」
言葉に詰まった私はそう言ってなんとかフォローした。
パロムは私の行いに感動したのか終始ありがとうございました!とお礼を言いながら去っていった。
去っていくパロムの後ろ姿を見て私は深く溜息を吐く。
「はあ、弱い者イジメをしているのは私の方かもしれないな・・・」
私は強くありたいと願って己を鍛えてきたつもりだったが、自分が強ければ何をしても良いわけではない。
いじめっ子とはいえ、パロムという男の子を守るためとはいえ、私は彼らに暴力を振るったのだ。
しかもあれだけ弱ければな。
私がいじめっ子をいじめたのではないか?
剣術の授業で上級生が私にしたように、
なんとなく自分が弱い者イジメをしたという罪悪感で胸がいっぱいになった。
その後教室に戻ると何やら騒いでいる連中がいる。
どうやらさっき懲らしめた奴らだった。
もっとキツくお仕置きをしてやった方が良かったのか?
まあ今は罪悪感が薄れただけ良しとするか。
「何か用か?」
私がそう言うと、連中は調子づいて絡んできた。
「お前のせいで怪我したじゃねぇか!」
「責任取ってもらおうか!」
「慰謝料を払いな!」
話を聞けばどうやら彼らは上級生だったようだ。
しかも私のことを下級生だと知っていきなり罵ってきた。
しかしまあ、上級生でこの程度とはな。
先程もいじめを犯している割に連中は随分と弱かったからな。
弱いくせに精一杯威嚇して、態度だけは強く偉そうに見せている。
私は思わず失笑した。
「何がおかしい!」
「俺たちを馬鹿にしているのか?」
いじめっ子たちはさらに勢いづいて私を脅してきた。
クラスの生徒たちは「あいつらもう終わったな」、「可哀想に」と小声で話している。
聞こえてるぞ?
私がいじめっ子たちと教室の前で話をしているとアレク様とアイリーン様がやって来た。
「ここで何をなさっているのです?」
アイリーン様は厳しい表情でいじめっ子たちを見る。
いじめっ子たちはアイリーン様の可愛らしさに見惚れてアレク様と私を無視してアイリーン様に話しかける。
「ねえねえ君可愛いね!名前は?」
「俺たちと付き合おうよ」
「彼氏いるの?」
そんなゲスな奴らに対してアイリーン様が恐ろしくも冷たい表情で見下していた。
「私はガスタル辺境伯の娘、アイリーンと申します。そして隣にいますアレク王太子の婚約者でもありますわ。そこの女子はアレク王子の護衛騎士ですのよ?あなた達が何者か存じませんが、これ以上の不敬を働くというのであれば、二度とこの学園にいられないようになりますわよ?」
アイリーン様は美しく微笑んだ。
それは気高い強者の笑み。
しかも彼女は何か近寄れないオーラを放っている。
これは、覇気?なのか?
アイリーン様の覇気を受けたいじめっ子たちは震え上がり、逆らうことなく「すみませんでした!」「もう二度とここへは来ません!」「あいつがあの王子かよ」などと言って逃げるように去っていったのだ。
「し、信じられない」
私は驚愕した。
剣の強さとは違う女の強さ。
思えば私の母上も強かった。
あの父上でさえ母上には敵わない。
アイリーン様のもう一つの顔を見たアレク王子は「アイリーンを怒らせないように気をつけよう」と小声で呟いていた。
アイリーン様の勇ましく気丈な姿を見て私は気付いたのだ。
強さとは単なる力だけではなく、力なき女性であっても色々な強さがあり、その立場によって相応しい強さを振る舞えるようになることが必要なのだと。
さすがは父を導いてくれたガスタル辺境伯のお孫様だ。
強さとは、剣の実力だけではない。
私の目指す強さとはアイリーン様のように気高さを伴う強さなのだと悟った。
♢
《アレク視点》
僕はアイリーンと教室に向かう際、目の前でサラが上級生にいちゃもんをつけられているところを目撃した。
(うわ、関わりたくないな)
あいつらを見たら昔いじめっ子たちに苦しめられた前世を思い出してしまう。
(さっさと帰ってくれよな)
そんな時、なんとあの可愛いアイリーンが無事上級生を追い払ってくれたのだ。
その時のアイリーンはちょっと怖かったな。
僕もアイリーンを怒らせないように気をつけよう。
そんなことを思っていた時にサラが目をキラキラさせてアイリーンに話しかけてきた。
「ア、アイリーン様!ぜ、ぜひこの私のメンターになってはいただけないでしょうか!」
「え?」とアイリーンが訝しむ。
僕も思わず「は?」と驚いてしまった。
サラの一言によって周囲は一気に鎮まり、その後すぐにヒソヒソと静かに会話する人たちが増えている。
「サ、サラ、何故、アイリーンをサラのメンターに指名したんだ?」
僕は思わず困惑してサラに問いかけた。
「え?は、はい、私は将来、騎士となりお二人にお仕えしたいと願っております。ただアレク様は充分お強いので護衛騎士として私は必要もなく到底務まらないと思っていました。先程のアイリーン様はとても素晴らしく、私は強さの意味を知りました」
「まあ」とアイリーンは喜び、
「はあ」と僕は呆れた顔をする。
「私は将来王妃になられるであろうアイリーン様のように美しくかつ、芯のあるお方の強さに憧れたのです。だからこそ、アイリーン様から女性としての真の強さを学ばせていただければと思いまして」
そしてサラはアイリーンの手を取り、片膝を地につけて首を垂れた。
「アイリーン様、ぜひこの私を貴女の弟子としてくださいませ」
「あら、アレク様?よろしいのです?」
割と美形なサラがアイリーンに騎士として忠誠を誓う姿はまるで宝◯歌劇団だ。ここはベルバラかと僕はツッコみたくなった。
それと思ったのだ。
「サラは俺に生涯この身を捧げたいとか言っていなかったか?」
「え?私はお二人に忠誠を誓っておりますので、お二人に生涯お仕えしたいと申しただけですが?」
(紛らわしいんだよ!)
事の顛末を理解したアイリーンはとても満足した顔で答えた。
「サラ、貴女のような騎士を私は望んでおりました。今後わたくしの弟子として鍛えてあげましょう」
「ほ、本当ですか!?」
「はい、本日より貴女を私の弟子とします」
「あ、ありがたき幸せ!」
サラは涙を流しながら首を垂れる。そしてアイリーンは鍛錬用の短剣を取り出してサラの肩に剣を当てた。
それは騎士の誓いと同じものであった。
アイリーンは高らかに宣言し、サラはアイリーンの弟子となったのである。
周囲の生徒たちは拍手をして盛大に二人を祝福した!
数人の女子生徒たちは「す、素敵だわ!」「鼻血が出そう」「尊いわ!」などと騒いでいた。
それ以降、サラとアイリーンは一部の女生徒達から違う視線を送られる事になる。
そうした中でアレクは何やら悔しそうに涙を流していた。
♢
女生徒A「あ!アイリーン様とサラ様がこちらにいらっしゃいますわ!」
女生徒B「お二人ともお美しい・・・なんて尊いのでしょう!」
女生徒A「あ!サラ様がアイリーン様の手を取ってらっしゃいますわ!」
女生徒B「もう私、我慢ができません!は、鼻血が出そうですわ」
女生徒A「あ、アイリーン様・・・」
アイリーン「あなた、素敵なお顔から血が出ていらっしゃいますよ?これでお拭きなさい」
そう言ってアイリーンはハンカチを女生徒Bにそっと手渡した。
女生徒B「あ!アイリーン様!ありがとうございます!すぐに洗ってお返ししますので!」
アイリーン「大丈夫ですわ。わたくしいつも2枚ハンカチを持っていますから、あなたに差し上げるわ」
女生徒B「あ、ありがとうございます!家宝にします!」
アイリーン「まあ!大袈裟ね。そんなに大した物ではありませんのに」
女生徒B「いえいえ!そんなことありません!」
アレク「あ!アイリーン!おはよう!」
アイリーン「あら、アレク様、おはようございます」
アレク「今日も良い天気だね!あ、サラもいたんだね。さあ、教室に入ろうか」
アイリーン「ええ、そうですわね」
サラ「はい!」
サラとアイリーンを伴って教室に入るアレク。
そして二人(アレクは数に入っていない)の入室を見守る女生徒AとB。
女生徒A「アイリーン様、素敵だったわね」
女生徒B「ええ、本当に、今日のサラ様も凛々しくて素敵だったわ」
女生徒A・B「「今日も眼福でしたわ~!」」
サラがアイリーンの弟子となったあの日をきっかけとして一部の女生徒の間では密かに「花園」と呼ばれる会員制のファンクラブが誕生した。
そこでは「アイリーン」と「サラ」の姿絵やアイリーンの使っていたハンカチと同じ商品が手に入るとあって、百合の花を愛でる者たちの入会が殺到したという。
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みにぶた🐽
ファンタジー
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勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
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