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学園編
魔法師選別大会③
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アレクが魔法師選別大会に出場している頃、
この日メイドのサーシャはとても上機嫌だった。
彼女の手には一枚の便箋があった。
「いやっふぅ!!でえとよ!デェト!人生初のデェトよ!やったわ!」
サーシャは歓喜に満ちていた。
先日の午後に出会った素敵な紳士を思い出しながら私にもやっと春が来たわ!などと喜びを噛み締めていたのである。
それはサーシャが食材の買い出しに町に行った時のこと。
買い物袋を抱えて学園に帰る途中にたまたますれ違った人がぶつかった衝撃で思わず買い物袋を落としてしまう。そして気がつくと肩にかけていたバックを盗られてしまっていた。
「ああ!」
サーシャの目の前にはさっきぶつかった男が走りながら逃げていく後ろ姿が見えた。
驚いて瞬きをするたびに盗人の後ろ姿が少しずつ遠のいていく。
そしてサーシャの足元には大量の買い出しの食材が散乱しており、盗人を追いかけるどころか、落ちた食材を拾う余裕さえない。
「誰か!あの走って逃げていく男を捕まえてちょうだい!」
サーシャが盗人を指差しながら大声を張り上げるとすぐに盗人は足を躓いたのか石床の通路に顔を打ちつけるほど派手に転んでいた。
ほどなく盗人は周囲の人たちに取り押さえられた。そして通路にサーシャは散乱していた食材を拾う中で一緒に手伝ってくれた紳士がいた。
「お嬢さん、私も手伝いますね」
そう言うと紳士は落としたものをあらかた拾って彼女の買い物袋に入れてくれた。
「なっ!!」
サーシャの目の前にはなんと眼福するほどに整った顔立ちの長身金髪碧眼男がいたのだ。
しかもなんかいい匂いがする。
至近距離で目が合ったサーシャは感激のあまり立ち上がって直立不動の姿勢となった。
そしていつもよりビシッと背筋を伸ばす。
サーシャ・アイギス。
腐っても男爵令嬢の彼女は上品に、かつ貴族らしい姿勢をとった。それはアレク王子にも見せたことがないほど丁寧に、そして優雅にお辞儀をした。
「助けてくださって、本当にありがとうございます」
(ああ、こういうことなら薄めの化粧なんかせずにちゃんと顔を作ってこればよかったわ)
多少の後悔をしつつ、サーシャはちょっと上目遣いをして目の前の眉目秀麗の紳士に礼を述べた。
紳士は立ち上がると最後に拾ったリンゴをサーシャに手渡した。
「いや、礼など不要です。私はあなたのような素敵な方が困っているのを見過ごす事など出来ません」
(いやーー!顔も綺麗なら心も綺麗だなんて!なんて素敵なのかしら!)
故郷には結婚を約束した男性がいるが、いま目の前には春風そよぐ超イケメンがいる。
今のサーシャは今を生きる女になった。
「よかったら少しお茶でも行きませんか?僕が行きつけのお店が近くにあるんですよ」
(え!?うそ!これは夢!?)
驚きのあまりサーシャは自身の頬をつねると確かに頬から痛みが感じ取れた。
(痛いわ。ということはこれは現実よね?え?もしかして、この私にも、とうとう春が来たの?)
「お嬢さん?どうかしましたか?」
「い、いえっ!な、何でもありません!」
(うっ、現実なのね!わ、私の冬の時代は終わったのね!?本当に、本当に長かったわ)
辛かった過去を思い出し感涙に咽ぶサーシャ。確かに目の前の紳士は自分に好意を示してくれているのだ。
「どうかなさいましたか?」
「い、いえ、す、少し気が昂ったみたいで」
「盗難にあったばかりですから仕方ありませんよ。どうでしょう、そこにある喫茶店で少しお茶でも飲みながら休んでいきませんか?」
「はっ、はい!何卒よろしくお願いします!」
サーシャは鼻息あらくして元気よく紳士の申し出に答えた。
こうしてさわやかイケメンとサーシャは共に喫茶店へと向かった。
「えっ!サーシャさん、学園に勤めていらっしゃるんですか?」
クレメンスと名乗る男はそう言ってサーシャと一緒にお茶とケーキを愉しんでいた。
(ああ♡このまま時が止まればいいのに♡)
サーシャはもう有頂天である。
「はい♡そうなんです♡」
「あなたはメイドですよね?」
「はい♡そうなんです♡」
「誰に仕えてらっしゃるのですか?」
「はい♡アレク王子です♡」
「へえ、王族に仕えてらっしゃるのですね。サーシャさん実は凄い方なんですね!」
「はい♡そうなんです♡」
サーシャの幸せなひと時はあっという間に終わる。
夕方前には帰って夕食の支度をしなければならない。
「あっ!いけないもうこんな時間なのね!」
よくよくみると夕焼けが空をオレンジ色に染めていた。
「僕も学園に住んでいますので良かったら一緒に戻りませんか?」
(キターーーーー!!)
サーシャは喜びと感動に打ち震える。
そして警戒心ゼロなサーシャはクレメンスと二人で学園に戻る事にした。
道すがらクレメンスは花屋を見つけるとサーシャを引き留めた。
「あっ!サーシャさんちょっといいですか?」
「えっ?」
クレメンスはすぐに花屋で花束を買い、メッセージカードに何か書いてサーシャに手渡した。
「えっ?これ私がもらっていいんですか?」
「ええ、もちろんです。今日お会いできた記念として受け取っていただけますか?」
「はい!もちろんです!!あ、ありがとうございます!」
そう言ってサーシャはクレメンスから花束を貰った。するとクレメンスはサーシャの手を取り彼女の手の甲に口付けをする。
(うきゃーーー!!や、やっぱりイケメンはやる事が違うわ!)
サーシャは手の甲を見つめ、しばらく手は洗わないでおこうと誓った。
しかし、有頂天のサーシャはわかっていなかった。
サーシャは気付くべきだったのだ。
何故イケメンが自分に近づいてきたのかを……。
♢
《アレク視点》
「私は棄権します」
え?
いきなりの棄権宣言をしたのは毒使いの魔法師ファントム・レギスだ。
彼は的当ての競技を棄権すると言ったので思わず僕は驚いた。
「ファントム・レギス選手は毒使いということで、彼の棄権は受理されました!それでは次の選手、こちらは一年生にして水の魔塔代表に選ばれた王国の第一王子アレク・サトゥーラ選手です!」
おお!!
観客たちの反応ははっきり分かれており、主に父である国王の周辺から大きな拍手と声援が湧き上がる。身内贔屓なのか。他の魔塔からは小さな拍手音がわずかに聞こえる程度だ。
温度差が激しい。
僕はとりあえず前に歩み出る。そして的当ての開始場所である丸い白線の中に入った。
ゴゴゴ、、、。
床がせり上がると共に視界が少しずつ上がっていく。さっきまで見上げていたはずの的がちょうど見やすい位置になった。
よし、やるか。
水の魔法ね。
大量の水を出すだけだと点数にはならなさそうだ。
よし、水を圧縮してみよう。
さらに威力を上げるには・・・どうしたら、うーん。
そうだ。石をも斬り裂くほどに圧縮した水を細く、レーザー光線のように出してみよう。
僕は細いレーザー光線のような水を思い描く。
しかし、ここからだと少し遠いな。
距離が長いほど威力が落ちるような気がする。
よし、的の近くに大きな水の塊を作って、そこからレーザー光線のように水を放射してみよう。
僕は更に想像を膨らませる。
そして、より具体的なビジョンを描く。
「よし!」
想像から創造へ。
魔法は完成した。
僕は手のひらから魔力を放出して魔法を展開する。
すると巨大な水の塊が的の近くに出現した。
おおっ!!
急に現れた大きな水の塊を見て観客たちは感嘆したようだ。
会場ではほとんどの人たちが立ち上がるほどに驚きと共に声を上げていた。
「な、なんと!大きな水の塊だ!」
「しかも無詠唱だったぞ!?」
「これが噂の・・・」
(え?これが噂のって何?気になるんだけど)
観客の声がちょっと気になるものの、今は集中力が乱れるのは良くない。展開している魔法に支障が出るためだ。
僕は気を引き締めて再度魔法に集中する。
次は大きな水の塊からレーザー光線のような高圧縮の水を出す工程に入る。
僕は右手の人差し指を立てピストルを打つような姿勢で構えると指先を的に向けて照準を合わせた。
まあ、的は目の前だし、外れることはないけどね。
とりあえず水の硬度を上げるのが最重要。
水の圧縮に圧縮、更に圧縮を重ねる。
集中し、細く、高密度の水をレーザー光線のように放つ。
「穿て!ウォーターレーザー!」
とりあえず厨二病っぽく言ってみた。
まったくの無詠唱だとみんなビックリするだろうしね。
ピッ、
レーザー光線のように圧縮された水は一瞬にして的の中心に当たり小さな穴を開けた。そして大量の水が放出されたことで大きな水の塊はすぐ小さくなった。
僕の水レーザー魔法は成功し、見事に的を貫通した。
しかし誤算だったのは、さらに向こうの壁にも当たって穴を開けてしまったことだ。僕は慌てて水レーザーの射程を空に向ける。
水レーザーはそのまま的の上半分を貫通し、そのまま空に向かって霧散した。
幸いにして的の裏側周辺には誰一人観客はおらず、水レーザーに当たって死にましたなんて最悪なことにはならなかった。
思わぬ事態で大事に至らず、僕はホッとする。
さて、観客席が響めく中でいよいよ採点が始まった。
「そ、それでは結果を発表します。先程のアレク王子の魔法は、え!?本当に?あ、失礼しました。あの、ただいまのアレク王子の魔法は、ひ、100点中、100点となりました。ま、満点は王国創立以来、は、初めてのことです」
おおおっ!!!
驚きの声と共に一斉に会場が沸いた。
「それでは初の満点を取られたアレク王子に一言、感想を聞かせていただきましょう」
司会者の女性は僕のところに駆け寄ってマイクを手渡してきた。
うーん、中世っぽい時代背景なのにさ、なぜかマイクみたいな時代に噛み合わない魔道具とかあるんだよね。
ほんと異世界って不思議。
「えー、今の僕の魔法は水を圧縮して放出するものです。威力は見ての通り、石も斬り裂くほどのものです。その、満点を取れて良かったと思います」
僕はそう言ってマイクを司会者に返した。
司会者はぽかんとした表情でマイクを握るとすぐに気を取り直して次のアナウンスを始めた。
「そ、それでは第一競技は終了します!それでは次の第二競技に入るまでの間は休憩時間となります。次の競技の開始は20分後となります」
休憩か。
拍手喝采に沸く観客たちに見送られ僕たち出場選手は待機室へと移動した。
待機室に戻った僕は少し安心したのか、今頃になって尿意を感じるようになった。
よし、今のうちにトイレに行ってこよ。
僕のオシッ◯も水レーザーのようになるかなあ。へへっ、かなりの勢いで便器に穴が空いたりして・・・って、ガキじゃあるまいし、ほんと何考えてるんだか。
そういえば前世、中学生の時、あれは15歳の時だったか、たしか昔の人で橋本左内という人の話があったな。
同じ歳の頃になんとか録(啓発録)とか出して「稚心を去れ」とか言ってたな。
たしか校長先生が話してたやつだったっけ。
これも・・・稚心か。
一応、今世の身体はまだ子供ではあるけど、でも前世も含めるととっくに成人してるんだよな。
この歳になってさ。
おしっ◯レーザービームとかなんか言ってさ。
ああ、
やば、
かなりやばい奴じゃん。
ある意味、厨二病よりヤバいかも。
・・・・・・。
・・・よし、
もう少し、
もう少しだけ、大人になろう。
僕は自分自身の幼稚な発想に呆れながらも少し早足でトイレへと足を運んだ。
※稚心ー子どもじみた甘えた心を早く捨てよという意味。
この日メイドのサーシャはとても上機嫌だった。
彼女の手には一枚の便箋があった。
「いやっふぅ!!でえとよ!デェト!人生初のデェトよ!やったわ!」
サーシャは歓喜に満ちていた。
先日の午後に出会った素敵な紳士を思い出しながら私にもやっと春が来たわ!などと喜びを噛み締めていたのである。
それはサーシャが食材の買い出しに町に行った時のこと。
買い物袋を抱えて学園に帰る途中にたまたますれ違った人がぶつかった衝撃で思わず買い物袋を落としてしまう。そして気がつくと肩にかけていたバックを盗られてしまっていた。
「ああ!」
サーシャの目の前にはさっきぶつかった男が走りながら逃げていく後ろ姿が見えた。
驚いて瞬きをするたびに盗人の後ろ姿が少しずつ遠のいていく。
そしてサーシャの足元には大量の買い出しの食材が散乱しており、盗人を追いかけるどころか、落ちた食材を拾う余裕さえない。
「誰か!あの走って逃げていく男を捕まえてちょうだい!」
サーシャが盗人を指差しながら大声を張り上げるとすぐに盗人は足を躓いたのか石床の通路に顔を打ちつけるほど派手に転んでいた。
ほどなく盗人は周囲の人たちに取り押さえられた。そして通路にサーシャは散乱していた食材を拾う中で一緒に手伝ってくれた紳士がいた。
「お嬢さん、私も手伝いますね」
そう言うと紳士は落としたものをあらかた拾って彼女の買い物袋に入れてくれた。
「なっ!!」
サーシャの目の前にはなんと眼福するほどに整った顔立ちの長身金髪碧眼男がいたのだ。
しかもなんかいい匂いがする。
至近距離で目が合ったサーシャは感激のあまり立ち上がって直立不動の姿勢となった。
そしていつもよりビシッと背筋を伸ばす。
サーシャ・アイギス。
腐っても男爵令嬢の彼女は上品に、かつ貴族らしい姿勢をとった。それはアレク王子にも見せたことがないほど丁寧に、そして優雅にお辞儀をした。
「助けてくださって、本当にありがとうございます」
(ああ、こういうことなら薄めの化粧なんかせずにちゃんと顔を作ってこればよかったわ)
多少の後悔をしつつ、サーシャはちょっと上目遣いをして目の前の眉目秀麗の紳士に礼を述べた。
紳士は立ち上がると最後に拾ったリンゴをサーシャに手渡した。
「いや、礼など不要です。私はあなたのような素敵な方が困っているのを見過ごす事など出来ません」
(いやーー!顔も綺麗なら心も綺麗だなんて!なんて素敵なのかしら!)
故郷には結婚を約束した男性がいるが、いま目の前には春風そよぐ超イケメンがいる。
今のサーシャは今を生きる女になった。
「よかったら少しお茶でも行きませんか?僕が行きつけのお店が近くにあるんですよ」
(え!?うそ!これは夢!?)
驚きのあまりサーシャは自身の頬をつねると確かに頬から痛みが感じ取れた。
(痛いわ。ということはこれは現実よね?え?もしかして、この私にも、とうとう春が来たの?)
「お嬢さん?どうかしましたか?」
「い、いえっ!な、何でもありません!」
(うっ、現実なのね!わ、私の冬の時代は終わったのね!?本当に、本当に長かったわ)
辛かった過去を思い出し感涙に咽ぶサーシャ。確かに目の前の紳士は自分に好意を示してくれているのだ。
「どうかなさいましたか?」
「い、いえ、す、少し気が昂ったみたいで」
「盗難にあったばかりですから仕方ありませんよ。どうでしょう、そこにある喫茶店で少しお茶でも飲みながら休んでいきませんか?」
「はっ、はい!何卒よろしくお願いします!」
サーシャは鼻息あらくして元気よく紳士の申し出に答えた。
こうしてさわやかイケメンとサーシャは共に喫茶店へと向かった。
「えっ!サーシャさん、学園に勤めていらっしゃるんですか?」
クレメンスと名乗る男はそう言ってサーシャと一緒にお茶とケーキを愉しんでいた。
(ああ♡このまま時が止まればいいのに♡)
サーシャはもう有頂天である。
「はい♡そうなんです♡」
「あなたはメイドですよね?」
「はい♡そうなんです♡」
「誰に仕えてらっしゃるのですか?」
「はい♡アレク王子です♡」
「へえ、王族に仕えてらっしゃるのですね。サーシャさん実は凄い方なんですね!」
「はい♡そうなんです♡」
サーシャの幸せなひと時はあっという間に終わる。
夕方前には帰って夕食の支度をしなければならない。
「あっ!いけないもうこんな時間なのね!」
よくよくみると夕焼けが空をオレンジ色に染めていた。
「僕も学園に住んでいますので良かったら一緒に戻りませんか?」
(キターーーーー!!)
サーシャは喜びと感動に打ち震える。
そして警戒心ゼロなサーシャはクレメンスと二人で学園に戻る事にした。
道すがらクレメンスは花屋を見つけるとサーシャを引き留めた。
「あっ!サーシャさんちょっといいですか?」
「えっ?」
クレメンスはすぐに花屋で花束を買い、メッセージカードに何か書いてサーシャに手渡した。
「えっ?これ私がもらっていいんですか?」
「ええ、もちろんです。今日お会いできた記念として受け取っていただけますか?」
「はい!もちろんです!!あ、ありがとうございます!」
そう言ってサーシャはクレメンスから花束を貰った。するとクレメンスはサーシャの手を取り彼女の手の甲に口付けをする。
(うきゃーーー!!や、やっぱりイケメンはやる事が違うわ!)
サーシャは手の甲を見つめ、しばらく手は洗わないでおこうと誓った。
しかし、有頂天のサーシャはわかっていなかった。
サーシャは気付くべきだったのだ。
何故イケメンが自分に近づいてきたのかを……。
♢
《アレク視点》
「私は棄権します」
え?
いきなりの棄権宣言をしたのは毒使いの魔法師ファントム・レギスだ。
彼は的当ての競技を棄権すると言ったので思わず僕は驚いた。
「ファントム・レギス選手は毒使いということで、彼の棄権は受理されました!それでは次の選手、こちらは一年生にして水の魔塔代表に選ばれた王国の第一王子アレク・サトゥーラ選手です!」
おお!!
観客たちの反応ははっきり分かれており、主に父である国王の周辺から大きな拍手と声援が湧き上がる。身内贔屓なのか。他の魔塔からは小さな拍手音がわずかに聞こえる程度だ。
温度差が激しい。
僕はとりあえず前に歩み出る。そして的当ての開始場所である丸い白線の中に入った。
ゴゴゴ、、、。
床がせり上がると共に視界が少しずつ上がっていく。さっきまで見上げていたはずの的がちょうど見やすい位置になった。
よし、やるか。
水の魔法ね。
大量の水を出すだけだと点数にはならなさそうだ。
よし、水を圧縮してみよう。
さらに威力を上げるには・・・どうしたら、うーん。
そうだ。石をも斬り裂くほどに圧縮した水を細く、レーザー光線のように出してみよう。
僕は細いレーザー光線のような水を思い描く。
しかし、ここからだと少し遠いな。
距離が長いほど威力が落ちるような気がする。
よし、的の近くに大きな水の塊を作って、そこからレーザー光線のように水を放射してみよう。
僕は更に想像を膨らませる。
そして、より具体的なビジョンを描く。
「よし!」
想像から創造へ。
魔法は完成した。
僕は手のひらから魔力を放出して魔法を展開する。
すると巨大な水の塊が的の近くに出現した。
おおっ!!
急に現れた大きな水の塊を見て観客たちは感嘆したようだ。
会場ではほとんどの人たちが立ち上がるほどに驚きと共に声を上げていた。
「な、なんと!大きな水の塊だ!」
「しかも無詠唱だったぞ!?」
「これが噂の・・・」
(え?これが噂のって何?気になるんだけど)
観客の声がちょっと気になるものの、今は集中力が乱れるのは良くない。展開している魔法に支障が出るためだ。
僕は気を引き締めて再度魔法に集中する。
次は大きな水の塊からレーザー光線のような高圧縮の水を出す工程に入る。
僕は右手の人差し指を立てピストルを打つような姿勢で構えると指先を的に向けて照準を合わせた。
まあ、的は目の前だし、外れることはないけどね。
とりあえず水の硬度を上げるのが最重要。
水の圧縮に圧縮、更に圧縮を重ねる。
集中し、細く、高密度の水をレーザー光線のように放つ。
「穿て!ウォーターレーザー!」
とりあえず厨二病っぽく言ってみた。
まったくの無詠唱だとみんなビックリするだろうしね。
ピッ、
レーザー光線のように圧縮された水は一瞬にして的の中心に当たり小さな穴を開けた。そして大量の水が放出されたことで大きな水の塊はすぐ小さくなった。
僕の水レーザー魔法は成功し、見事に的を貫通した。
しかし誤算だったのは、さらに向こうの壁にも当たって穴を開けてしまったことだ。僕は慌てて水レーザーの射程を空に向ける。
水レーザーはそのまま的の上半分を貫通し、そのまま空に向かって霧散した。
幸いにして的の裏側周辺には誰一人観客はおらず、水レーザーに当たって死にましたなんて最悪なことにはならなかった。
思わぬ事態で大事に至らず、僕はホッとする。
さて、観客席が響めく中でいよいよ採点が始まった。
「そ、それでは結果を発表します。先程のアレク王子の魔法は、え!?本当に?あ、失礼しました。あの、ただいまのアレク王子の魔法は、ひ、100点中、100点となりました。ま、満点は王国創立以来、は、初めてのことです」
おおおっ!!!
驚きの声と共に一斉に会場が沸いた。
「それでは初の満点を取られたアレク王子に一言、感想を聞かせていただきましょう」
司会者の女性は僕のところに駆け寄ってマイクを手渡してきた。
うーん、中世っぽい時代背景なのにさ、なぜかマイクみたいな時代に噛み合わない魔道具とかあるんだよね。
ほんと異世界って不思議。
「えー、今の僕の魔法は水を圧縮して放出するものです。威力は見ての通り、石も斬り裂くほどのものです。その、満点を取れて良かったと思います」
僕はそう言ってマイクを司会者に返した。
司会者はぽかんとした表情でマイクを握るとすぐに気を取り直して次のアナウンスを始めた。
「そ、それでは第一競技は終了します!それでは次の第二競技に入るまでの間は休憩時間となります。次の競技の開始は20分後となります」
休憩か。
拍手喝采に沸く観客たちに見送られ僕たち出場選手は待機室へと移動した。
待機室に戻った僕は少し安心したのか、今頃になって尿意を感じるようになった。
よし、今のうちにトイレに行ってこよ。
僕のオシッ◯も水レーザーのようになるかなあ。へへっ、かなりの勢いで便器に穴が空いたりして・・・って、ガキじゃあるまいし、ほんと何考えてるんだか。
そういえば前世、中学生の時、あれは15歳の時だったか、たしか昔の人で橋本左内という人の話があったな。
同じ歳の頃になんとか録(啓発録)とか出して「稚心を去れ」とか言ってたな。
たしか校長先生が話してたやつだったっけ。
これも・・・稚心か。
一応、今世の身体はまだ子供ではあるけど、でも前世も含めるととっくに成人してるんだよな。
この歳になってさ。
おしっ◯レーザービームとかなんか言ってさ。
ああ、
やば、
かなりやばい奴じゃん。
ある意味、厨二病よりヤバいかも。
・・・・・・。
・・・よし、
もう少し、
もう少しだけ、大人になろう。
僕は自分自身の幼稚な発想に呆れながらも少し早足でトイレへと足を運んだ。
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