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六話
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森の中で、私は目を覚ました。
寝ぼけ眼で辺りを見回すと、香箱座りで眠っているマグちゃんの姿が目に写った。
大きすぎて香箱ってサイズじゃないけど。
私は眠っているマグちゃんを起こさぬように猫吸いをしたあと、森の広場に向かった。
そこには既にキャスパリーグが待っていて、眠たそうにあくびをしている。
「おお、来られたかココロ殿」
「お待たせキャスパリーグさん、それじゃあ今日もよろしくお願いします」
ウムと頷くと、キャスパリーグは体勢を低くして戦闘態勢をとった。
マタゾウが死んだあの日、
この森を私が守ると決めたあの日から、私はキャスパリーグと毎朝組み手をし始めた。
理由は、スキル【猫狂い】によって上昇した私のステータスにある。
私のステータスは大幅に上昇したけど、私の戦闘技術がその変化に着いていけてないのだ。
実際にあの大男と戦ったときはただ遠くにぶん投げただけだったし。
今の私はF1カーを子供が運転しているようなもので、性能を十分に引き出せていないのだ。
そのためキャスパリーグに頼んで毎朝組み手の相手をしてもらっている。
各ステータスが表す意味についてもキャスパリーグに教えてもらった。
まずHPはそのまま体力で、この値が高いと強い攻撃を受けても死なずにすむということだった。
MPは魔法を使うのに必要な値で、この値を消費して魔法を放つことができて、強い魔法ほどより多くのMPを使うとのこと。
攻撃力は物理攻撃における強さを表すらしい。
魔攻は魔法を使った時の攻撃力を表す数値で、同じ魔法でもこの魔攻の値が高い人の方が威力が出せるそう。
防御力と素早さに関してはそのままの意味だった。
ちなみに今の私のステータスはこんな感じ。
個体名:猫宮心
種族:人間
職業:テイマー
称号:【猫狂い】【猫に好かれるもの】
HP:8300 MP:3000
攻撃力:6100 素早さ:1000
防御力:4200 魔攻:2400
スキル:テイムA、鑑定、風魔法レベル1
うん、伸びすぎじゃない?
ゲームだったらインフレしすぎって炎上するレベルだよ。
あと【猫狂い】で上昇するのはステータスの数値だけで、スキルには影響しないみたい。
だけど一番驚きなのは、キャスパリーグのステータスなんだよね。
個体名:なし
種族:キャスパリーグ
称号:【マタタビ森の主】
HP:12000 MP:3400
力:8900 素早さ:4200
防御力:7800 魔力:5000
スキル:風魔法レベル7、俊敏
化け物かな?
【猫狂い】で伸びた私のステータスより二回りくらい上なんだけど。
マタタビで無力化されてたけど、本当は私よりも強いんだね……。
カワイイ上に強いとかマジで最強じゃん。
そんなステータスの差もあり、キャスパリーグと組み手をとり始めてから一ヶ月程経つが、一度も勝てないでいる。
「今日はこのくらいにしておこうか、水浴びをしてくると良い」
今日も一度も勝てず、私がぼろ雑巾のようにぶっ倒れたところで組み手は終わった。
水浴びに行きたいのは山々なんだけど、
動けねぇよぉ……。
けどこんな汗でびちゃびちゃのまま寝とくわけにもいかないし……。
私は芋虫のように這って湖の方へと向かっていった。
見た目は無様だけど、組み手のあとはこれでしか動けないんだよね。
モソモソとした動きで湖にたどり着くと、服を着たまま湖に落下するように入った。
湖の刺すような冷たさが、組み手で火照った身体を覚ましていく。
あー整うー……。
一ヶ月の特訓のお陰で、私の体術は飛躍的に向上した。
未だにキャスパリーグには勝てないけど、上昇したステータス値を無駄なく扱える程度には強くなった。
だけどまだ足りないよね、私の目標はこの森の皆を守る事なんだから、キャスパリーグよりも強くないと……。
そう決心を固め直すと、私は湖から上がった。
よし、それじゃあ次は……。
「第一界風魔法、ウインド」
そう私が唱えると、どこからともなく風が私の身体を吹き付け始める。
これは風魔法で、キャスパリーグから教わったものだ。
魔法は自身のMPを消費して使用することができ、多種多様な魔法がある。
魔法には第一界魔法から第十界魔法まであり、数字が大きくなるほど、より高位の魔法になる。
効果の高さはもちろん、その難しさも飛躍的に上がる。
今私が使えるのは第一界風魔法だけである。
風魔法の練習も予て、水浴びのあとに身体を乾かす時に使っている。
現代日本人だった私としては、水浴びのあとにドライヤー代わりになるものがあるのはありがたい。
十分に乾かし終わり、私の髪が本来のキューティクルを取り戻す頃。
「ご主人ご主人!準備できたよ!」
物凄い勢いでマグちゃんが突っ込んできて、私と一緒に湖に落ちた。
ゴボボボ!溺れる溺れる!
ボロボロの身体を必死に動かし、私は岸に上がった。火事場の馬鹿力ってすごい。
少し遅れてマグちゃんも岸に上がり、シュンとした顔で私を見つめる。
「ご主人ごめんね……」
もー、せっかく乾かしたのに……。
まぁカワイイから良いけどさ!
マグちゃんは人殺したんかってくらい落ち込んでいる。
よし、ここは私が和ませないと……!
「カワイイから良し!」
某現場猫のポーズで放たれた私の渾身のギャグは、マグちゃんの困惑顔に一蹴された。
これが人見知りの限界か……。
「……じゃあ早速出発しようか!」
人生通して友達ゼロの私には土台無理だったんだ。うん、忘れよう。
「うん、散歩行こ!」
強引な話題変更だったけど、マグちゃんにはバレてないみたいだね。
おバカでかわいいなぁ……。
よし、マグちゃんがさっきのことを思い出す前に出発してしまおう。
私はマグちゃんの背に飛び乗った。
「行くぞマグちゃん!」
「おー!」
マグちゃんのカワイイ雄叫びと共に、私たちは凄まじい速度で出発した。
今日は週に一度の散歩の日だ。
といっても、先週から始めたから第二回なんだけどね。
外の世界が大好きなマグちゃんのリフレッシュもかねてのお散歩……
というのは建前で、本当の目的はこの森にとって害がありそうな存在を把握するためだ。
あの男たちの襲撃で、私は痛感したのだ。私がいかにこの世界のことを知らないかを。
森を襲ってきたあいつらが住む集落か国があるはずだし、人以外にもこの森には時折、別の生息地から迷いこんだ魔物が来ることもある。
それらの敵がどこにいて、どのようにこの森に来ているかを、私は一つも知らなかったのだ。
その索敵のために、私はマグちゃんをつれて外を走り回っているのだ。
本当はマグちゃんを巻き込みたくはなかったんだけど、森の外を散策したいってキャスパリーグに言ったら
「一人で森の外に行くのは危険だ、護衛を一匹つけよう」
って言われちゃったんだよね。
敵を探す旅だから一人で行きたかったんだけど……。
心配してくれるのは嬉しいんだけどさ。
ということでボディガード役としてマグちゃんが選ばれたわけなんだけど、そんなマグちゃんのステータスがこちら。
個体名:マグ
種族:マグナフェーリス
称号:なし
HP:7000 MP:60
力:6700 素早さ:1700
防御力:6700 魔力:49
スキル:俊敏、強靭
森の中だと私とキャスパリーグを除けば一番高いステータス値叩き出しちゃってるんだよね。
スキルの【強靭】て言うやつは自身への攻撃に対する耐性と自分の攻撃にバフを載せるスキル。
ステータスの割り振りといい、マグちゃんは見た目通りの脳筋ちゃんなんだなぁ、カワイイ。
そんなマグちゃんに載せてもらうことで、散策は私が思ってた以上に広い範囲で行えている。
第一回目の散策では、魔物の住む森を二つと沼地を一つ見つけることができた。
前にマタタビの森に来た魔物の姿もあったし、この森に来る魔物たちはあそこから来てたっぽいね。
そして今日の目的は、人の住む土地を見つけること。
もっと言うと、近くにある国を見つけ出すことだ。
あの時森を襲った男達は森の皆をペットとして売り捌くことを目的としていた。
ペットを飼うような文化レベルとなると、小さな集落とかじゃなくてそれなりの大国があるはずだ。
しかもキャスパリーグが男達を逃がした時、近くに乗り物の姿は無かった。
てことは男達は徒歩圏内にある国から来たと言うこと。
その国を知ることは、森の皆を守ることに繋がるはずだ。
敵を知り、己を知ればなんとやらってね。
そして今私は、前の散策で発見した舗装された道をマグちゃんにのって走っている。
それにしても、私ってば最初にマグちゃんに乗った時は風圧に負けて逆海老してたのに、今じゃ武豊選手ばりの安定感だよ。
成長したなぁ。
まぁ風圧で歯茎がむき出しになるのはご愛嬌だけど……。
口内の乾燥に耐えながら走っていくと、体感十五分ほどで目的のものが姿を表した。
「……デッッッカ!」
端が見えない程の城壁に囲まれてて、まさしく城塞都市って感じ。
遠くから見てもその壁の強固さが分かるし、城門に群がる人の多さから国の豊かさも伺える。
「人だ!人がイッパイいるよ!」
マグちゃんが子供みたいにキラキラした声をあげる。
「そうだねぇ、いっぱいだねぇ」
マグちゃんのカワイさを堪能しながら、私は頭を悩ませていた。
どうしよう、本当は中に入って中の様子を見てみたいけど、マグちゃんは一応魔物だから入れないかも……。
「キャアァァァァ!!」
かな切り声がして私の悩みは霧散した。
今の悲鳴……人間の声?
声の主を探して辺りを見回すと、場所が開けてたこともあってすぐに見つかった。
私が通ってきたものとは別の道から、馬車が走ってきていた。
その周りには護衛の騎士達がラプトルみたいな魔物から馬車を守ろうと奮戦している。
なんだろうあの魔物、見たこと無いな。
よし、鑑定!
個体名:なし
種族:レッサーリザード
称号:なし
HP:500 MP:60
力:200 素早さ:670
防御力:180 魔力:30
スキル:なし
ふぅんレッサーリザードっていう魔物か、ステータス的にはあんまり強くなさそうだけど、護衛の人たちはかなり苦戦してるみたいだね。
「人が襲われてるよ!ご主人!」
マグちゃんが心配そうな声をあげる。
焦ってる姿もカワイイなぁ。
「そうだねぇ、でも助ける義理も無いしなぁ」
可哀想だけど、正直言って助ける理由が本当に無いんだよね。
私一人ならまだしも、今日はマグちゃんもいる。
万が一マグちゃんが怪我でもしちゃったら嫌だし。
「助けないの……?」
馬車をサクッと見殺しにしようとした私を、マグちゃんの曇り無き眼が射ぬいた。
上に乗っている私を上目使いに見るマグちゃんの視線に、私は根負けした。
「……分かった助けよう、でもマグちゃん怪我だけはしないでね、安全第一だよ!?」
「大丈夫、僕強いもん!じゃあお助けだー!」
そう叫ぶと、マグちゃんは私の返事も聞かずに駆け出した。
人間を助けるなんて気が進まないけど、いっちょやってやりますか!
寝ぼけ眼で辺りを見回すと、香箱座りで眠っているマグちゃんの姿が目に写った。
大きすぎて香箱ってサイズじゃないけど。
私は眠っているマグちゃんを起こさぬように猫吸いをしたあと、森の広場に向かった。
そこには既にキャスパリーグが待っていて、眠たそうにあくびをしている。
「おお、来られたかココロ殿」
「お待たせキャスパリーグさん、それじゃあ今日もよろしくお願いします」
ウムと頷くと、キャスパリーグは体勢を低くして戦闘態勢をとった。
マタゾウが死んだあの日、
この森を私が守ると決めたあの日から、私はキャスパリーグと毎朝組み手をし始めた。
理由は、スキル【猫狂い】によって上昇した私のステータスにある。
私のステータスは大幅に上昇したけど、私の戦闘技術がその変化に着いていけてないのだ。
実際にあの大男と戦ったときはただ遠くにぶん投げただけだったし。
今の私はF1カーを子供が運転しているようなもので、性能を十分に引き出せていないのだ。
そのためキャスパリーグに頼んで毎朝組み手の相手をしてもらっている。
各ステータスが表す意味についてもキャスパリーグに教えてもらった。
まずHPはそのまま体力で、この値が高いと強い攻撃を受けても死なずにすむということだった。
MPは魔法を使うのに必要な値で、この値を消費して魔法を放つことができて、強い魔法ほどより多くのMPを使うとのこと。
攻撃力は物理攻撃における強さを表すらしい。
魔攻は魔法を使った時の攻撃力を表す数値で、同じ魔法でもこの魔攻の値が高い人の方が威力が出せるそう。
防御力と素早さに関してはそのままの意味だった。
ちなみに今の私のステータスはこんな感じ。
個体名:猫宮心
種族:人間
職業:テイマー
称号:【猫狂い】【猫に好かれるもの】
HP:8300 MP:3000
攻撃力:6100 素早さ:1000
防御力:4200 魔攻:2400
スキル:テイムA、鑑定、風魔法レベル1
うん、伸びすぎじゃない?
ゲームだったらインフレしすぎって炎上するレベルだよ。
あと【猫狂い】で上昇するのはステータスの数値だけで、スキルには影響しないみたい。
だけど一番驚きなのは、キャスパリーグのステータスなんだよね。
個体名:なし
種族:キャスパリーグ
称号:【マタタビ森の主】
HP:12000 MP:3400
力:8900 素早さ:4200
防御力:7800 魔力:5000
スキル:風魔法レベル7、俊敏
化け物かな?
【猫狂い】で伸びた私のステータスより二回りくらい上なんだけど。
マタタビで無力化されてたけど、本当は私よりも強いんだね……。
カワイイ上に強いとかマジで最強じゃん。
そんなステータスの差もあり、キャスパリーグと組み手をとり始めてから一ヶ月程経つが、一度も勝てないでいる。
「今日はこのくらいにしておこうか、水浴びをしてくると良い」
今日も一度も勝てず、私がぼろ雑巾のようにぶっ倒れたところで組み手は終わった。
水浴びに行きたいのは山々なんだけど、
動けねぇよぉ……。
けどこんな汗でびちゃびちゃのまま寝とくわけにもいかないし……。
私は芋虫のように這って湖の方へと向かっていった。
見た目は無様だけど、組み手のあとはこれでしか動けないんだよね。
モソモソとした動きで湖にたどり着くと、服を着たまま湖に落下するように入った。
湖の刺すような冷たさが、組み手で火照った身体を覚ましていく。
あー整うー……。
一ヶ月の特訓のお陰で、私の体術は飛躍的に向上した。
未だにキャスパリーグには勝てないけど、上昇したステータス値を無駄なく扱える程度には強くなった。
だけどまだ足りないよね、私の目標はこの森の皆を守る事なんだから、キャスパリーグよりも強くないと……。
そう決心を固め直すと、私は湖から上がった。
よし、それじゃあ次は……。
「第一界風魔法、ウインド」
そう私が唱えると、どこからともなく風が私の身体を吹き付け始める。
これは風魔法で、キャスパリーグから教わったものだ。
魔法は自身のMPを消費して使用することができ、多種多様な魔法がある。
魔法には第一界魔法から第十界魔法まであり、数字が大きくなるほど、より高位の魔法になる。
効果の高さはもちろん、その難しさも飛躍的に上がる。
今私が使えるのは第一界風魔法だけである。
風魔法の練習も予て、水浴びのあとに身体を乾かす時に使っている。
現代日本人だった私としては、水浴びのあとにドライヤー代わりになるものがあるのはありがたい。
十分に乾かし終わり、私の髪が本来のキューティクルを取り戻す頃。
「ご主人ご主人!準備できたよ!」
物凄い勢いでマグちゃんが突っ込んできて、私と一緒に湖に落ちた。
ゴボボボ!溺れる溺れる!
ボロボロの身体を必死に動かし、私は岸に上がった。火事場の馬鹿力ってすごい。
少し遅れてマグちゃんも岸に上がり、シュンとした顔で私を見つめる。
「ご主人ごめんね……」
もー、せっかく乾かしたのに……。
まぁカワイイから良いけどさ!
マグちゃんは人殺したんかってくらい落ち込んでいる。
よし、ここは私が和ませないと……!
「カワイイから良し!」
某現場猫のポーズで放たれた私の渾身のギャグは、マグちゃんの困惑顔に一蹴された。
これが人見知りの限界か……。
「……じゃあ早速出発しようか!」
人生通して友達ゼロの私には土台無理だったんだ。うん、忘れよう。
「うん、散歩行こ!」
強引な話題変更だったけど、マグちゃんにはバレてないみたいだね。
おバカでかわいいなぁ……。
よし、マグちゃんがさっきのことを思い出す前に出発してしまおう。
私はマグちゃんの背に飛び乗った。
「行くぞマグちゃん!」
「おー!」
マグちゃんのカワイイ雄叫びと共に、私たちは凄まじい速度で出発した。
今日は週に一度の散歩の日だ。
といっても、先週から始めたから第二回なんだけどね。
外の世界が大好きなマグちゃんのリフレッシュもかねてのお散歩……
というのは建前で、本当の目的はこの森にとって害がありそうな存在を把握するためだ。
あの男たちの襲撃で、私は痛感したのだ。私がいかにこの世界のことを知らないかを。
森を襲ってきたあいつらが住む集落か国があるはずだし、人以外にもこの森には時折、別の生息地から迷いこんだ魔物が来ることもある。
それらの敵がどこにいて、どのようにこの森に来ているかを、私は一つも知らなかったのだ。
その索敵のために、私はマグちゃんをつれて外を走り回っているのだ。
本当はマグちゃんを巻き込みたくはなかったんだけど、森の外を散策したいってキャスパリーグに言ったら
「一人で森の外に行くのは危険だ、護衛を一匹つけよう」
って言われちゃったんだよね。
敵を探す旅だから一人で行きたかったんだけど……。
心配してくれるのは嬉しいんだけどさ。
ということでボディガード役としてマグちゃんが選ばれたわけなんだけど、そんなマグちゃんのステータスがこちら。
個体名:マグ
種族:マグナフェーリス
称号:なし
HP:7000 MP:60
力:6700 素早さ:1700
防御力:6700 魔力:49
スキル:俊敏、強靭
森の中だと私とキャスパリーグを除けば一番高いステータス値叩き出しちゃってるんだよね。
スキルの【強靭】て言うやつは自身への攻撃に対する耐性と自分の攻撃にバフを載せるスキル。
ステータスの割り振りといい、マグちゃんは見た目通りの脳筋ちゃんなんだなぁ、カワイイ。
そんなマグちゃんに載せてもらうことで、散策は私が思ってた以上に広い範囲で行えている。
第一回目の散策では、魔物の住む森を二つと沼地を一つ見つけることができた。
前にマタタビの森に来た魔物の姿もあったし、この森に来る魔物たちはあそこから来てたっぽいね。
そして今日の目的は、人の住む土地を見つけること。
もっと言うと、近くにある国を見つけ出すことだ。
あの時森を襲った男達は森の皆をペットとして売り捌くことを目的としていた。
ペットを飼うような文化レベルとなると、小さな集落とかじゃなくてそれなりの大国があるはずだ。
しかもキャスパリーグが男達を逃がした時、近くに乗り物の姿は無かった。
てことは男達は徒歩圏内にある国から来たと言うこと。
その国を知ることは、森の皆を守ることに繋がるはずだ。
敵を知り、己を知ればなんとやらってね。
そして今私は、前の散策で発見した舗装された道をマグちゃんにのって走っている。
それにしても、私ってば最初にマグちゃんに乗った時は風圧に負けて逆海老してたのに、今じゃ武豊選手ばりの安定感だよ。
成長したなぁ。
まぁ風圧で歯茎がむき出しになるのはご愛嬌だけど……。
口内の乾燥に耐えながら走っていくと、体感十五分ほどで目的のものが姿を表した。
「……デッッッカ!」
端が見えない程の城壁に囲まれてて、まさしく城塞都市って感じ。
遠くから見てもその壁の強固さが分かるし、城門に群がる人の多さから国の豊かさも伺える。
「人だ!人がイッパイいるよ!」
マグちゃんが子供みたいにキラキラした声をあげる。
「そうだねぇ、いっぱいだねぇ」
マグちゃんのカワイさを堪能しながら、私は頭を悩ませていた。
どうしよう、本当は中に入って中の様子を見てみたいけど、マグちゃんは一応魔物だから入れないかも……。
「キャアァァァァ!!」
かな切り声がして私の悩みは霧散した。
今の悲鳴……人間の声?
声の主を探して辺りを見回すと、場所が開けてたこともあってすぐに見つかった。
私が通ってきたものとは別の道から、馬車が走ってきていた。
その周りには護衛の騎士達がラプトルみたいな魔物から馬車を守ろうと奮戦している。
なんだろうあの魔物、見たこと無いな。
よし、鑑定!
個体名:なし
種族:レッサーリザード
称号:なし
HP:500 MP:60
力:200 素早さ:670
防御力:180 魔力:30
スキル:なし
ふぅんレッサーリザードっていう魔物か、ステータス的にはあんまり強くなさそうだけど、護衛の人たちはかなり苦戦してるみたいだね。
「人が襲われてるよ!ご主人!」
マグちゃんが心配そうな声をあげる。
焦ってる姿もカワイイなぁ。
「そうだねぇ、でも助ける義理も無いしなぁ」
可哀想だけど、正直言って助ける理由が本当に無いんだよね。
私一人ならまだしも、今日はマグちゃんもいる。
万が一マグちゃんが怪我でもしちゃったら嫌だし。
「助けないの……?」
馬車をサクッと見殺しにしようとした私を、マグちゃんの曇り無き眼が射ぬいた。
上に乗っている私を上目使いに見るマグちゃんの視線に、私は根負けした。
「……分かった助けよう、でもマグちゃん怪我だけはしないでね、安全第一だよ!?」
「大丈夫、僕強いもん!じゃあお助けだー!」
そう叫ぶと、マグちゃんは私の返事も聞かずに駆け出した。
人間を助けるなんて気が進まないけど、いっちょやってやりますか!
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