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北城市地区予選 準備編
第41走 意外と喋る
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靴下を買い終えた結城は、暗い表情で隼人の所へ向かう。
そんな隼人はというと、木村との会話を終え、本来の目的だったテーピングを手に取っていた。
それはチタン成分が入った薄い茶色のテーピングだ。
チタンを特殊な加工で配合するそのテープは、血行の促進や疲労物質の軽減などが期待されており、近年ではケガをした場合に使用する選手が増えている。
「……ケガか?」
そんな様子を見た木村が隼人に問いかける。
それに対し隼人は、木村には気付かれない”作り笑い”で答えた。
「まあ、ちょっとだけな!内転筋の古傷がここにきて痛み始めたんだよ。でも残念ながら俺は全力で走れるし、今年こそ木村に勝つよ」
そう言い切った隼人の目は、打倒木村に燃えている。
「簡単に負けるわけにはいかない。俺にも期待してくれている人はいるからな。だが陸上にケガは付き物だ、よかったら俺が腰の治療で通っている整体を教えようか?そこの先生は陸上に関してはかなりの知識量だから安心だ」
「……お前が言うなら間違いないんだろうな。じゃあ、後でLINEに送ってくれるか。市予選の後に診てもらってもいいかもしれないし」
それを聞いた木村は静かにうなずいた。
たとえライバルといえど、トップクラス同士のリスペクトがあるのだ。
情報を教える事に一切の迷いはなかった。
————————
しばらくして隼人は、不安そうな表情を浮かべる結城にとうとう気付いた。
「ああごめん早馬!ほったらかしにしちゃって。俺は大ケガじゃないし大丈夫だから。昔から内転筋だけ痛めやすいんだよ。ケガには敏感だろうし、変に心配させたならゴメンな」
そう言って隼人はいつもの明るい笑みを浮かべていた。
だがそれを聞いていた木村は、突然結城に話しかける。
「早馬もケガをしているのか?」
「あ、いえ……。なんというか、中2の時の肉離れの後遺症みたいなのが残ってて……」
木村は決して怒っている訳ではないにも関わらず、結城は内から滲み出る威圧感に押され、普通の会話さえ緊張している様子だ。
「そうか。なら佐々木に教える整体に行ってみてもいいかもな。俺も高1の時に軽い肉離れをしたが、そこの先生のおかげで早く回復できたからな」
「そうなんですね。前向きに検討してみます。ありがとうございます!」
結城は普段使わないような言い回しと共にお礼を述べる。
だがあくまでケガというよりは”心の問題”であるという事は言わなかった。
もちろん隼人も、そこで真実を言う事などはしない。
結城本人が言わないなら言う必要がないと、そう判断したのだ。
「俺は早馬の事は雑誌やインターネットで知っていたからな。今は苦しいかもしれないが、諦めずに続ければ必ず何かが見えてくる。リハビリはつらいだろうが、頑張れよ」
そして木村は(おそらく)笑顔で結城にエールを送る。
結城も、同じ高校生なのに遥か年上の人間に励まされたような、そんな不思議な感覚になっていた。
「そういえば、今年ウチにも期待の1年が入ってきたんだ。3年になる頃には今の俺に勝ってもおかしくない程の選手だ。君とウチのが全国で争うのを楽しみにしている」
「山足実業はスポーツ推薦だもんな?毎年強くて羨ましいよ。ちなみにその1年の名前は?」
横から隼人が質問をする。
どうやら木村と結城の会話中にテーピングを買い終えていたようだ。
すると木村も、嘘偽りなく答える。
「ニコだ」
「……え?ん?」
「ニコだ」
「いや、それは聞こえてるけど……」
相変わらず木村は真顔で答えている。
どうやら”何故2人に伝わっていない”のか、本人は気づいていないようだった。
「ニコって、ニックネームか何かか?」
「……ああ、そうかスマナイ。春山ニコラス慧。日本とアメリカのハーフだが、育ちはずっと日本だ。佐々木の言う通り”ニコ”はニックネームだった」
「いや、いきなりニックネームだけ言うヤツがいるか!?それは分かんないって、ハハハハ!ていうか陸上大国のアメリカとのハーフとかチートじゃん、早馬ドンマイ!!」
そう言って隼人は、悲壮感漂う結城の肩に優しく手を置くのだった。
————————
3人はそれぞれ目的のモノを購入し、店を後にする。
木村は兄弟へのお土産を買うために、駅とは反対方向に行くようだ。
「じゃあ県大会で会おう」
相変わらずの低い声で、木村は2人に別れを告げる。
「お前も気を抜いて市予選でフライングするなよ。じゃあな」
「お互い様だな」
互いを認め合う2人は、そう言い残しHOPを後にする。
そして結城は、靴下に加えて木村におススメしてもらったプロテインを持ちながら、隼人と駅へ戻って行くのだった。
————————
そんな隼人はというと、木村との会話を終え、本来の目的だったテーピングを手に取っていた。
それはチタン成分が入った薄い茶色のテーピングだ。
チタンを特殊な加工で配合するそのテープは、血行の促進や疲労物質の軽減などが期待されており、近年ではケガをした場合に使用する選手が増えている。
「……ケガか?」
そんな様子を見た木村が隼人に問いかける。
それに対し隼人は、木村には気付かれない”作り笑い”で答えた。
「まあ、ちょっとだけな!内転筋の古傷がここにきて痛み始めたんだよ。でも残念ながら俺は全力で走れるし、今年こそ木村に勝つよ」
そう言い切った隼人の目は、打倒木村に燃えている。
「簡単に負けるわけにはいかない。俺にも期待してくれている人はいるからな。だが陸上にケガは付き物だ、よかったら俺が腰の治療で通っている整体を教えようか?そこの先生は陸上に関してはかなりの知識量だから安心だ」
「……お前が言うなら間違いないんだろうな。じゃあ、後でLINEに送ってくれるか。市予選の後に診てもらってもいいかもしれないし」
それを聞いた木村は静かにうなずいた。
たとえライバルといえど、トップクラス同士のリスペクトがあるのだ。
情報を教える事に一切の迷いはなかった。
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しばらくして隼人は、不安そうな表情を浮かべる結城にとうとう気付いた。
「ああごめん早馬!ほったらかしにしちゃって。俺は大ケガじゃないし大丈夫だから。昔から内転筋だけ痛めやすいんだよ。ケガには敏感だろうし、変に心配させたならゴメンな」
そう言って隼人はいつもの明るい笑みを浮かべていた。
だがそれを聞いていた木村は、突然結城に話しかける。
「早馬もケガをしているのか?」
「あ、いえ……。なんというか、中2の時の肉離れの後遺症みたいなのが残ってて……」
木村は決して怒っている訳ではないにも関わらず、結城は内から滲み出る威圧感に押され、普通の会話さえ緊張している様子だ。
「そうか。なら佐々木に教える整体に行ってみてもいいかもな。俺も高1の時に軽い肉離れをしたが、そこの先生のおかげで早く回復できたからな」
「そうなんですね。前向きに検討してみます。ありがとうございます!」
結城は普段使わないような言い回しと共にお礼を述べる。
だがあくまでケガというよりは”心の問題”であるという事は言わなかった。
もちろん隼人も、そこで真実を言う事などはしない。
結城本人が言わないなら言う必要がないと、そう判断したのだ。
「俺は早馬の事は雑誌やインターネットで知っていたからな。今は苦しいかもしれないが、諦めずに続ければ必ず何かが見えてくる。リハビリはつらいだろうが、頑張れよ」
そして木村は(おそらく)笑顔で結城にエールを送る。
結城も、同じ高校生なのに遥か年上の人間に励まされたような、そんな不思議な感覚になっていた。
「そういえば、今年ウチにも期待の1年が入ってきたんだ。3年になる頃には今の俺に勝ってもおかしくない程の選手だ。君とウチのが全国で争うのを楽しみにしている」
「山足実業はスポーツ推薦だもんな?毎年強くて羨ましいよ。ちなみにその1年の名前は?」
横から隼人が質問をする。
どうやら木村と結城の会話中にテーピングを買い終えていたようだ。
すると木村も、嘘偽りなく答える。
「ニコだ」
「……え?ん?」
「ニコだ」
「いや、それは聞こえてるけど……」
相変わらず木村は真顔で答えている。
どうやら”何故2人に伝わっていない”のか、本人は気づいていないようだった。
「ニコって、ニックネームか何かか?」
「……ああ、そうかスマナイ。春山ニコラス慧。日本とアメリカのハーフだが、育ちはずっと日本だ。佐々木の言う通り”ニコ”はニックネームだった」
「いや、いきなりニックネームだけ言うヤツがいるか!?それは分かんないって、ハハハハ!ていうか陸上大国のアメリカとのハーフとかチートじゃん、早馬ドンマイ!!」
そう言って隼人は、悲壮感漂う結城の肩に優しく手を置くのだった。
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3人はそれぞれ目的のモノを購入し、店を後にする。
木村は兄弟へのお土産を買うために、駅とは反対方向に行くようだ。
「じゃあ県大会で会おう」
相変わらずの低い声で、木村は2人に別れを告げる。
「お前も気を抜いて市予選でフライングするなよ。じゃあな」
「お互い様だな」
互いを認め合う2人は、そう言い残しHOPを後にする。
そして結城は、靴下に加えて木村におススメしてもらったプロテインを持ちながら、隼人と駅へ戻って行くのだった。
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