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本編

第1ー2話 見た事のない幼い勇者②

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 あぁ、もうダメだわ。

 全てが終わった。

 私が持ちうる全ての技を魔王に食らわせたけど、結局倒す事はできなかった・・・。




「えっとー、大丈夫?息整うまでイス貸そうか?」

「うる・・・さい・・・」



 もう魔王にまで気をつかわれるなんて、死んだ方がマシだわ。

 いや、というか今から殺されるわよね。

 魔王に剣を向け、攻撃を散々食らわせた訳だし。


 もうヒザをついた地面から動く体力は残って無いわ・・・。




「ごめん・・・パパ・・・ママ・・・!」




 私は目を閉じる。

 もういつでも殺しなさい、魔王。

 これ以上私が恥をかかないためにもね。




 ・・・・・・・?




 あれ?



 何も起こらない?

 ちょっとだけ、ちょっとだけ薄目開けてみる?ワンチャン夢かもしれないし。

 いや、でも目開けた瞬間に殺されるのも怖すぎるしなぁ。

 あ、ヤバ。手震えてきた。




「大丈夫?手も震えてるじゃないか!
ちょっとショヒー。この子にあったかいココアでも出してあげてくれるかい?」

「承知しました」





 うん?今なんかココアがうんたらかんたら言ってた?

 さっき扉の前にいた手下のスーツ着た女にそう言ったの?
 

 魔王が?自分を殺そうとした私に?ココアを?出すってか?





「いやどういう事!!??」

「おぉ?急にいいツッコミする幼女」

「その・・・幼女って呼び方やめろ・・・。
私は気高い・・・勇者なんだか・・・・ら」




 あ、やばい。体力が尽きた

 しょうもないツッコミで体力尽きたわー。

 とうとう地面に倒れ込んじゃった・・・・情けなさすぎる。

 


「ちょっとショヒー!!??
幼女倒れたんだけど!!
ココアより先に、なんか回復薬とか持ってきた方がいいかもしれないよ!!」

「いや、魔王様は回復魔法使えるじゃないですか」

「あ、確かに」





 あれ、なんだか背中が温かい。

 薄れゆく意識の中で、何故か私はパパとママが生きていた頃の景色を思い出してた。





ーーーーーーーーーーー





「つまり、僕ら魔王軍が幼女のアイちゃんの国に侵攻して、アイちゃんのご両親を殺害したって事?」

「何度も言わせるな・・・!
お前達が私の生活を、私のパパとママを奪ったんだ!!!
あと幼女って付けるな、気持ちが悪い」




 そう、なぜか回復魔法をかけられた私は、今まさに尋問を受けている!

 魔王とその手下の二人に、私のエグめな過去を掘り返されてる真っ最中なのだ!!

 なんで親を殺した相手に、親を殺された経緯を話さないといけないのよ!!!
 この鬼!悪魔!魔王!




「うーん、何かおかしいな。
ショヒー、ここ数年で僕らが【ゲドーウン国】に侵攻した事なんてあった?」

「たった今調べていたのですが、過去30年のデータを調べても、そのような事実はありませんね」

「だろうね。そもそも僕らが国に侵攻するなんて滅多に無いし。
アイちゃん、その魔王軍はどんな姿をしてたか覚えてるかい?
辛い記憶だろうけど、大事な情報なんだ」

「姿・・・確かゲドーウン国の兵隊のヨロイを着ていたわ。
そうよ!だから魔王軍の奴らが兵隊を操って、国を滅ぼそうとしたって国王が言ってたのよ!!
悪魔なんだから、人を操る恐ろしい能力があるって!!!」





 思い出したわ、あの時の憎しみと恐怖を・・・!

 言葉の通じなくなった私の国の兵隊達が、私たちが家にいない間に色んな家を壊して回ったのよ。




「うーん。アイちゃんにとても残念なお知らせがあるんだけど、言ってもいいかい?」

「・・・なによ?」

「確かにうちの魔王軍には人間を少しだけ洗脳できる魔物はいるよ。
だけどソイツは1人ぐらいしか操る事が出来ないし、軍隊を操るなんて多分不可能なんだよね」

「つまり、何が言いたいのよ!!?」

「簡潔に言うなら、それは僕らがやった事じゃないって事だね」

「嘘だわ、そんなはずはないっ!!
国王は魔王のせいで全てが悪い方向に進んだって。
憎むべきは魔王だって・・・」




 そういえば、その時に私は魔王の姿を見ていない。

 なんなら魔物の姿も。

 本に載ってた魔王の姿も、今目の前にいる魔王とは全然違うし・・・。




「アイちゃん、少しだけ時間をくれないかい?

「は?時間って、私を殺すまでの時間・・・?」

「そんな訳ないじゃないか!hahahaha!
君の国を襲ったのが誰なのか、調べる時間だよ。
ショヒー?今日来てくれてる勇者達には何かテキトーに理由言って、帰してもらえるかな?」

「承知しました。
では魔王様が尿管結石になって、激痛で戦える状態ではないと伝えてきます」

「にょう・・・うーん・・・え?
いや・・・うーん。まぁいいやそれで。あの痛みには魔王も勝てんだろ」





 一体何の話をしているの・・・。

 いや、それよりも。
 私の育った国を襲ったのは、本当にコイツらじゃないっていうの!?

 いや、きっとワナよ、ワナに決まってるわ。
 これで私を油断させる作戦なのよ!!!




「どうして私を殺さないの!!?
私は負けたの!!だから早く・・・・
早く殺しなさい!!!」




 あぁダメ・・・また涙が・・・・

 こんなに泣いたの、産まれて初めてよ・・・




「だから殺さないって!
殺す訳ないじゃない、こんな可愛い子」

「・・・は?
一体アンタは何を言って・・・」




 そしたらショヒーって呼ばれてた女が自信満々に言いやがった。



「魔王様はロリコンなのです。
だから小さくて可愛いアイ様を大変気に入ったのだと思われます」

「ろり・・・こん?」




 聞いた事あるわ、ロリコン。

 確か前に読んだ本に書いてあった。

 確か意味は・・・少女を性的な目で見るゲス、クズ、またはそれ以下の存在。
 魔王より遥かに生きる価値の無いゴミ・・・





「あなたゴミなのね」

「待って幼女がいきなり誹謗中傷してきたんだけど」




 やばいやばいやばいやばい!!!

 魔王は私が思っているより、とんでもないゴミクズだったんだわ!!




「少女をそんな目で見るなんて、死ね!死んで燃えろ!ゴミクズ!!
そんな奴に生きる価値なんて無いわよ!!!?」

「ちょっと待ってよ、何かそういうデータあるんすか?
そもそも僕はロリコンじゃない、断じてね」




 そう言って魔王は本を持ち出した。

 そういえば私がこの部屋に入ってきた時にも、魔王はその本を持ってた気がする。




「いいかい、よく見なさい。ショヒーもよく見なさい。
僕は小さい子が好きなんじゃない。小さいモノが好きなだけです。
この”ち○かわ”の第1巻を、表紙が破れるほどに読み返しているほどにね!!」





 パパ、ママ。

 どうやら私は、とんでもない化け物に捕まったみたいです。
 



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