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第三章:結婚生活の始まり
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籍を入れてから、二人の生活に大きな変化はなかった。変わったのは、互いを呼ぶ名前だけだった。「健太さん」から「健太」、「和子さん」から「和子」へ。そして、法律上、家族になったという事実が、和子の心に静かな安心感をもたらした。
健太は建築関係の仕事に就いており、時には現場で朝早くから夜遅くまで働く日もあった。どんなに疲れて帰宅しても、彼は決して不機嫌な態度を見せなかった。玄関で靴を脱ぎながら「ただいま」、そして和子が迎えに来ると「今日も一日お疲れ様」と抱きしめ合う——それが二人の日課になった。
和子は専業主婦としての経験を活かし、健太を精一杯支えた。栄養バランスを考えた食事、きちんとアイロンがかけられたシャツ、いつも清潔に保たれた小さな部屋。還暦を過ぎてからの新たな役割に、彼女は喜びを見出していた。
週に二、三度は、健太の方から求めてきた。六十を過ぎた和子の体は、若い頃のように敏感ではなかったが、健太の優しい愛撫と忍耐強いリードで、次第に眠っていた感覚が目覚めていった。彼は決して急かさず、和子のペースを尊重し、彼女が完全にリラックスするのを待ってから結ばれた。営みの後、彼が「気持ちよかったよ」と囁きながら、和子の白髪交じりの髪を撫でる時、彼女はこの上ない幸福感に包まれた。
休日、二人で街を歩くことがあった。公園のベンチでぼんやりとしていると、若い夫婦が乳母車を押しながら楽しそうに会話をしている姿が目に入った。和子は思わず、その光景をじっと見つめてしまった。
——子供がいたら、どんなだっただろう。
その瞬間、そっと手が握り返された。振り向くと、健太が優しい眼差しを向けていた。何も言わない。ただ、そっと手を握り、微笑んでいる。その無言のフォローに、和子は胸が熱くなった。彼はいつも、彼女の心の動きを敏感に感じ取るのだ。
「ありがとう」
和子も言葉にせず、その手を少し強く握り返した。
以前なら、そんな場面を見るたびに「男性が高齢で女性が若い場合には子供を作る可能性もあるが、私の場合は…」と悩み、暗い気持ちになっていただろう。今でも、全く気にならないわけではなかった。だが、健太との日々が充実しているせいか、その思いは次第に薄れていった。子供がいなくても、この小さな家庭には満ち足りた愛情が溢れていた。
ある夜、布団の中で和子がふと口にした。
「健太、私…子供を産めなくてごめんね」
健太は少し驚いたような表情を見せた後、和子をぎゅっと抱きしめた。
「ばかなこと言わないで。僕は和子が欲しいんだ。子供が欲しいわけじゃない。和子だけで十分幸せだよ」
「でも…健太の遺伝子を残せないなんて…」
「そんなことより」
彼は和子の耳元で囁いた。
「今、ここにいる和子の温もりが、僕には何よりも大切なんだ」
彼の言葉に、和子の目からまた涙がこぼれた。どうしてこの人は、ここまで自分を愛してくれるのだろう。感謝と愛情で胸がいっぱいになり、彼女は健太の胸に顔を埋めた。
「私も…健太がいてくれて、本当に幸せよ」
健太は建築関係の仕事に就いており、時には現場で朝早くから夜遅くまで働く日もあった。どんなに疲れて帰宅しても、彼は決して不機嫌な態度を見せなかった。玄関で靴を脱ぎながら「ただいま」、そして和子が迎えに来ると「今日も一日お疲れ様」と抱きしめ合う——それが二人の日課になった。
和子は専業主婦としての経験を活かし、健太を精一杯支えた。栄養バランスを考えた食事、きちんとアイロンがかけられたシャツ、いつも清潔に保たれた小さな部屋。還暦を過ぎてからの新たな役割に、彼女は喜びを見出していた。
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休日、二人で街を歩くことがあった。公園のベンチでぼんやりとしていると、若い夫婦が乳母車を押しながら楽しそうに会話をしている姿が目に入った。和子は思わず、その光景をじっと見つめてしまった。
——子供がいたら、どんなだっただろう。
その瞬間、そっと手が握り返された。振り向くと、健太が優しい眼差しを向けていた。何も言わない。ただ、そっと手を握り、微笑んでいる。その無言のフォローに、和子は胸が熱くなった。彼はいつも、彼女の心の動きを敏感に感じ取るのだ。
「ありがとう」
和子も言葉にせず、その手を少し強く握り返した。
以前なら、そんな場面を見るたびに「男性が高齢で女性が若い場合には子供を作る可能性もあるが、私の場合は…」と悩み、暗い気持ちになっていただろう。今でも、全く気にならないわけではなかった。だが、健太との日々が充実しているせいか、その思いは次第に薄れていった。子供がいなくても、この小さな家庭には満ち足りた愛情が溢れていた。
ある夜、布団の中で和子がふと口にした。
「健太、私…子供を産めなくてごめんね」
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「ばかなこと言わないで。僕は和子が欲しいんだ。子供が欲しいわけじゃない。和子だけで十分幸せだよ」
「でも…健太の遺伝子を残せないなんて…」
「そんなことより」
彼は和子の耳元で囁いた。
「今、ここにいる和子の温もりが、僕には何よりも大切なんだ」
彼の言葉に、和子の目からまた涙がこぼれた。どうしてこの人は、ここまで自分を愛してくれるのだろう。感謝と愛情で胸がいっぱいになり、彼女は健太の胸に顔を埋めた。
「私も…健太がいてくれて、本当に幸せよ」
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