還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase

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第四章:世間の目

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二人は特にSNSをやっているわけではなかった。健太がFacebookアカウントを持っている程度で、和子はスマホでLINEとニュースを見る程度だった。それでも、どこからか二人の関係が知れ渡ったらしい。

ある日、自宅の固定電話に見知らぬ番号から着信があった。テレビ局のディレクターを名乗る人物からで、長年続く老舗の新婚番組「愛のスタートライン」への出演オファーだった。

「ご夫妻のエピソードを伺い、ぜひ番組で紹介させていただきたいと思いまして…」

和子は戸惑った。世間に自分たちの関係をさらけ出すことになる。好奇の目で見られるかもしれない。批判されるかもしれない。彼女は丁寧にお断りしようと考えた。

しかし、健太の反応は違った。

「出演してみない?」  
その夜、彼は真剣な顔で言った。  
「隠して暮らす必要はないと思うんだ。僕たちの関係は、恥ずかしいことじゃない。誇れることだと思ってる」

「でも…変な目で見られるかもしれないわよ。健太に悪影響が出るかもしれない」

「大丈夫。むしろ、同じように年齢差で悩んでいるカップルや夫婦がいるかもしれないじゃないか。僕たちの姿が、少しでも勇気を与えられるなら、それは意味のあることだと思う」

健太の前向きな姿勢に、和子も考えを改めた。確かに、世間の目を気にして生きるのは疲れる。それに、彼の言う通り、自分たちの経験が誰かの役に立つなら——。

数日悩んだ末、和子は承諾した。

収録日、スタジオは想像以上に明るく、多くのスタッフが忙しそうに動き回っていた。司会のベテランアナウンサーが二人を温かく迎え入れ、リハーサルから本番まで、細やかな気配りを見せてくれた。

本番中、和子は最初緊張で声が震えたが、健太がそっと彼女の手を握ると、不思議と落ち着いた。出会いから現在までのエピソードを、多少オブラートに包みながら語った。資格更新講習での出会い、雨の日の傘、LINEでのやり取り、そしてプロポーズ——。

「年齢差については、どのようにお考えですか?」  
アナウンサーが優しく尋ねた。

健太が先に答えた。  
「数字だけ見れば確かに大きな差があります。でも、実際に一緒に暮らしてみると、年齢なんてほとんど意識しなくなります。和子はいつも新鮮な発想を持っていて、僕の方が教えられることのほうが多いくらいです」

和子が続けた。  
「最初は私も、周りの目が気になりました。でも、健太が『僕たちの人生だから』と言ってくれて…今では、この年齢差も私たちの個性の一部だと思えるようになりました」

アナウンサーが感心したようにうなずいた。  
「お二人の、お互いを尊重し合う姿勢が伝わってきます」

番組は一週間後に放送された。反響は想像以上だった。放送直後から、番組の公式サイトには多くのコメントが寄せられ、SNSでは番組の切り抜き動画が拡散され始めた。

「あの年齢で新しい恋愛を始めるなんて勇気がある」
「男性の真摯な態度に感動した」
「年齢差なんて愛があれば関係ない」

応援の声が多数を占めていた。しかし、当然ながら批判的な意見もあった。

「明らかに男が目当てだろ」
「老女に釣られて可哀想」
「数年したら絶対後悔する」

炎上と呼べるほどの批判も確かにあった。和子は最初、それらの言葉に傷つき、何日も落ち込んだ。健太に申し訳ないという気持ちでいっぱいになった。

「ごめんね、健太。私のせいで、あなたまで批判されて…」

「気にするなよ」  
健太は平然としていた。むしろ、心配そうに和子の様子をうかがう。  
「ネットの匿名の意見にいちいち振り回されていたらきりがない。大切なのは、僕たちが幸せかどうかだよ」

そして、励ましの声も確かに届いていた。番組の放送後、何通ものメールや手紙がテレビ局経由で二人の元に届いた。

「私も25歳年上の夫と結婚しています。周りの反対を押し切って籍を入れましたが、お二人の姿を見て、もう一度自分の選択に自信が持てました」
「母が60歳で離婚し、今恋愛をしています。なかなか理解できませんでしたが、番組を見て、母の気持ちが少しわかった気がします」

特に、同じような年齢差のカップルや夫婦からのメッセージが多かった。彼らは社会の理解を得られず、孤独に悩んでいることが少なくなかった。そんな中、テレビで公然と幸せそうな二人の姿を見て、勇気づけられたというのだ。

「出演してよかったね」  
ある夜、和子が健太に言った。  
「私たちの経験が、誰かの力になれたなら」

「そうだね」  
健太は微笑みながら、和子の肩を抱き寄せた。  
「でも何より、僕自身が、和子と堂々と一緒にいていいんだって思えるようになった。これからも、隠すことなく、自然に生きていこう」

和子はうなずいた。彼女もまた、世間の目を必要以上に恐れる必要はないと悟ったのだった。健太の配慮深さと、和子の謙虚さ——その絶妙なバランスが、二人の関係をより強固なものにしていた。

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