17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase

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第9話:偽りの境界線と、密やかな幸福

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美咲に真実を打ち明けてから、加恋の心には奇妙な「共犯意識」に似た安堵が生まれていた。美咲は旅行会社での人脈を駆使し、悟へのカモフラージュとして「女友達との温泉旅行」や「休日ランチ」のアリバイ作りを、小言を言いながらも手伝ってくれるようになった。
​「いい? 私は加恋が心配なだけなんだから。あの子の未来も、あなたの平穏も守るための嘘よ」
​そう釘を刺しながらも、美咲は加恋に協力した。そのおかげで、二人の密会は、日常の隙間を縫うようにして、より大胆に、そして鮮やかに彩られていった。
​秋、晴人の通う高校で学園祭が開催された。
「どうしても、学校での僕を見てほしいんです」
晴人の懇願に、加恋は美咲を誘って潜入することを決めた。32歳の加恋が一人で高校を歩くのは不自然だが、美咲と二人で「卒業生」のような顔をして歩けば、人混みに紛れることができる。
​校門をくぐると、そこには自分の日常とはかけ離れた、若さと熱気が渦巻いていた。
模擬店の呼び込みや、校舎の窓から流れる軽音楽。
人混みの中で、クラスのTシャツを着て忙しそうに動く晴人の姿を見つけた。
​「……眩しいわね」
美咲が隣でぽつりと呟く。
​加恋は、制服姿の晴人に目を奪われた。いつも大人びて振る舞う彼が、同年代の友人と笑い合っている姿は、残酷なほどに輝いていた。
廊下ですれ違う瞬間、加恋は自分の小指を、すれ違いざまに彼の小指と一瞬だけ絡めた。
晴人が一瞬、驚いたように目を見開き、すぐに愛おしそうに瞳を細める。
展示物の影、誰の視線も届かない死角で、二人は一瞬だけ深い目線を交わした。
(私、本当にこの子のことが……)
誰にも気づかれない、たった一秒の愛のジェスチャー。それが、どんな高価な宝石をもらうよりも、加恋の心を大きな幸福で満たした。
​後日、文化祭の演劇に晴人が端役で出演するというので、加恋は再び足を運んだ。今度はマスクと帽子で完全に顔を隠し、客席の一番後ろ、暗がりに身を潜めた。
舞台の上で、スポットライトを浴びる彼。たった一言のセリフであっても、加恋にとっては世界で一番美しい詩を聴いているようだった。拍手に包まれる彼を見つめながら、加恋の胸は熱くなり、涙が頬を伝った。
​二人の冒険は、それだけでは終わらなかった。
ある日、晴人が「これを着てみてほしい」と、袋に入ったものを持ってきた。中には、晴人の姉が高校時代に使っていたという古い制服が入っていた。
​「……無理よ、さすがに」
「お願いします。僕だけが知っている、加恋さんを見たいんです」
​ホテルの部屋で着替えてみると、少し肩のあたりがきつかったが、鏡の中には「女子高生」の格好をした自分がいた。恥ずかしさに顔を赤らめる加恋に、晴人は「世界一可愛い」と熱を帯びた声で囁いた。
その日、二人は無理を承知でディズニーランドへ向かった。
制服姿の二人は、パーク内ではどこにでもいる「歳の差カップル」あるいは「高校生カップル」に見えた。悟には「美咲とディズニーに行ってくる」と伝えてある。
ハラハラと胸を高鳴らせながら、魔法の国を歩く。
シンデレラ城の前で撮った写真は、加恋にとって生涯忘れられない、最も美しい「嘘」の記録になった。
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