友達親子の親密の境界線

MisakiNonagase

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第四章:結婚後の新たな均衡

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大樹の結婚から半年が経った。

新居は団地から車で二十分ほどのマンションだった。優子は銀行員として順調にキャリアを積み、大樹も市役所で昇進した。外から見れば、完璧な若夫婦だった。

「今日、優子は実家に泊まるって」

大樹のメッセージが冬美のスマホに届いたのは、金曜日の午後だった。

「わかった。何時ごろ来る?」

「19時ごろ。晩ごはん買っていくよ」

冬美はメッセージを読んで、複雑な気持ちになった。嬉しさと罪悪感が入り混じる。大樹が結婚してから、これは三回目の「密会」になる。彼らは極めて慎重に、絶対にバレないように計画を立てていた。

夜7時、大樹が団地のドアを開けた。手には寿司の折詰めとビールが提げられていた。

「ただいま」

「おかえり」

何気ない挨拶の後、二人は少し気まずい沈黙に包まれた。結婚後初めての再会の時と同じだ。いくら「セフレ」関係とはいえ、相手は自分の息子であり、今は他人の夫だ。その現実が、以前よりも強く意識される。

「優子は元気?」

「うん、仕事は忙しいけど、順調みたい。母さんは?」

「相変わらずよ。職場の翔太くん、実はゲイだったの。カミングアウトされたわ」

「やっぱりな」

二人は笑い、少しずつ緊張が解けていった。食事をしながら、近況を報告し合う。まるで、本当の親子のように。いや、親子以上に何でも話せる関係のように。

「でもさ、やっぱりこれってまずいよね」

ビールを一口飲みながら、冬美が言った。

「何が?」

「私たちの関係。大樹は結婚したんだよ?これって立派な不倫だよ」

大樹は箸を置き、真剣な表情で母を見た。

「確かに、社会的には不倫だ。でも母さん、俺たちの関係は普通の不倫とは違う。恋愛感情はない。ただの…親密な肉体関係だ」

「それでも、優子ちゃんからしたら裏切りだよ?」

「だからバレないようにしてる。それに…」

大樹は言葉を選んだ。

「この関係があるからこそ、俺はストレスを溜めずにいられる。結婚生活って、思ってた以上に大変なんだ。お互いの習慣の違い、金銭感覚の違い、将来の計画…全部すり合わせていかないといけない。そんな時、母さんにだけは弱音を吐ける」

「それは…私も同じよ」

冬美は俯きながら言った。

「大樹が結婚してから、寂しくて。でも普通の母親だったら、息子の結婚を寂しがるなんてわがままだって我慢するでしょ?私は大樹に会えるから、その寂しさを紛らわせられる」

「そうだろ?だからこれは、お互いにとって必要な関係なんだ」

その夜、彼らは久しぶりに肉体を重ねた。以前とは違う、どこか切ない雰囲気があった。終わった後、冬美は大樹の胸に頭を預けながら呟いた。

「なんだかんだ、いろんな男とやってるけど、大樹が一番相性いいかも。」

「あっ俺も。母さんとのフィット感は、理屈じゃ語れないな。」

「でもね、こんなことは、いつまで続けられるんだろう」

「わからない。でも、続けられる限り続けよう。お互いに必要だと思う限り」

「もし私にガチで長く真剣に付き合う人ができたら?」

大樹は一瞬黙り込んだ。

「そしたら…終わりにすればいい。母さんが幸せになるなら」

「大樹も同じだよ?もしこの関係が夫婦生活に支障をきたすようになったら、すぐに言ってね」

「約束する」

彼らはお互いを深く傷つけないためのルールを守りながら、この危険な関係を続けていた。それは健全とは言い難いが、少なくとも現在のところ、誰も傷ついていなかった。

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