4 / 6
第四章:結婚後の新たな均衡
しおりを挟む
大樹の結婚から半年が経った。
新居は団地から車で二十分ほどのマンションだった。優子は銀行員として順調にキャリアを積み、大樹も市役所で昇進した。外から見れば、完璧な若夫婦だった。
「今日、優子は実家に泊まるって」
大樹のメッセージが冬美のスマホに届いたのは、金曜日の午後だった。
「わかった。何時ごろ来る?」
「19時ごろ。晩ごはん買っていくよ」
冬美はメッセージを読んで、複雑な気持ちになった。嬉しさと罪悪感が入り混じる。大樹が結婚してから、これは三回目の「密会」になる。彼らは極めて慎重に、絶対にバレないように計画を立てていた。
夜7時、大樹が団地のドアを開けた。手には寿司の折詰めとビールが提げられていた。
「ただいま」
「おかえり」
何気ない挨拶の後、二人は少し気まずい沈黙に包まれた。結婚後初めての再会の時と同じだ。いくら「セフレ」関係とはいえ、相手は自分の息子であり、今は他人の夫だ。その現実が、以前よりも強く意識される。
「優子は元気?」
「うん、仕事は忙しいけど、順調みたい。母さんは?」
「相変わらずよ。職場の翔太くん、実はゲイだったの。カミングアウトされたわ」
「やっぱりな」
二人は笑い、少しずつ緊張が解けていった。食事をしながら、近況を報告し合う。まるで、本当の親子のように。いや、親子以上に何でも話せる関係のように。
「でもさ、やっぱりこれってまずいよね」
ビールを一口飲みながら、冬美が言った。
「何が?」
「私たちの関係。大樹は結婚したんだよ?これって立派な不倫だよ」
大樹は箸を置き、真剣な表情で母を見た。
「確かに、社会的には不倫だ。でも母さん、俺たちの関係は普通の不倫とは違う。恋愛感情はない。ただの…親密な肉体関係だ」
「それでも、優子ちゃんからしたら裏切りだよ?」
「だからバレないようにしてる。それに…」
大樹は言葉を選んだ。
「この関係があるからこそ、俺はストレスを溜めずにいられる。結婚生活って、思ってた以上に大変なんだ。お互いの習慣の違い、金銭感覚の違い、将来の計画…全部すり合わせていかないといけない。そんな時、母さんにだけは弱音を吐ける」
「それは…私も同じよ」
冬美は俯きながら言った。
「大樹が結婚してから、寂しくて。でも普通の母親だったら、息子の結婚を寂しがるなんてわがままだって我慢するでしょ?私は大樹に会えるから、その寂しさを紛らわせられる」
「そうだろ?だからこれは、お互いにとって必要な関係なんだ」
その夜、彼らは久しぶりに肉体を重ねた。以前とは違う、どこか切ない雰囲気があった。終わった後、冬美は大樹の胸に頭を預けながら呟いた。
「なんだかんだ、いろんな男とやってるけど、大樹が一番相性いいかも。」
「あっ俺も。母さんとのフィット感は、理屈じゃ語れないな。」
「でもね、こんなことは、いつまで続けられるんだろう」
「わからない。でも、続けられる限り続けよう。お互いに必要だと思う限り」
「もし私にガチで長く真剣に付き合う人ができたら?」
大樹は一瞬黙り込んだ。
「そしたら…終わりにすればいい。母さんが幸せになるなら」
「大樹も同じだよ?もしこの関係が夫婦生活に支障をきたすようになったら、すぐに言ってね」
「約束する」
彼らはお互いを深く傷つけないためのルールを守りながら、この危険な関係を続けていた。それは健全とは言い難いが、少なくとも現在のところ、誰も傷ついていなかった。
新居は団地から車で二十分ほどのマンションだった。優子は銀行員として順調にキャリアを積み、大樹も市役所で昇進した。外から見れば、完璧な若夫婦だった。
「今日、優子は実家に泊まるって」
大樹のメッセージが冬美のスマホに届いたのは、金曜日の午後だった。
「わかった。何時ごろ来る?」
「19時ごろ。晩ごはん買っていくよ」
冬美はメッセージを読んで、複雑な気持ちになった。嬉しさと罪悪感が入り混じる。大樹が結婚してから、これは三回目の「密会」になる。彼らは極めて慎重に、絶対にバレないように計画を立てていた。
夜7時、大樹が団地のドアを開けた。手には寿司の折詰めとビールが提げられていた。
「ただいま」
「おかえり」
何気ない挨拶の後、二人は少し気まずい沈黙に包まれた。結婚後初めての再会の時と同じだ。いくら「セフレ」関係とはいえ、相手は自分の息子であり、今は他人の夫だ。その現実が、以前よりも強く意識される。
「優子は元気?」
「うん、仕事は忙しいけど、順調みたい。母さんは?」
「相変わらずよ。職場の翔太くん、実はゲイだったの。カミングアウトされたわ」
「やっぱりな」
二人は笑い、少しずつ緊張が解けていった。食事をしながら、近況を報告し合う。まるで、本当の親子のように。いや、親子以上に何でも話せる関係のように。
「でもさ、やっぱりこれってまずいよね」
ビールを一口飲みながら、冬美が言った。
「何が?」
「私たちの関係。大樹は結婚したんだよ?これって立派な不倫だよ」
大樹は箸を置き、真剣な表情で母を見た。
「確かに、社会的には不倫だ。でも母さん、俺たちの関係は普通の不倫とは違う。恋愛感情はない。ただの…親密な肉体関係だ」
「それでも、優子ちゃんからしたら裏切りだよ?」
「だからバレないようにしてる。それに…」
大樹は言葉を選んだ。
「この関係があるからこそ、俺はストレスを溜めずにいられる。結婚生活って、思ってた以上に大変なんだ。お互いの習慣の違い、金銭感覚の違い、将来の計画…全部すり合わせていかないといけない。そんな時、母さんにだけは弱音を吐ける」
「それは…私も同じよ」
冬美は俯きながら言った。
「大樹が結婚してから、寂しくて。でも普通の母親だったら、息子の結婚を寂しがるなんてわがままだって我慢するでしょ?私は大樹に会えるから、その寂しさを紛らわせられる」
「そうだろ?だからこれは、お互いにとって必要な関係なんだ」
その夜、彼らは久しぶりに肉体を重ねた。以前とは違う、どこか切ない雰囲気があった。終わった後、冬美は大樹の胸に頭を預けながら呟いた。
「なんだかんだ、いろんな男とやってるけど、大樹が一番相性いいかも。」
「あっ俺も。母さんとのフィット感は、理屈じゃ語れないな。」
「でもね、こんなことは、いつまで続けられるんだろう」
「わからない。でも、続けられる限り続けよう。お互いに必要だと思う限り」
「もし私にガチで長く真剣に付き合う人ができたら?」
大樹は一瞬黙り込んだ。
「そしたら…終わりにすればいい。母さんが幸せになるなら」
「大樹も同じだよ?もしこの関係が夫婦生活に支障をきたすようになったら、すぐに言ってね」
「約束する」
彼らはお互いを深く傷つけないためのルールを守りながら、この危険な関係を続けていた。それは健全とは言い難いが、少なくとも現在のところ、誰も傷ついていなかった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる