魔術士チームオセロの結論

琥珀

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4章 地球

#17 魔術士の家

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 地球と別世界の時間の流れは少し違う。違うと言っても、1日滞在して帰ったら30年経っていたなどというお伽話的な違いではない。少し時差が起こるということだ。夕方に別世界からワープしたツバサ達は、その日の昼間の日本に到着した。
  到着した場所は、あいにく路地裏で夜の店がある通りだった。当たり前だが昼間はどの店も開店していない。
  到着直後、彼らは全員同じ台詞を口にした。

 「暑い」

  別世界と地球の決定的な差。その1つは体感温度だ。別世界は1年中洋服の上にローブをまとっていてちょうどいい気温だ。むしろ寒い時もある。しかし比較的太陽が近い地球は、別世界人にとってはサウナ状態、いやそれ以上の酷いものだった。
  ツバサ達はローブを脱いで腰に巻いて歩いた。ローブをまとっているよりは、遥かにアース人の中に溶け込みやすいだろう。

 「さあリッチェルを探すぞ。アスカが言うにはこの辺りの建物の中に居るらしい」
 「……建物って、この辺りビルしか無いわよ。こんなのしらみつぶしに探してたらキリないって」

  アルルが気の遠くなりそうな声で言った。ツバサはぼーっとしながらアスカからの連絡を受けた。一同はもう暑さにやられて、ダラダラと歩いている。

 「あー何なのこの毛布に包まれているような暑さは……」
 「このままフライか何かになりそうだな……」
 「やめてよレン。私達フライになったって全然美味しくないに決まってる……ベティのフライなんて、きっとビリビリ静電気が起きるよ……」
 「リッチェルがこんな暑苦しい世界に住んでいたとはな……よくこんな空気も汚い世界で住めるもんだ……もし両親に挨拶をするなんてことにでもなってたら、僕はここへ来なくてはならなかったのかぁ」

  最後にぼそぼそとつぶやいたルークの言葉にアルルは笑い答えた。

 「挨拶する必要なんて元から無いじゃない。だってリッチェルは天涯孤独なんだか……って!!暑さで頭がおかしくなってる私達!ツバサ!アスカから連絡はあった?」
 「あったとも。……ラブホの近くにある部屋に……捕えられてるってことまでは分かったらしい」
 「なあツバサ、良いことを教えてやろう」

  ルークが振り返って堂々と言った。その額の汗を拭い、近くに設置している看板を手で叩いて見せた。そこには60分7,500円という文字があった。

 「この辺りはほとんどラブホだ」

  ツバサは絶叫した。


  数時間後。暑さにどんどん体力が奪われていき、一同はかなり限界を迎えていた。太陽は沈みかけ、夕方になった。人通りの少なかった通りに人が増え始め、夜の顔へと変わっていく。アース人が増え始めるとルークが正気を取り戻し始めた。

 「おい、だんだん人が増えてきたぞ。それに店にも明かりがつき始めた。もう本当にそろそろ突き止めないとやばい」
 「確かにな。このまま俺たちだけで夜を過ごしたらアルルマザーに何と言われるか」

  ツバサが肩をすくめながら言うと、アルルがとりなすようにぴしゃりと口を挟んだ。

 「最っ低」

  ある店の前に来た時、一同は同時に足を止めた。魔力を感じたのだ。
  これが別世界と地球の決定的な差の2つ目である。地球は圧倒的に魔力を持っている物が少ないために、大気中にも魔法が満ちていない。そのため別世界からやってきた魔術士は、魔術を扱いずらく体力も無駄に失われやすい。
  しかし、地球にほんの少し魔力が残っているのは地球魔術士アースマジックスの存在があるからである。彼等はツバサ達と変わらない魔術士だが、地球での滞在時間が長く、かつ地球で訓練をしているとここでも平気で魔術を使うことができる。それは、地球魔術士アースマジックスが過酷な訓練を乗り越えてきている魔術士だということを示している。

 「魔術士の……家?」

  一同が足を止めた店の上にそんな看板が掲げられていた。フォントは古く、今にも壊れそうな看板だった。一番始めに歩きだしたのはルークだった。1階のホテルの横にある小さな階段を一同は上がった。
  "魔術士の家"のドアは普通のアパートのドアと似たり寄ったりで、特に何も看板もかけられていなかった。一番前に居たルークはドアに近づいて、耳をすました。誰かが中を歩いているような足音はする。3、4人程居るようだ。

 「行ってみよう」

  ルークがドアノブに手をかけ、開けた。室内はバーのようになっていて、丸いテーブルを囲んだ2人組とカウンターに向かっている1人客が居た。

 「いらっしゃいませ」

  カウンターの向こうでグラスを拭いている店員が笑顔を見せた。武将髭を生やした気さくそうな男性だ。

 「おや、新参者じゃないかい」

  2人組の1人の女性がこちらを向いて声をかけてきた。グラマーな体格のその女性は、30代くらいに見えた。

 「お嬢さん達、どこから来たの?こっちへ来て、一緒に飲みましょうよ」
 「ったくお前は若い連中が来るとすぐこうなるんだから。良かったら1杯どうだい?」

  女性の隣に座る男性も声をかけてきた。ツバサ達よりも年上に見えたが、鍛えている立派な体つきに真っ白い肌、透き通るような瞳にアルルとベティは少し惹き込まれた。2人は顔を見合わせた後、嬉しそうにうなずいた。

 「あっアルル……」

  レンが小さい声で呼びかけてもこちらへ振り向きもしなかった。女子2人はノリノリで男性の近くへ行って、椅子に座った。するともう片方の女性もこちらへ手招きしてきた。引っ張られるようにして、ツバサとルークがその女性の元へ行ってしまう。

 「ちょっと、皆、あの子を助けるんじゃないのか?どうしたって言うんだ……よ……」

  レンの声はやはり仲間には届かなかった。その時レンはハッとした。カウンターに向かっている女性がこちらをじっと見つめているのだ。豊満な胸を強調する服装をして、こちらを色っぽい目で見つめている。レンは視線を逸らし、しばらくしてからもう一度見るとやはり彼女はこちらを見ていた。仕方なくレンは彼女の隣のカウンター席に座った。

 「俺に何か?」
 「ここにいる奴らはまともじゃないのよ。あなたにはわかる?」

  女性はワインを1口飲み、そっとグラスを置いた。そう言われたところでレンはちらりと仲間達と共にいる男女の様子を見た。
  にこやかに笑う男性の口元で、普通の魔術士には無い鋭い牙が光った。

 「まさか……あいつら……」
 「そう。アースで住むバンパイアよ。バンパイアは特有のフェロモンを出して人間を惹き付ける……だけど、貴方には効かなかった。何でかって?"私達"にはバンパイアの魔法は効かないように私が魔術をかけてるから」
 「あんた、何者だ」
 「私はグレイの一族の1人。あなたもでしょう?レン・グレイ。そこの横の階段を上がれば、お目当ての女の子は居るわよ。彼女も私なんかよりもきっと……あなたみたいな男の子の方が、最期の一時は喜ぶでしょう。何してくれても構わないわ。どうせ無くなる命なんだから」
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