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4章 地球
#18 狂
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「あんたもグレイの名字を持ってるのか。ずっと、この世界で暮らしているのか」
ええ、と女性はため息をつきながらうなずいた。疲れたような目をして、グラスの中身を覗いている。
「もう逃げるのには疲れたの。だから地球魔術士になった……今はこうやって、バンパイアの振りしてるけど。この名字のせいで、男は誰も近づいてこないわ。レン、あなたが初めてよ」
「貴方は文句無しに美しいです。バンパイアの振りなんかしなくたって」
自然と口から言葉がスラスラと出てくる。何でこんなことを口にしたんだろうとレンは数秒後に思った。頭で考えていることと、口から発する言葉が何だかズレている。気味が悪い。
「お世辞が上手いのね。さぁ、貴方は早く仕事をしてちょうだい。その上の部屋に少女は居るから」
「はい、さっさと終わらせてきます。仕事が終わったら、俺と一緒に……」
「ええ、何でもするわ。久々に信頼できる相手に会えて私も嬉しいの。もう、独りになるのは、嫌だから」
レンはカウンターの横にある小さな階段を上がった。すると、そこには扉があった。扉に触れようとした時、魔術がかけられていることに気づいた。
「防音の魔術か」
気にせずに扉を開くと、そこには少女が両手を上げて縛られていた。両足も勿論ロープできつく縛られて、床に座らされていた。写真と同じブロンドの長い髪。青い目には涙が浮かんでいた。口元は切れて血がにじみ、白い腕には痣が何ヶ所か見受けられた。
少女は震える声でレンに尋ねる。
「貴方は……? 誰……? 助けに来てくれたの……?」
「……君を解放しに来たんだ……苦しみからね」
「私を殺すの?! 何でよ! どうして……理由を教えて。私、何も悪いことしていないのに、どうして? ねえ、教えてよ……」
「俺がリッチェルを殺すのに特に理由は無い。ただ仕事だから……それだけの話だよ」
レンは闇術を発動させたが、やはり地球にいるせいで少し力が弱かった。リッチェルは首を振り続け、そして解けない腕を振り回した。
「……やっぱりアースだと魔術が中途半端だな。君を苦しめるだけになるのは、ちょっと可哀想だからなぁ」
「いや……やめて……ルーク……助けて……誰か、誰か……助けて」
泣きながら喚くリッチェルの前でレンはローブのポケットを漁った。リッチェルがいくら叫ぼうが喚こうが、ここの部屋のドアの前には防音の魔術がかけられている。下の皆に聞こえるはずもない。
「あった」
レンが取り出したのは地球製のピストルだった。命の恩人であるジュリから貰った武器だ。
「大丈夫。もう、すぐに終わるよ。あっという間だ。痛みなんて感じないようにするから」
「殺すなら私だけにして! ルークやリアさんには手を出さないで……!」
リッチェルの瞳から大粒の涙がこぼれていく。レンは黙ってリッチェルの前に跪いた。涙を見ても不思議と何も思わず、狂ったように口からベラベラと自然に言葉が出た。
「俺達が勝つ! 俺達の時代が始まるんだ! 裏切り者のクソ天使の、フェアリーの一族は俺達が1人残らず息の根を止めてやる! 決まってるんだ。ごめんね、もう決まっていることなんだよ。自然の摂理には逆らえないだろう? 君は数少ないフェアリーの生き残りだ……そのうちの1人を俺は今、自分の手で殺す。これは素晴らしいことなんだよ……きっと黒の女王が褒めてくださる。喜べ! リッチェル・フェアリー! 俺に――グレイの人間に――命を奪われることを光栄に思え!」
レンは言いきると立ち上がり、リッチェルの頭を乱暴に押さえつけてそのこめかみに銃口を突きつけた。リッチェルは暴れて泣き叫んだ。
「やめて!!! いやーーーー!!」
その時レンはリッチェルと初めて目が合った。その青く潤んだ瞳を見た時、一瞬リッチェルの顔が違う人間に見えた。赤い髪の、リッチェルと同じ青い瞳の。
「アルル!!」
レンは叫び、掴んでいた手をリッチェルの頭から慌てて離した。リッチェルはショックで気を失った。途端に激しい頭痛にレンは襲われた。
「何で……俺は一体何を……こんなものを持って……」
いつの間にか防音の魔術は解かれていた。リッチェルに声をかけるも、目覚めない。レンはリッチェルの縄を慌てて解き、おぶって階段を降りると既に仲間達はバンパイアを倒した後だった。レンはさっきの女性の姿を見つけた。女性は薄笑いを浮かべた。
その時ツバサが叫んだ。
「この女は俺とルークが相手する! レンは女子軍連れて逃げろ! いや、先に家に帰ってろ!」
「裏切り者」
女性がそうぼそっと呟いたのをレンは聞き逃さなかった。レンは咄嗟にアルルの腕を掴むと、アルルはベティの腕を掴んだ。
ええ、と女性はため息をつきながらうなずいた。疲れたような目をして、グラスの中身を覗いている。
「もう逃げるのには疲れたの。だから地球魔術士になった……今はこうやって、バンパイアの振りしてるけど。この名字のせいで、男は誰も近づいてこないわ。レン、あなたが初めてよ」
「貴方は文句無しに美しいです。バンパイアの振りなんかしなくたって」
自然と口から言葉がスラスラと出てくる。何でこんなことを口にしたんだろうとレンは数秒後に思った。頭で考えていることと、口から発する言葉が何だかズレている。気味が悪い。
「お世辞が上手いのね。さぁ、貴方は早く仕事をしてちょうだい。その上の部屋に少女は居るから」
「はい、さっさと終わらせてきます。仕事が終わったら、俺と一緒に……」
「ええ、何でもするわ。久々に信頼できる相手に会えて私も嬉しいの。もう、独りになるのは、嫌だから」
レンはカウンターの横にある小さな階段を上がった。すると、そこには扉があった。扉に触れようとした時、魔術がかけられていることに気づいた。
「防音の魔術か」
気にせずに扉を開くと、そこには少女が両手を上げて縛られていた。両足も勿論ロープできつく縛られて、床に座らされていた。写真と同じブロンドの長い髪。青い目には涙が浮かんでいた。口元は切れて血がにじみ、白い腕には痣が何ヶ所か見受けられた。
少女は震える声でレンに尋ねる。
「貴方は……? 誰……? 助けに来てくれたの……?」
「……君を解放しに来たんだ……苦しみからね」
「私を殺すの?! 何でよ! どうして……理由を教えて。私、何も悪いことしていないのに、どうして? ねえ、教えてよ……」
「俺がリッチェルを殺すのに特に理由は無い。ただ仕事だから……それだけの話だよ」
レンは闇術を発動させたが、やはり地球にいるせいで少し力が弱かった。リッチェルは首を振り続け、そして解けない腕を振り回した。
「……やっぱりアースだと魔術が中途半端だな。君を苦しめるだけになるのは、ちょっと可哀想だからなぁ」
「いや……やめて……ルーク……助けて……誰か、誰か……助けて」
泣きながら喚くリッチェルの前でレンはローブのポケットを漁った。リッチェルがいくら叫ぼうが喚こうが、ここの部屋のドアの前には防音の魔術がかけられている。下の皆に聞こえるはずもない。
「あった」
レンが取り出したのは地球製のピストルだった。命の恩人であるジュリから貰った武器だ。
「大丈夫。もう、すぐに終わるよ。あっという間だ。痛みなんて感じないようにするから」
「殺すなら私だけにして! ルークやリアさんには手を出さないで……!」
リッチェルの瞳から大粒の涙がこぼれていく。レンは黙ってリッチェルの前に跪いた。涙を見ても不思議と何も思わず、狂ったように口からベラベラと自然に言葉が出た。
「俺達が勝つ! 俺達の時代が始まるんだ! 裏切り者のクソ天使の、フェアリーの一族は俺達が1人残らず息の根を止めてやる! 決まってるんだ。ごめんね、もう決まっていることなんだよ。自然の摂理には逆らえないだろう? 君は数少ないフェアリーの生き残りだ……そのうちの1人を俺は今、自分の手で殺す。これは素晴らしいことなんだよ……きっと黒の女王が褒めてくださる。喜べ! リッチェル・フェアリー! 俺に――グレイの人間に――命を奪われることを光栄に思え!」
レンは言いきると立ち上がり、リッチェルの頭を乱暴に押さえつけてそのこめかみに銃口を突きつけた。リッチェルは暴れて泣き叫んだ。
「やめて!!! いやーーーー!!」
その時レンはリッチェルと初めて目が合った。その青く潤んだ瞳を見た時、一瞬リッチェルの顔が違う人間に見えた。赤い髪の、リッチェルと同じ青い瞳の。
「アルル!!」
レンは叫び、掴んでいた手をリッチェルの頭から慌てて離した。リッチェルはショックで気を失った。途端に激しい頭痛にレンは襲われた。
「何で……俺は一体何を……こんなものを持って……」
いつの間にか防音の魔術は解かれていた。リッチェルに声をかけるも、目覚めない。レンはリッチェルの縄を慌てて解き、おぶって階段を降りると既に仲間達はバンパイアを倒した後だった。レンはさっきの女性の姿を見つけた。女性は薄笑いを浮かべた。
その時ツバサが叫んだ。
「この女は俺とルークが相手する! レンは女子軍連れて逃げろ! いや、先に家に帰ってろ!」
「裏切り者」
女性がそうぼそっと呟いたのをレンは聞き逃さなかった。レンは咄嗟にアルルの腕を掴むと、アルルはベティの腕を掴んだ。
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