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第1章:異世界でもワタシって遠慮しないタイプなんで!
第8話 マダム・オルタンシアの視線
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掃除道具を持ったまま固まるリリーの横で、私は突如現れた“マダム・オルタンシア”とやらを眺めていた。
白磁のような肌に、豊かで艶やかな栗色の髪を高く結い上げている。大胆に開いた胸元を飾る大ぶりの真珠と、花びらのようにふわりと香る上等な香水の残り香。
動くたびに宝石のようにきらめく視線と、あの挑むような微笑――まるで一瞬で空気を支配する女王のようだ。
(……マダム? マダムって言うからいかにも成金みたいなおばさんを想像していたけど……一体、何歳なの、この人……?)
「まあ、あなたがサヤーナ様。ご挨拶が遅れました……」
マダムが畏まって私に挨拶をしようとした。
「サヤーナでいいわ。一応、ここではあなたに雇われているお針子の一人なんだから」
私は、物わかりのよさを示した。
「そう……では、サヤーナさん。ようこそサロン・ド・ヴェルディエールへ」
「こちらこそよろしく!」
「これからみなさんにお話があるの。あなたたちも一緒にいらっしゃい……」
マダムの動きを先取りして、取り巻き男性の一人が扉を開いた。
(よく訓練されてるわ……)
感心して見ていると、リリーがいつの間にかもう一人の取り巻き男性から荷物を受け取っていた。
「サヤーナ様、私たちも」
「そ、そうね」
私はマダムの後について店内に入った。
「みなさん、おはよう」
ガタガタガタっ!
店内にいたお針子たちが一斉に立ち上がる。
「おはようございます!」
誰かが号令をかけたわけではないけれど、お針子たちの声は不思議と揃っていた。
お針子たちが頭を下げている間に、私とリリーはそそくさと自分の作業台に戻った。
「今日はみなさんにお話があります……」
周囲のお針子たちが、何かを飲み込むように息を潜める。
「そんなに固くならないで……みなさんにとって良いお話よ……」
マダムはお針子たちの様子を見ながら、わざともったいぶって話しているように見える。
「あなた方の日頃の成果を見せていただきたいの……ここまで言えば何のことかわかるわね……」
お針子たちが歓声を上げる。
(え? 何?)
完全に取り残されている。何の話をしているか全く読めない。
「ねえ、何の話をしているの――」
隣にいるリリーに聞こうと思ったが、リリーは喜んでいるお針子たちとは逆に、暗い表情をしてうつむいている。
マダムは話を続けた。
「素晴らしいドレスは新作として発表いたします。みなさん、がんばってね」
「はいっ! 質問!」
私は勢いよく手を上げていた。
「どうぞ、サヤーナさん」
「要するにコンペってことよね? それって、私やリリーも参加していいってこと?」
お針子たちの視線が一斉に突き刺さる。もちろん好意的な視線ではない――もう慣れたけど。
「ええ、もちろん。期待しているわ、サヤーナさん」
「こんなに早くチャンスが回ってくるとわね! リリーも参加するんでしょ?」
仕事終わりに私はリリーに話しかけた。
「いえ、私は……」
マダム・オルタンシアの話を聞いている時からおかしいと思っていたが、リリーの表情が暗い。
「えっ、どうして……」
「用事があるので失礼します!」
私の疑問に答える前にリリーはそそくさと出て行ってしまった。
「痛っ!」
「マダムに特別扱いされている貴族のお嬢様には、一生わからないでしょうね」
私の横をお針子たちが、捨て台詞を嘲笑と体当たりともに通り過ぎていった。
細くて華奢な私の体は、体当たりされた反動で、よろけて作業台にぶつかってしまった。
ばさっ
紙の束が床に落ちた。落ちた場所からすると、リリーの物だと思われる。
「何だ、これ……?」
拾い上げて見ると、それはドレスのデザイン画だった。
白磁のような肌に、豊かで艶やかな栗色の髪を高く結い上げている。大胆に開いた胸元を飾る大ぶりの真珠と、花びらのようにふわりと香る上等な香水の残り香。
動くたびに宝石のようにきらめく視線と、あの挑むような微笑――まるで一瞬で空気を支配する女王のようだ。
(……マダム? マダムって言うからいかにも成金みたいなおばさんを想像していたけど……一体、何歳なの、この人……?)
「まあ、あなたがサヤーナ様。ご挨拶が遅れました……」
マダムが畏まって私に挨拶をしようとした。
「サヤーナでいいわ。一応、ここではあなたに雇われているお針子の一人なんだから」
私は、物わかりのよさを示した。
「そう……では、サヤーナさん。ようこそサロン・ド・ヴェルディエールへ」
「こちらこそよろしく!」
「これからみなさんにお話があるの。あなたたちも一緒にいらっしゃい……」
マダムの動きを先取りして、取り巻き男性の一人が扉を開いた。
(よく訓練されてるわ……)
感心して見ていると、リリーがいつの間にかもう一人の取り巻き男性から荷物を受け取っていた。
「サヤーナ様、私たちも」
「そ、そうね」
私はマダムの後について店内に入った。
「みなさん、おはよう」
ガタガタガタっ!
店内にいたお針子たちが一斉に立ち上がる。
「おはようございます!」
誰かが号令をかけたわけではないけれど、お針子たちの声は不思議と揃っていた。
お針子たちが頭を下げている間に、私とリリーはそそくさと自分の作業台に戻った。
「今日はみなさんにお話があります……」
周囲のお針子たちが、何かを飲み込むように息を潜める。
「そんなに固くならないで……みなさんにとって良いお話よ……」
マダムはお針子たちの様子を見ながら、わざともったいぶって話しているように見える。
「あなた方の日頃の成果を見せていただきたいの……ここまで言えば何のことかわかるわね……」
お針子たちが歓声を上げる。
(え? 何?)
完全に取り残されている。何の話をしているか全く読めない。
「ねえ、何の話をしているの――」
隣にいるリリーに聞こうと思ったが、リリーは喜んでいるお針子たちとは逆に、暗い表情をしてうつむいている。
マダムは話を続けた。
「素晴らしいドレスは新作として発表いたします。みなさん、がんばってね」
「はいっ! 質問!」
私は勢いよく手を上げていた。
「どうぞ、サヤーナさん」
「要するにコンペってことよね? それって、私やリリーも参加していいってこと?」
お針子たちの視線が一斉に突き刺さる。もちろん好意的な視線ではない――もう慣れたけど。
「ええ、もちろん。期待しているわ、サヤーナさん」
「こんなに早くチャンスが回ってくるとわね! リリーも参加するんでしょ?」
仕事終わりに私はリリーに話しかけた。
「いえ、私は……」
マダム・オルタンシアの話を聞いている時からおかしいと思っていたが、リリーの表情が暗い。
「えっ、どうして……」
「用事があるので失礼します!」
私の疑問に答える前にリリーはそそくさと出て行ってしまった。
「痛っ!」
「マダムに特別扱いされている貴族のお嬢様には、一生わからないでしょうね」
私の横をお針子たちが、捨て台詞を嘲笑と体当たりともに通り過ぎていった。
細くて華奢な私の体は、体当たりされた反動で、よろけて作業台にぶつかってしまった。
ばさっ
紙の束が床に落ちた。落ちた場所からすると、リリーの物だと思われる。
「何だ、これ……?」
拾い上げて見ると、それはドレスのデザイン画だった。
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