偽りの聖女に断罪された本物の聖女、神と騎士に愛される

林 真帆

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プロローグ

第10話 試練の場

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 数日後、王宮の大広間に人々が集められた。
 とある貴族の子息が、重い熱病に倒れ、回復の兆しがないというのだ。


「聖女様にお願いするしかない」

「聖女様のお力で救われるはずだ」

 
 廷臣たちの声に押し上げられるようにして、セシリアは少年の寝台の傍らへ進んだ。
 
 
 足取りは重く、背後から突き刺さる視線が彼女の肩を押し潰す。


(大丈夫……落ち着いて、いつも通りに……)

 
 そう心で繰り返しながら、セシリアは震える手を少年の額にかざした。
 

 静かに目を閉じ、祈りの言葉を紡ぐ。


「神よ、どうぞこの少年を苦しみからお救い下さい――!」


 異変はすぐに表れた。いつもなら、どのような患部であっても、手をかざすと必ず手の平に熱を感じる。しかし、今回はそれがなかったのだ。
 

 セシリアは焦った。これはきっと何かの間違い、そう思い直し、再び祈りを捧げ、手のひらをかざす。だが、またしても熱を感じることはなかった。


(おかしい、おかしいわ。こんなこと、今までなかったのに!)

 
 大広間にざわめきが広がる。


「セシリア様? どうされました?」


「大変! お顔が真っ青です!」

 
 セシリアの心臓が潰れそうに脈打つ。
 
 額に浮かぶ汗を隠そうと必死に微笑んだ。セシリアの体調を気遣う言葉が聞こえるが、視線は冷ややかに突き刺さった。

 

 その時、群衆の中から声が上がった。


「セシリア様は体調がすぐれないご様子、リディア様にお任せを!」

 
 ルシアに背を押されるようにして、リディアが前へ進み出る。
 
 
 緊張した面持ちながらも、その瞳はやる気に満ちていた。


「神よ……どうか、お力を」

 
 リディアは母から教えられた通りに手をかざす。
 
 
 次の瞬間、あらかじめ仕込まれていた薬草の香を少年に嗅がせると、荒々しかった呼吸が収まったかのように見えた。
 
 

「見よ! あんなに息苦しそうにしていたのが、一瞬で良くなったぞ!」


「リディア様が癒やされたのだ!」

 
 歓声が大広間を揺るがした。

 
 セシリアは呆然と立ち尽くし、ただその光景を見つめるしかなかった。
 
 人々の熱狂の中、リディアは無意識に唇を噛んだ。



(私が聖女に、そしてアルベルト様の婚約者に!)

 
 母の視線を受け、リディアは微笑んだ。
 
 
 だがその笑みの奥に、セシリアの胸を締めつける深い影が落ちていた。
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