偽りの聖女に断罪された本物の聖女、神と騎士に愛される

林 真帆

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第1章 聖女を巡る策謀

第7話 偽りの烙印

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 翌朝、王都の空気は一変していた。

 まだ日も昇り切らぬ早朝、宮廷に急報が走る。
 ――昨夜、セシリアの祈りで癒えたはずの近衛兵が、容体を急変させて命を落としたのだ。

「な、何だと……!? 昨日あれほど元気を取り戻していたのに!」

「やはり、あの“奇跡”は幻だったのか……」

 廷臣たちの間に広がる動揺と疑念。
 
 人々の声は次第に「奇跡の否定」から「セシリアへの糾弾」へと変わっていく。

「やはりセシリア様は偽りの聖女ではないのか」

「殿下を欺くため、何らかの術を用いたのだろう」

「治癒させるどころか、命を奪うとは……何と恐ろしい」

 
 セシリアはその場で報告を聞き、蒼白になった。
 
 癒したはずだった。確かに神の光は降り、兵士の顔には生気が戻った。
 
 ――それなのに。

(どうして……? 私の祈りは、確かに届いたはずなのに……)

 
 揺らぐ信仰心に胸が締め付けられる。
 
 
 その心の迷いを突くように、冷たい声が響いた。


「皆様、これでよくお分かりになったのでは?」

 
 ルシアだった。
 
 
 ルシアは芝居がかった溜息を吐き、悲しげな表情を作ってみせる。


「昨夜は感動いたしましたけれど……真実はこの通り。きっと“奇跡”というのは気のせいだったのでしょう。聖女が自分のために祈ってくれれば、一時的に治ったような錯覚に陥ったのでしょう」

 
 廷臣たちの視線が一斉にセシリアに注がれる。
 
 疑惑と軽蔑、そして恐怖が入り混じった視線だった。

「そんな……!」
 
 セシリアは声を震わせ、必死に否定しようとした。


「私は偽りなど申しておりません! 祈りは……神の御業は確かに……!」

 
 だがその訴えは、広間のざわめきにかき消されていく。

 
 アルベルトは玉座から沈黙のままセシリアを見下ろしていた。
 
 
 表情を変えず、何を考えているのかも分からない。
 
 
 その冷たい眼差しに、セシリアの心臓は締め付けられる。


「セシリア様!」
 
 レオンハルトがすぐに声を上げ、セシリアの前に立ちふさがった。

「殿下! これは何かの間違いです! セシリア様は確かに奇跡を起こしました。兵の死には……別の理由があるはずです!」

 
 だがアルベルトは重々しく首を振った。


「レオンハルト。……真実がどうであれ、結果がすべてだ」

 その冷酷な一言に、セシリアの胸に突き刺さるような痛みが走った。
 
 ――セシリアは再び、「偽りの聖女」の烙印を押されようとしていた。

 一方その頃、王宮の奥の密室。
 
 ルシアは人目を避けて王宮を抜け出していた。そして誰もいない部屋の中で一人、取り出した小瓶を、細い指で弄んでいた。
 
 底に残るわずかな紫色の残滓を見つめ、冷笑を浮かべる。


「神の光がどれほど真実でも……人の心は結果しか信じない。愚かで操りやすいこと」

 
 その囁きとともに、彼女は小瓶を炎にかざし、跡形もなく燃やし尽くした。
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