偽りの聖女に断罪された本物の聖女、神と騎士に愛される

林 真帆

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第1章 聖女を巡る策謀

第8話 沈黙の祈り

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 夜の王都は、冷たい雨に包まれていた。
 
 
 王宮の一角――客人用の離れに、セシリアはひとり閉じ込められていた。
 
 部屋の外には近衛兵が二人、無言で立っている。まるで罪人を見張るように。


(……私はどうなるのかしら)

 
 聖女の力が弱いだけなら追放で済んだ。しかし、今回は違う。セシリアのせいで人命が奪われたとされているのだ。
 
 
 抗えば抗うほど、無実が遠のくことを、セシリアは予感していた。

 
 こんな時でも決まった時間に、静かに祈りの姿勢をとる。
 
 
 けれど、今夜の祈りはいつもより重く、言葉が胸に絡みついて離れない。


「神よ……私は間違っていたのでしょうか」

 
 小さな声が、冷えた石壁に吸い込まれていく。
 
 その声には、かつての確信も輝きもなかった。

 
 瞼を閉じると、兵士の顔が浮かぶ。
 
 癒されたあの笑顔――そして、翌朝には命を落としたという報せ。


(私の祈りは……本当に神に届いたの? それとも……)

 
 疑念が忍び寄る。
 
 信仰を支えていたものが、少しずつ崩れ落ちていく音がした。

 
 そのとき、扉の外で足音が止まった。
 
 硬い靴音。扉が軋み、レオンハルトが姿を現した。


「……こんな時間に、申し訳ありません」

 
 レオンハルトの顔にも疲労の影が色濃く刻まれていた。
 
 それでもその瞳は、まっすぐにセシリアを見つめている。

「誰も、あなたの言葉を信じようとしません。殿下でさえ……」

 セシリアは微かに微笑み、首を振った。


「いいのです。私は、誰かに信じてもらうために祈ったわけではありません」

 
 そう言いながらも、声は震えていた。
 
 その強がりが、どれほど痛々しいものか、レオンハルトには痛いほど分かった。

 レオンハルトはそっと膝をつき、セシリアの前で頭を垂れた。

「……それでも、セシリア様を信じています。セシリア様には何度も癒していただきました。あれが偽りであるはずがない。たとえ皆が敵に回っても、セシリア様を最後まで守り抜きます」

 静寂が二人を包む。
 
 窓の外では雨が激しさを増し、遠くで雷鳴が低く唸った。

 セシリアは小さく息を呑み、ふとレオンハルトの瞳を見つめた。
 
 その中に映るのは、信仰ではなく――確かな「人の想い」だった。

「……ありがとう、レオンハルト。あなたがいてくれるなら……私、まだ神を信じられる気がします」

 セシリアの声は、雨音に溶けて消えていく。
 
 その夜、二人を包んだ静けさは、嵐の前の静寂のようだった。

 誰も知らぬうちに、王宮の地下では新たな陰謀が動き出していた。
 
 “偽りの聖女”を裁くための密命――そして、その影には、ルシアの策略があった。
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