偽りの聖女に断罪された本物の聖女、神と騎士に愛される

林 真帆

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第2章 夜明けなき旅路

第1話 影を裂く足音

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 王都の夜は、まだ深い闇に包まれていた。

 地下牢から逃れたセシリア・アルディナは、白衣の裾を泥に濡らしながら、石畳の裏路地を駆け抜けた。
 街灯の薄い光を避け、民衆の視線や巡回する衛兵に怯えながら、北門の方へと足を運ぶ。

 冷たい風が頬を刺す。雨の匂いが混ざった湿った空気に、心細さが増す。
 祈りに支えられてきた日々も、今は遠く、ただ自身の息と足音だけが頼りだった。

 やっとの思いで北門を抜け、森の中の古い修道院跡にたどり着く。
 荒れ果てた石造りの廃墟の中、セシリアはひざまずき、フードを深くかぶったまま、静かに息を整える。


(……レオンハルトは無事かしら……?)

 
 神に祈るように胸の前で手を組む。目の前に広がる静寂は、嵐の前のように張り詰めていた。

 
 しかし、深い森の影の中に、微かな音が混じる。
 
 木の葉を踏むかすかな足音。遠くで何かが擦れる音。
 
 セシリアはその方向に顔を向け、息を殺す。

 ――その瞬間、背後から冷たい衝撃が襲った。
 
 強い腕に押さえつけられ、声を上げる間もなく、闇の中へと引きずられる。


「――っ!」

 
 振り返る間もなく、森の闇に飲み込まれる。
 
 その腕の力は尋常ではなく、ただ身を任せるしかなかった。

 
 胸を打つ恐怖と、逃げられない絶望。
 
 王都を離れ、やっと辿り着いた安全の場所は、もろくも崩れ去った。

 
 遠くで鐘が鳴る。
 
 それは、皮肉にも――「逃亡者セシリア・アルディナ」の運命が、新たな闇の中へと押し込まれたことを告げていた。
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