「君を愛することはない」からの溺愛展開ってデフォルト設定だと思ってたんですが違いますか?

つかさ文研

文字の大きさ
34 / 68

”一緒なら”

しおりを挟む
「店まで閉めてもらって申し訳ありません」
 ハレアたちはごちゃごちゃとした魔道具店の奥にある、自宅のリビングに通された。
「いえ、わざわざここまで来ていただいて……。呼ばれたら城でも屋敷にでも出向きましたのに」
 そう言いながらカミュレスはデザインの揃っていないマグカップにお茶を入れて出してくれた。
「私、砂糖二つで」
 ハレアはカミュレスを見上げて無邪気に言う。
 カミュレスはキッチンに戻り、角砂糖の入ったガラスケースを持ってきてハレアの前にドンッと置いた。
「自分で入れろ。これだから貴族のお嬢様は」
「は~い」
 ハレアは気の抜けた声で返事をして、砂糖をマグカップに入れた。
 キルシュはそれを見て「んんっ」と咳ばらいをした。

「本題に入ってもよろしいでしょうか」
 少し不機嫌そうな声を出す。ハレアはそれに気づかずにお茶を冷まそうと「ふぅ~ふぅ~」とウサギが描かれているマグカップに息を吹いている。これからする話が自分の話だというのに全く緊張感がない。ロンはその様子を見て「あちゃ~」と呆れている。
「どういったご用件で今日は?」
 カミュレスは緊張した面持ちだ。
「知ってはいると思いますが、彼女の能力についてです」
「能力というのは?」
「魔石を破壊する能力とその欠片を浴びると一時的ではあるものの魔力量が増えるということについてです」
「えっ……、魔石を壊せることは知っていましたが……」
 カミュレスは目を丸くして言葉を失っている。
「魔力量が増えるということは知らなかったと?」
「……はい」
 カミュレスは下を向いて何か考え込んでいる様子だ。
「このことは一切他言無用でお願いしたい。もし、あなたから漏れるようなことがあれば、しかるべき対応をしなくてはいけません」
「それは……はい……」
「カミュ、ごめんなさい。変なことに巻き込んでしまって……」
「いや、それは大丈夫。それよりも、ハレアは魔術師団に保護されるんですか?」
「いや、こちらとしてもそうしたかったのだが、このことは皇帝陛下にも言ってはいません。陛下を信用していないわけではないが、どこからか漏れてしまえば争いの火種になり兼ねないので」
「そ、そうですよね……」
「まあ、なんか君なら言わないって信用できるよ。俺らが入ってきた瞬間に真っ先にハレアちゃんのこと心配したでしょ?彼女の魔力量が悪用されてるんじゃないかって思ったんだよね?」
「あっ、まあ……。ハレアはこの通り抜けてるところがあるので……。屋敷の人に言ったと聞いた時は気が気じゃなくて。でも、魔術師団長が一緒なら安心ですね」
 カミュレスはため息交じりに自分を納得させるように言った。
「“一緒なら”ね」
 ロンはキルシュを横目で見る。キルシュは少しバツが悪そうな顔をしている。
「僕は言いませんよ、元よりそのつもりだったので、心配しなくて大丈夫です。なんか、逆にスッキリしました!」
 カミュレスはぎこちない笑顔をした。
「あっ、一つ気になることがあるんですがいいですか?」
 さっきまでの引きつった笑顔が一転、真剣な顔になる。
「今はいませんが、以前ハレアがここに来た時に彼女の後をつけている人がいました。姿は見えませんでしたが……。僕には自分の姿を消す魔術は知らないのですが、確実にいたと思います。その人に『帝国の人間か』と尋ねましたが返答はありませんでした。もしかしたら、彼女はすでに狙われている可能性はありませんか?」
「えっ!そうなの!」
 ハレアはマグカップをカチャッとテーブルに置き、目を丸くさせた。
「あ~、体を透過させる方法はあるっちゃああるんだが……、ちょっとこれ以上は申し訳ありませんがここでは言えません。こちらで確認します」
 キルシュが苦い顔をする。
「えっ!体を消せるなんて最高だな!」
 ロンも驚いた表情をし、口元が少し緩んでいる。
「そういう邪な考えを持つ人がいるので、世には出せないようなものですよ」
 キルシュはロンを見ながら呆れている。

「じゃあ、これで失礼します。お時間を作っていただきありがとうございます」
 キルシュとロンは深々とカミュレスに向かってお辞儀をした。
 ハレアは胸元で小さく手を振った。
「僕たちはこのまま時計塔に戻る。君は屋敷からルードが迎えに来ているはずだから」
 そう言って店の外に出ると、ルードが馬車の前に立っていた。
「お嬢、帰ろっか?」
 ルードがハレアに手を差し伸べた。ハレアはその手を取ろうと、乗せようとした右手をひっこめた。
「ごめんなさい!ちょっとだけ待っててください!」
 そう言い、ハレアは店の中へと戻っていった。

 時計塔に戻ろうと歩き始めたキルシュとロンも、その声に驚き振り向いた。
「おい、あれいいのか?旦那が奥さんと他の男の密会を許しちゃって」
 ロンが冷やかすようにキルシュに言い放つ。
「カミュレスさんはただのご学友ですよ」
「そんなこと言っちゃって。本当は気になるくせに~」
「僕と彼女は契約結婚なので」
 キルシュは眉間にしわを寄せながら足早に魔道具店を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

[完結中編]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜

コマメコノカ@女性向け・児童文学・絵本
恋愛
 王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。 そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

処理中です...