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〈八〉ぼくは、『ハッタツ戦記』の主人公

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 濡れている布団がやっと乾いた。ぼくは、洗面所にドライヤーを戻して、再び布団の中に入った。布団に入って横を向くと、そこには本棚があった。本棚には、たくさんのライトノベルが並んでいた。

 ぼくが特に好んで読んでいたものが、異世界転生物。現実社会で冴えない主人公が何かをきっかけに異世界に生まれ変わって活躍する物語だ。

「ぼくも異世界転生して、特殊能力を身につけて、活躍したいなぁ」

 ぼくは本のタイトルを眺めながら、寝るまでの間妄想を楽しもうと思った。だが、この日はいつものように異世界へ転生して活躍する妄想を楽しむことができなかった。

「これから、どうしよう……」

 ゆずやの今後のことに思いが及ぶ。今までと同じ営業を続けていても近い将来、ゆずやは倒産するだろう。どうせ倒産するなら、ADHDらしさを最大限にいかして悔いなく生きた方が良いのではないだろうか……。そうしたら、もしかしたら久兵衛さんみたいに危機的状況を乗り越えられるのではないだろうか……。

「不注意は増すだろうけど、薬をやめてみよう。ぼくには才能はないけど、絶えず妄想を続けていたら何か思い浮かぶかもしれない。このポンコツな脳みそにかけてみよう!」

 ぼくはそう閃いた。

「発達障害らしさで、戦ってみよう! ぼくは、『ハッタツ戦記』の主人公だ!」

 ぼくは、布団の中でつぶやいた。
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