上 下
10 / 20

〈十〉ひらめいた!

しおりを挟む
「それじゃあ、お先に失礼しますね。また明日」

 夕方6時に、ゆずやは、閉店する。店の入り口のカーテンを閉めて、レジを締めた後、タミさんは、家に帰る。

「今日も一日、ありがとうございました」

 ぼくは店の前にタミさんを見送るために出てきた。6時を過ぎた赤橋はずいぶんと暗かった。街灯に明かりがともり町を優しく照らし始めていた。暗闇の中でほのかに照らされるあかがね色の町並みがとても美しい。

 タミさんは、両手にポールを持ち裏地がモコモコとした温かそうな黄色いベンチコートを着て、黄色いリュックサックを背負い夜行ダスキを肩に斜めにかけている。頭には、黄色い毛糸の帽子を被っている。これだけ目立つ格好をしていたら、車にひかれる心配はないだろう。

「今日は毛糸の帽子も被って来たんだね」

「うん。朝寒かったもの。もう直ぐ12月ね。これからもっと寒くなるわよ」

「そうだね。そういえばタミさん、ウォーキングが続いてるから少しほっそりしたね。ぼくなんてメタボまっしぐらだよ」

「アハハハハ、口がうまいんだから。でもね、服を脱いだら洋梨みたいな体をしてるのよ。アハハハハ。それじゃあ、そろそろ帰るわね」

 タミさんは、「アハハハハ」と赤橋中に響き渡るような、甲高い笑い声を上げながら、スタスタと歩き始めた。あまりのけたたましさに、部活から帰る途中の中学生がぎょっとした顔で立ち止まり、タミさんの方を見ていた。

 勢いよく進む紡錘ボウスイ形の黄色いフォルム。ぼくはそれを眺めながら、「あっ」と声を上げた。ある考えがひらめいたのだ。

「そうだ、ゆるキャラになろう。柚子のキャラクターになって柚餅子ユベシを売ろう!」

 ぼくは店に急いで戻り、パソコンの前に座った。

「あっ、あった!」

 ぼくは検索をして、被り物の通販サイトを開いた。いろいろな種類の被り物の中に、柚子の形の被り物があった。

「送料を含めても6千円以内で買えるのか。意外に安いんだな。黄色い法被と、黄色いトレーナーも一緒に買おう。ハッタツ戦記のリーサル・ウェポン入手!」

 ぼくはカチッとクリックして、注文を確定した。
しおりを挟む

処理中です...