薬の十造

雨田ゴム長

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「佐助、準備はどうか、儂は、仕掛けが終ったわ」

「うん、もうじき終るよ、何人位通るの」

「今、静海達が忍狩りに行っておる、帰って来ればわかろう」

それから程無くして、静海達五人が戻った

「十造、今戻った、此度の風魔は、それほどの強敵でもないわ、北条の兵は、沼田方面から、約三百五十ほどもあろうか、鉄砲は三十、弓は五十、三隊に別れて此方に向かって、進軍しておる
此処まで後二里位よ」

「解った、其では、静海聞いてくれ、この崖から岩を落として、敵を分断せしめる、そうして佐助の、爆薬攻めが始まる
恐らく風魔が未だ居るのなら、この辺りから攻めを始めよう、
静海達は、この攻撃を止めてはくれまいか」

「おう、任せておけ、しからば配置に着くわい」

「佐助、飛び道具は何がある」

「楓姉ちゃんから、石弓を預かったよ
矢は、二十本あるかな」

「お前は、自分の役目が終ったならば、石弓で敵将を狙え」

「解った、十造は、、、」

「儂は、全体を見渡す、そうして、必要があるところに入る
良いか、最初は、弓と鉄砲隊を狙え、皆が楽になるでな」

「はいよ、任せときな、でもさ、斥候の始末は、どうするのさ」

「斥候は、人数にもよるが、遣り過ごせ、本隊の始末が先よ」

静海の仲間が知らせに来た

「十造殿、斥候は五名、本隊は半里後方、斥候は、山に入りました」

「本隊の大将の位置は、、、」

「鉄砲、弓の後、ほぼ、中程で御座います」

「解った、静海には、準備が整うたと、伝えて欲しい
斥候は、音を立てずに、全員を消せるのならば頼む、難しければそのままに」

程無く斥候が進んで来た、静海達の手槍や弓で、喉を突かれて絶命した

「佐助、良いか、抜かるな、火の用意をせい
本隊が見えて来た、儂は先に行く」

山越えをする部隊が、一列になり、まるで、蟻の行列の様に進んで来る

山中に突然、爆発音が轟き渡った、ドドーン、ズズーンと、その音の後に、地響きと共に、山の上から材木やら土石やらが、北条の部隊へと襲い掛かった、先ず先頭が遮られ、足止めを食らった、次ぎに中程、後方と、北条の部隊は、十造の仕掛けた爆薬によって、三つに分断された、そして今正に、混乱を呈していた

そこへ、今度は佐助の爆薬が降って来た、樽や龜の中へ火薬と共に、釘やら、石が仕込まれていて、爆発音の後に、顔の無い死体や、悲鳴が聞こえて来た
十造は、爆薬の導火線を、丁度人の背丈辺りで、爆発する様に、長さを整えていた
北条の部隊は、山の上から、攻撃されているのには気が付いたが、反撃までは出来ていなかった

佐助は、爆薬を全て、投下し終えて、次の石弓での狙撃を支度していた

静海が十造のところへとやって来た

「十造、最早風魔からの、攻めは無いわ
儂らも攻撃に転じようぞ」

「おう、しからば、山の斜面下からの、狙撃を頼みたい、儂らは上から攻める
狙うは、飛び道具の者達と敵将よ
佐助、敵の大将は射止めたか、儂は弓か鉄砲を奪って、戻って来る」

「うん、当たっては居るけど、何処かへ消えちまったよ、石弓の矢が後二本しかない、十造おいらにも、何か頼むよ」

北条の部隊は、落ち着きを、取り戻しつつあったのだが、そこへ静海達が、狙撃を始めた
北条の部隊は、山の上に居る敵を、目掛けて、登る途中であったが、ことごとく静海達の餌食となった

十造は弓と鉄砲を一揃えずつ、北条方から手に入れた、佐助の居る山の上へと、戻った時には、佐助は、石弓を撃ち尽くして、飛び道具がもう無かった

「佐助、お前は鉄砲を撃て、儂は弓を持つ」

北条の部隊は、その頃には、山道ではなく、斜面を直接下って退却していた
弓隊も鉄砲隊も、佐助の投下した、爆薬によって、最早集団としての、働きが無かった

静海達の潜んでいる斜面にも、敵が押し寄せて来たが、これを遣り過ごし、背後から、弓や鉄砲で攻め立てた

「佐助もう良い、弓も鉄砲も、最早届かぬ
引き揚げ時よ、山を降りる
じきに、静海達の位置でも届かなくなるわ、帰ろう」

北条の部隊は、散々な目に会って、引き揚げて行った
二人は山を降り、才蔵と会った

「真田は此度、織田方に付く、十造達の働きにより、我が領地も、無事に安堵出来たわ、礼を申す」

「何の、しからば帰りの際は、通行札も、織田の物を貰えるのかの」

「おう、もう帰る算段か、緩利として行けば良いものを」

「うむ、帰れる内に帰らねば、未だ何処の土地も、不安定であろう
佐助は、どうするか、暫く留まっても良いのでは無いか」

「おいらも帰るよ、ここには、葉瑠も居ないし」

才蔵が呆れ顔で言う

「こやつは、すっかりと、十造の家族となりおってからに」

「わはははは、才蔵、其よりも、儂らの住まいも、そろそろ頼めるかの」

「おう、恐らくは、真田の本拠地は、上田になりそうだ、後三月もあれば、決まろうと言うもの、帰ったならば、荷造して、待っておると良いわ」

「何の、大して荷物もないわ、解った、報せを待とう」

十造と佐助は、上田から甲賀を目指して、引き揚げた
十造も佐助も、早く楓と葉瑠の顔を見たくて、先を急いだ

葉瑠が佐助の、裾をつかんだまま、離さない
佐助が、何処かへ動こうとすると、絶対に付いて来る
葉瑠にとっては、十造や楓以上の、存在なのかも知れない

「佐助、そろそろ薬を売って来ぬか、子守りばかりでは、身体が鈍るぞ
京にでも行って来い
未だ行った事は無いであろう
儂らは、畑を耕し、薬を作っておるわ」

佐助が大津を過ぎた辺りで、大きな部隊が、京の方向、西を目指し、移動していた

『おや、結構な部隊が動きよる、はて、さて、何処を目指して居るのやら、まあ良いわ、方角が同じだし、あれは織田の部隊、確か明智隊だよな』

その日、佐助は以前、三郎の指定した連絡用の、宿に泊まっていた
別に、先を急ぐ訳でもなし、明日は、皆に京の土産でも、買ってあげよう等と、考えながら、床に着いた

その夜

『ん、戦か、微かな地響きが、聞こえて来る
この今の京で、一体誰と誰が』

佐助は音を頼りに、騒動の辺りを探し当て、様子を伺っていた、佐助が昼間に見た、明智の軍勢が寺を囲んで、攻め立てていた

寺の方角は、赤々と燃え盛る、紅蓮の炎に包まれていた

『ふーん、相手は誰だろう、まあなんにせよ、関係ないや、帰って寝てしまおう』

「、、殿、佐助殿、神部三郎様がお見えですぞ」

「え、三郎殿が、此のままで、良いなら直ぐにでも」

直ぐに三郎が部屋へ顔を出した、その顔には、疲労が浮かんでいた

「三郎殿、暫くで御座います、いかが致しました」

恐らく明智の軍勢と関わりがある筈

三郎が声をひそめて、話し始める

「佐助、信長様が明智に討たれたわ、問題は、家康様が京に居る事、囲まれる前に、三河へ逃れたいのだ
手を貸してくれぬか」

『げっ、明智光秀ってそんな事したの、やるな、、、』

「勿論、三郎殿の手助けなら喜んで、でも、良くおいらが、此処に居るって解ったね」

「偶然よ、十造殿に火急の報せをする為此処に参ったらば、佐助が居たのよ」

佐助は、荷造りをしながら、三郎の話を聞いていた

「そうなんだ、でもさ、武器とか道具も、限られて来るけど、大丈夫なのかな」

「十分とは言えぬわ、取り敢えず、評議の最中を使うて、手に入れるしかないわ」

「三郎殿、何故この期に及んで評議など、とっとと逃げなければならぬ時に」

佐助は、呆れ顔で三郎に問い掛けた

「うむ、家康様は、生き恥を晒すよりかは、皆で切腹して果てようと言うてな、今、其を思い留めさせて、居るところなのだ」

「解りました、では、佐助は、此より武器を集めに、行って来ます
三郎殿、待ち合わせの場所を、考えてくださいませ」

「まずは、京の木津川の渡しで、会おうではないか
ところで佐助、何処へ行くのか」

「知れたこと、明智の陣から手に入れるまで、では、後程」

京を抜ける街道筋には、明智の部隊が陣取っていた
普通であれば、勝った方は意気軒昂、鼻息も荒いものなのだが、何故か暗い、士気がまるで揚がっていなかった

『ふっ、やらかした事の大きさに、漸く気が付いたってか』

その証拠の様に、捨て置かれた武器が、多々見つかった
夜空け前に、とっとと姿を、眩ませたのだろう
良く考えれば解ろう、信長を殺したところで、あの大軍団は健在なのだ、どう考えても、死しか思い浮かばない

取り敢えず佐助は、自分の欲しい物を、簡単に、手に入れる事が出来た

弓と満杯の矢筒が二丁、手槍、脇差し、少しの火薬
其だけを手に入れて、佐助は三郎との、待ち合わせ場所へと急いだ
三郎よりも早く着いて、七尺もある弓を、作り直す必要があったのだ
持ち運びもそうなのだが、森や草薮の中から、狙撃するのには長過ぎる、又横にして、射るにしても一緒に潜む、仲間の邪魔になるのだ
何とか、長弓から短弓に作り変え、試射を繰り返していると、川下から三十人程の集団が、急ぎ足で佐助の方へと、向
かって来た

全員が軽装であり、着の身着のまま、取り敢えず、逃げて来た、そんな集団だった
刀を背負った男を先頭に、中程に居る、小太りの男を護りながら、佐助の前を通り過ぎて行った、殿軍が三郎である

「三郎殿、追われておるのか」

「おう、佐助居ったか、早速頼むぞ、後ろから四、五十人、野伏せり、野盗の類いよ、鉄砲は無い、弓は五、六張有るが、当たらぬわ、長槍、竹槍が主な道具よ」

「解ったよ三郎殿、先ず奴等の、主だったのから、酷い殺り方で見せ付ければ、きっと、逃げ出すと思うのだけど」

「佐助、影になれ、儂が誘き寄せる、いくぞ」

野伏せりの先頭が、十人程、迫って来ていた
佐助は、木の上に登り、弓を構えて、三郎の仕掛けを待っていた
三郎は藪の中に隠れて、槍を水平に構えて、進んで来る敵の一人に横から、刀で両腕を凪払った
槍を握ったまま、その両手が落ちた
三郎は、落ちた槍を相手の喉元に、突き刺し、首の後ろから、突き抜けた穂先を、立ち木に突き刺した
其奴は、百舌鳥の早贄の様になった
叫び声を聞きつけて、集まって来た仲間たちは、その様を見て、恐れ慄いた
小頭めいた男が、腰が引けている者達を、何とか進ませようと叱咤する

「おのれら、まだ何も手に入れては、居らぬわ、はよぅっ、ぶッ」

佐助が放った矢が、小頭の口に飛び込んだ、其奴が、横向きになった時を逃さず、佐助は二の矢で頬を貫通させた
効果は絶大であった
二つの恐ろしくて、惨たらしい、死体を見た仲間達は、我先に逃げていた
三郎は、そのまま藪の中へ姿を消し、佐助はもう少し、近くの木の上へ移動した
今度は、三十人位が、数を頼りにやって来た

佐助は口笛と、手の合図で、三郎に知らせ、弓を構えた
三郎はわざと、連中の前に姿を現し、逃げて行く
佐助は樹上から、親玉らしき者を探していた

「それい、逃げたぞ、のがずァッ」

親玉らしき者は、顔の真ん中に、弓矢が刺さり絶命した
三郎を追い掛ける筈の手下達は、其を見て、怖じけづいて、足が前に進まない

逃げた振りをした三郎が、いつの間にか戻り、集団の先頭にいた男の頭を、刀で真二つに割った、次の男の首を切り落とす

「ひけー、皆引き揚げるの、、げェ、」

佐助は、副将とおぼしき者の目に矢を当てた

野伏せりの集団は、蜘蛛の子を散らす様に、退散した
木から滑り降りた佐助は、三郎と並んで一休みした

「三郎殿こいつらは、所詮こんなものでしょう、でも、明智の追っ手が入れば、装備も違うし、おいらは、もう少し此処に留まり様子を見てから行くから、三郎殿は先に行って、皆と明日の策を立てなくては
おいらなら大丈夫、何とでもなるから」

「しからば、佐助決して無理するな
お前に何か有れば、儂は、二度と十造殿達に、顔向けできぬ」

「うん、何かあれば、火薬の爆発で知らせるから」

三郎が先行してから、佐助は、遠くを見渡せる様に、又、木に登って、様子見に入っていた
日が落ちて、辺りが暗くなると、松明も見えなければ、人の来る気配も無い

『最早、潮時、引き揚げ時、三郎殿の処へ行くとするか』

佐助は、宿所である、地元の郷士の家に着くと、三郎が飯やら、部屋を整えていてくれた

「佐助夜警は、近在の者達で行うそうだ、休んでくれい、明日は、十造殿も合流しよう」

「うん、明日の為にも、身体を拭いたら、直ぐ寝るよ、三郎殿はどうするのさ」

「うむ、儂は、明日もお前と、殿軍の役ゆえ、もう休む」

佐助が井戸の側まで来た時、人の気配があった

「誰か、この時刻に、何をしておる」

「おじさんこそ誰なのさ、おいらは佐助、殿軍を終わって今帰って、身体を洗うのさ」

「おお、これは済まなんだ、役目ご苦労、佐助、家康である」

「えー、家康様の方こそ、こんな処でうろうろしてたら不味いよ、戻りなよ」

「わはははは、面白い奴、しかし、その若さで殿軍とは、大したものよ」

「うん、大した相手でもなかったからね、本当の兵相手だと解らないね」

「そうか、儂の運は未だ危ういか」

「大丈夫、大軍が押し寄せるでもなし、伊賀を通るにしても、織田には色々あるけど、徳川は直接ないから
其に、服部様や神部(三郎)殿も居られるし、大丈夫さ、家康様は未だ死なないね


織田の軍勢は二度に渡り、恭順しない伊賀に対して、攻勢をかけた
これにより、一度目は、勝利したのだが、それが織田本隊を呼び込む結果となり、伊賀の反織田勢力は、壊滅状態となっていた

「そうか、儂は佐助の見立てだと、助かるか」

「うん、浅井久政様達の様な、透明感も無いし、皆の努力を無駄にしない為にも、もう部屋に戻ってよ、無事帰ったら、遣りたい放題なんだからさ」

「ほう、あの当時の小谷の城へ忍び込むとは、そうか、儂はまだ濁って居るのか、良し佐助の言う通り、帰ったら、我が儘をしたいから、もう休む
明日も頼むぞ佐助」

「うん、明日になれば、もっと凄い、おいらの親方が来るから、安心して」

夜明けと同時に、家康一行は出立して、山道へ入る

「三郎殿この先、斥候無しは、危ないと思うけど」

「其よ佐助、今日一人、儂らの反対側から腕利きの物見が来よう、案ずるな」

「あ、そうか、そろそろ、十造が来るね」

「おう、二人共、ここに居ったか
三郎、伊賀への工作は、上手くいって居るのか、街道は何も無いが、此処まで来たなら、殿軍よりも斥候ではないか、まあ、人が居らなんだか」

「勿論、十造殿が来られたなら、儂が服部様と共に先頭、佐助が斥候、殿軍が十造殿で宜しいかと、、、」

「それが良かろう、佐助自由に動け、山側を主にな、三郎は服部様とならば、谷側を観る余裕も出来よう、其れでどうじゃ
但しよ、これから先は、忍が相手、油断無きようにの」

佐助は、返事の代わりに、姿を消した、三郎も頷いて、先頭に向かって行った

山中に分け入った佐助は、自分ならどうやって、家康一行を攻めるか、考えを巡らせながら動いていた
微かに話声が聞こえる、緩い斜面の木陰だった

「兄ィ、奴ら本当に金になるかのう
これだけ人が居ったなら、分け前も少なかろうに」

「何でも、お頭が言うには、其奴等の首を持って行ったならば、一国が手に入るとよ
だから、抜かるなとよ」

待ち伏せされていた、佐助は相手の人数と居場所を知るために、高い木の上へ上って見た

『成る程、こいつらは、一番最初の見張りか、本隊は何処だ、む、呼子が聞こえる、山の未だ先の方か、急がねば』

佐助は、急ぎ本隊とおぼしき者達が、居そうな山の方角を目指した

『いたいた、何と鉄砲まで、結構な頭数だね、誰かはわからぬが、糸を引いた奴がいるな』

佐助は、報告のため、家康一行の処へ戻った

「この先三回目の曲がり斜面に、見張りが二人居る、その先一度目の曲り斜面に百人ほど、鉄砲が五丁、弓は二十ってとこかな
昨日の奴らと違う、もっと統率が取れてたね
報せが先で、頭の位置までは、掴んでないよ」

佐助が戻って、十造に伝えるのを、服部半蔵と、三郎も聞いていた

「そうか、三郎、此処は服部様に御願いして、お主は儂らと共に出来ようか」

「む、時が惜しい、神部三郎その様に、儂は、これから皆に、事情を話し護りを固めようぞ
伊賀の方は、恐らくではあるが、上手く行く算段がついたわ、ここが儂らの最後の、正念場となろう、十造宜しく頼む」

「は、では、此にて」

十造達三人は、山に向かって、二人の見張りを捕らえ、仲間への合図を聞き出した

「佐助、この山に蜂は、いそうか、代わる物は何か無いか
儂は、親玉を探る、しかる後、飛び道具を片付ける、三郎は儂と佐助が戻るまで、攻め所を探れ、さあ行け」

十造は、山の中程から、遠巻きに敵の背面に廻り、頂上に向かった
山頂に人はなかったが、中腹辺りに、寄せ集めた胴鎧を身に付けた男と、全身灰色の野良着と、灰色の頬被りをした、十造の同業者らしき男が、筵に胡座をかいて話をしていた

十造は、吹き矢を用意して、直ぐ様頬被りした男の、首筋に
吹き矢の毒針を撃ち込んだ、と、同時に胴鎧の男に突進して、喉元にクナイをほんの少しだけ、突き刺し、恐怖を与える

「騒ぐな、お主名前は、此奴の名は、、、」

「くッ、舐めるな乱破」

男がそう言った時には、十造は、男を
刺し殺していた

『佐助の言った通り、野伏せりでは無いの』

十造は二人の首を、男が持っていた刀で切り落とし、三郎の処へ戻った

「三郎、此奴等に見覚えはあるか」

持って来た、二つの首を、ごろんと、放り出して聞いてみた

「成る程、頬被りの方は、百地弥九郎、もう一つはわからぬが
伊賀の、旧六角方ですな、この兵達を見ても、佐助が言う通り、只の寄せ集めではありませんな」

佐助が戻って来た

「十造、三つがやっとだよ、もっと必要かな」

「ご苦労佐助、急ぎ弓隊に仕掛けよ、三郎、儂と鉄砲隊を潰す、佐助、終ったならば儂らの援軍に、かかれい」

鉄砲隊は、銃から離れて寛いでいた、お陰で、十造と三郎は、吹き矢で皆仕留める事が出来た

「三郎、儂らで五丁全部頂くわい
おう、佐助手伝え、儂は、腰に下げた首が邪魔での
佐助は木の上、三郎は、伏せ撃ちで狙え、右手を挙げたら鉄砲、左は弓で、持ち場に着け」

三郎と佐助が消えた

弓隊が蜂の大軍に悲鳴をあげているのが聞こえる

十造は、山の中程で大きな声で呼び掛けた

「やあやあ、此方のお頭は、どちらに居られるかな、話をしに参った」

すると、藪の中から、長槍を構えた足軽が三人飛び出した

「なんじゃ、うぬは、何の用件じゃ」

十造は、左手を挙げた、すかさず、シューと風切り音がして、声を挙げた足軽の喉元に、弓矢が突き刺さり、其奴は其を、引き抜こうとしながら倒れた
十造が残った足軽に話す

「良く聞け、時も命も無駄にしたくはない、槍を置いて話しの解る者を連れて来るのだ」

足軽二人は、槍を捨て、森の中へと消えた
十造は、槍の穂先に持って来た首を、一つずつ刺して、その槍を、近くの木に立て掛けた
程なくして胴鎧の武士が三人現れた

「何の用件じゃ、むっ、き、貴様等、儂らの大将を、、、」

もう、首になった大将を見た時点で、其奴は、戦意が無くなったのが、十造には解った
すると別の武士が

「う、うぬ等、只で済むと思うてか、儂らが何人居るか、知っての事か」

十造は、今そう言った奴に、右手を指した
今度は、間髪を入れずに、ズドーンと言う音が山々に木霊した、其奴の眉間に丸い穴が空いて、絶命した

「ま、待て話を聞こう」

恐らく副将格であろう一人が、話をつないだ、十造が話し出した

「先ず其処の、もう御一方、弓隊と鉄砲隊の様子を見て来られよ、その間此方の方と話をしておる」

あらためて、十造は話し出した

「そもそも、勘違いをしておられる、織田信長は、確かに本能寺で、死んだわ、しかし、考えてもみよ、織田の大軍団は健在、対して、明智の部隊は、精々二万五千、どう考えても歯が立たぬではないか、そして、お主達の部隊は、既に大将は、見ての通り首に成り果てた
確かに儂らは、少数よ、だがしかし、此処の兵達は、お主を失うとどうなる、この先面倒を見てくれるものもなく、野伏せりに成り果てるしかないぞ、兵を引くのも戦では無いのか、良く良く考えられよ」

先程、弓、鉄砲隊を見に行った兵が戻って、副将格に、何か囁いた

「解った、此にて兵は引き揚げる、何もしないと約束しよう
しかし、、、」

「解って居る、通行料の名で、なにがしか置いて行く、但し違えたならば、儂らは何処までも、お主達全部を追い掛ける、良いか」

「解った、よう解った、約束ぞ、最早此まで
おい、引き揚げるように伝えよ、早うにな」

六角の残党達は、幾ばくかの金品を貰い、山から引き揚げて行った

三郎と服部半蔵が話した通り、其処から先は、調略が上手く行って、伊賀や甲賀の反織田、徳川の敵は現れなかった

「のう、三郎よ、儂と佐助は、もう此処いらで良かろう、甲賀の家が近くてのう、駄目かの」

「そうですな、其に、そろそろ顔を確りと覚えられそうですな、服部様に伝えましょう、お待ちを」

「十造殿、服部様がお呼びです、佐助お前は、家康様がお呼びだ」

「えー、面倒くさいや、三郎殿聞いて来て」

「わはははは、馬鹿たれ、早く行かぬか」

「家康様、おいら帰るから早くしてね、話しって何」

「わはははは、まあそう言うな、世話になったの佐助、お前の言うた通り、親方は凄腕だの、見事な働きよ、どうじゃ、二人一緒に、浜松に来ぬか」

「えー、服部様や神部家がいるのに、贅沢だよ、もう天下だって、直ぐ其処なのに」

「未だよ、恐らく羽柴秀吉が先、誰にも申すな
儂ら諸国の者達は、一回休みか、振り出しよ、その中で、羽柴一人が前に進んで居る、儂らは、皆、後追いとなるであろう」

「え~家康様よりも先に、でも、大丈夫家康様も取れるよ、おいらが、請け負うよ、皆に言って良いよ」

「あはははは、わはははは、愉快愉快、佐助何時でも、儂に会いに来い、正面からでも、忍びでも、この家康が許す」

「家来衆が許しそうに無いけど、まあ良いや、解ったよ、それでは」

家康一行は、伊賀長太を目指し、十造と佐助は、甲賀を目指し別れた

「十造、おいら行きたい所があるんだけど
駄目かな」

佐助が、いつになく真剣だった

「佐助、気にするな、行って来い、銭は有るのか、もしも、人に会うのなら、一度風呂に入り、身だしなみも、しっかりしてからにせいよ」

「うん、そうするよ、二、三日で帰るから、銭も宿に泊まるほどあるよ
ちゃんと、楓姉ちゃんと波瑠には、土産買って帰るから」

「おう、無理するな」

十造と別れた佐助は、一路清洲を目指した、織田の領内、尾張は、混乱はして居なかった
兵卒が慌ただしく西へと向かっていた

佐助は、以前世話になった、寺の離れを借り、取り敢えず清洲城下の、古着屋へ入った

「御免、儂に、あう着物はどれかな」

すると、この店の、女将らしき女が出てきて

「あらまあ、いらっしゃいまし
御座いますとも
私が選んでも宜しいので」

「うん、何が良いか解らんし、頼むよ
大事な人に会うんだ」

「おやまあ、此は大変、では、此などいかがで御座いましょう」

「うん、女将が言うならば、其れでいいや」

「何とまあ、此から大事なお人に会おうと言うのに
そんな投げ槍な、それでは、事が上手く行きますまい」

「うん、どうせ会うのは、暗くなってからだし、其に、、、」

女将は、微笑んだ、この素直な若者が、すっかり気に入ってしまったのだ

「解りますとも、それならば、尚更綺麗にして行かねば、嫌われてしまいましょう
何処までお出かけなさるのでしょう」

「清洲の城だよ、今夜辺りにね」

大層な秘密を、まるで、そこいらの河原にでも、遊びに行くかのごとく言い放つ佐助に、女将は半ば呆れ、又、楽しそうに

「ほっ、忍が城の恋しい人に会うために、命をかけて忍び込むので、、、」

「忍び込むのは簡単さ、でも、此で多分、もう会えないよ、最後さ」

「そう、そうなんだ、あら、これが良いよ、似合ってる」

女将は親しげな口で、佐助の着物を見立てた

「うん、此で良いよ、三十で良いの、銀だと六くらいかな、いいよ負けてくれなくとも、見立ててくれたから」

「いらないよ、こんなに、気に入った客からは特にさ、じゃあ、お前様昼は未だなんだろう、家で食べて行きなよ、大した物はないけどさ」

「え~いいの、腹は減ってるけど、おいら、大飯喰いだよ
旦那さんの分無くなるよ」

「生憎と、旦那と子供は、流行り病で無くしたのさ、だから、ほら、早く家の方に入りなよ」

佐助は女将に促されるまま、食欲に負けて上がり込んだ

「久々だよ、人と飯を食べるなんて
ほらほら、若いんだから、どんどん食べなよ」

「うん、ありがとう、おいら佐助っての、女将さんは」

「あたしかい、あたしは、むぎ、って言うのさ、そうあの食べる麦にちなんで、麦飯位は、食べられる様にってね
でも、良く忍なんかやる気になったね
厳しいだろうに
あたしも、何人か見たけど、大変そうだったよ」

むぎが、しみじみと、遠い目になって語っている
佐助は、久々のまともな飯に、箸が止まらない

「ふーん、女将さんには、忍の知り合いがいるんだ」

「以前に世話になってさ、十造って言うのさ、手下に楓がいてさ、、、どうしたのさ、急に箸置いて」

「女将さん、甲賀の十造は、おいらの親方さ楓姉ちゃんは、親方と所帯を持って、波瑠って言う女の子が居るよ
大丈夫かい、泣かないで」

むぎは、忘れかけていた思い出や、忘れたい事、全てが一遍に、頭の中へ押し寄せていた
涙が止まらない、記憶の中から消していた、十造と楓の顔が思い浮かぶ

「御免なさい、むぎさん、おいら余計な事を言ってしまったんだね」

「違うよ佐助、あたしは、只生きて居ただけさ、あんたのお陰で、ちゃんと生きて居た時を、思い出したのさ
そうか、楓が子供をねー、そうか、へー、可愛いだろうな
ー、御免よ佐助、おかわりは」

「ご馳走様、もう、おいら、宿所に行くから、むぎさんありがとう御座いました」

「待ちなよ、佐助、あんたが、十造達の関わりと聞いて、そのままには出来ないね
今の所は引き払って、此処に来な、夜まで未だ、間があるだろ
待ってるからね
あんたに教える事がある、必ず来るんだよ、いいね」

佐助は言われた通り、むぎの古着屋へやって来た

「もう店は閉めたから、荷物は何処にでも置いていいよ、早く風呂に入りなよ
さあさあ、早く仕度しな」

むぎは、身だしなみを整えた佐助の髪に櫛をあてながら

「佐助、あんたも、相手も、初めてなんだろう、こういう時は、男が落ち着いて無いと、全てが台無しさ、良いかい優しく扱うんだよ、、、」

佐助は、薄暗い清洲の城へ潜入していた
相変わらずひっそりとして、潜り込むのが申し訳なく成る程であった

茶々の居る部屋を見張って居た、佐助は、思いきって茶々が、居ようが居まいが、部屋で待つ事にした
部屋には、誰も居ない、既に布団は敷いてあった、風呂にでも行ったのであろうと、灯明の影を作らない部屋の隅で待つ事にした

此処に来る途中、道端の橙色した、山百合を一輪摘んで、其を畳の上に置いた
佐助は、むぎの教えた通りにしていた
人の気配がしてきた
障子戸が空いて、それが茶々と、気付くまで間が空く程に、綺麗になった茶々が入って来た
戸を閉めるなり、泣きそうな声で

「佐助、来てるの、匂いで解る、佐助でしょ、百合よりも佐助が良い、佐助早く」

茶々が話しながら、灯明を消した

佐助は、立ち上がって茶々を、抱きしめた

「茶々、背が又延びて、綺麗になったな」

「本当に、嬉しいよ佐助、ああ、佐助の匂い、久しぶり」

佐助の腰に手を廻し、胸に顔を埋めて佐助を見上げる
二人は、息が止まるほど、唇を重ねていた
落ち着く場所が、布団の上しか無かったので、佐助は茶々を横抱きにして、二人は布団の上に座った

茶々が佐助の、あちこちを、優しく触りながら

「もう、会うのは、諦めていた、本当に嬉しい、朝なぞこなければ良い」

そう言いながら、茶々は、佐助の手を取って、寝巻きの合わせの中に入れた

「茶々、おいら、、、」

「佐助、一度布団から離れて、少し恥ずかしいから、、、
、、良いよ、来て」

佐助は、布団の外で、身に付けた物全てを取って、布団の中に入った
二人で抱き合い、唇を重ねる

「茶々、お前足が冷たいぞ、どうした」

「何と、底意地の悪い、そう思うなら、暖めてくれても良いものを」

そう、言いながらも、お互い足を絡め合う
もう、言葉は要らなかった、佐助は、師範(むぎ)の教え通り、茶々の髪を優しく撫で、首筋に唇をあて、胸に顔を付け、乳首を舐め、揉んだ、佐助は茶々の手を取り、握らせた、其だけで喜びが爆発しそうだった、自分は、茶々に指を使い出し、正気に戻る、だが、其処までだった、茶々が我慢しているのは解ったが、構わず進んだ、そして、直ぐに、むぎの言葉を思い出した

「良いかい、佐助、良く聞きな、本当に好きなら、その人と一緒に暮らせるのか考えな、男は良いけど、女は身分が上になる程、身動きが取れないんだよ、そして、連れ出しても、普通の生活はした事が無いんだよ、かえって可哀想な目に合うのさ、悪い事は言わない、あたしの、言う通りにしな」

佐助が終ったのは、手拭いの中だった
其でも良かった、お互い、もっと好きが増して居た
汲めども尽きぬ井戸の様に、二人は抱き合う

佐助の腕の中で茶々が言う

「佐助、私が寝入って居る間に出て行って、辛いもの、このまま、幸せな時が、夢であったと思いたい」

佐助は、返事の代わりに、茶々に重なる

やがて、朝を迎えようとしていた、佐助は、茶々を抱き締めたまま、眠らずに目を閉じていた、約束通り、茶々が寝て居るうちに、帰る仕度をせねば
背中を向けている茶々の顔をそっと覗き込むと、きつく目を瞑り、唇を血の気が失せるまで固く閉じていた
何の事はない、佐助が居なくなるのを唯唯、耐えて居るだけだった
佐助は、そんな茶々が愛しくて、愛しくて耐え切れない

「茶々、茶々」

此方に向かせ、唇を合わせる、茶々も目を閉じながらこたえた

「茶々、達者でな」

茶々は、泣いて返事が出来なかった

佐助は、辛かった、そして、惨めだった、茶々を幸せに出来ない事が、悲しく心に響いていた

情けない顔をして、佐助は、朝日を背にして、むぎの古着屋へと帰って来た



























































































































































































 


























































































































    
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