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狂宴の果て・安土桃色時代
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女どうしの情報網は侮れない
蘭丸が信長と会話している段階で、(蘭丸安土へ向かう)の報が街道を駆け抜けていた。
それは、早馬より速く伝達され、筆も、紙も必要がなかった。
女達は、"口述短文投稿、つぶやき"と呼んで重宝していた。
「蘭丸安土」たったそれだけの短い言葉が、髪結い、店、薬の行商等を通じて拡散されて行くのだ。
早い話しが伝言遊戯の拡大版である。
弱点もあった、必ずしも正確に伝わるとは限らない
そしてそれが長所でもあった
安土に、この情報がもたらせられた時、「まん丸あずき」と変形していた
だが、聞く者が聞くと、それが鍵言葉となり、「蘭丸安土」と解釈されるのだ。
「え~、蘭丸様が」「きゃ~」
未だ蘭丸に、会った事が無い、『安土若妻会』の面々は、あの、噂の美男子に会えるとあって気分が高揚していた。
一方清州当時の者達は、旧交を暖め合うと同時に、対蘭丸対策を話しあった
「てか、あ~し、てっきり、ごんちゃん(権六)かみっちー(光秀)だとおもってたよ、蘭ちゃんとはね
もしかして、のぶにぃからの寸志かなんかじゃね」
「織田は今や大所帯、信長様が近臣を呼んでも、直ぐには動けませぬ
たまたま蘭丸だけが居ったのでしょう」
「ふーん、じゃぁさ、蘭丸がひそひそひそ、、」
「織田家、家臣森蘭丸で御座る、殿の命により、罷り越しました
何方かおられましょうか」
「蘭丸、元気そうで何よりです
殿にはお変わり有りませぬか」
「これは、奥方様ご機嫌麗しゅう
直々のお出迎えとは、蘭丸恐縮至極に存じまする
信長様の御命令で、安土(城)の様子を見て参るようにと
この、わたくしめに」
「それはご苦労なこと、解りました
殿には、わたくしから、ご報告申し上げておきます
足りなければ、お市殿からも
それでどうじゃ」
「は、出来れば、蘭丸がこの目で確めたく存じます」
「ほう、この帰蝶では、不足があると言うのか、なるほど
しかし、蘭丸、こたびの集いは女達のみである
もしその場に、しかめ面の男が混じらば、折角の宴が台無し
そうじゃ、蘭丸そなたも、少し酒など召して、機嫌良く城内を見て回っては」
「し、しかし」
「誰か、こちらの殿方に酒を」
お女中からならまだしも、帰蝶直々の御酌では断れない
蘭丸は仕方無く飲む事にした
蘭丸が差し出した杯に帰蝶が微笑みながら酌をした
「さあさあ、駆けつけ三杯と申しますぞ」
「いただきまする」
三杯くらいならと、すう~っと一杯めを飲み干した
二杯目を注いで貰おうと、盃を差し出した手に力が入らない
コトンと盃が床に落ち、同時に蘭丸の体も力が抜けてしまった
帰蝶がニヤリ
「皆のもの、首尾は上々、手筈通りに進めよ」
蘭丸の酒には、眠り薬が入っていた
物陰に潜んでいた女達がわらわらと出てきて、蘭丸を天守閣まで運んで行く。
「ちょっと、お前、蘭様の何処触ってんのよ」
「何を言うか、おのれこそ、蘭丸様の袴に手を入れたくせに
この色気違い」
「静まらぬか、薬が切れる前に運ぶのじゃ」
薄暗かった、そしてぼんやりと明るくなる、ああ、わしは、どうやら夢を見ているのだな
血の気が失せた白い首、鮮血がしたたる真っ赤な口を開けて、大勢の者達が、わしを見て笑っておる
その内の一人に捕まった、顔を掴んで離さない、唇をすぼめてこのわしを吸い込もうとする
何とか引き離そうともがく
「う、ううう、おわっ」
蘭丸が目を覚ますと、女が蘭丸の顔を抑えて唇を奪いにきていた
全てが現実であった、蘭丸の事を聞き付けた者達は、日頃の二割増しで化粧をして、当然紅も濃く引いていた。
そして、寝ている蘭丸を取り囲んでいたのだ
「蘭丸様天守会へようこそ」
「ささ、蘭丸様お目覚めの一杯召しあがれ」
「まさか、これにも怪しげな薬が入ってはおるまいの」
「え~、やだった~疑われてる~それでは、わたくしに先に注いでくださいまし
あ、そうだ、毒やら何やら持っているかも知れませぬ
是非、わたくしめを裸にして、お改めくださいまし」
「蘭丸様騙されてはなりませぬ
わたくしは、毒など無くても蘭丸様を天国にお連れできます
是非、わたくしを裸に」
「蘭丸様騙されてはなりませぬ
こやつらは、安土に巣くう女狐の化身
わたくしこそ、蘭丸様の子を成す事ができます
是非わたくしを裸に」
「蘭丸様騙されてはなりませぬ
裸の蘭丸様を是非わたくしに」
蘭丸はもっと強力な眠り薬が欲しくなってきた。
お市が、唄いながら踊っている
「義~利と~人情うぉ~はかり~にかけりゃ~、はかり~がぁ重た~い、商売気質~」
「おいち、おいち、おいち」
相変わらず元気だった
「みんな~、今日も元気に鉄砲ぶっぱなそうずぅぇい、よろしくぅ~
さあ~火縄が熱いずぅぇい~」
火縄銃がドド~ン、ズド~ン
「蘭ちゃんげんき~お久~」
流石に突き抜けた明るさ、全ての者達を凌駕していた。
「ごめんね、うちら、きっとこれが最後になるよ
のぶにぃにもそう伝えて」
「何故にで御座いますか」
「上手く言えないけど
歴史を背負い過ぎたんじゃね、きっと
前はさ、みんなで、ひとつの戦に取り掛かったけど
今もう織田が大きく成りすぎちゃって、話題も違くなって、住まいも遠くてもう無理っす
だ~か~ら~、蘭ちゃんも、この三日間はじけなよ~」
「ヒエッ、み、三日間ん~」
三日後蘭丸は、京の信長の元へと帰ってきた
そして、お市が言っていた、これが最後になるとの話を、信長に報告した。
「蘭丸、大儀であったゆるりと休むが良い
おう、そうよ、伊勢より届いたアワビがある、持たせてしんぜよう」
「ヒエッ、アワビ、アワビ、あワワワワ、あわびと干しブドウ、いひひ、いひ、いひ」
「蘭丸、蘭丸、突然どうしたというのじゃ
しっかりせい、これ、蘭丸」
「殿、これは、光秀が見るには、蘭丸は、何か心に深い傷を負って戻って来たかと」
「ややっ、良く見ると蘭丸の身体、そちこちに、何かに吸われたような紅い印しがあるではないか、しっかりせい蘭丸」
「と、殿危のう御座いまする
もしや、蘭丸、流行り病に」
「え~い、わしが、信長が蘭丸を安土に行かせたばかりに
悔やんでも悔やみきれぬわ
こんなことなら、光秀に行かせればよかったものを」
光秀、心にわだかまり『あれっ、そゆこと言っちゃうんだ、光秀より蘭丸なのね、ほ~ん』
光秀は、笑って済ます程に単純に生きてはいなかった
「申しあげます、ただいま
安土城天守閣屏風絵絵師、狩野永徳様より修復代金のご請求がございます」
「申し上げます、安土城下、酒蔵、市の蔵より、酒代のご請求が御座います」
「申し上げます、小牧城主、織田信雄様より鉄砲五丁をお市様に貸したが、戻ってこないと連絡が」
「申し上げます、伊勢の漁師、勝浦水産より
この度安土城に於ける大量のご注文誠に、、、以下省略
請求書が届いております」
こうして、信長の元へ安土城に関する、報告や、請求書が三日間続いた
信長は三日間寝込んだ後、岐阜城へと帰っていった。
岐阜城大広間
権六以下、織田家の主だった家来が、五、六人信長に呼ばれて集まっていた。
「そのほう達を呼んだのは、他でもない
わしの、安土城への引っ越しはまもなくなのは、皆も知っての通り
あの怪しからん宴の後の修復も既に終えた
そして、そして、その修理費用も、宴の費用も、あろう事か自分の倅に鉄砲の代金まで」
「殿、お痛わしゅう御座います、殿のお気持ち、我ら一同察するにあまりありまする」
「うむ、そこでじゃ、今日ここに、かの下手人を呼びつけておる
安土に入る前に一度きっちりとけじめを着けねばと思うての
この信長は、たとえ自分の妹であっても決して甘くはない処を、皆に見てもらおうと思うての」
「殿、ここにおるもの、皆が感服いたしました
して、我等に何か、手伝う事は御座いましょうか」
「何もないわ
そなた達は、ただそこにいて
これから起こる事の生き証人として
妻子、部下に語ればそれで良いわ
尚、今日の事は帰蝶にもしらせては無いぞ
とりあえずは、先手必勝、いきなり、叱りつけてくれるわ
目にもの見せてくれる」
「ははっ」
「お市様、お子様方お越しに御座います」
「む、これへ通せ」
信長は、叱りつけようと、息を大きく吸った、その瞬間
まだ足元がおぼつかない、小さな女の子が走って来て、胡座の信長に正面から飛び付いた
そして、未だ達者ではない喋り方で
「のぶのぶ、しゅき、しゅき」
信長の両脇の着物にしがみつき胸に顔をぐりぐり押し付けた
お市の三女、江であった。
「こ、これこれ、わはは、わはは」
信長は完全に先手を取られた、自覚は無かったが、家臣一同
「駄目かも知れない」
そこへ、完璧な化粧をしたお市が綺麗な衣裳と共に、これまた綺麗な衣裳の、茶々と初が現れた。
家臣一同
「やはり、完全に機先を制された、駄目かも」
「叔父上様次女初に御座います、肩をお揉みさせていただきとう御座います」
「おう、初か、まさか、また隙を見てわしを刺そうとはすまいの、良かろうたのむぞ
お、お、なかなか上手いの」
「信長おじ、長女茶々に御座います、本日は、清州の美味しい地酒を御持ちしました、是非とも御賞味くださいまし
勿論、後家来衆の分も御座います」
「何、茶々が酌とな、飲まずばなるまい、だが、家臣はどういたす」
「後家来衆には、日頃よりの感謝を込めてこの市が
どうか、案じめされるな」
家臣一同
「あ~、もしかして、一番危険な形態かも
お市様の御酌なら、ま、いっか」
信長と家来たちに酔いがまわり始めたころ
茶々が信長に問うた
「ねえ、のぶおじさま、天下布武・織田信長と書いて花押が有れば公文書となると聞きましたが本当で御座いましょうか」
「いかにも、本当のことよ
それがどうしたのだ」
「素敵で御座いますな、わたくし達三姉妹それを魔除けの御札がわりにいただきとう御座います
ここに三枚の紙を持って参りました」
「容易いことよ、誰か筆を、わしが書いた後に、花押を頼む」
そうして茶々は三枚の無記載公文書を手に入れた。
「母ちゃん、おわったよ~」
市が、すっと立って信長の所へやって来た。
「兄上、この度のご用件はどの様な事で御座いましょうか」
茶々はすかさず家臣達に酌をしている
「おほん、この度の安土城修復費用は莫大な物である
しかしながら、全て信長の預かり知らぬところ、当事者が賄うべきと思うがどうか」
「おっしゃる通りに御座います
一月後までには、確実にお支払いいたしましょう」
にっこり微笑んで、娘達を連れて引き揚げて行った
「結局何もできませんでしたな」
「何を言うか、修復代金支払いを約束させたではないか」
それから、幾日もたたぬうちに
お市は、金三千、支払を終えた
信長は、嬉しくもなんともなっかった、ただ不安しかない。
お市は、どうやって、あの大金を工面したのか。
「殿、越後上杉より、織田の鉄砲五丁確かに受け取った
これからも金に困る事あらば
越後を頼るが良いと」
「なんじゃ、この思い切り上から見下ろす物言いは、、
最早、怒りもないぞ」
「はっ、密偵によりますと
ある日、富山早馬便にて、鉄砲五丁が届き、中の書状に金三千五百の無心があったそうな
しかも信長様の花押付きで」
「わしの花押、そして、鉄砲五丁、となると金三千五百の行き先は恐らく、、、」
「は、流石に信長様、まさしく岐阜城に御座います」
「いや、まさしく無いし、この流れで行くと、ど~あってもその金の行き先は、清州であろうが
まあよいわ、して受取人は」
「ははっ、岐阜城天守第二の間
織田、帰るに蝶様宛に御座います」
「あ~そっ、もいっかな、大体解ったし
明日は安土への引っ越しである
者共抜かるでないぞ
わははははっ、蘭丸、酒をもて~い
安心せい、怒っているわけではないわ
この信長、泣きたいだけじゃ」
この後、信長は三日間寝込んだ後に安土へと引っ越していった
安土の城は、信長の満足に足る出来映えであった、しかし、、
「滝川一益参上いたしました」
「おお、一益
築城苦労であった、呼んだのは他でもない
その方達の努力のかいあって、わしと帰蝶は、何不十無く過ごしておる
ただのう、思うに、この城は極端に、女手が少ない気がしての
たまに見かけても、妊婦が殆んど
あ、いや、特に怒っているわけではないわ
一益なら、その辺りの事情を知っておるかと思うての」
「はっ、お答えいたします
今を去ること、十月十日前のこと、間も無く完成の声があがろうかというその時
京より、やんごとなき美男子が現れ、女達がその、なんでして
きゃ~とか」
「あ、もう良い、解ったし
蘭丸が、城下を馬で忙しく駆け回ってるって、本当のことだったのか
で、その人数は」
「推定三十二人程かと」
「な、なんと、ひえ~~、やるなあいつ、あ、そうかやったのか」
「で、この城の女達は、あの当時を振り返り安土の桃色時代と称しておりまする」
蘭丸が信長と会話している段階で、(蘭丸安土へ向かう)の報が街道を駆け抜けていた。
それは、早馬より速く伝達され、筆も、紙も必要がなかった。
女達は、"口述短文投稿、つぶやき"と呼んで重宝していた。
「蘭丸安土」たったそれだけの短い言葉が、髪結い、店、薬の行商等を通じて拡散されて行くのだ。
早い話しが伝言遊戯の拡大版である。
弱点もあった、必ずしも正確に伝わるとは限らない
そしてそれが長所でもあった
安土に、この情報がもたらせられた時、「まん丸あずき」と変形していた
だが、聞く者が聞くと、それが鍵言葉となり、「蘭丸安土」と解釈されるのだ。
「え~、蘭丸様が」「きゃ~」
未だ蘭丸に、会った事が無い、『安土若妻会』の面々は、あの、噂の美男子に会えるとあって気分が高揚していた。
一方清州当時の者達は、旧交を暖め合うと同時に、対蘭丸対策を話しあった
「てか、あ~し、てっきり、ごんちゃん(権六)かみっちー(光秀)だとおもってたよ、蘭ちゃんとはね
もしかして、のぶにぃからの寸志かなんかじゃね」
「織田は今や大所帯、信長様が近臣を呼んでも、直ぐには動けませぬ
たまたま蘭丸だけが居ったのでしょう」
「ふーん、じゃぁさ、蘭丸がひそひそひそ、、」
「織田家、家臣森蘭丸で御座る、殿の命により、罷り越しました
何方かおられましょうか」
「蘭丸、元気そうで何よりです
殿にはお変わり有りませぬか」
「これは、奥方様ご機嫌麗しゅう
直々のお出迎えとは、蘭丸恐縮至極に存じまする
信長様の御命令で、安土(城)の様子を見て参るようにと
この、わたくしめに」
「それはご苦労なこと、解りました
殿には、わたくしから、ご報告申し上げておきます
足りなければ、お市殿からも
それでどうじゃ」
「は、出来れば、蘭丸がこの目で確めたく存じます」
「ほう、この帰蝶では、不足があると言うのか、なるほど
しかし、蘭丸、こたびの集いは女達のみである
もしその場に、しかめ面の男が混じらば、折角の宴が台無し
そうじゃ、蘭丸そなたも、少し酒など召して、機嫌良く城内を見て回っては」
「し、しかし」
「誰か、こちらの殿方に酒を」
お女中からならまだしも、帰蝶直々の御酌では断れない
蘭丸は仕方無く飲む事にした
蘭丸が差し出した杯に帰蝶が微笑みながら酌をした
「さあさあ、駆けつけ三杯と申しますぞ」
「いただきまする」
三杯くらいならと、すう~っと一杯めを飲み干した
二杯目を注いで貰おうと、盃を差し出した手に力が入らない
コトンと盃が床に落ち、同時に蘭丸の体も力が抜けてしまった
帰蝶がニヤリ
「皆のもの、首尾は上々、手筈通りに進めよ」
蘭丸の酒には、眠り薬が入っていた
物陰に潜んでいた女達がわらわらと出てきて、蘭丸を天守閣まで運んで行く。
「ちょっと、お前、蘭様の何処触ってんのよ」
「何を言うか、おのれこそ、蘭丸様の袴に手を入れたくせに
この色気違い」
「静まらぬか、薬が切れる前に運ぶのじゃ」
薄暗かった、そしてぼんやりと明るくなる、ああ、わしは、どうやら夢を見ているのだな
血の気が失せた白い首、鮮血がしたたる真っ赤な口を開けて、大勢の者達が、わしを見て笑っておる
その内の一人に捕まった、顔を掴んで離さない、唇をすぼめてこのわしを吸い込もうとする
何とか引き離そうともがく
「う、ううう、おわっ」
蘭丸が目を覚ますと、女が蘭丸の顔を抑えて唇を奪いにきていた
全てが現実であった、蘭丸の事を聞き付けた者達は、日頃の二割増しで化粧をして、当然紅も濃く引いていた。
そして、寝ている蘭丸を取り囲んでいたのだ
「蘭丸様天守会へようこそ」
「ささ、蘭丸様お目覚めの一杯召しあがれ」
「まさか、これにも怪しげな薬が入ってはおるまいの」
「え~、やだった~疑われてる~それでは、わたくしに先に注いでくださいまし
あ、そうだ、毒やら何やら持っているかも知れませぬ
是非、わたくしめを裸にして、お改めくださいまし」
「蘭丸様騙されてはなりませぬ
わたくしは、毒など無くても蘭丸様を天国にお連れできます
是非、わたくしを裸に」
「蘭丸様騙されてはなりませぬ
こやつらは、安土に巣くう女狐の化身
わたくしこそ、蘭丸様の子を成す事ができます
是非わたくしを裸に」
「蘭丸様騙されてはなりませぬ
裸の蘭丸様を是非わたくしに」
蘭丸はもっと強力な眠り薬が欲しくなってきた。
お市が、唄いながら踊っている
「義~利と~人情うぉ~はかり~にかけりゃ~、はかり~がぁ重た~い、商売気質~」
「おいち、おいち、おいち」
相変わらず元気だった
「みんな~、今日も元気に鉄砲ぶっぱなそうずぅぇい、よろしくぅ~
さあ~火縄が熱いずぅぇい~」
火縄銃がドド~ン、ズド~ン
「蘭ちゃんげんき~お久~」
流石に突き抜けた明るさ、全ての者達を凌駕していた。
「ごめんね、うちら、きっとこれが最後になるよ
のぶにぃにもそう伝えて」
「何故にで御座いますか」
「上手く言えないけど
歴史を背負い過ぎたんじゃね、きっと
前はさ、みんなで、ひとつの戦に取り掛かったけど
今もう織田が大きく成りすぎちゃって、話題も違くなって、住まいも遠くてもう無理っす
だ~か~ら~、蘭ちゃんも、この三日間はじけなよ~」
「ヒエッ、み、三日間ん~」
三日後蘭丸は、京の信長の元へと帰ってきた
そして、お市が言っていた、これが最後になるとの話を、信長に報告した。
「蘭丸、大儀であったゆるりと休むが良い
おう、そうよ、伊勢より届いたアワビがある、持たせてしんぜよう」
「ヒエッ、アワビ、アワビ、あワワワワ、あわびと干しブドウ、いひひ、いひ、いひ」
「蘭丸、蘭丸、突然どうしたというのじゃ
しっかりせい、これ、蘭丸」
「殿、これは、光秀が見るには、蘭丸は、何か心に深い傷を負って戻って来たかと」
「ややっ、良く見ると蘭丸の身体、そちこちに、何かに吸われたような紅い印しがあるではないか、しっかりせい蘭丸」
「と、殿危のう御座いまする
もしや、蘭丸、流行り病に」
「え~い、わしが、信長が蘭丸を安土に行かせたばかりに
悔やんでも悔やみきれぬわ
こんなことなら、光秀に行かせればよかったものを」
光秀、心にわだかまり『あれっ、そゆこと言っちゃうんだ、光秀より蘭丸なのね、ほ~ん』
光秀は、笑って済ます程に単純に生きてはいなかった
「申しあげます、ただいま
安土城天守閣屏風絵絵師、狩野永徳様より修復代金のご請求がございます」
「申し上げます、安土城下、酒蔵、市の蔵より、酒代のご請求が御座います」
「申し上げます、小牧城主、織田信雄様より鉄砲五丁をお市様に貸したが、戻ってこないと連絡が」
「申し上げます、伊勢の漁師、勝浦水産より
この度安土城に於ける大量のご注文誠に、、、以下省略
請求書が届いております」
こうして、信長の元へ安土城に関する、報告や、請求書が三日間続いた
信長は三日間寝込んだ後、岐阜城へと帰っていった。
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「そのほう達を呼んだのは、他でもない
わしの、安土城への引っ越しはまもなくなのは、皆も知っての通り
あの怪しからん宴の後の修復も既に終えた
そして、そして、その修理費用も、宴の費用も、あろう事か自分の倅に鉄砲の代金まで」
「殿、お痛わしゅう御座います、殿のお気持ち、我ら一同察するにあまりありまする」
「うむ、そこでじゃ、今日ここに、かの下手人を呼びつけておる
安土に入る前に一度きっちりとけじめを着けねばと思うての
この信長は、たとえ自分の妹であっても決して甘くはない処を、皆に見てもらおうと思うての」
「殿、ここにおるもの、皆が感服いたしました
して、我等に何か、手伝う事は御座いましょうか」
「何もないわ
そなた達は、ただそこにいて
これから起こる事の生き証人として
妻子、部下に語ればそれで良いわ
尚、今日の事は帰蝶にもしらせては無いぞ
とりあえずは、先手必勝、いきなり、叱りつけてくれるわ
目にもの見せてくれる」
「ははっ」
「お市様、お子様方お越しに御座います」
「む、これへ通せ」
信長は、叱りつけようと、息を大きく吸った、その瞬間
まだ足元がおぼつかない、小さな女の子が走って来て、胡座の信長に正面から飛び付いた
そして、未だ達者ではない喋り方で
「のぶのぶ、しゅき、しゅき」
信長の両脇の着物にしがみつき胸に顔をぐりぐり押し付けた
お市の三女、江であった。
「こ、これこれ、わはは、わはは」
信長は完全に先手を取られた、自覚は無かったが、家臣一同
「駄目かも知れない」
そこへ、完璧な化粧をしたお市が綺麗な衣裳と共に、これまた綺麗な衣裳の、茶々と初が現れた。
家臣一同
「やはり、完全に機先を制された、駄目かも」
「叔父上様次女初に御座います、肩をお揉みさせていただきとう御座います」
「おう、初か、まさか、また隙を見てわしを刺そうとはすまいの、良かろうたのむぞ
お、お、なかなか上手いの」
「信長おじ、長女茶々に御座います、本日は、清州の美味しい地酒を御持ちしました、是非とも御賞味くださいまし
勿論、後家来衆の分も御座います」
「何、茶々が酌とな、飲まずばなるまい、だが、家臣はどういたす」
「後家来衆には、日頃よりの感謝を込めてこの市が
どうか、案じめされるな」
家臣一同
「あ~、もしかして、一番危険な形態かも
お市様の御酌なら、ま、いっか」
信長と家来たちに酔いがまわり始めたころ
茶々が信長に問うた
「ねえ、のぶおじさま、天下布武・織田信長と書いて花押が有れば公文書となると聞きましたが本当で御座いましょうか」
「いかにも、本当のことよ
それがどうしたのだ」
「素敵で御座いますな、わたくし達三姉妹それを魔除けの御札がわりにいただきとう御座います
ここに三枚の紙を持って参りました」
「容易いことよ、誰か筆を、わしが書いた後に、花押を頼む」
そうして茶々は三枚の無記載公文書を手に入れた。
「母ちゃん、おわったよ~」
市が、すっと立って信長の所へやって来た。
「兄上、この度のご用件はどの様な事で御座いましょうか」
茶々はすかさず家臣達に酌をしている
「おほん、この度の安土城修復費用は莫大な物である
しかしながら、全て信長の預かり知らぬところ、当事者が賄うべきと思うがどうか」
「おっしゃる通りに御座います
一月後までには、確実にお支払いいたしましょう」
にっこり微笑んで、娘達を連れて引き揚げて行った
「結局何もできませんでしたな」
「何を言うか、修復代金支払いを約束させたではないか」
それから、幾日もたたぬうちに
お市は、金三千、支払を終えた
信長は、嬉しくもなんともなっかった、ただ不安しかない。
お市は、どうやって、あの大金を工面したのか。
「殿、越後上杉より、織田の鉄砲五丁確かに受け取った
これからも金に困る事あらば
越後を頼るが良いと」
「なんじゃ、この思い切り上から見下ろす物言いは、、
最早、怒りもないぞ」
「はっ、密偵によりますと
ある日、富山早馬便にて、鉄砲五丁が届き、中の書状に金三千五百の無心があったそうな
しかも信長様の花押付きで」
「わしの花押、そして、鉄砲五丁、となると金三千五百の行き先は恐らく、、、」
「は、流石に信長様、まさしく岐阜城に御座います」
「いや、まさしく無いし、この流れで行くと、ど~あってもその金の行き先は、清州であろうが
まあよいわ、して受取人は」
「ははっ、岐阜城天守第二の間
織田、帰るに蝶様宛に御座います」
「あ~そっ、もいっかな、大体解ったし
明日は安土への引っ越しである
者共抜かるでないぞ
わははははっ、蘭丸、酒をもて~い
安心せい、怒っているわけではないわ
この信長、泣きたいだけじゃ」
この後、信長は三日間寝込んだ後に安土へと引っ越していった
安土の城は、信長の満足に足る出来映えであった、しかし、、
「滝川一益参上いたしました」
「おお、一益
築城苦労であった、呼んだのは他でもない
その方達の努力のかいあって、わしと帰蝶は、何不十無く過ごしておる
ただのう、思うに、この城は極端に、女手が少ない気がしての
たまに見かけても、妊婦が殆んど
あ、いや、特に怒っているわけではないわ
一益なら、その辺りの事情を知っておるかと思うての」
「はっ、お答えいたします
今を去ること、十月十日前のこと、間も無く完成の声があがろうかというその時
京より、やんごとなき美男子が現れ、女達がその、なんでして
きゃ~とか」
「あ、もう良い、解ったし
蘭丸が、城下を馬で忙しく駆け回ってるって、本当のことだったのか
で、その人数は」
「推定三十二人程かと」
「な、なんと、ひえ~~、やるなあいつ、あ、そうかやったのか」
「で、この城の女達は、あの当時を振り返り安土の桃色時代と称しておりまする」
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青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
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大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
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ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
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聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
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・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
明治かんなぎ少女の冥契 五百年の時を超えて、あなたに愛を
花籠しずく
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――ですが、わたくしは生まれました。あなたに会うために。
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帰ってすぐに志貴に殴られ、月のものがはじまっていたことが志貴にばれる。琥珀を穢そうとする志貴の様子に恐ろしさを覚えて、助けてと叫んだその瞬間、闇を裂くようにして、蘿月が現れた。
「琥珀は、俺が五百年待ち望んだ花嫁だ」
これは、時を超えて紡がれる愛の物語。そして虐げられた少女が、愛を知り、愛のために生きる自由を選ぶ物語。
※R-15っぽいゆるい性描写があります。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
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