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三月ニ四日(月)
気質保護員の研修
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週末は金曜にテストプレイをやった三人とネット上でやりとりをしたくらいで、特に印象的な出来事はなかった。
今日の研修のことで会社の先輩が色々脅してくれたので、日曜の午後にもう一度テキストを読み直した。
今回の研修は気質保護員の経費に関するものであった。
四月からガイドラインが変更になり、今まで経費と認められなかったものが経費と認められるようになったり、その逆になるものがあるようだ。
自分に影響がありそうなところだと、担当する保有者と会うための交通費が今まで月八回までだったのが、月一〇回まで認められるようになるところだろうか。
金額的には大きくないけど、国が保有者と気質保護員が直接会う機会を重視しているというメッセージのように思える。
それ以外に大きいのは、保有者と連絡を取る際に用いるパソコンやスマートフォンについてだ。
これまでは二年に一度の買い替えが認められていたのだけど、これが四年に一度に延長された。
自分はあまりパソコンやスマホを買い替えるタイプではないので支障はなさそうだけど、最新のを持ちたい人にはちょっと厄介かもしれない。
研修はオンライン形式なので、今日は自宅で受けることにした。
カメラを常時起動しなければならないのは面倒だが、今いる部屋で映り込んで問題あるものはないから大丈夫だろう。
最初に講師が受講上の注意を説明する。
カメラを起動したままにしておくとか、講義中はマイクを切れとか基本的なことだ。
そして最初の講義が始まった。
今日の研修は一〇時から一六時半までで、午前中が講義、午後はケーススタディ形式のグループディスカッションだ。
昼休みが一時間、それとは別に一〇分の休憩が三度入るので、実質的には五時間となる。
最初の講義はガイドラインの変更点に関する説明だ。
これは結構キツい。
今回の講師は実例を出して面白く説明してくれるタイプなのでまだいいが、単純にガイドラインの文章を説明される講師に当たったときなど、どうしても眠くなる。
カメラの映像でこちらの様子をチェックされているので、寝てしまうのはマズい。
受講証明を発行してもらえず、再受講になってしまうからだ。
今回のガイドライン変更はかなり大規模で、変更点が多い。
自分が影響を受けるものはあまりないが、保有者の趣味に付き合う際に気質保護員に認められる経費の範囲が狭くなる。
これは気質保護員に金がかかりすぎているという批判を少しでも解消するのが狙いだろう。
しかし、趣味に付き合う以外での保有者との顔合わせに必要な経費は拡大される方向だ。
講師の言葉では「保有者の異変にいち早く気付くためにも、最低週二回は直接会うようにしてくださいという国からのメッセージです」とのことだ。
チャットやメールだけで確認を済ませる気質保護員も多いので、彼らに対する国からの警告ともいえる。
自分の場合は今のままでも何とか変更後の最低合格ラインには到達できている。
今より穏円さんと会うペースを落とさないように気をつけよう。
何とか午前中の講義を乗り切った。
眠くなりそうなタイミングで講師が休憩を入れてくれたのはありがたかった。
受講生の習性を見抜いてやっているとしたら、かなりのやり手なのだと思う。
午後は四人ずつのグループに別れてケーススタディだ。
提示されたケースには副業でビーチコーミングの仕事をしている保有者が登場した。
ビーチコーミングというのは海に流れ着いた貝殻や流木などを拾う仕事だと講師が教えてくれた。
アクセサリーか何かを作るのにこうした物を使ったりするので、それなりに需要はあるそうだ。
この仕事に気質保護員が同行する際、経費として認められるのはどこまでかを議論する。
「日数の問題がクリアできていれば宿泊費は問題なさそうですし、移動のための交通費も認められそうですね」
講師から指名されたので、自分が最初に発言した。
気質保護員は自分の意見を他人に押し付けないタイプの人に適性があるとよく言われている。
そのためか、こういうグループディスカッションでは自分から発言する人が少ない。
なので講師が指名して発言させる形にしているのだろう。
ちなみに自分は最初に指名されたのでかなり無難に答えた。
そうでないと後の人が答えにくくなるからだ。
「業務ということでしたら、海岸を歩くのに必要な靴や手を怪我しないための軍手なんかも良いと思います」
次に指名されたのは女性の受講者だった。
現在は保護対象の保有者、気質保護員共に男女比はほぼ五対五なので、受講者に女性がいても何の不思議もない。
グループの全員が一度ずつ発言した後、今度は経費になりそうなものを全員で挙げていくステップに入った。
前に受講した先輩によれば、ここからが厳しいところらしい。
発言が少ないのはマイナス評価になるらしいので、できるだけ他人の発言を遮らないようにして発言する。
講師の口ぶりからすると、経費になるかどうか微妙なラインの項目はとりあえず挙げておいて後で議論した方がよさそうだ。
(海岸での作業となると海に入る可能性もある……ライフジャケットとかもあった方がいいな……)
こんな感じで考えて経費に入りそうなものを挙げて、画面に表示されたホワイトボード上の付箋に書き込んでいく。
その次は各項目について「確実に経費」「確実に経費ではない」「わからない」のどれに該当するかグループで振り分けていく。
最後に「わからない」としたものについて、経費にすべきかどうかグループで議論する。
「ライフジャケット、ですか? これ議論してみてください」
講師からいきなり自分が挙げたライフジャケットについて議論せよと指示が飛んだ。
自分だって経費かどうかよくわからないものだったためか、グループのメンバーも経費に入れていいかどうか判断がつかなかった。
さすがにこの項目を出したのが自分なので、他のメンバーは発言しにくそうに見える。カメラの映像だけどね。
「海の近くの作業になるので、海に落ちた場合や波にさらわれた場合を考えると安全確保のために必要だと思います。釣りなどでも着用すべきという声があるようですし」
自分が最初に発言すると、少ししてから別のメンバーからツッコミが入った。
「……えーと、ビーチコーミングをやるような場所で海に落ちる危険はあまりないのではないでしょうか? ライフジャケットはした方が良いかもしれませんが、経費の面からは過剰のように思われます」
別のメンバーが疑問を投げかけてきた。
理解できないことはない話だ。
カメラで見た相手の様子からすると、講師から疑問を投げかけるよう言われたような気がする。
件の先輩や上司の床井さんがよく言っていることだが、法やガイドラインが変わる際は、新しいグレーゾーンが生まれる。
こうしたグレーゾーンになりやすいところを研修を通じて明らかにし、運用を決めていくのだそうだ。
なので、研修の場では正解を出すのではなく、グレーゾーンになりそうなところを突っついた方がポイントが高そうだ。
「……結論としてはビーチコーミングを実施する場所や状況に応じて必要可否を判断する。そして申請時には判断根拠を記載する、というところでしょうか。では次……」
ライフジャケットの件については、別のメンバーが取りまとめて議論終了。
無難な結論だが、これは経費に入る、入らないのどちらかに決めつけない方がよいケースだと思う。
法やガイドラインで明確に定められている部分はともかく、希少気質保有者保護制度に関してはグレーゾーンについてかなり柔軟だと自分は思う。
これがこの制度の良さでもあり、わかりにくさかな。
一五時半までケーススタディが続き、最後は予め想定されていたグレーゾーンに対する運用例の説明があった。
こういうのは参考になる。
会社によっては経費精算でミスった場合は自腹、というところもあるようだがうちの会社は上司の承認が得られていれば会社で経費を支払ってくれる。
そういう会社だからこそ、自分も純粋に研修に集中できたのだろうと思う。
これで受講したと認められれば万々歳だが、その連絡は後日だ。
今日の研修のことで会社の先輩が色々脅してくれたので、日曜の午後にもう一度テキストを読み直した。
今回の研修は気質保護員の経費に関するものであった。
四月からガイドラインが変更になり、今まで経費と認められなかったものが経費と認められるようになったり、その逆になるものがあるようだ。
自分に影響がありそうなところだと、担当する保有者と会うための交通費が今まで月八回までだったのが、月一〇回まで認められるようになるところだろうか。
金額的には大きくないけど、国が保有者と気質保護員が直接会う機会を重視しているというメッセージのように思える。
それ以外に大きいのは、保有者と連絡を取る際に用いるパソコンやスマートフォンについてだ。
これまでは二年に一度の買い替えが認められていたのだけど、これが四年に一度に延長された。
自分はあまりパソコンやスマホを買い替えるタイプではないので支障はなさそうだけど、最新のを持ちたい人にはちょっと厄介かもしれない。
研修はオンライン形式なので、今日は自宅で受けることにした。
カメラを常時起動しなければならないのは面倒だが、今いる部屋で映り込んで問題あるものはないから大丈夫だろう。
最初に講師が受講上の注意を説明する。
カメラを起動したままにしておくとか、講義中はマイクを切れとか基本的なことだ。
そして最初の講義が始まった。
今日の研修は一〇時から一六時半までで、午前中が講義、午後はケーススタディ形式のグループディスカッションだ。
昼休みが一時間、それとは別に一〇分の休憩が三度入るので、実質的には五時間となる。
最初の講義はガイドラインの変更点に関する説明だ。
これは結構キツい。
今回の講師は実例を出して面白く説明してくれるタイプなのでまだいいが、単純にガイドラインの文章を説明される講師に当たったときなど、どうしても眠くなる。
カメラの映像でこちらの様子をチェックされているので、寝てしまうのはマズい。
受講証明を発行してもらえず、再受講になってしまうからだ。
今回のガイドライン変更はかなり大規模で、変更点が多い。
自分が影響を受けるものはあまりないが、保有者の趣味に付き合う際に気質保護員に認められる経費の範囲が狭くなる。
これは気質保護員に金がかかりすぎているという批判を少しでも解消するのが狙いだろう。
しかし、趣味に付き合う以外での保有者との顔合わせに必要な経費は拡大される方向だ。
講師の言葉では「保有者の異変にいち早く気付くためにも、最低週二回は直接会うようにしてくださいという国からのメッセージです」とのことだ。
チャットやメールだけで確認を済ませる気質保護員も多いので、彼らに対する国からの警告ともいえる。
自分の場合は今のままでも何とか変更後の最低合格ラインには到達できている。
今より穏円さんと会うペースを落とさないように気をつけよう。
何とか午前中の講義を乗り切った。
眠くなりそうなタイミングで講師が休憩を入れてくれたのはありがたかった。
受講生の習性を見抜いてやっているとしたら、かなりのやり手なのだと思う。
午後は四人ずつのグループに別れてケーススタディだ。
提示されたケースには副業でビーチコーミングの仕事をしている保有者が登場した。
ビーチコーミングというのは海に流れ着いた貝殻や流木などを拾う仕事だと講師が教えてくれた。
アクセサリーか何かを作るのにこうした物を使ったりするので、それなりに需要はあるそうだ。
この仕事に気質保護員が同行する際、経費として認められるのはどこまでかを議論する。
「日数の問題がクリアできていれば宿泊費は問題なさそうですし、移動のための交通費も認められそうですね」
講師から指名されたので、自分が最初に発言した。
気質保護員は自分の意見を他人に押し付けないタイプの人に適性があるとよく言われている。
そのためか、こういうグループディスカッションでは自分から発言する人が少ない。
なので講師が指名して発言させる形にしているのだろう。
ちなみに自分は最初に指名されたのでかなり無難に答えた。
そうでないと後の人が答えにくくなるからだ。
「業務ということでしたら、海岸を歩くのに必要な靴や手を怪我しないための軍手なんかも良いと思います」
次に指名されたのは女性の受講者だった。
現在は保護対象の保有者、気質保護員共に男女比はほぼ五対五なので、受講者に女性がいても何の不思議もない。
グループの全員が一度ずつ発言した後、今度は経費になりそうなものを全員で挙げていくステップに入った。
前に受講した先輩によれば、ここからが厳しいところらしい。
発言が少ないのはマイナス評価になるらしいので、できるだけ他人の発言を遮らないようにして発言する。
講師の口ぶりからすると、経費になるかどうか微妙なラインの項目はとりあえず挙げておいて後で議論した方がよさそうだ。
(海岸での作業となると海に入る可能性もある……ライフジャケットとかもあった方がいいな……)
こんな感じで考えて経費に入りそうなものを挙げて、画面に表示されたホワイトボード上の付箋に書き込んでいく。
その次は各項目について「確実に経費」「確実に経費ではない」「わからない」のどれに該当するかグループで振り分けていく。
最後に「わからない」としたものについて、経費にすべきかどうかグループで議論する。
「ライフジャケット、ですか? これ議論してみてください」
講師からいきなり自分が挙げたライフジャケットについて議論せよと指示が飛んだ。
自分だって経費かどうかよくわからないものだったためか、グループのメンバーも経費に入れていいかどうか判断がつかなかった。
さすがにこの項目を出したのが自分なので、他のメンバーは発言しにくそうに見える。カメラの映像だけどね。
「海の近くの作業になるので、海に落ちた場合や波にさらわれた場合を考えると安全確保のために必要だと思います。釣りなどでも着用すべきという声があるようですし」
自分が最初に発言すると、少ししてから別のメンバーからツッコミが入った。
「……えーと、ビーチコーミングをやるような場所で海に落ちる危険はあまりないのではないでしょうか? ライフジャケットはした方が良いかもしれませんが、経費の面からは過剰のように思われます」
別のメンバーが疑問を投げかけてきた。
理解できないことはない話だ。
カメラで見た相手の様子からすると、講師から疑問を投げかけるよう言われたような気がする。
件の先輩や上司の床井さんがよく言っていることだが、法やガイドラインが変わる際は、新しいグレーゾーンが生まれる。
こうしたグレーゾーンになりやすいところを研修を通じて明らかにし、運用を決めていくのだそうだ。
なので、研修の場では正解を出すのではなく、グレーゾーンになりそうなところを突っついた方がポイントが高そうだ。
「……結論としてはビーチコーミングを実施する場所や状況に応じて必要可否を判断する。そして申請時には判断根拠を記載する、というところでしょうか。では次……」
ライフジャケットの件については、別のメンバーが取りまとめて議論終了。
無難な結論だが、これは経費に入る、入らないのどちらかに決めつけない方がよいケースだと思う。
法やガイドラインで明確に定められている部分はともかく、希少気質保有者保護制度に関してはグレーゾーンについてかなり柔軟だと自分は思う。
これがこの制度の良さでもあり、わかりにくさかな。
一五時半までケーススタディが続き、最後は予め想定されていたグレーゾーンに対する運用例の説明があった。
こういうのは参考になる。
会社によっては経費精算でミスった場合は自腹、というところもあるようだがうちの会社は上司の承認が得られていれば会社で経費を支払ってくれる。
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