12 / 33
三月二七日(木)
希少気質保有者の種の保存
しおりを挟む
今日は月二回の上司との面談だ。
半分仕事関係、それ以外が半分といった感じだ。
ちなみに社内での自分の所属は管理部希少気質保護課という。
うちの会社では部のトップはディレクターという役職になるのだが、うちの部は社長が兼任している。
課のトップはマネージャーで、うちの課は床井さんだ。
役職名が実際の役職より上っぽいのだが、これは社長の方針だ。
自分も役職上は「リーダー」なのだが、部下がいるわけではない。
担当する保有者がいる気質保護員は「リーダー」以上と社内規程で決められているからそうなっているだけだ。
ちゃんと役職手当が出るのでありがたい。
上司との面談は基本オンラインだ。
「……まずは月曜の研修お疲れさまでした。昨日、受講が認められたと連絡があったわ」
無事受講が認められてよかった。
先輩に散々脅されたけど、それが良かったのだと思う。
確かに予習無しではちょっと厳しい感じだったからだ。
「それと、そろそろ穏円さんの健康診断の時期だけど、予約はできた?」
「四月九日の水曜午前の部を取りました。あと、カウンセリングは一七日の一一時からです」
「なら問題なさそうね。穏円さんならすっぽかしたりもしないでしょうから。敢えて言えば……」
床井さんの声が重苦しいものになっていく。
「……『後継者育成プログラム』にもうちょっと参加してもらうのは難しそう?」
この問いに自分は「厳しい」としか答えられなかった。
「後継者育成プログラム」は、希少気質保有者保護からは切り離せない重要なものだ。
その一方で問題視する人も少なくない。
希少気質保護制度には、希少気質保有者そのものの保護と、希少気質保有者の数を減らさないことのふたつの側面がある。
人はいつか死ぬものだから、後者を実現するためには新しい希少気質保有者が必要になる。
新しい希少気質保護者の育成、すなわち彼らの子孫を残すためのしくみ、これこそが「後継者育成プログラム」である。
プログラムにはいくつか種類がある。
ひとつ目がもっとも国が力を入ていると思われる保有者同士の婚姻、である。
しかし、これは実現数がかなり少ない。
我が国の場合保護対象としている保有者の数が少なすぎる、という指摘が他国からされているそうなのでそれが原因かもしれない。
ちなみに、うちの会社で担当している保有者に他の保有者と結婚している人はいない。
ただ、他の保有者との結婚を希望している人は何人かいる。
ふたつ目は保有者と保有者でない人との婚姻だ。
こちらはひとつ目より実現数は多いらしいのだけど、それでも少ないらしい。
うちの会社で担当している保有者に該当する人が一人だけいる。
みっつ目は精子や卵子を提供するというもの。
この形で生まれた子供はニ〇名近くおり、三分の一が提供者である保有者の下で、残りの三分の二が里親に育てられている。
プログラムが批判されるのはこの形を認めているからだと思う。
ただ、保有者の側からすればハードルが低いようで、この形なら受け入れる、という人が多い。
希少気質がどの程度遺伝するかについてはまだ結論が出ていないが、両親ともに保有者でない場合、その子供が保有者である可能性は限りなくゼロに近いことがわかっているらしい。
そのため、保有者が子供を残すことにこだわる必要があるのだろう。
自分が担当する穏円さんもみっつ目だけ参加している。
ひとつ目とふたつ目は、「自分には適性が無さそう」と参加を拒否しているのだ。
自分が同じ選択を迫られたとしても、穏円さんと同じ選択をすると思う。
何となくだが、穏円さんの気持ちがわかるような気がするのだ。実際はまるでわかっていないのかもしれないけど。
会社や床井さんとしては、できれば穏円さんにもひとつ目かふたつ目に参加してほしいのだろう。
しかし無理強いはしたくない。
幸い、会社も床井さんも嫌がる相手に無理矢理、というタイプではないのでその点は大丈夫だろう。
「だよねぇ。そもそもそう言っている私が独身だし。うちの会社、独身多いからね……業種のせいなのかな?」
床井さんもこちらが「参加させます」と返事することをまるで期待していなかったようだ。
うちの会社に独身が多いのが業種のせいなのかはよくわからない。
床井さんの言葉を理解するには、自分の勤務する嬉経野デベロップサービスの事業を知っておく必要があるかも知れない。
もっとも、自分みたいに事業を知っておいても理解できない人もいるけど。
嬉経野デベロップサービスの主な事業はふたつ。
ひとつは自分も担当している希少気質保有者保護事業、
もうひとつは教育サービス事業だ。
こちらは社会人が自己啓発などで使う通信教育の教材を作る仕事だ。
もっとも、うちは小さな会社なので自社の名前で教材を売ってはいない。
大手の教育サービス会社からの依頼で教材を作成したり、逆に自社で作った教材を大手の教育サービス会社に売り込んでいく。
だからうちで作った教材は大手の会社の名前で売られている。
教育サービス業界に独身が多いという話は聞いたことがないのだけど、実際どうなのだろう?
「あら? 脱線しちゃったわね。『後継者育成プログラム』への対応については近いうちにミーティングがあるから、現状について調べておいてね」
そう言う床井さんは浮かない顔をしている。
あまり気乗りのしないミーティングなのだろうが、やらざるを得ないというのがよくわかる。
上司がこういう態度をとることを嫌う人もいるけど、自分にとってはありがたい。
やりたくてやっているのか、無理矢理他所からの命令でやらされているのかわかった方が自分にとっては動きやすいからだ。
その後は穏円さんの様子や、自分の業務の状況についていくつか質問された。
業務上でもプライベートでも困っていることはないかとも聞かれたが、今のところ特に困ったこともない。
敢えて言えば業務で使っているスマホのバッテリーの持ちが悪い、と答えた。
四月から経費精算のガイドラインが変わってスマホの交換がしにくくなるためか、床井さんは三一日着で新しいスマホに交換してくれると約束してくれた。
こういうところは頼りになる。
床井さんとの面談が終わってから、穏円さんと何度か連絡を取った。
近いうちにこの前テストプレイに参加したゲームのお披露目をやるので、その日程調整をしているそうだ。
空いた時間を使って自分は「後継者育成プログラム」について調べることにした。
床井さんがミーティングの話題にすると言っていたから、事前準備も無しに臨むのは危ないような気がする。
自分が調べたのは、過去にどのようなパターンで保有者の子供が生まれたかだ。
去年の年末くらいの研修で説明があったので、その資料を引っ張り出してきた。
紙の資料じゃないから、ノートパソコンのフォルダからだけど。
この研修では「後継者育成プログラム」の説明が主だった。
子供が生まれたケースは参考資料に書かれていただけだ。
参考資料については「後で読んでおいてください」と説明が省略されていたし、後で読み返すほど自分も律儀ではない。
まさか、このような形で読み返すことになろうとは……
ケースとしては圧倒的に精子や卵子の提供からのパターンが多い。
それはともかくとして、結婚を希望する人が少なくないのは意外だった。
ただ、相手を見つけるのに苦労しているようだ。
どういう訳か保有者同士の結婚はほぼないらしい。
保護対象かどうかにかかわらず、希少気質の保有者同士という組み合わせがないのは不思議だ。
保護対象の保有者とそれ以外の場合だと、保有者が国、正確には担当気質保護員に管理されているように見えるのが嫌がられるらしい。
実際に管理がないとは言えないから、こういうのを嫌がる人がいるのは理解できる。
保護対象の保有者はこういう管理をあまり気にしないタイプなのだろう。
なかなか難しいものだ。
半分仕事関係、それ以外が半分といった感じだ。
ちなみに社内での自分の所属は管理部希少気質保護課という。
うちの会社では部のトップはディレクターという役職になるのだが、うちの部は社長が兼任している。
課のトップはマネージャーで、うちの課は床井さんだ。
役職名が実際の役職より上っぽいのだが、これは社長の方針だ。
自分も役職上は「リーダー」なのだが、部下がいるわけではない。
担当する保有者がいる気質保護員は「リーダー」以上と社内規程で決められているからそうなっているだけだ。
ちゃんと役職手当が出るのでありがたい。
上司との面談は基本オンラインだ。
「……まずは月曜の研修お疲れさまでした。昨日、受講が認められたと連絡があったわ」
無事受講が認められてよかった。
先輩に散々脅されたけど、それが良かったのだと思う。
確かに予習無しではちょっと厳しい感じだったからだ。
「それと、そろそろ穏円さんの健康診断の時期だけど、予約はできた?」
「四月九日の水曜午前の部を取りました。あと、カウンセリングは一七日の一一時からです」
「なら問題なさそうね。穏円さんならすっぽかしたりもしないでしょうから。敢えて言えば……」
床井さんの声が重苦しいものになっていく。
「……『後継者育成プログラム』にもうちょっと参加してもらうのは難しそう?」
この問いに自分は「厳しい」としか答えられなかった。
「後継者育成プログラム」は、希少気質保有者保護からは切り離せない重要なものだ。
その一方で問題視する人も少なくない。
希少気質保護制度には、希少気質保有者そのものの保護と、希少気質保有者の数を減らさないことのふたつの側面がある。
人はいつか死ぬものだから、後者を実現するためには新しい希少気質保有者が必要になる。
新しい希少気質保護者の育成、すなわち彼らの子孫を残すためのしくみ、これこそが「後継者育成プログラム」である。
プログラムにはいくつか種類がある。
ひとつ目がもっとも国が力を入ていると思われる保有者同士の婚姻、である。
しかし、これは実現数がかなり少ない。
我が国の場合保護対象としている保有者の数が少なすぎる、という指摘が他国からされているそうなのでそれが原因かもしれない。
ちなみに、うちの会社で担当している保有者に他の保有者と結婚している人はいない。
ただ、他の保有者との結婚を希望している人は何人かいる。
ふたつ目は保有者と保有者でない人との婚姻だ。
こちらはひとつ目より実現数は多いらしいのだけど、それでも少ないらしい。
うちの会社で担当している保有者に該当する人が一人だけいる。
みっつ目は精子や卵子を提供するというもの。
この形で生まれた子供はニ〇名近くおり、三分の一が提供者である保有者の下で、残りの三分の二が里親に育てられている。
プログラムが批判されるのはこの形を認めているからだと思う。
ただ、保有者の側からすればハードルが低いようで、この形なら受け入れる、という人が多い。
希少気質がどの程度遺伝するかについてはまだ結論が出ていないが、両親ともに保有者でない場合、その子供が保有者である可能性は限りなくゼロに近いことがわかっているらしい。
そのため、保有者が子供を残すことにこだわる必要があるのだろう。
自分が担当する穏円さんもみっつ目だけ参加している。
ひとつ目とふたつ目は、「自分には適性が無さそう」と参加を拒否しているのだ。
自分が同じ選択を迫られたとしても、穏円さんと同じ選択をすると思う。
何となくだが、穏円さんの気持ちがわかるような気がするのだ。実際はまるでわかっていないのかもしれないけど。
会社や床井さんとしては、できれば穏円さんにもひとつ目かふたつ目に参加してほしいのだろう。
しかし無理強いはしたくない。
幸い、会社も床井さんも嫌がる相手に無理矢理、というタイプではないのでその点は大丈夫だろう。
「だよねぇ。そもそもそう言っている私が独身だし。うちの会社、独身多いからね……業種のせいなのかな?」
床井さんもこちらが「参加させます」と返事することをまるで期待していなかったようだ。
うちの会社に独身が多いのが業種のせいなのかはよくわからない。
床井さんの言葉を理解するには、自分の勤務する嬉経野デベロップサービスの事業を知っておく必要があるかも知れない。
もっとも、自分みたいに事業を知っておいても理解できない人もいるけど。
嬉経野デベロップサービスの主な事業はふたつ。
ひとつは自分も担当している希少気質保有者保護事業、
もうひとつは教育サービス事業だ。
こちらは社会人が自己啓発などで使う通信教育の教材を作る仕事だ。
もっとも、うちは小さな会社なので自社の名前で教材を売ってはいない。
大手の教育サービス会社からの依頼で教材を作成したり、逆に自社で作った教材を大手の教育サービス会社に売り込んでいく。
だからうちで作った教材は大手の会社の名前で売られている。
教育サービス業界に独身が多いという話は聞いたことがないのだけど、実際どうなのだろう?
「あら? 脱線しちゃったわね。『後継者育成プログラム』への対応については近いうちにミーティングがあるから、現状について調べておいてね」
そう言う床井さんは浮かない顔をしている。
あまり気乗りのしないミーティングなのだろうが、やらざるを得ないというのがよくわかる。
上司がこういう態度をとることを嫌う人もいるけど、自分にとってはありがたい。
やりたくてやっているのか、無理矢理他所からの命令でやらされているのかわかった方が自分にとっては動きやすいからだ。
その後は穏円さんの様子や、自分の業務の状況についていくつか質問された。
業務上でもプライベートでも困っていることはないかとも聞かれたが、今のところ特に困ったこともない。
敢えて言えば業務で使っているスマホのバッテリーの持ちが悪い、と答えた。
四月から経費精算のガイドラインが変わってスマホの交換がしにくくなるためか、床井さんは三一日着で新しいスマホに交換してくれると約束してくれた。
こういうところは頼りになる。
床井さんとの面談が終わってから、穏円さんと何度か連絡を取った。
近いうちにこの前テストプレイに参加したゲームのお披露目をやるので、その日程調整をしているそうだ。
空いた時間を使って自分は「後継者育成プログラム」について調べることにした。
床井さんがミーティングの話題にすると言っていたから、事前準備も無しに臨むのは危ないような気がする。
自分が調べたのは、過去にどのようなパターンで保有者の子供が生まれたかだ。
去年の年末くらいの研修で説明があったので、その資料を引っ張り出してきた。
紙の資料じゃないから、ノートパソコンのフォルダからだけど。
この研修では「後継者育成プログラム」の説明が主だった。
子供が生まれたケースは参考資料に書かれていただけだ。
参考資料については「後で読んでおいてください」と説明が省略されていたし、後で読み返すほど自分も律儀ではない。
まさか、このような形で読み返すことになろうとは……
ケースとしては圧倒的に精子や卵子の提供からのパターンが多い。
それはともかくとして、結婚を希望する人が少なくないのは意外だった。
ただ、相手を見つけるのに苦労しているようだ。
どういう訳か保有者同士の結婚はほぼないらしい。
保護対象かどうかにかかわらず、希少気質の保有者同士という組み合わせがないのは不思議だ。
保護対象の保有者とそれ以外の場合だと、保有者が国、正確には担当気質保護員に管理されているように見えるのが嫌がられるらしい。
実際に管理がないとは言えないから、こういうのを嫌がる人がいるのは理解できる。
保護対象の保有者はこういう管理をあまり気にしないタイプなのだろう。
なかなか難しいものだ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる