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六月ニ六日(木)
結果報告・希少気質保護制度について思うこと
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二日間のヒアリングが終わった翌日の六月ニ〇日、慰労会が行われた。
嬉経野デベロップサービスで夜に飲み会が行われるのは異例のことだ。
社員の懇親会は昼の業務時間中に行うというのが社長の方針で、懇親会は業務扱いとなる。
さすがに今回のヒアリングは相当厳しかったようで、飲みでもしないとやっていられないという意見が多かったようだ。
その翌週の木曜日が査定の結果発表であった。
国から電子データで会社宛に送られてくるそうだ。
各気質保護員には、床井さんとの面談の形で結果が報告される。
国からのヒアリングはトップバッターだった自分だが、結果報告の面談は最後の番になると床井さんから告げられた。
先輩社員によれば、床井さんとの面談が後ろの方の順番になるのは国からのコメントが多い奴ということになるらしい。
ヒアリングで何かマズい答えをしたのかもしれないが、今更結果が変わるわけでもない。
静かに面談の時間を待つだけだ。
今回の面談はオンラインになるので、それまでは家で仕事をしている。
穏円さんが連絡を入れてきてくれているのだが、査定の結果を気にかけてくれているのがわかる。
気を遣わせてしまって申し訳ない気分だ。
チャットツールに面談の状況をアップしてくる先輩社員もいる。
床井さんも見られる場所なのだけど、別に機密事項でない限り面談の内容を共有することは禁じられていない。
むしろ「こういう行動がこういう評価につながった」という情報共有はありがたいくらいだ。だから禁じられていないのだろう。
チャットツールを見ると、担当している保有者や気質保護員自身の外出については色々ツッコまれていることがわかる。
予定時間を大きく過ぎて帰宅するケースが指摘の対象となるようだ。
大きく、といっても一五分かニ〇分くらいが目安になっているようで割と厳しい。
今のところ警告や担当交代を喰らったという報告はないが、改善した方がよいという指摘を受けている人が続出しているようだ。
明確に基準として示されているわけではないが、改善した方がよいというポイントが三ヶ所あると警告が発せられると言われている。
先輩社員のコメントを見る限り、改善した方がよいというポイントを二ヶ所指摘された人が何人かいるようだ。
これだと最後に面談を受ける自分は警告を受ける覚悟が必要かもしれない。
先に面談を受けた先輩たちのコメントを追っかけているうちに自分の番が来てしまった。
ノートパソコンの画面に床井さんの姿が映し出された。
「有触さんの番ね。査定のコメントからお伝えします」
どうやら結果は後に報告されるらしい。
「まず、担当保有者との距離が近すぎるのではないか? という意見が一部の査定委員からあったそうです。これについては、保護対象保有者の精神的安寧の確保に有効だという反対意見もあったとのことです。こちらの件については指摘ではなく、査定委員の中で議論があったとだけ書かれています」
「それって、指摘ではない、ということでしょうか?」
「そうなります。上司としての私の意見は、この件については有触さんの思うように対応してください、ということになります」
良かった点についてはそう評価してくれるし、問題があれば指摘されると聞いていたが、評価がないコメントがあるとは知らなかった。
どうしたものかと考えていると床井さんが、
「国は有触さんのスタンスについてはNGを突きつけなかったのだから問題はないです。社は有触さんのスタンスを支持します」
と言ってくれた。どうやら今までのやり方を変えないで良いらしい。
「次のコメントですが、ゲームを作るという活動への支援については『良い』という評価が入っています。グッドポイントですね」
床井さんがぐっと拳を握ってみせた。
「……それで次ですが……」
いよいよ来たか、と身構えた。流れから悪い評価が来るのは予想できる。
「……外出の件ですが、有触さんは他の会社が担当されている保有者や気質保護員の方との交流が多いですね。これは私が許可していることでもあるので、私へのコメントでもあるのですが」
「……他といっても自分の周りのことしか知らないので、取り立てて自分が他社の人との付き合いが多いかはわからないのですけど」
「……国からのコメントを読みます。『四月の事件以降、今のところ保有者やG.T.T(気質保護員)を狙った事件は発生していないが、一ヶ所に多くの保有者やG.T.Tが集まることのリスクは高いと思われる。一定のリスク軽減策は講じられていると考えられるが、更なるリスク軽減策が必要と判断する』です。これが改善した方がよいという指摘となっています」
「この件ですが、穏円さんや東神さん、柳河さんとかを一ヶ所に集めるな、ということではないですよね?」
この部分だけは確認しておく必要がある、と思った。
オンラインでつながるのも良いが、ゲームの性質によっては集まったほうが良いものもある。
「これは私の個人的な意見ですが、保有者や担当気質保護員が集まる場に参加できるというのは有触さんの強みだと思っています。国からのコメントにも『保有者同士の交流を推進している点は評価できる』とあるので、自信を持ってください。国からのは東神さんに戸代さんを紹介した件についての評価みたいですけど」
そう言ってもらえるのはありがたいが、現状を変えないと来年も同じ指摘を受けるのではないか?
改善すべき、という指摘から警告に格上げされる可能性もあるのではないか?
「……対策が必要だということは理解しています。これは有触さん一人の問題ではありません。これから警備会社との契約の見直し、安全な移動手段の確保のための予算を国に申請します」
これで十分かどうかはわからないが、会社としてもノーアイデアではないということらしい。
「他にもできることがあるかも知れません。部門会議などでも相談したいです」
自分には今のところアイデアがないから、このくらいしか言えなかった。
穏円さんやその周りの人が不便になるようなことはできるだけ避けたいので、何かいいアイデアが欲しいところだ。
「国からのコメントは以上です。警告や担当交代ということはないので安心してくださいね」
どうやら今回の査定は無事乗り切ったらしい。
最後に床井さんが希少気質保護課の全員を集めた。といってもオンラインだけど。
そこで多くの改善した方が良いポイントを指摘されたが、警告や担当交代とされた気質保護員はいなかったという報告があった。
事前に聞いていた話では二割くらいの気質保護員が警告を喰らっていたみたいだから、これは相当優秀な数字のはずだ。
面談を終えて穏円さん、東神さんに警告も担当交代もなく無事だったことを伝えた。
特に多桜さんとの情報共有の場を作ってくれた東神さんには、いくらお礼を言っても足らないくらいだ。
自分は気質保護員であるけど、保護対象のはずの保有者によって守られているのだなと感じる。
穏円さんたちの安全確保については、これからより一層注意しなければならないだろう。
今後の活動の参考にするため、希少気質保護活動に反感を持つ人たちはどのような考えで反対しているのか、ネット上でそうした声を探ってみた。
ある程度納得できるものもあったし、まったく納得できないものもあった。
ただ、こうした考えや意見があることを肝に銘じておいた方がいいだろう。
自分は穏円さんのように確固たる考えがあって希少気質保護の仕事をしているわけではない。
それでもこの仕事に就いてから一年八ヶ月くらいになるので、少しは意見らしいものが持てるようになったと思う。
穏円さんや東神さんを見ていると、保護対象の保有者という仕事が彼らに合っているということを改めて知ることができた。
他の人がどう思うかはわからないが、自分は穏円さんや東神さんのような人たちと接するのが好きだ。
上手には言えないが、彼らと接するのには「構え」が必要ない。
接するのに構えが必要がない状態は人間らしいと思う。
自分が彼らに接している状態は人間らしくあると思うし、彼らは非常に人間らしいのだろう。
こうした人間らしい人たちが安心して暮らせる希少気質保護制度がこれからも続いてほしいと思う。
彼らのような人たちが増えた世の中は今よりも暮らしやすいのではないかな。
嬉経野デベロップサービスで夜に飲み会が行われるのは異例のことだ。
社員の懇親会は昼の業務時間中に行うというのが社長の方針で、懇親会は業務扱いとなる。
さすがに今回のヒアリングは相当厳しかったようで、飲みでもしないとやっていられないという意見が多かったようだ。
その翌週の木曜日が査定の結果発表であった。
国から電子データで会社宛に送られてくるそうだ。
各気質保護員には、床井さんとの面談の形で結果が報告される。
国からのヒアリングはトップバッターだった自分だが、結果報告の面談は最後の番になると床井さんから告げられた。
先輩社員によれば、床井さんとの面談が後ろの方の順番になるのは国からのコメントが多い奴ということになるらしい。
ヒアリングで何かマズい答えをしたのかもしれないが、今更結果が変わるわけでもない。
静かに面談の時間を待つだけだ。
今回の面談はオンラインになるので、それまでは家で仕事をしている。
穏円さんが連絡を入れてきてくれているのだが、査定の結果を気にかけてくれているのがわかる。
気を遣わせてしまって申し訳ない気分だ。
チャットツールに面談の状況をアップしてくる先輩社員もいる。
床井さんも見られる場所なのだけど、別に機密事項でない限り面談の内容を共有することは禁じられていない。
むしろ「こういう行動がこういう評価につながった」という情報共有はありがたいくらいだ。だから禁じられていないのだろう。
チャットツールを見ると、担当している保有者や気質保護員自身の外出については色々ツッコまれていることがわかる。
予定時間を大きく過ぎて帰宅するケースが指摘の対象となるようだ。
大きく、といっても一五分かニ〇分くらいが目安になっているようで割と厳しい。
今のところ警告や担当交代を喰らったという報告はないが、改善した方がよいという指摘を受けている人が続出しているようだ。
明確に基準として示されているわけではないが、改善した方がよいというポイントが三ヶ所あると警告が発せられると言われている。
先輩社員のコメントを見る限り、改善した方がよいというポイントを二ヶ所指摘された人が何人かいるようだ。
これだと最後に面談を受ける自分は警告を受ける覚悟が必要かもしれない。
先に面談を受けた先輩たちのコメントを追っかけているうちに自分の番が来てしまった。
ノートパソコンの画面に床井さんの姿が映し出された。
「有触さんの番ね。査定のコメントからお伝えします」
どうやら結果は後に報告されるらしい。
「まず、担当保有者との距離が近すぎるのではないか? という意見が一部の査定委員からあったそうです。これについては、保護対象保有者の精神的安寧の確保に有効だという反対意見もあったとのことです。こちらの件については指摘ではなく、査定委員の中で議論があったとだけ書かれています」
「それって、指摘ではない、ということでしょうか?」
「そうなります。上司としての私の意見は、この件については有触さんの思うように対応してください、ということになります」
良かった点についてはそう評価してくれるし、問題があれば指摘されると聞いていたが、評価がないコメントがあるとは知らなかった。
どうしたものかと考えていると床井さんが、
「国は有触さんのスタンスについてはNGを突きつけなかったのだから問題はないです。社は有触さんのスタンスを支持します」
と言ってくれた。どうやら今までのやり方を変えないで良いらしい。
「次のコメントですが、ゲームを作るという活動への支援については『良い』という評価が入っています。グッドポイントですね」
床井さんがぐっと拳を握ってみせた。
「……それで次ですが……」
いよいよ来たか、と身構えた。流れから悪い評価が来るのは予想できる。
「……外出の件ですが、有触さんは他の会社が担当されている保有者や気質保護員の方との交流が多いですね。これは私が許可していることでもあるので、私へのコメントでもあるのですが」
「……他といっても自分の周りのことしか知らないので、取り立てて自分が他社の人との付き合いが多いかはわからないのですけど」
「……国からのコメントを読みます。『四月の事件以降、今のところ保有者やG.T.T(気質保護員)を狙った事件は発生していないが、一ヶ所に多くの保有者やG.T.Tが集まることのリスクは高いと思われる。一定のリスク軽減策は講じられていると考えられるが、更なるリスク軽減策が必要と判断する』です。これが改善した方がよいという指摘となっています」
「この件ですが、穏円さんや東神さん、柳河さんとかを一ヶ所に集めるな、ということではないですよね?」
この部分だけは確認しておく必要がある、と思った。
オンラインでつながるのも良いが、ゲームの性質によっては集まったほうが良いものもある。
「これは私の個人的な意見ですが、保有者や担当気質保護員が集まる場に参加できるというのは有触さんの強みだと思っています。国からのコメントにも『保有者同士の交流を推進している点は評価できる』とあるので、自信を持ってください。国からのは東神さんに戸代さんを紹介した件についての評価みたいですけど」
そう言ってもらえるのはありがたいが、現状を変えないと来年も同じ指摘を受けるのではないか?
改善すべき、という指摘から警告に格上げされる可能性もあるのではないか?
「……対策が必要だということは理解しています。これは有触さん一人の問題ではありません。これから警備会社との契約の見直し、安全な移動手段の確保のための予算を国に申請します」
これで十分かどうかはわからないが、会社としてもノーアイデアではないということらしい。
「他にもできることがあるかも知れません。部門会議などでも相談したいです」
自分には今のところアイデアがないから、このくらいしか言えなかった。
穏円さんやその周りの人が不便になるようなことはできるだけ避けたいので、何かいいアイデアが欲しいところだ。
「国からのコメントは以上です。警告や担当交代ということはないので安心してくださいね」
どうやら今回の査定は無事乗り切ったらしい。
最後に床井さんが希少気質保護課の全員を集めた。といってもオンラインだけど。
そこで多くの改善した方が良いポイントを指摘されたが、警告や担当交代とされた気質保護員はいなかったという報告があった。
事前に聞いていた話では二割くらいの気質保護員が警告を喰らっていたみたいだから、これは相当優秀な数字のはずだ。
面談を終えて穏円さん、東神さんに警告も担当交代もなく無事だったことを伝えた。
特に多桜さんとの情報共有の場を作ってくれた東神さんには、いくらお礼を言っても足らないくらいだ。
自分は気質保護員であるけど、保護対象のはずの保有者によって守られているのだなと感じる。
穏円さんたちの安全確保については、これからより一層注意しなければならないだろう。
今後の活動の参考にするため、希少気質保護活動に反感を持つ人たちはどのような考えで反対しているのか、ネット上でそうした声を探ってみた。
ある程度納得できるものもあったし、まったく納得できないものもあった。
ただ、こうした考えや意見があることを肝に銘じておいた方がいいだろう。
自分は穏円さんのように確固たる考えがあって希少気質保護の仕事をしているわけではない。
それでもこの仕事に就いてから一年八ヶ月くらいになるので、少しは意見らしいものが持てるようになったと思う。
穏円さんや東神さんを見ていると、保護対象の保有者という仕事が彼らに合っているということを改めて知ることができた。
他の人がどう思うかはわからないが、自分は穏円さんや東神さんのような人たちと接するのが好きだ。
上手には言えないが、彼らと接するのには「構え」が必要ない。
接するのに構えが必要がない状態は人間らしいと思う。
自分が彼らに接している状態は人間らしくあると思うし、彼らは非常に人間らしいのだろう。
こうした人間らしい人たちが安心して暮らせる希少気質保護制度がこれからも続いてほしいと思う。
彼らのような人たちが増えた世の中は今よりも暮らしやすいのではないかな。
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