ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十五章

684:無聊

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 ポータル・シティの次に問題が表面化したのは、インデストであった。
 ポータル・シティの海岸部にあるOP社本社がデモ隊に占拠されてから一週間後の五月二〇日、IMPU参加企業の操業停止を求めてデモ隊が鉄鉱石の採掘場を占拠するという事件が発生したのだ。

 インデストの電力不足はポータル・シティやハモネスよりもはるかに深刻で、一般の商店や飲食店などは、交代で週に二、三日程度営業せざるを得ない状況だった。
 一般家庭への電力供給も滞り始め、昼間は停電情報が報じられない時間帯がない有様だ。
 そこにIMPU参加企業には潤沢に電力が供給されている、という噂が流れ、不満を持った人々が採掘場に殺到したのである。
 実際のところ、IMPU参加企業の状況は更に悲惨で、電力の供給が不足していることにより操業度は二割程度にまで落ち込んでいた。
 IMPUの生産活動が滞ることでインデストの発電所への部品供給がストップし、その結果、発電効率が更に落ちるという悪循環に陥っていた。
 補修部品を製造するのに必要な金属材料の生産量が著しく減少したためであった。
 これを知ったレイカ・メルツの提案により、ECN社からOP社本社を経由して在庫の補修部品をインデストに向けて送付したが、この時点ではまだ到着していない。
 このため、補修部品の不足による発電効率低下は未だ続いている。
 一方で、この時点でインデストの電力供給網が崩壊せずに済んでいたのは、レイカ・メルツの尽力により、OP社本社から追加で派遣された発電技術者の存在による影響が大きかった。

 鉄鉱石採掘場の占拠事件については、アカシらIMPU幹部が事態の収拾に当たった結果、一度は落ち着いたものの、予断を許さない状況が続いている。
 そのような状況で「勉強会」グループがインデストの運営を行う新たな団体の設立を提唱した。
 「勉強会」グループはインデストの混乱を招いた元凶がIMPUにあるとし、OP社インデスト支店と連携してIMPUとの対決姿勢を強めている。

※※
 六月四日、ジン・ヌマタの姿はハモネス郊外の一軒家の中にあった。
 四月の下旬にこの場所に移動させられて以来、動くことを禁じられ無聊を託っていた。
 仕方なくニュースなどを見て暇をつぶしていたのだが、この日報じられたのは、ヌマタにとって最悪に近い内容であった。
「まったく、あの『勉強会』とやらは何を考えているのだ?! アカシさんをつるし上げたところで電気が送られてくる訳でもないだろう! 頭回っているのか?!」
 憤懣やるせない、といった様子でヌマタが近くにいた青年に八つ当たりした。
「電気が送られてこなくても、責任を相手に押し付ければ、相手に対して優位に立つことはできますからね」
 ヌマタの悪態に答えたのは、バン・シシガであった。
 ヌマタは、オイゲンと一緒にシシガとウィリマ・サソが居住する「マッチ・ラボ」に事実上軟禁されていた。
 ハモネスからそれほど離れていないが、この場所なら人の出入りも少なく、シシガとウィリマなら信用できるとエリックが二人を匿う場所として選択したのであった。
 ヌマタの言葉にはオイゲンが応じることが多かったのだが、この日はエリックがオイゲンを連れ出しており不在であった。
「電気がなければインデスト全体が立ち行かないだろうが、それに気づかないような低レベルな連中なのか、奴らは?」
「生命よりも大事な面子、というものを持つ方もいらっしゃるらしいですから。その意味ではヌマタさんの仰る低レベルなのでしょうね」
「……まあ、そういうことだな」
 ヌマタが毒気を抜かれた様子で答えた。
 シシガの言葉はヌマタにとって「引っかかる」のである。
 実のところ、シシガの考え方はヌマタのそれとほぼ差が無く、ヌマタもそれに気づいている。
 それがヌマタにとって、何故か腹立たしい。
 シシガは作業の手を休めることなく、ヌマタの言葉に応じている。
 部屋にはウィリマの姿もあるのだが、こちらは二人を無視して部屋の隅で計測器と格闘中だ。
「ほれ、シシガ。こっちのチェックは終わったぞ。一七〇箇所くらい不具合が出ているな」
「だいぶ良くなりましたよ。」
「これでか? チェック項目の三分の一以上が不具合じゃないか」
「最初は二〇個に一個くらいしか通らなかったですからね。それに比べればマシです。それにヌマタさんやイナ社長がチェックを手伝ってくれるおかげで助かりますよ」
 ヌマタは身柄を「マッチ・ラボ」に移された際、同行したエリック・モトムラに対し、ただ飯食らいになるのは癪なので、何かさせろと訴えた。
 そこでエリックは、シシガとウィリマの二人と相談し、シシガの研究の手伝いをしてもらうことにしたのである。
 その際シシガは、ヌマタだけではなくオイゲンにも自分の研究の手伝いをしてもらうことを条件とし、オイゲンもこれを快諾したのだった。
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