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第二章
71:勤勉なトップと怠惰なナンバーツー
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ハドリがオイゲンとECN社幹部の切り離しを画策していた頃、「タブーなきエンジニア集団」はポータル・シティの東部を中心に活動を展開していた。
結成から五ヶ月、事業も軌道に乗り順調に利益をあげていた。滑り出しとしては上々といえるだろう。
ウォーリーの自宅の一階にある本部事務所には副代表のノリオ・ミヤハラと数名のメンバーとが待機していた。
トップであるウォーリーは自ら現場に出てしまっているので、自動的に彼に次ぐ地位にあるミヤハラが事務所に待機するようになっている。
これはECN社時代と全く変わりのない光景なのであった。
ミヤハラが暇をもてあましたのか、ニュース番組をモニタに表示させた。
「タブーなきエンジニア集団」自体は顧客からの引き合いが多く多忙な組織なのだが、何故かミヤハラは暇そうに見えるから不思議だ。
ちなみにミヤハラとウォーリーがECN社に在籍していた時代、ウォーリーの部下の間でこんなアンケートが実施されたことがある。
「このタスクユニットで一番仕事をしていなさそうなのは誰か?」
タスクユニットとはウォーリーが率いていた部署の単位を意味するECN社の用語だ。
アンケートの結果、不名誉な第一位に選ばれたのがミヤハラで、第二位は経理担当のアツシ・サクライであった。この二人が三位以下を大きく引き離していたのだ。
このようなアンケートの実施が許されること自体組織としてどうなのか? という意見もある。
しかし、少なくともトップのウォーリーはこうした企画を忌避するほど狭量ではなかった。企画者の意図がガス抜きであることを理解していたからだ。
また、上位に選ばれたミヤハラやサクライも、こうした結果を受け入れ、笑い飛ばすだけの度量がある人物だった。
ウォーリーは投票の前に名指しはしなかったがミヤハラやサクライを上位にしたらどうかという内容のことを冗談めかして発言していた。もちろん、ミヤハラやサクライがそれで気を悪くするような性格でないことを知っていたからだ。
この企画が誰かを貶めるためのものであればウォーリーは強硬に反対しただろうが、そうならないだろうとの確信があったから、敢えて止めなかったのだ。
こうしたウォーリーのおふざけを快く思わない者も存在したのだが、少なくとも大多数の彼の部下は彼のおふざけを支持するか許容していたのも事実だ。
実際、ウォーリーのチームではトップのウォーリーが勤勉に見えるだけに、すぐ下のランクのメンバーが動かないのは非常に目立つ。
当の二人はどこ吹く風といったところで、まるでその評判を気にしていないように見える。
しかし、この両名が部下達に嫌われていたわけではない。
ミヤハラは非常時に強い補佐役として頼りにされていた。
実際に彼の業務は主に突発的な事態や非常時の対応であったから、この評価は彼が適切に役割を果たしている、という意味を持つ。
一方でサクライは、部下にやりたいようにやらせてくれる鷹揚な上司、としてやはり評価されていたのだ。
そのミヤハラが見ているニュース映像にOP社とポータル・シティの有力者との間で結ばれる治安改革稼働の委託に関する調印式の模様が流れていた。
「有力者代表とOP社側の代表のフトシ・ウノ氏が合意文書に署名をしています……」
映像は委託に関する合意文書にそれぞれの代表が署名をしている場面を映し出していた。
(OP社も派手なやり方をするものだ……有力者が屈したということを大々的に見せつけようとしているのだろうが……)
ミヤハラがそう思いながら映像を見ていると、突然ウォーリーが事務所に戻ってきた。
「いま戻ってきた。何かあったか?」
そう言ってミヤハラの後ろに回りこんだ。
ミヤハラが座っているのは、実はウォーリーの席だ。
ミヤハラ自身の席もあるのだが、ウォーリーが不在のときに限ってこの席に座るようウォーリーに指示されている。
「何かOP社のニュースをやっているくらいですね」
ミヤハラが呑気な声でそう答えた。これでもミヤハラはOP社の動向に注目していたので、ニュースのことをウォーリーに報告しているのだ。もともと感情の振れ幅が小さく、表にあまり出ないタイプなのである。
そのミヤハラだが、ウォーリーが戻ってきたにもかかわらず席を立つ気がない。
ウォーリーもそれを気にせず、近くから椅子を持ってきてミヤハラの隣に座った。
「OP社とポータル・シティの有力者の間で行われた調印式ですが、これは……」
ニュース映像ではOP社とポータル・シティの有力者との間で数時間前に行われた調印式について詳細な内容が報じられていた。
ウォーリーは食い入るようにモニタを見ていたが、番組のアナウンサーが司法警察権の話に触れたところで急に顔をしかめた。よく見れば怒りで肩が震えているのに気付くことができたはずだ。ミヤハラが気付いていたかは疑問だが。
番組の解説者が「現在の状況では、都市横断的な犯罪調査力が必要であり、OP社が司法警察権を得るのは、犯罪抑止の観点からむしろ好ましい」とコメントしたとき、ウォーリーがついに切れた。
ウォーリーがモニタに向かって怒鳴ったのだった。
結成から五ヶ月、事業も軌道に乗り順調に利益をあげていた。滑り出しとしては上々といえるだろう。
ウォーリーの自宅の一階にある本部事務所には副代表のノリオ・ミヤハラと数名のメンバーとが待機していた。
トップであるウォーリーは自ら現場に出てしまっているので、自動的に彼に次ぐ地位にあるミヤハラが事務所に待機するようになっている。
これはECN社時代と全く変わりのない光景なのであった。
ミヤハラが暇をもてあましたのか、ニュース番組をモニタに表示させた。
「タブーなきエンジニア集団」自体は顧客からの引き合いが多く多忙な組織なのだが、何故かミヤハラは暇そうに見えるから不思議だ。
ちなみにミヤハラとウォーリーがECN社に在籍していた時代、ウォーリーの部下の間でこんなアンケートが実施されたことがある。
「このタスクユニットで一番仕事をしていなさそうなのは誰か?」
タスクユニットとはウォーリーが率いていた部署の単位を意味するECN社の用語だ。
アンケートの結果、不名誉な第一位に選ばれたのがミヤハラで、第二位は経理担当のアツシ・サクライであった。この二人が三位以下を大きく引き離していたのだ。
このようなアンケートの実施が許されること自体組織としてどうなのか? という意見もある。
しかし、少なくともトップのウォーリーはこうした企画を忌避するほど狭量ではなかった。企画者の意図がガス抜きであることを理解していたからだ。
また、上位に選ばれたミヤハラやサクライも、こうした結果を受け入れ、笑い飛ばすだけの度量がある人物だった。
ウォーリーは投票の前に名指しはしなかったがミヤハラやサクライを上位にしたらどうかという内容のことを冗談めかして発言していた。もちろん、ミヤハラやサクライがそれで気を悪くするような性格でないことを知っていたからだ。
この企画が誰かを貶めるためのものであればウォーリーは強硬に反対しただろうが、そうならないだろうとの確信があったから、敢えて止めなかったのだ。
こうしたウォーリーのおふざけを快く思わない者も存在したのだが、少なくとも大多数の彼の部下は彼のおふざけを支持するか許容していたのも事実だ。
実際、ウォーリーのチームではトップのウォーリーが勤勉に見えるだけに、すぐ下のランクのメンバーが動かないのは非常に目立つ。
当の二人はどこ吹く風といったところで、まるでその評判を気にしていないように見える。
しかし、この両名が部下達に嫌われていたわけではない。
ミヤハラは非常時に強い補佐役として頼りにされていた。
実際に彼の業務は主に突発的な事態や非常時の対応であったから、この評価は彼が適切に役割を果たしている、という意味を持つ。
一方でサクライは、部下にやりたいようにやらせてくれる鷹揚な上司、としてやはり評価されていたのだ。
そのミヤハラが見ているニュース映像にOP社とポータル・シティの有力者との間で結ばれる治安改革稼働の委託に関する調印式の模様が流れていた。
「有力者代表とOP社側の代表のフトシ・ウノ氏が合意文書に署名をしています……」
映像は委託に関する合意文書にそれぞれの代表が署名をしている場面を映し出していた。
(OP社も派手なやり方をするものだ……有力者が屈したということを大々的に見せつけようとしているのだろうが……)
ミヤハラがそう思いながら映像を見ていると、突然ウォーリーが事務所に戻ってきた。
「いま戻ってきた。何かあったか?」
そう言ってミヤハラの後ろに回りこんだ。
ミヤハラが座っているのは、実はウォーリーの席だ。
ミヤハラ自身の席もあるのだが、ウォーリーが不在のときに限ってこの席に座るようウォーリーに指示されている。
「何かOP社のニュースをやっているくらいですね」
ミヤハラが呑気な声でそう答えた。これでもミヤハラはOP社の動向に注目していたので、ニュースのことをウォーリーに報告しているのだ。もともと感情の振れ幅が小さく、表にあまり出ないタイプなのである。
そのミヤハラだが、ウォーリーが戻ってきたにもかかわらず席を立つ気がない。
ウォーリーもそれを気にせず、近くから椅子を持ってきてミヤハラの隣に座った。
「OP社とポータル・シティの有力者の間で行われた調印式ですが、これは……」
ニュース映像ではOP社とポータル・シティの有力者との間で数時間前に行われた調印式について詳細な内容が報じられていた。
ウォーリーは食い入るようにモニタを見ていたが、番組のアナウンサーが司法警察権の話に触れたところで急に顔をしかめた。よく見れば怒りで肩が震えているのに気付くことができたはずだ。ミヤハラが気付いていたかは疑問だが。
番組の解説者が「現在の状況では、都市横断的な犯罪調査力が必要であり、OP社が司法警察権を得るのは、犯罪抑止の観点からむしろ好ましい」とコメントしたとき、ウォーリーがついに切れた。
ウォーリーがモニタに向かって怒鳴ったのだった。
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