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第三章
101:差出人不明の警告
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ウォーリーをはじめとする「タブーなきエンジニア集団」のメンバーが「風力エネルギー研究所」へ作業に向かったのは、LH四九年八月一日のことであった。
部品の調達に手間取り、連絡を受けてから作業に入るのに二週間近くを要していた。
この日は土曜日で一般の企業は休みなのだが、ウォーリー達には関係ない。
「それじゃ、手順に従って始めるぞ。まずは事前調査と現在の状況に差が無いか調べてくれ」
ウォーリーたちはニ〇名ほどで研究所に入館し、作業場所となる装置室で作業を開始した。
ウォーリーが作業開始の指示を出すのはいつものことである。
このとき、作業に参加した誰もが後に起こる事態を予想できていなかった。
「『タブーなきエンジニア集団』のトワ様はこちらでしょうか? ご依頼の部品の納品に参りました! 受け取りのサインをお願いします!」
作業開始直後に業者からあらかじめ注文していた部品が納品される。
「ニ一ケースですね。ケース数は合っています」
「なら、サインを頼む」
メンバーの一人が納品された部品の箱を確認し、ウォーリーが受け取りのサインをする。
この時点でも特に変わったことはなかった。
「タブーなきエンジニア集団」は部品類の製造能力を十分に持っていなかったので、時には他の業者を使ってECN社製またはOP社製の部品を購入することがある。
通信機器の部品メーカーの主だったところはこの二社であり、他の企業はこの両社の規格のどちらかもしくは双方の規格で部品を作っている。そのため、ECN社とOP社の部品が入手できれば、作業には支障は無い。
受け取りのサインをもらった業者が引き上げた後、箱を確認した部下が箱の中味を確認し始めた。
「??」
確認中にメンバーが異常に気づき、ウォーリーに報告する。
「購入リストに無い記憶チップがありますね。返品しますか?」
ウォーリーが見せてみろと言ったので、メンバーがウォーリーのもとにチップが持っていった。
ウォーリーが手に取ってみると、ECN社製のチップであった。
ECN社時代上級チームマネージャーであったウォーリーには、このチップが特殊なものであることがわかる。
見た目にはECN社が一般向けに販売している記憶チップと何ら変わるところが無い。
しかし、これはECN社内で社員の個人情報など社員に関する機密情報を扱うための特殊なチップだとウォーリーは見抜いていた。
これは特別な処理を行わない限り、中の情報を閲覧することができないものだ。
識別はロット番号のみで可能であり、このことは上級チームマネージャー以上の幹部と総務部門の一部の従業員しか知らないことであった。
ウォーリーが記憶チップを読取装置にかけて、中の情報を確認する。
「本案件はOP社による計略です。すぐに手を引かれることをおすすめします」
登録されていた情報は、この文言だけであった。
「……何だこれは? 手を引けと言われてもなぁ。客には修理するって約束しちまったし……」
ウォーリーは首を傾げたが、目の前に通信が麻痺して困っている顧客がいる。
OP社の計略と聞いてもこれを捨てて案件から手を引くなど彼にはできなかった。
「気をつけて作業しろよ」
念のためウォーリーはメンバーに注意して彼も作業を始めた。
(……まあ、ECN社内にも俺達のやり方に賛同する人間が結構いるってことだ。今回のは総務かチップを作ったタスクユニットのマネージャークラスだろう。上層部にこういう人間がいるってことは、ECN社も捨てたものじゃないさ)
チップがECN社製であったことから、ウォーリーは気の利いたECN社の社員が警告を発したのだろうと推測した。
総務はウォーリーが在籍していた時代、彼に対して協力的であった。
チップの製造を担当していたのは、かつてウォーリーが率いていたのとは異なるタスクユニットであった。しかし、このタスクユニットの関係者とウォーリーとのやり取りは多く、現在でもウォーリーと親しい社員が数十人レベルで存在する。
こうした者たちのうちの一人が行動を起こしていても不思議ではない、ウォーリーはそう考えたのだった。
「さて、こいつを何とかしてやらないとな……」
ウォーリーは注意深く目の前の破損した機器と格闘を始めたのだった。
部品の調達に手間取り、連絡を受けてから作業に入るのに二週間近くを要していた。
この日は土曜日で一般の企業は休みなのだが、ウォーリー達には関係ない。
「それじゃ、手順に従って始めるぞ。まずは事前調査と現在の状況に差が無いか調べてくれ」
ウォーリーたちはニ〇名ほどで研究所に入館し、作業場所となる装置室で作業を開始した。
ウォーリーが作業開始の指示を出すのはいつものことである。
このとき、作業に参加した誰もが後に起こる事態を予想できていなかった。
「『タブーなきエンジニア集団』のトワ様はこちらでしょうか? ご依頼の部品の納品に参りました! 受け取りのサインをお願いします!」
作業開始直後に業者からあらかじめ注文していた部品が納品される。
「ニ一ケースですね。ケース数は合っています」
「なら、サインを頼む」
メンバーの一人が納品された部品の箱を確認し、ウォーリーが受け取りのサインをする。
この時点でも特に変わったことはなかった。
「タブーなきエンジニア集団」は部品類の製造能力を十分に持っていなかったので、時には他の業者を使ってECN社製またはOP社製の部品を購入することがある。
通信機器の部品メーカーの主だったところはこの二社であり、他の企業はこの両社の規格のどちらかもしくは双方の規格で部品を作っている。そのため、ECN社とOP社の部品が入手できれば、作業には支障は無い。
受け取りのサインをもらった業者が引き上げた後、箱を確認した部下が箱の中味を確認し始めた。
「??」
確認中にメンバーが異常に気づき、ウォーリーに報告する。
「購入リストに無い記憶チップがありますね。返品しますか?」
ウォーリーが見せてみろと言ったので、メンバーがウォーリーのもとにチップが持っていった。
ウォーリーが手に取ってみると、ECN社製のチップであった。
ECN社時代上級チームマネージャーであったウォーリーには、このチップが特殊なものであることがわかる。
見た目にはECN社が一般向けに販売している記憶チップと何ら変わるところが無い。
しかし、これはECN社内で社員の個人情報など社員に関する機密情報を扱うための特殊なチップだとウォーリーは見抜いていた。
これは特別な処理を行わない限り、中の情報を閲覧することができないものだ。
識別はロット番号のみで可能であり、このことは上級チームマネージャー以上の幹部と総務部門の一部の従業員しか知らないことであった。
ウォーリーが記憶チップを読取装置にかけて、中の情報を確認する。
「本案件はOP社による計略です。すぐに手を引かれることをおすすめします」
登録されていた情報は、この文言だけであった。
「……何だこれは? 手を引けと言われてもなぁ。客には修理するって約束しちまったし……」
ウォーリーは首を傾げたが、目の前に通信が麻痺して困っている顧客がいる。
OP社の計略と聞いてもこれを捨てて案件から手を引くなど彼にはできなかった。
「気をつけて作業しろよ」
念のためウォーリーはメンバーに注意して彼も作業を始めた。
(……まあ、ECN社内にも俺達のやり方に賛同する人間が結構いるってことだ。今回のは総務かチップを作ったタスクユニットのマネージャークラスだろう。上層部にこういう人間がいるってことは、ECN社も捨てたものじゃないさ)
チップがECN社製であったことから、ウォーリーは気の利いたECN社の社員が警告を発したのだろうと推測した。
総務はウォーリーが在籍していた時代、彼に対して協力的であった。
チップの製造を担当していたのは、かつてウォーリーが率いていたのとは異なるタスクユニットであった。しかし、このタスクユニットの関係者とウォーリーとのやり取りは多く、現在でもウォーリーと親しい社員が数十人レベルで存在する。
こうした者たちのうちの一人が行動を起こしていても不思議ではない、ウォーリーはそう考えたのだった。
「さて、こいつを何とかしてやらないとな……」
ウォーリーは注意深く目の前の破損した機器と格闘を始めたのだった。
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