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第三章
131:覇気のない社長を動かすという決断
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(……使い物にならん手足も厄介だが、中途半端に有能な反逆者も面倒だな……
この手の輩は徹底的に叩き潰しておくに限る)
「使い物にならない」三名を下がらせたのち、ハドリは対処すべき事項について対応策を考えていた。
彼は一人になれる空間を求めて会議室から社長室へと向かっていた。
その間も彼の頭脳はフル回転していた。移動時間を無為に過ごすような無駄は彼の嫌うところであった。
社長室へと戻り、部屋の扉に鍵をかける。
邪魔な者の侵入を防ぎ、思考に集中するためだ。
室内に机と椅子はあるのだが、彼は椅子に腰かけることなく、窓の脇の壁にもたれかかった。この位置であれば外部から狙撃されることはないからだ。
「タブーなきエンジニア集団」は、幹部級の人材が比較的有能らしいということで厄介な存在である。
ただし、彼らは力無い市民達の運動で成り立っている部分があることをハドリは見抜いていた。
そこでハドリは市民を変えることでその存在を不可能にするよう手を打った。
市民は一般的に力が無いから、力ある者が正しい方向に導かなくてはならない、というのが彼の信念である。
力の無い者達をコントロールするのも自分の役割だとハドリは自覚している。
小狡い連中がこうした市民を隠れ蓑にして、悪事を働くという現場を彼は何度も目撃しているからだ。
一方で、ECN社に対しても手を打たなければならない。
密かに派遣していた部下の報告によれば、ウノを追い返した人物はキノシタという中堅社員で、なかなか手強いらしい。こちらに対しては早急な対処が必要である。
トップとしてハドリの手下を送り込みキノシタを押さえ込むのが良いだろうが、人選が難しい。
無能な者を送り込めばウノの二の舞になる可能性が高く、有能すぎてはハドリのコントロールを外れてしまう可能性がある。
(オオカワとホンゴウは治安改革活動を担当させた方がマシだな……
ヤマガタは社の管理に必要だから今の職務から外すわけにはいかん……
タノダは……)
ハドリは主だった部下達を順番に思い浮かべていったが、ウノ以上に結果を出せそうな者が見当たらなかった。
(……あの覇気の無い社長を戻すか……)
ハドリの頭に浮かんだのは、オイゲンを社に戻すことだった。
当初、半年の期間で研修と称した身柄拘束をしていた。
いつの間にかその期間は延長され、そろそろ一年になろうとしていた。
他に優先度が高い事項があったため、ハドリがオイゲンの処遇についての決定を後回しにしていたのが原因の一つであった。
しかし、それだけではなかった。
ハドリはオイゲンの人となりを図りかねていたのであった。
今となってはそうも言っていられないので、ECN社に送り込む候補としてオイゲンはどうかと考えてみることにした。この場合、送り込むというより元のさやに戻すことになるわけだが。
ハドリの見る限り、オイゲンは覇気が無く従順で反乱の意思があるようには思われなかった。というよりも、他者を攻撃するという意思そのものが欠落しているように思われたのである。
一年弱見てきた中で、オイゲンの能力は大したことはないと断言できる。
ただ、勤務態度は良好で、真面目で従順なのは確かなようだ。
ハドリからすれば、社内の他の者よりも遥かに手下として使いやすそうな人物に見える。
そのような人物を装っている可能性も考えられたが、OP社による約一年の監視で尻尾をつかませないというのは不可能に近い。
ハドリにはオイゲンがそれほどの能力者だとは考えられなかったし、自社の監視体制に問題があったとも思えなかった。
それならば、変に才気走った部下よりよっぽど信頼できる。
中途半端に能力のある者は、いつハドリのコントロールを外れるかわからないという危うさを持つ。
オイゲンならば、その心配は無用であろう。
(……他の選択肢よりはマシ、か……いいだろう、奴がどこまでやれるか見てやろうじゃないか。ECN社を押さえ込めなければ、それを理由に処分する、という手もある)
ここでハドリはオイゲンをECN社に戻すことを決断したのである。
一方でヘンミの身柄を拘束し、人質のような形で自社に置いておくことも忘れていなかった。ヘンミの方は、やや才気走った面が感じられ、ハドリにとっても油断ならない人物に思えたのである。
また、拘束した「タブーなきエンジニア集団」のメンバーをそのままにし、それを公に発表することもあわせて行った。
表向きの理由は事件の背後関係を調査するためであるが、ウォーリー達に対する人質の意味を持たせるのが真の目的だ。
ハドリにとってオイゲンをECN社に戻すという決断は必ずしも本意ではなかった。
多くの選択肢を検討した結果、もっとも得るものが多い選択肢を選ぶという決断を彼は好んだ。
しかし、今回の決断は消去法で最も損が少ない選択肢を選んだだけに過ぎないからだ。
ハドリの不本意な決断の結果、オイゲン・イナはLH五〇年一月二七日、約一年ぶりに自分の会社に戻ってきたのだった。
この手の輩は徹底的に叩き潰しておくに限る)
「使い物にならない」三名を下がらせたのち、ハドリは対処すべき事項について対応策を考えていた。
彼は一人になれる空間を求めて会議室から社長室へと向かっていた。
その間も彼の頭脳はフル回転していた。移動時間を無為に過ごすような無駄は彼の嫌うところであった。
社長室へと戻り、部屋の扉に鍵をかける。
邪魔な者の侵入を防ぎ、思考に集中するためだ。
室内に机と椅子はあるのだが、彼は椅子に腰かけることなく、窓の脇の壁にもたれかかった。この位置であれば外部から狙撃されることはないからだ。
「タブーなきエンジニア集団」は、幹部級の人材が比較的有能らしいということで厄介な存在である。
ただし、彼らは力無い市民達の運動で成り立っている部分があることをハドリは見抜いていた。
そこでハドリは市民を変えることでその存在を不可能にするよう手を打った。
市民は一般的に力が無いから、力ある者が正しい方向に導かなくてはならない、というのが彼の信念である。
力の無い者達をコントロールするのも自分の役割だとハドリは自覚している。
小狡い連中がこうした市民を隠れ蓑にして、悪事を働くという現場を彼は何度も目撃しているからだ。
一方で、ECN社に対しても手を打たなければならない。
密かに派遣していた部下の報告によれば、ウノを追い返した人物はキノシタという中堅社員で、なかなか手強いらしい。こちらに対しては早急な対処が必要である。
トップとしてハドリの手下を送り込みキノシタを押さえ込むのが良いだろうが、人選が難しい。
無能な者を送り込めばウノの二の舞になる可能性が高く、有能すぎてはハドリのコントロールを外れてしまう可能性がある。
(オオカワとホンゴウは治安改革活動を担当させた方がマシだな……
ヤマガタは社の管理に必要だから今の職務から外すわけにはいかん……
タノダは……)
ハドリは主だった部下達を順番に思い浮かべていったが、ウノ以上に結果を出せそうな者が見当たらなかった。
(……あの覇気の無い社長を戻すか……)
ハドリの頭に浮かんだのは、オイゲンを社に戻すことだった。
当初、半年の期間で研修と称した身柄拘束をしていた。
いつの間にかその期間は延長され、そろそろ一年になろうとしていた。
他に優先度が高い事項があったため、ハドリがオイゲンの処遇についての決定を後回しにしていたのが原因の一つであった。
しかし、それだけではなかった。
ハドリはオイゲンの人となりを図りかねていたのであった。
今となってはそうも言っていられないので、ECN社に送り込む候補としてオイゲンはどうかと考えてみることにした。この場合、送り込むというより元のさやに戻すことになるわけだが。
ハドリの見る限り、オイゲンは覇気が無く従順で反乱の意思があるようには思われなかった。というよりも、他者を攻撃するという意思そのものが欠落しているように思われたのである。
一年弱見てきた中で、オイゲンの能力は大したことはないと断言できる。
ただ、勤務態度は良好で、真面目で従順なのは確かなようだ。
ハドリからすれば、社内の他の者よりも遥かに手下として使いやすそうな人物に見える。
そのような人物を装っている可能性も考えられたが、OP社による約一年の監視で尻尾をつかませないというのは不可能に近い。
ハドリにはオイゲンがそれほどの能力者だとは考えられなかったし、自社の監視体制に問題があったとも思えなかった。
それならば、変に才気走った部下よりよっぽど信頼できる。
中途半端に能力のある者は、いつハドリのコントロールを外れるかわからないという危うさを持つ。
オイゲンならば、その心配は無用であろう。
(……他の選択肢よりはマシ、か……いいだろう、奴がどこまでやれるか見てやろうじゃないか。ECN社を押さえ込めなければ、それを理由に処分する、という手もある)
ここでハドリはオイゲンをECN社に戻すことを決断したのである。
一方でヘンミの身柄を拘束し、人質のような形で自社に置いておくことも忘れていなかった。ヘンミの方は、やや才気走った面が感じられ、ハドリにとっても油断ならない人物に思えたのである。
また、拘束した「タブーなきエンジニア集団」のメンバーをそのままにし、それを公に発表することもあわせて行った。
表向きの理由は事件の背後関係を調査するためであるが、ウォーリー達に対する人質の意味を持たせるのが真の目的だ。
ハドリにとってオイゲンをECN社に戻すという決断は必ずしも本意ではなかった。
多くの選択肢を検討した結果、もっとも得るものが多い選択肢を選ぶという決断を彼は好んだ。
しかし、今回の決断は消去法で最も損が少ない選択肢を選んだだけに過ぎないからだ。
ハドリの不本意な決断の結果、オイゲン・イナはLH五〇年一月二七日、約一年ぶりに自分の会社に戻ってきたのだった。
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