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第五章
217:「タブーなきエンジニア集団」の初陣
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五年前、ミヤハラはオイゲンほどウォーリーを買ってはいなかった。
それでもこの五年一緒に仕事をしてきてウォーリーのスケールの一端は垣間見たと思っている。
今や「タブーなきエンジニア集団」はメンバーが一千、支援者四千を数える大集団である。この集団を一代、それも三年足らずの期間で造り上げたのだ。
これ以上の集団を一代で造り上げた例は十数年でOP社を従業員数一八万の大集団にしたエイチ・ハドリくらいのものである。
しかし、ミヤハラにもECN社で史上最速級の出世を遂げてきたという自負がある。
彼は自分の能力について、その水準にふさわしい自信を持っていた。
今こそその能力を発揮し、見せつけるチャンスなのだ。そのためにも「タブーなきエンジニア集団」としての初戦は単に成功するだけではだめで、大成功を収める必要があると考えている。
ミヤハラが極秘の通信回線を開き、作戦開始を告げる。
「それでは、全チーム行くぞ。無理はしなくていい。だが、大事な緒戦だ、勝つぞ!」
その態度や口調は落ち着いており、作戦を開始するメンバーから見れば頼もしい。
ミヤハラは一旦サクライと別れ、自らが指揮するユニットと合流する。
全部で一〇〇人ほどの人が集まっており、その半数はプラカードや拡声器を手にしている。ダンボールを持った者もいる。武器を手にしている者もいるが、ごくわずかだ。
今回、襲撃する治安改革センターは現在位置から目と鼻の先である。
メンバーの一人が時計を確認してミヤハラに声をかけた。時間だ、と言っているのだ。
ミヤハラが最前列に仁王立ちしている。そして、おもむろに右手を前に向けて突き出した。出撃の合図である。
一〇〇人ほどの集団が、ゆっくりと治安改革センターへ向かって歩いていく。
その歩みは整然としており、少しの乱れもない。
センターの中にいる職員がその様子に気づき、こちらの方を指差して何かを叫んでいるが、お構いなしに進んでいく。
治安改革センターの建物は小さく、三〇人もいれば周りを取り囲むのには十分である。
三重に建物の周りを取り囲むと、メンバーの一人がセンターのガラス戸を開けた。
そして道を開ける。
開いた道からミヤハラが一歩進み出た。
呆気にとられていたセンターの職員がこちらを振り向いた。
ミヤハラはそれに構わず、センターの入口にのっしのっしと歩み寄った。
そして手に持っていた紙を広げ、読み上げ始めた。
「我々ジン市民はOP社によるすべての治安改革活動を拒否するものである! 直ちに立ち去れ!」
ミヤハラの言葉は淡々としていたが、圧倒的な威圧感を感じさせるのに十分なものを有していた。
センターの職員が顔を見合わせる。何を言っているのだ? という様子である。
ミヤハラが後ろに向けて手を振った。
それを合図に十数名のメンバーがセンターの中に突入した。
三人いたセンターの職員を取り囲み、無理矢理外に連れ出そうというのだ。
今のところ反撃の意志が見られないので、あくまでも武器を使わず腕を取ったり、背中を押したりしてセンターの外に連れ出すだけだ。
訳がわからないといった様子で連れ出された職員は周りを取り囲んだ群集の非難にさらされる。
「一私企業による恐怖政治はいりません」
「法律、警察は市民のもの」
「独裁者ハドリは出て行け!」
三人の職員は怒りに震えたが、その場に立ち尽くすしかなかった。
OP社でも銃器の使用については厳格にルールが定められており、下手に使って市民を傷つけることは禁じられていたのだ。
OP社のルールは厳しい。ルールに反すれば厳罰で報いられるのは、従業員だけではなく外部の人々にもよく知られていた。ミヤハラはその点につけ込んだのである。
「という訳だ! 悪いことは言わん。市民が要らんといっているんだ、出ていきな」
ミヤハラが後ろから声をかけた。
一人の職員が振り向いた。
「貴様、今何をやっているかわかっているのだろうな?」
「わかっているとも。穏便な方法で立ち退きを要求しているだけだ。誰もお前らにここにいてくれと頼んでいないのでな」
職員は銃を構えようとしたが、周りを囲んでいた「タブーなきエンジニア集団」のメンバーに取り押さえられる。
「どういうつもりだっ!」
取り押さえられた職員が叫んだ。
ミヤハラは敢えてそれを無視した。その代わり、後ろに向けて手を叩いて合図をした。
ダンボールを抱えた十名ほどが、建物の中に入っていった。
そして、片っ端から荷物を詰めていき、建物の外へと放り出す。
「出て行ってもらうからには、引越しの手伝いくらいしようと思ってな。今準備してもらってるわ」
ミヤハラはこともなげにそう言うと、センターの中にあった椅子を持ち出して腰掛けた。
瞬く間にダンボールが積み上げられ、センターの中は空っぽになる。
もともと治安改革センターには最低限の設備しか入れられておらず、荷物そのものが非常に少ないのである。
「……準備はできた。出て行ってもらおうか」
中にいたメンバーから準備できたと声をかけられたミヤハラが三人の職員に向けてそう言った。
「貴様等、治安改革センターで強盗を働くとはいい度胸だ! 社が全力で貴様等をつぶしに来るぞ!」
一人の職員が喚いた。
すると、周りを囲んでいたメンバーが一斉に「OP社出て行け」「ハドリ出て行け」と合唱を始めた。
センター周辺を通りがかる一般市民もはじめは何事かと騒いでいたが、OP社の退去を求める運動と知って、次第に輪に入ってくるようになった。
ジンではOP社の治安改革活動は、それほど支持を集めていない。
過去に「エクザローム防衛隊」なる集団を攻撃した際、住宅街や病院近くで大爆発を起こしたことが非難されているのだ。
一〇〇人ほどだった集団はいつの間にかその数倍に膨れ上がっている。
いくら武装しているといえども、三人では対抗のしようがない。
三人の職員は市民に取り囲まれ、荷物ごと町の外へと連れ出されてしまった。
空っぽになった治安改革センターの建物は市民が占拠し「タブーなきエンジニア集団臨時事務所」と書かれた手製の看板が掲げられた。
ミヤハラのユニットに関しては、これで完了である。
ミヤハラは早速、サクライと連絡を取り、他のユニットがどのような状況にあるかを確認する。
サクライのユニットはセンターの占拠にまだ成功していなかったが、時間の問題だということだった。
他の四ユニットに関しては、二ユニットが作戦を完了しており、残りの二ユニットが作戦遂行中とのことであった。
ミヤハラは一番苦戦しているユニットに自分の戦力の大半を回した。現在占拠しているセンターを維持するのに必要な戦力はそれほど多くないのだ。
勿論、OP社が本腰を入れて反撃してくるなら別である。
銃器を用いた武力対決になるなら細心の注意が必要だろうが、OP社の主力部隊はフジミ・タウンで残務の処理中だ。反転してジンに達するまでには時間がかかる。
ハドリが命令を下さない限り、OP社の治安改革部隊は勝手な行動を取れないだろうから、その間に準備を進めておけばよい。
ミヤハラは医療施設メディットとも連絡を取った。副院長のヴィリー・アイネスが病院をあげて「タブーなきエンジニア集団」を支持すると約束していたからだ。
それでもこの五年一緒に仕事をしてきてウォーリーのスケールの一端は垣間見たと思っている。
今や「タブーなきエンジニア集団」はメンバーが一千、支援者四千を数える大集団である。この集団を一代、それも三年足らずの期間で造り上げたのだ。
これ以上の集団を一代で造り上げた例は十数年でOP社を従業員数一八万の大集団にしたエイチ・ハドリくらいのものである。
しかし、ミヤハラにもECN社で史上最速級の出世を遂げてきたという自負がある。
彼は自分の能力について、その水準にふさわしい自信を持っていた。
今こそその能力を発揮し、見せつけるチャンスなのだ。そのためにも「タブーなきエンジニア集団」としての初戦は単に成功するだけではだめで、大成功を収める必要があると考えている。
ミヤハラが極秘の通信回線を開き、作戦開始を告げる。
「それでは、全チーム行くぞ。無理はしなくていい。だが、大事な緒戦だ、勝つぞ!」
その態度や口調は落ち着いており、作戦を開始するメンバーから見れば頼もしい。
ミヤハラは一旦サクライと別れ、自らが指揮するユニットと合流する。
全部で一〇〇人ほどの人が集まっており、その半数はプラカードや拡声器を手にしている。ダンボールを持った者もいる。武器を手にしている者もいるが、ごくわずかだ。
今回、襲撃する治安改革センターは現在位置から目と鼻の先である。
メンバーの一人が時計を確認してミヤハラに声をかけた。時間だ、と言っているのだ。
ミヤハラが最前列に仁王立ちしている。そして、おもむろに右手を前に向けて突き出した。出撃の合図である。
一〇〇人ほどの集団が、ゆっくりと治安改革センターへ向かって歩いていく。
その歩みは整然としており、少しの乱れもない。
センターの中にいる職員がその様子に気づき、こちらの方を指差して何かを叫んでいるが、お構いなしに進んでいく。
治安改革センターの建物は小さく、三〇人もいれば周りを取り囲むのには十分である。
三重に建物の周りを取り囲むと、メンバーの一人がセンターのガラス戸を開けた。
そして道を開ける。
開いた道からミヤハラが一歩進み出た。
呆気にとられていたセンターの職員がこちらを振り向いた。
ミヤハラはそれに構わず、センターの入口にのっしのっしと歩み寄った。
そして手に持っていた紙を広げ、読み上げ始めた。
「我々ジン市民はOP社によるすべての治安改革活動を拒否するものである! 直ちに立ち去れ!」
ミヤハラの言葉は淡々としていたが、圧倒的な威圧感を感じさせるのに十分なものを有していた。
センターの職員が顔を見合わせる。何を言っているのだ? という様子である。
ミヤハラが後ろに向けて手を振った。
それを合図に十数名のメンバーがセンターの中に突入した。
三人いたセンターの職員を取り囲み、無理矢理外に連れ出そうというのだ。
今のところ反撃の意志が見られないので、あくまでも武器を使わず腕を取ったり、背中を押したりしてセンターの外に連れ出すだけだ。
訳がわからないといった様子で連れ出された職員は周りを取り囲んだ群集の非難にさらされる。
「一私企業による恐怖政治はいりません」
「法律、警察は市民のもの」
「独裁者ハドリは出て行け!」
三人の職員は怒りに震えたが、その場に立ち尽くすしかなかった。
OP社でも銃器の使用については厳格にルールが定められており、下手に使って市民を傷つけることは禁じられていたのだ。
OP社のルールは厳しい。ルールに反すれば厳罰で報いられるのは、従業員だけではなく外部の人々にもよく知られていた。ミヤハラはその点につけ込んだのである。
「という訳だ! 悪いことは言わん。市民が要らんといっているんだ、出ていきな」
ミヤハラが後ろから声をかけた。
一人の職員が振り向いた。
「貴様、今何をやっているかわかっているのだろうな?」
「わかっているとも。穏便な方法で立ち退きを要求しているだけだ。誰もお前らにここにいてくれと頼んでいないのでな」
職員は銃を構えようとしたが、周りを囲んでいた「タブーなきエンジニア集団」のメンバーに取り押さえられる。
「どういうつもりだっ!」
取り押さえられた職員が叫んだ。
ミヤハラは敢えてそれを無視した。その代わり、後ろに向けて手を叩いて合図をした。
ダンボールを抱えた十名ほどが、建物の中に入っていった。
そして、片っ端から荷物を詰めていき、建物の外へと放り出す。
「出て行ってもらうからには、引越しの手伝いくらいしようと思ってな。今準備してもらってるわ」
ミヤハラはこともなげにそう言うと、センターの中にあった椅子を持ち出して腰掛けた。
瞬く間にダンボールが積み上げられ、センターの中は空っぽになる。
もともと治安改革センターには最低限の設備しか入れられておらず、荷物そのものが非常に少ないのである。
「……準備はできた。出て行ってもらおうか」
中にいたメンバーから準備できたと声をかけられたミヤハラが三人の職員に向けてそう言った。
「貴様等、治安改革センターで強盗を働くとはいい度胸だ! 社が全力で貴様等をつぶしに来るぞ!」
一人の職員が喚いた。
すると、周りを囲んでいたメンバーが一斉に「OP社出て行け」「ハドリ出て行け」と合唱を始めた。
センター周辺を通りがかる一般市民もはじめは何事かと騒いでいたが、OP社の退去を求める運動と知って、次第に輪に入ってくるようになった。
ジンではOP社の治安改革活動は、それほど支持を集めていない。
過去に「エクザローム防衛隊」なる集団を攻撃した際、住宅街や病院近くで大爆発を起こしたことが非難されているのだ。
一〇〇人ほどだった集団はいつの間にかその数倍に膨れ上がっている。
いくら武装しているといえども、三人では対抗のしようがない。
三人の職員は市民に取り囲まれ、荷物ごと町の外へと連れ出されてしまった。
空っぽになった治安改革センターの建物は市民が占拠し「タブーなきエンジニア集団臨時事務所」と書かれた手製の看板が掲げられた。
ミヤハラのユニットに関しては、これで完了である。
ミヤハラは早速、サクライと連絡を取り、他のユニットがどのような状況にあるかを確認する。
サクライのユニットはセンターの占拠にまだ成功していなかったが、時間の問題だということだった。
他の四ユニットに関しては、二ユニットが作戦を完了しており、残りの二ユニットが作戦遂行中とのことであった。
ミヤハラは一番苦戦しているユニットに自分の戦力の大半を回した。現在占拠しているセンターを維持するのに必要な戦力はそれほど多くないのだ。
勿論、OP社が本腰を入れて反撃してくるなら別である。
銃器を用いた武力対決になるなら細心の注意が必要だろうが、OP社の主力部隊はフジミ・タウンで残務の処理中だ。反転してジンに達するまでには時間がかかる。
ハドリが命令を下さない限り、OP社の治安改革部隊は勝手な行動を取れないだろうから、その間に準備を進めておけばよい。
ミヤハラは医療施設メディットとも連絡を取った。副院長のヴィリー・アイネスが病院をあげて「タブーなきエンジニア集団」を支持すると約束していたからだ。
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