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第六章
235:クレーム
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トニーの帰り支度が終わる直前、不意に所内の電話が鳴った。
時刻は一八時の二分ほど前である。
ここでいう「電話」とは広く一般向けに開かれた映像通話用の通信回線を意味している。
主に企業や団体などが使う回線で、携帯端末や情報端末から相手を指定すると、相手に向けて通信を接続するよう要求するという代物だ。
こんな時間に電話連絡をするなど珍しいことだ。
所員の一人が情報端末を操作し、電話を取った。
トニーが電話を取った所員に視線を向けた。その顔は腹立たしさを隠していない。
トニーに会話はよく聞き取れなかったが、焦っているのは見てとれる。
トニーが所員の方に近づくと、それに気づいた所員がトニーの方を向いた。
「所長! すみませんが対応お願いします! 聞き分けがなくって……」
トニーは所員が通信を保留モードにしていなかったことを咎めてから、情報端末の方に向けて話しかける。
「かける相手先を間違っていませんか? 正しい相手にかけ直してください!」
トニーが厳しく言い放ち、情報端末を操作して電話を切った。
電話の主は「タブーなきエンジニア集団」の代表、ウォーリーであった。
(連絡を取るなと言ってあるのに、何故あの馬鹿は直接電話を入れてきたのだ? 今までの準備が台無しじゃないか!)
腹の中でウォーリーに怒りの言葉を述べた直後、トニーの携帯端末が鳴りだした。
(いい加減にしろ! ……何だ?!
トニーがそれを無視していると、今度は研究所の緊急通信回線が無理矢理開かれた。
メインスクリーンにウォーリーの姿が大写しになる。
「いい加減にしろ! こっちの話も聞かないとは失礼な!」
ウォーリーは声を荒げていた。
怒っているのはトニーも同じなのだが、ウォーリーのあまりに無茶な行動に呆れてもいる。
「……連絡を取るつもりはないと言っているのですがね」
トニーの声は明らかに不機嫌だったが、その言葉は冷静さを保っていた。
「お前等がとんでもない対応をするからだ! どうしてフジミ・タウンからの亡命者を追い返した?」
ウォーリーは昼間に来たフジミ・タウンから逃れてきた者達を追い返したことに怒っているようだった。
「……フジミ・タウンに賊以外の者がいたという情報がない。賊でないという証拠が得られなかったので、お引き取りいただいた」
「何を言っているか! ハドリの奴に追われてきた者だ! 正体を確認するのは助けてからで遅くないだろう! お前等の行動は人道に反するぞ!」
相変わらず物事の本質を考えようとしない奴だ、とトニーは思った。
彼からすれば、ウォーリーはあまりにも単純で思慮の無い人間に見える。
行動力は評価できないこともないが、進んでいる方向が間違っていては逆効果にもなりかねない。
「我々に『タブーなきエンジニア集団』と対話する意思は無い。お引き取り願う」
そう言ってトニーは緊急通信回線を閉じた。
更に部下に命じて、すべての通信回線を切断状態にした。
トニーからすれば、ウォーリーの行動は危険極まりない。
せっかく「タブーなきエンジニア集団」との関係を隠蔽していたのに、今の通信を傍受されればOP社に関係を知られる恐れがある。
トニーはできるだけ「タブーなきエンジニア集団」との関係を匂わさない対応をしたが、これでOP社を欺けるかどうかはわからない。
潮時だな、とトニーは思った。
これ以上「タブーなきエンジニア集団」に与するのは、無理だと考えたのである。
ウォーリーの行動が無防備すぎたのだ。
このような無知な相手と組むことは、「リスク管理研究所」にとってデメリットのほうが大きい。組む相手を間違えたということだ。
場合によっては「リスク管理研究所」がOP社と組むことも検討する必要がありそうだ。
トニーが次に打った手は、チクハ・タウンで蜂起を予定しているグループへの資金と情報提供を差し止めたことだった。
ハモネスのグループに対しては遅すぎるが、チクハ・タウンの蜂起はまだ先だ。
ハモネスはともかくチクハ・タウンの蜂起をOP社に知らせるか……
トニーは熟慮した結果、チクハ・タウンの蜂起をOP社に知らせないことを決めた。
OP社に情報を伝えれば、情報の発信源を調べられる可能性が高い。
わざわざ藪をつついて蛇を出す必要はあるまい。
ここは傍観を決め込んでおけばよい。
しかし、疑問はまだ残る。どのようにしてウォーリーにフジミ・タウンからの亡命者の情報が入ったかであった。
彼らはジンではなくポータル・シティに向かったはずである。
確かに「リスク管理研究所」のあるニジョウからポータル・シティに向かった場合、南側の街道を使って歩かない限りは、途中でジンを通ることになる。
ウォーリーから連絡があった時間を考慮すると、彼らは鉄道で移動した可能性が高い。
ニジョウからジンまで歩けば大人の足でも小一時間はかかるからだ。
鉄道で移動した場合、何故ジンで途中下車したのかがわからない。
確認する必要があるな、とトニーは考えた。
ホルツらの部下を使って、裏から事情を調査させる。
懸念事項はすべて消しておくに限るからだ。
時刻は一八時の二分ほど前である。
ここでいう「電話」とは広く一般向けに開かれた映像通話用の通信回線を意味している。
主に企業や団体などが使う回線で、携帯端末や情報端末から相手を指定すると、相手に向けて通信を接続するよう要求するという代物だ。
こんな時間に電話連絡をするなど珍しいことだ。
所員の一人が情報端末を操作し、電話を取った。
トニーが電話を取った所員に視線を向けた。その顔は腹立たしさを隠していない。
トニーに会話はよく聞き取れなかったが、焦っているのは見てとれる。
トニーが所員の方に近づくと、それに気づいた所員がトニーの方を向いた。
「所長! すみませんが対応お願いします! 聞き分けがなくって……」
トニーは所員が通信を保留モードにしていなかったことを咎めてから、情報端末の方に向けて話しかける。
「かける相手先を間違っていませんか? 正しい相手にかけ直してください!」
トニーが厳しく言い放ち、情報端末を操作して電話を切った。
電話の主は「タブーなきエンジニア集団」の代表、ウォーリーであった。
(連絡を取るなと言ってあるのに、何故あの馬鹿は直接電話を入れてきたのだ? 今までの準備が台無しじゃないか!)
腹の中でウォーリーに怒りの言葉を述べた直後、トニーの携帯端末が鳴りだした。
(いい加減にしろ! ……何だ?!
トニーがそれを無視していると、今度は研究所の緊急通信回線が無理矢理開かれた。
メインスクリーンにウォーリーの姿が大写しになる。
「いい加減にしろ! こっちの話も聞かないとは失礼な!」
ウォーリーは声を荒げていた。
怒っているのはトニーも同じなのだが、ウォーリーのあまりに無茶な行動に呆れてもいる。
「……連絡を取るつもりはないと言っているのですがね」
トニーの声は明らかに不機嫌だったが、その言葉は冷静さを保っていた。
「お前等がとんでもない対応をするからだ! どうしてフジミ・タウンからの亡命者を追い返した?」
ウォーリーは昼間に来たフジミ・タウンから逃れてきた者達を追い返したことに怒っているようだった。
「……フジミ・タウンに賊以外の者がいたという情報がない。賊でないという証拠が得られなかったので、お引き取りいただいた」
「何を言っているか! ハドリの奴に追われてきた者だ! 正体を確認するのは助けてからで遅くないだろう! お前等の行動は人道に反するぞ!」
相変わらず物事の本質を考えようとしない奴だ、とトニーは思った。
彼からすれば、ウォーリーはあまりにも単純で思慮の無い人間に見える。
行動力は評価できないこともないが、進んでいる方向が間違っていては逆効果にもなりかねない。
「我々に『タブーなきエンジニア集団』と対話する意思は無い。お引き取り願う」
そう言ってトニーは緊急通信回線を閉じた。
更に部下に命じて、すべての通信回線を切断状態にした。
トニーからすれば、ウォーリーの行動は危険極まりない。
せっかく「タブーなきエンジニア集団」との関係を隠蔽していたのに、今の通信を傍受されればOP社に関係を知られる恐れがある。
トニーはできるだけ「タブーなきエンジニア集団」との関係を匂わさない対応をしたが、これでOP社を欺けるかどうかはわからない。
潮時だな、とトニーは思った。
これ以上「タブーなきエンジニア集団」に与するのは、無理だと考えたのである。
ウォーリーの行動が無防備すぎたのだ。
このような無知な相手と組むことは、「リスク管理研究所」にとってデメリットのほうが大きい。組む相手を間違えたということだ。
場合によっては「リスク管理研究所」がOP社と組むことも検討する必要がありそうだ。
トニーが次に打った手は、チクハ・タウンで蜂起を予定しているグループへの資金と情報提供を差し止めたことだった。
ハモネスのグループに対しては遅すぎるが、チクハ・タウンの蜂起はまだ先だ。
ハモネスはともかくチクハ・タウンの蜂起をOP社に知らせるか……
トニーは熟慮した結果、チクハ・タウンの蜂起をOP社に知らせないことを決めた。
OP社に情報を伝えれば、情報の発信源を調べられる可能性が高い。
わざわざ藪をつついて蛇を出す必要はあるまい。
ここは傍観を決め込んでおけばよい。
しかし、疑問はまだ残る。どのようにしてウォーリーにフジミ・タウンからの亡命者の情報が入ったかであった。
彼らはジンではなくポータル・シティに向かったはずである。
確かに「リスク管理研究所」のあるニジョウからポータル・シティに向かった場合、南側の街道を使って歩かない限りは、途中でジンを通ることになる。
ウォーリーから連絡があった時間を考慮すると、彼らは鉄道で移動した可能性が高い。
ニジョウからジンまで歩けば大人の足でも小一時間はかかるからだ。
鉄道で移動した場合、何故ジンで途中下車したのかがわからない。
確認する必要があるな、とトニーは考えた。
ホルツらの部下を使って、裏から事情を調査させる。
懸念事項はすべて消しておくに限るからだ。
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