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第六章
236:断裂
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一方的にトニーから通信を切られたとき、ウォーリーはインデストのOP社グループ労働者組合本部に設けられた「タブーなきエンジニア集団」用の部屋の中にいた。
足元には真っ二つに折れた通信用のマイクが転がっている。
「経営企画室の連中は何を考えている!」
ウォーリーの怒鳴り声が部屋に響き渡った。
彼が「経営企画室」と言っているのは、勿論「リスク管理研究所」のことである。
ECN社経営企画室の元従業員が所員の大部分を占めている集団なので、ウォーリーをはじめとした「タブーなきエンジニア集団」のメンバーは未だに彼らをこう呼ぶ。
「タブーなきエンジニア集団」のメンバーはECN社の元従業員が多いが、彼らの多くはECN社時代の部署名や役職名が抜けきっていない。
組織のトップからして、「リスク管理研究所」をECN社時代の部門名で呼んでいるし、他のメンバーが彼を呼ぶ際にもECN社時代の役職の呼称である「マネージャー」で呼ばれることをよしとしている。
また、組織の副代表もECN社時代の呼称で呼ばれている。トップツーがこの体たらくでは、ECN社離れができていないと言われても仕方がないであろう。
部屋の中にいるのはウォーリーと技術者のエリックだが、この温厚な技術者は所在無さげに部屋の隅で携帯端末を広げている。
「エリック! 経営企画室の連中の回線はつながらないのか!」
その問いにエリックは恐る恐る首を横に振った。
「他に手は無いのか!」と言いかけて、ウォーリーは言葉を止めた。
「タブーなきエンジニア集団」最高の技術者がダメだと言っているのだ。
ウォーリー自身もエリックと同様、「リスク管理研究所」と通信を行おうといろいろ試みているのだが、物理的に回線を切られているらしく、通じる気配がない。
ウォーリーも技術力には自信があるが、現在のエリックには一歩劣ると思っている。
エリックは優れた技術者なのだからもう少し自己主張すれば言うことはないのだが、とウォーリーは考えている。できないものはできないとはっきり言うべきなのだ。
そのエリックが無理だと言うのであれば、確かに他の手はないのかもしれない。ウォーリーにも他に良い策が思いつかなかった。
(経営企画室を信頼した俺が馬鹿だと言うことか!)
ウォーリーは携帯端末を手に取り壊れたマイクを交換してから、ジンにいるメンバーに連絡を取った。誰かと怒りを共有せねばやっていられなかったのだ。
通信の画面に現れたのはミヤハラだった。
最初にミヤハラが「明日のハモネスでの蜂起はサクライが指揮をとることになった」と伝えてきた。
ミヤハラの言葉が終わる前に待ちきれないと言わんばかりにウォーリーがまくし立てる。
「ミヤハラ、話にならん! 経営企画室の奴等、通信を開こうともしねえ!」
ウォーリーの言葉の勢いに押されたのか、ミヤハラはそうですか、と言ったきり、何も返答しない。
「経営企画室に対して感情的になりすぎるな、と言われて従った結果がこれだ! 責任を問うつもりはないが、俺はあんな連中とは手を組めんぞ!」
ウォーリーの剣幕にミヤハラはそうですね、と言いかけて口ごもった。
フジミ・タウンから逃れてきた者たちがいる、とウォーリーに伝えたのはミヤハラだったからだ。
事の次第は次のようなものだった。
明日に控えたハモネスでの蜂起に備えて、サクライが鉄道で移動しようとジンの駅へ行った。
すると、そこには鉄道の乗り継ぎがわからず右往左往していた十数名の若い男女がいた。
彼らはサクライの姿を見つけて声をかけ、ポータル・シティへ行く方法を聞いてきた。
サクライは自分と同じ方向だから、ということで案内しようと一緒に列車を待った。
その間彼らの話を聞いていると、「リスク管理研究所」を頼ろうとして門前払いを喰らったらしいことがわかった。
サクライはミヤハラと連絡を取り、彼らを「タブーなきエンジニア集団」で受け入れることを決定した。
フジミ・タウンにはOP社の治安改革部隊が大挙して押し寄せてきている。
彼らならOP社の治安改革部隊に関する情報を知っているかもしれないと判断した上でのことだった。
また、ミヤハラにはウォーリーが彼らを受け入れるという確信があった。
ウォーリーの性格なら彼らのような存在を目にすれば、手を差し伸べずにはおれないからだ。
ウォーリーはミヤハラからの連絡を受けると、連絡を取らないという取り決めを無視して「リスク管理研究所」との通信を実施しようとした。
あらかじめ彼ら個人の連絡先を聞いていなかったから、ウォーリーはエリックと共同であらゆる通信回線に侵入し、彼らとの接触を試みたのだ。
回線やシステムへの侵入は彼らが最も得意とするところである。
「タブーなきエンジニア集団」が秘密通信経路を用いて仲間と連絡が取れるのは、この技術の賜物なのだ。
また、ウォーリーにはメディットに入院中、投薬システムに侵入し、投薬プログラムを書き換えた前科もあった。
彼らはこうした技術を悪用(?)して、「リスク管理研究所」との間に通信を開こうとしたのだが、トニーの機転によって阻止されてしまったのであった。
足元には真っ二つに折れた通信用のマイクが転がっている。
「経営企画室の連中は何を考えている!」
ウォーリーの怒鳴り声が部屋に響き渡った。
彼が「経営企画室」と言っているのは、勿論「リスク管理研究所」のことである。
ECN社経営企画室の元従業員が所員の大部分を占めている集団なので、ウォーリーをはじめとした「タブーなきエンジニア集団」のメンバーは未だに彼らをこう呼ぶ。
「タブーなきエンジニア集団」のメンバーはECN社の元従業員が多いが、彼らの多くはECN社時代の部署名や役職名が抜けきっていない。
組織のトップからして、「リスク管理研究所」をECN社時代の部門名で呼んでいるし、他のメンバーが彼を呼ぶ際にもECN社時代の役職の呼称である「マネージャー」で呼ばれることをよしとしている。
また、組織の副代表もECN社時代の呼称で呼ばれている。トップツーがこの体たらくでは、ECN社離れができていないと言われても仕方がないであろう。
部屋の中にいるのはウォーリーと技術者のエリックだが、この温厚な技術者は所在無さげに部屋の隅で携帯端末を広げている。
「エリック! 経営企画室の連中の回線はつながらないのか!」
その問いにエリックは恐る恐る首を横に振った。
「他に手は無いのか!」と言いかけて、ウォーリーは言葉を止めた。
「タブーなきエンジニア集団」最高の技術者がダメだと言っているのだ。
ウォーリー自身もエリックと同様、「リスク管理研究所」と通信を行おうといろいろ試みているのだが、物理的に回線を切られているらしく、通じる気配がない。
ウォーリーも技術力には自信があるが、現在のエリックには一歩劣ると思っている。
エリックは優れた技術者なのだからもう少し自己主張すれば言うことはないのだが、とウォーリーは考えている。できないものはできないとはっきり言うべきなのだ。
そのエリックが無理だと言うのであれば、確かに他の手はないのかもしれない。ウォーリーにも他に良い策が思いつかなかった。
(経営企画室を信頼した俺が馬鹿だと言うことか!)
ウォーリーは携帯端末を手に取り壊れたマイクを交換してから、ジンにいるメンバーに連絡を取った。誰かと怒りを共有せねばやっていられなかったのだ。
通信の画面に現れたのはミヤハラだった。
最初にミヤハラが「明日のハモネスでの蜂起はサクライが指揮をとることになった」と伝えてきた。
ミヤハラの言葉が終わる前に待ちきれないと言わんばかりにウォーリーがまくし立てる。
「ミヤハラ、話にならん! 経営企画室の奴等、通信を開こうともしねえ!」
ウォーリーの言葉の勢いに押されたのか、ミヤハラはそうですか、と言ったきり、何も返答しない。
「経営企画室に対して感情的になりすぎるな、と言われて従った結果がこれだ! 責任を問うつもりはないが、俺はあんな連中とは手を組めんぞ!」
ウォーリーの剣幕にミヤハラはそうですね、と言いかけて口ごもった。
フジミ・タウンから逃れてきた者たちがいる、とウォーリーに伝えたのはミヤハラだったからだ。
事の次第は次のようなものだった。
明日に控えたハモネスでの蜂起に備えて、サクライが鉄道で移動しようとジンの駅へ行った。
すると、そこには鉄道の乗り継ぎがわからず右往左往していた十数名の若い男女がいた。
彼らはサクライの姿を見つけて声をかけ、ポータル・シティへ行く方法を聞いてきた。
サクライは自分と同じ方向だから、ということで案内しようと一緒に列車を待った。
その間彼らの話を聞いていると、「リスク管理研究所」を頼ろうとして門前払いを喰らったらしいことがわかった。
サクライはミヤハラと連絡を取り、彼らを「タブーなきエンジニア集団」で受け入れることを決定した。
フジミ・タウンにはOP社の治安改革部隊が大挙して押し寄せてきている。
彼らならOP社の治安改革部隊に関する情報を知っているかもしれないと判断した上でのことだった。
また、ミヤハラにはウォーリーが彼らを受け入れるという確信があった。
ウォーリーの性格なら彼らのような存在を目にすれば、手を差し伸べずにはおれないからだ。
ウォーリーはミヤハラからの連絡を受けると、連絡を取らないという取り決めを無視して「リスク管理研究所」との通信を実施しようとした。
あらかじめ彼ら個人の連絡先を聞いていなかったから、ウォーリーはエリックと共同であらゆる通信回線に侵入し、彼らとの接触を試みたのだ。
回線やシステムへの侵入は彼らが最も得意とするところである。
「タブーなきエンジニア集団」が秘密通信経路を用いて仲間と連絡が取れるのは、この技術の賜物なのだ。
また、ウォーリーにはメディットに入院中、投薬システムに侵入し、投薬プログラムを書き換えた前科もあった。
彼らはこうした技術を悪用(?)して、「リスク管理研究所」との間に通信を開こうとしたのだが、トニーの機転によって阻止されてしまったのであった。
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