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誘発
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俊輔は暑さで目が覚めた。
時計を見ると10時になろうとしている。
ベットの上で起き上がり、汗でびっしょりになっているTシャツを脱ぐ。
立ち上がろうと足を下ろすと、ベットの下で寝ている葵に気付いた。
「葵!お前なんでこんなとこで寝てんだよ」
俊輔が葵の尻を軽く蹴る。
「いってぇなぁ!」
葵は目を覚ますと「お前ふざけんなよ!昨日発作の後、お前が離れなくて大変だったんだかんな!」
俊輔はあの後も葵について回り
トイレやシャワーも一苦労だった。
俊輔にシャワーを浴びさせないわけにもいかず……
何年かぶりに一緒入り、怖がって離れない俊輔を何とか葵が洗った。
結局寝る時も手を離さず葵は俊輔の部屋で寝る羽目になったのだ……。
言われて俊輔は何となく思い出して「ごめん」と俯いた。
それでも発作の直後からの記憶は断片的には思い出せるものの
――ほとんどない……。
覚えているのは恐怖感と――
――とてつもない不安…………
「バーカ、気にすんなよ。もう慣れてる」
葵が笑って立ち上がり時計を見ると
「ヤバッ!もう10時過ぎてんじゃん!バイト11時からなのに…」
慌てて部屋を出る。
「朝飯は?」
俊輔が声を掛けると
「いらない!シャワー浴びたら行く!」
葵は階段を下りながら声を張り上げる。「コーヒーだけ飲む!」
俊輔は笑って自分も階段を下りていく。
洗面所でサッと顔を洗うだけで手が震えているのが分かる……。
浴室から葵がシャワーを浴びている音が聞こえる。
――また葵に迷惑を掛けた…。
溜息をつくとキッキンへ向かいお湯を沸かす。
自分と葵のカップを出しインスタントコーヒーを入れ、葵の方には砂糖を入れる。
葵の言うところの『コーヒー』はカフェオレのことだ。
お湯が湧き、注いでから葵のカップに牛乳を入れる。
コーヒーをダイニングテーブルに持っていくと、ちょうど葵が出てきた。
葵がパンツ一丁の格好で頭を拭きながらコーヒーを飲む。
「服ぐらい着ろよ」
俊輔が笑うと
「暑いからギリまでやだ」
と、エアコンの温度を下げる。
「今日4時までだから。終わったらすぐ帰ってくる」
葵がスマホに目をやりながら言った。
俊輔は済まなそうに笑って「分かった」とだけ答えた。
発作の後、俊輔が不安定になるのを一番解っているのは葵だった。
――……親も気付いていない。
「着替えて行くわ。夕飯チャーハン食べたい」
「…分かった」
俊輔が笑う。
バタバタと葵が出てくと、俊輔はリビングのソファーに座り身体をあずけた。
シャワーを浴びたかったが今はそれすら怖かった。
完全に溺れたことが、より一層の恐怖感と不安感を植え付けた。
「結衣に謝らなきゃ…」
結局無理をして結衣や北村さんにまで迷惑かけて…。
しかも……何か結衣に話をされていたような気がするけど……思い出せない……。
俊輔はポケットからスマホを取り出したが、どうしてもいじる気にならずソファーに投げ出した。
薬の副作用か離脱症状か
何もやる気になれない……。
葵がいないことへの不安が募り出す。
結衣に謝らなければならいのに出来ないことにも……
葵がいないだけで不安になることにもイラつき……
――それがまた不安に変わる……。
俊輔がため息をつくとスマホがラインの着信を知らせる。
ソファーに倒れ込みクッションに顔を埋める。
……スマホを手に取るのも嫌だった。
諦めて部屋へ薬を取りに行く。
医師から抗不安薬はあまり使わないように言われていた。
部屋へ行くと引き出しから頓服薬をだす。
少し迷ってから1回分取り出すとキッチンへ向かい水と飲み込んだ。
ソファーに戻ると見たくもないテレビを流し見する。
その内に頭がぼーっとして眠気が襲ってくる。
――するとスマホの着信音が鳴り出した。
手を伸ばし放り出されたままだったスマホを手に取る……。
……薫からだ……。
「はい…」
一瞬迷ってから俊輔が出ると
「俊輔?良かった。さっきラインしたけど既読もつかないし、何かあったかと思った」
薫のホッとした声が聞こえる。
「ごめん。…スマホ部屋に置きっぱで気付かなかった」
何となく嘘をつく。
「ならいいんだけど。昨日は楽しんだ?」
薫の言葉に胸の中がソワソワし始める。
――タイミングが悪い……。
薬がまだ効ききっていない。
「ああ…いや……ダメだった」
俊輔が無理に笑う。
「そっか、…水恐怖症であんなに『水』があるとこ行けば仕方ないさ」
『水』と言う言葉に昨日の記憶が甦り、大量の水が俊輔の頭の中に流れ込み始める。
――再び恐怖が身体にまとわりつく――。
「俊輔、今日くる?」
薫は気づかず話続けている。
俊輔は気付かれないように軽く深呼吸すると
「今日はやめとく…。ちょっとダルいから」
「そっか。…大丈夫か?呼吸早くなってない?」
俊輔のスマホを持つ手が震える。
――呼吸…早くなってきてる……!?
「――そっち行こうか?」
薫の言葉に縋りたい気持ちをどうにか抑える。
「大丈夫!…大丈夫だから…」
自分にも言い聞かせた。
「……そっか。ま、何かあったら連絡しろよ」
――そう言って薫は電話を切った。
目の前のモニターには一昨日俊輔が来た時の映像が流れている。
俊輔は隠そうとしていたが、発作を起こしかけてるのが手に取るように分かって薫は笑った。
昨日のプールで大きな発作を起こしているのも、もちろん知っている。
電話で発作を誘発するようなワードを使ったのもわざとだ。
後少しして家を出れば俊輔の家に着く頃、発作の真っ最中だろう。
もし上手いことやって発作を起こしてなかったとしても「心配して来た」と言えば自分にとってマイナスにはならない。
「俺の期待を裏切らないでくれよな」
モニターの中で眠る俊輔に話しかける。
薫は発作で苦しがる俊輔を想像して身体が熱くなるのを感じて
「今日は…我慢できるかな…」
そう言って笑った。
時計を見ると10時になろうとしている。
ベットの上で起き上がり、汗でびっしょりになっているTシャツを脱ぐ。
立ち上がろうと足を下ろすと、ベットの下で寝ている葵に気付いた。
「葵!お前なんでこんなとこで寝てんだよ」
俊輔が葵の尻を軽く蹴る。
「いってぇなぁ!」
葵は目を覚ますと「お前ふざけんなよ!昨日発作の後、お前が離れなくて大変だったんだかんな!」
俊輔はあの後も葵について回り
トイレやシャワーも一苦労だった。
俊輔にシャワーを浴びさせないわけにもいかず……
何年かぶりに一緒入り、怖がって離れない俊輔を何とか葵が洗った。
結局寝る時も手を離さず葵は俊輔の部屋で寝る羽目になったのだ……。
言われて俊輔は何となく思い出して「ごめん」と俯いた。
それでも発作の直後からの記憶は断片的には思い出せるものの
――ほとんどない……。
覚えているのは恐怖感と――
――とてつもない不安…………
「バーカ、気にすんなよ。もう慣れてる」
葵が笑って立ち上がり時計を見ると
「ヤバッ!もう10時過ぎてんじゃん!バイト11時からなのに…」
慌てて部屋を出る。
「朝飯は?」
俊輔が声を掛けると
「いらない!シャワー浴びたら行く!」
葵は階段を下りながら声を張り上げる。「コーヒーだけ飲む!」
俊輔は笑って自分も階段を下りていく。
洗面所でサッと顔を洗うだけで手が震えているのが分かる……。
浴室から葵がシャワーを浴びている音が聞こえる。
――また葵に迷惑を掛けた…。
溜息をつくとキッキンへ向かいお湯を沸かす。
自分と葵のカップを出しインスタントコーヒーを入れ、葵の方には砂糖を入れる。
葵の言うところの『コーヒー』はカフェオレのことだ。
お湯が湧き、注いでから葵のカップに牛乳を入れる。
コーヒーをダイニングテーブルに持っていくと、ちょうど葵が出てきた。
葵がパンツ一丁の格好で頭を拭きながらコーヒーを飲む。
「服ぐらい着ろよ」
俊輔が笑うと
「暑いからギリまでやだ」
と、エアコンの温度を下げる。
「今日4時までだから。終わったらすぐ帰ってくる」
葵がスマホに目をやりながら言った。
俊輔は済まなそうに笑って「分かった」とだけ答えた。
発作の後、俊輔が不安定になるのを一番解っているのは葵だった。
――……親も気付いていない。
「着替えて行くわ。夕飯チャーハン食べたい」
「…分かった」
俊輔が笑う。
バタバタと葵が出てくと、俊輔はリビングのソファーに座り身体をあずけた。
シャワーを浴びたかったが今はそれすら怖かった。
完全に溺れたことが、より一層の恐怖感と不安感を植え付けた。
「結衣に謝らなきゃ…」
結局無理をして結衣や北村さんにまで迷惑かけて…。
しかも……何か結衣に話をされていたような気がするけど……思い出せない……。
俊輔はポケットからスマホを取り出したが、どうしてもいじる気にならずソファーに投げ出した。
薬の副作用か離脱症状か
何もやる気になれない……。
葵がいないことへの不安が募り出す。
結衣に謝らなければならいのに出来ないことにも……
葵がいないだけで不安になることにもイラつき……
――それがまた不安に変わる……。
俊輔がため息をつくとスマホがラインの着信を知らせる。
ソファーに倒れ込みクッションに顔を埋める。
……スマホを手に取るのも嫌だった。
諦めて部屋へ薬を取りに行く。
医師から抗不安薬はあまり使わないように言われていた。
部屋へ行くと引き出しから頓服薬をだす。
少し迷ってから1回分取り出すとキッチンへ向かい水と飲み込んだ。
ソファーに戻ると見たくもないテレビを流し見する。
その内に頭がぼーっとして眠気が襲ってくる。
――するとスマホの着信音が鳴り出した。
手を伸ばし放り出されたままだったスマホを手に取る……。
……薫からだ……。
「はい…」
一瞬迷ってから俊輔が出ると
「俊輔?良かった。さっきラインしたけど既読もつかないし、何かあったかと思った」
薫のホッとした声が聞こえる。
「ごめん。…スマホ部屋に置きっぱで気付かなかった」
何となく嘘をつく。
「ならいいんだけど。昨日は楽しんだ?」
薫の言葉に胸の中がソワソワし始める。
――タイミングが悪い……。
薬がまだ効ききっていない。
「ああ…いや……ダメだった」
俊輔が無理に笑う。
「そっか、…水恐怖症であんなに『水』があるとこ行けば仕方ないさ」
『水』と言う言葉に昨日の記憶が甦り、大量の水が俊輔の頭の中に流れ込み始める。
――再び恐怖が身体にまとわりつく――。
「俊輔、今日くる?」
薫は気づかず話続けている。
俊輔は気付かれないように軽く深呼吸すると
「今日はやめとく…。ちょっとダルいから」
「そっか。…大丈夫か?呼吸早くなってない?」
俊輔のスマホを持つ手が震える。
――呼吸…早くなってきてる……!?
「――そっち行こうか?」
薫の言葉に縋りたい気持ちをどうにか抑える。
「大丈夫!…大丈夫だから…」
自分にも言い聞かせた。
「……そっか。ま、何かあったら連絡しろよ」
――そう言って薫は電話を切った。
目の前のモニターには一昨日俊輔が来た時の映像が流れている。
俊輔は隠そうとしていたが、発作を起こしかけてるのが手に取るように分かって薫は笑った。
昨日のプールで大きな発作を起こしているのも、もちろん知っている。
電話で発作を誘発するようなワードを使ったのもわざとだ。
後少しして家を出れば俊輔の家に着く頃、発作の真っ最中だろう。
もし上手いことやって発作を起こしてなかったとしても「心配して来た」と言えば自分にとってマイナスにはならない。
「俺の期待を裏切らないでくれよな」
モニターの中で眠る俊輔に話しかける。
薫は発作で苦しがる俊輔を想像して身体が熱くなるのを感じて
「今日は…我慢できるかな…」
そう言って笑った。
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