君の手の温もりが…

海花

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違和感

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その後は2人とも普段通りに過ごした。
時々会話を交わし、お互い好きなことをして…。
しかし壁に飾られた写真がほんの少し傾いているような僅かな違和感が立ち込めていた。
早めの夕食をとり食器を片付けると
「先に寝るわ」
俊輔が早々に部屋へ行こうとした。
「…え?…」
時計はまだ7時をなろうとしているところだ。
「勉強しなきゃだから。葵もあんまり夜更かしするなよ」
そう言うと「おやすみ」と階段を上がって行った。
いつもなら2人ともリビングで一緒に過ごした。
別段一緒に何かをする訳ではない。
お互い好きなことをする。
俊輔が勉強をしている隣で葵はゲームをしている、といった風に。
しかし、今日は葵1人、リビングに残された。
原因は恐らく昼間の葵の態度……。
俊輔を傷つけたと解っていた。
その気も無く手を払い除けた。
やましいことを考えていたと悟られたくなくて、冷たくしてしまった。
そして多分俊輔は自分を責めている。
いつもそうだ。
いつものように戻った後は自己嫌悪の塊になる。
『いつものように』なっただけで発作の後遺症は中々抜けない。
──解ってるのに………。
あんな態度を取ってしまった。
葵はソファーの上で膝を抱えて項垂れた。
正直面倒臭くなったことが無いと言えば嘘になる。
それでも苦痛だと思ったこともなければ、放り出してしまいたくなったことも無い。
好きだから望むことは何でもしてやりたかったし、傷つけたくもなかった。

好きだから…
あんな姿を見れば見惚れる…。
…本当に──綺麗だと思った──。
──触れたい───
そう、思ってしまった…。
「…だって…誰だって好きな子が出来ればキスしたいとか思うじゃん…」
葵の独り言が部屋の中に消えていく。
ただ自分の場合、相手が義理の兄だっただけ…。
葵は大きなため息をついた。

俊輔は部屋に入るなり胸を抑えた。
雨に降られた時からずっと動悸が止まらなくなっていた。
それが葵に手を払われてから酷くなった。
シャワーを浴びるのも正直恐かった。
しかしそれよりも葵に無理をさせて嫌われる方が恐いと思った…。
引き出しから薬を取り出しそのまま飲み込みベットに横になる。
完全に発作が起きてる訳じゃない…。
大丈夫だと、頭の中で繰り返す。
これ以上葵に迷惑を掛けたくない…。
それに、もしも…。
もしも、記憶の無い間に今朝みたいに葵に欲情するような事があったら…。
完全に葵を失ってしまうかもしれない…。
「…俺は…葵が好きだったんだ…」
誰も好きになれないんじゃなくて…。
葵が好きだから他の誰も好きにならなかったんだ…。
これ以上嫌われたくない…。
良い兄に戻って、全て隠し通せばいい。
できるはずだ…。
発作を起こしそうになったら部屋にこもれば良いだけだ。
父にも…義母にもそうしてきたように…。
「薬…後どれくらいあったっけ…」
徐々に頭に靄がかかっていく様に考えなきゃいけないことが見えなくなっていく。
しかし同時に耳から黒い不安が入り込んでくる様な気がする…。
恐い…。
しかし靄が上手く不安も恐怖も見えなくしていく…。
そして俊輔も靄の中へ落ちていった。

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