32 / 160
すれ違い
しおりを挟む
「俊…」
葵がドアの前から声を掛ける。
中からは何の反応も無い。
「俊!空けるぞ」
いつもなら何の前触れもなく開けるドアを気を使いながら開けた。
ベットで俊輔が寝息をたてている。
服のまま、何も掛けずに。
葵は少し拍子抜けして笑顔になる。
起こそうか迷ったが、そっと身体を抱き上げ肌掛けが掛かるようにする。
フッと俊輔がいつも使うシャンプーの香りが鼻腔に届く。
うっすらと開いた形の良い唇から寝息が聞こえる。
再び葵の鼓動が早くなる。
葵の唇が引き寄せられる様に俊輔の唇へ近づいていく。
しかし息がかかる程の距離で止まった。
葵は俊輔に背を向けて、ベットに寄りかかり座る。
「…それはダメだろ…」
寝ている俊にならキスをしてもバレないかな…とか…。
「……最低だな…」
床に下ろした手に『カサッ』と何かが触れた。
手に取ろうとした途端ポケットのスマホが音を立てて主張しだす。
「バッ…!マズイマズイ……」
俊輔を振り返り慌てて電話に出ると静かに部屋を後にした。
床には俊輔の飲んだ抗不安薬の袋が残されたままだった。
「…葵くん?」
電話から藤井の声が聞こえる。
「藤井さん…?。お疲れ様です」
葵は慌てて電話を持ち直す。
「今大丈夫だった?」
「あ、はい。大丈夫っす」
そう言いながら自分の部屋へ入っていく。
「今日もご迷惑お掛けしてすみませんでした」
「気にしなくていいから」
優しい声が安心させるように言う。「お兄さんどう?明日は大丈夫そうかな?……もしまだ調子悪いなようなら無理しなくて大丈夫だよ?」
藤井の優しさが伝わってくる。
「ありがとうございます。けど大丈夫です。明日は行けます」
葵が答えると
「そっか。それならお願いするよ。昨日より声も元気そうだしね」
と、藤井が安心したように笑った。
ヤバ…俺…昨日電話で泣いたんだっけ…。
思い出して恥ずかしくなった。
「それじゃ明日お願いします。急に電話して悪かったね」
「いえ!こっちから連絡しなくちゃなのに…俺こそすみませんでした」
藤井の気遣いがありがたかった。
電話を切ると葵は軽くため息をつき
「頭冷やそ…」
そう言ってリビングへ向かった。
「マネージャー!」
電話を終えるとチーフが後ろで待ちかまえていたように声を掛けた。
「どうしたの?」
藤井が振り向くと
「今日はもう帰ってください」
怒った顔で睨みつけている。
「えー…僕がいると邪魔ってこと?」
藤井がにこやかに返す。
「その逆です!今日で9連勤ですよね?また倒れたらどうするんですか?」
「千尋くん…最近貫禄ついたね」
チーフの上野千尋は藤井のとんちんかんな返答に本気でイラッときながら
「今日は平日ですし、もう混まないと思うので帰って休んで下さい」
何とか平静を保って言った。
千尋くんと言っても女性である。
藤井と千尋は5年近い付き合いで、この店をオープンするに当たって藤井が本店から連れてきた。
「心配してくれてるの?でも…どうかな…まだ混みそうな気がするけど…」
藤井は時計を見ながら首を傾げ考えている。
「大丈夫です!それなりのメンバーですし」
千尋も譲らない。
「僕、15勤まではしたことあるから大丈夫だよ?」
「知ってます!それで、その後倒れましたよね?」
「…あれ?そうだっけ?」
そうだっけじゃないわ!!と怒鳴りたい気持ちを抑えて
「とにかく今日は帰ってください。明日は藤井さんにいてもらわないと困りますから」
藤井はしばらく千尋を見つめ笑顔になると
「じゃぁお言葉に甘えさせて貰おうかな…」
そう言って座った。
それと同時に藤井のスマホが鳴り出す。
千尋が『どうぞ』と手でやると藤井が軽く頭をさげ電話に出た。
「はい、……歩夢?」
千尋が何となく居心地悪そうに防犯カメラに視線をやる。
「うん…。もう帰るよ。千尋くんが帰っていいって…。うん、うん、…分かった」
藤井が電話を切る。
「歩夢くんですか?」
何となく視線は防犯カメラのまま千尋が尋ねる。
「うん。最近休み無しだったから心配してるみたい」
藤井が苦笑いする。
歩夢も元々同じ店でバイトをして、千尋も知っていた。
もちろん二人の関係も…。
「とにかく、今日はもう帰って休んで下さいください」
千尋がようやく微笑む。「いいですね?休んで下さいね。言ってる『意味』解りますよね?」
「千尋くん…やっぱり貫禄すごいよ」
藤井が再び苦笑いした。
葵がドアの前から声を掛ける。
中からは何の反応も無い。
「俊!空けるぞ」
いつもなら何の前触れもなく開けるドアを気を使いながら開けた。
ベットで俊輔が寝息をたてている。
服のまま、何も掛けずに。
葵は少し拍子抜けして笑顔になる。
起こそうか迷ったが、そっと身体を抱き上げ肌掛けが掛かるようにする。
フッと俊輔がいつも使うシャンプーの香りが鼻腔に届く。
うっすらと開いた形の良い唇から寝息が聞こえる。
再び葵の鼓動が早くなる。
葵の唇が引き寄せられる様に俊輔の唇へ近づいていく。
しかし息がかかる程の距離で止まった。
葵は俊輔に背を向けて、ベットに寄りかかり座る。
「…それはダメだろ…」
寝ている俊にならキスをしてもバレないかな…とか…。
「……最低だな…」
床に下ろした手に『カサッ』と何かが触れた。
手に取ろうとした途端ポケットのスマホが音を立てて主張しだす。
「バッ…!マズイマズイ……」
俊輔を振り返り慌てて電話に出ると静かに部屋を後にした。
床には俊輔の飲んだ抗不安薬の袋が残されたままだった。
「…葵くん?」
電話から藤井の声が聞こえる。
「藤井さん…?。お疲れ様です」
葵は慌てて電話を持ち直す。
「今大丈夫だった?」
「あ、はい。大丈夫っす」
そう言いながら自分の部屋へ入っていく。
「今日もご迷惑お掛けしてすみませんでした」
「気にしなくていいから」
優しい声が安心させるように言う。「お兄さんどう?明日は大丈夫そうかな?……もしまだ調子悪いなようなら無理しなくて大丈夫だよ?」
藤井の優しさが伝わってくる。
「ありがとうございます。けど大丈夫です。明日は行けます」
葵が答えると
「そっか。それならお願いするよ。昨日より声も元気そうだしね」
と、藤井が安心したように笑った。
ヤバ…俺…昨日電話で泣いたんだっけ…。
思い出して恥ずかしくなった。
「それじゃ明日お願いします。急に電話して悪かったね」
「いえ!こっちから連絡しなくちゃなのに…俺こそすみませんでした」
藤井の気遣いがありがたかった。
電話を切ると葵は軽くため息をつき
「頭冷やそ…」
そう言ってリビングへ向かった。
「マネージャー!」
電話を終えるとチーフが後ろで待ちかまえていたように声を掛けた。
「どうしたの?」
藤井が振り向くと
「今日はもう帰ってください」
怒った顔で睨みつけている。
「えー…僕がいると邪魔ってこと?」
藤井がにこやかに返す。
「その逆です!今日で9連勤ですよね?また倒れたらどうするんですか?」
「千尋くん…最近貫禄ついたね」
チーフの上野千尋は藤井のとんちんかんな返答に本気でイラッときながら
「今日は平日ですし、もう混まないと思うので帰って休んで下さい」
何とか平静を保って言った。
千尋くんと言っても女性である。
藤井と千尋は5年近い付き合いで、この店をオープンするに当たって藤井が本店から連れてきた。
「心配してくれてるの?でも…どうかな…まだ混みそうな気がするけど…」
藤井は時計を見ながら首を傾げ考えている。
「大丈夫です!それなりのメンバーですし」
千尋も譲らない。
「僕、15勤まではしたことあるから大丈夫だよ?」
「知ってます!それで、その後倒れましたよね?」
「…あれ?そうだっけ?」
そうだっけじゃないわ!!と怒鳴りたい気持ちを抑えて
「とにかく今日は帰ってください。明日は藤井さんにいてもらわないと困りますから」
藤井はしばらく千尋を見つめ笑顔になると
「じゃぁお言葉に甘えさせて貰おうかな…」
そう言って座った。
それと同時に藤井のスマホが鳴り出す。
千尋が『どうぞ』と手でやると藤井が軽く頭をさげ電話に出た。
「はい、……歩夢?」
千尋が何となく居心地悪そうに防犯カメラに視線をやる。
「うん…。もう帰るよ。千尋くんが帰っていいって…。うん、うん、…分かった」
藤井が電話を切る。
「歩夢くんですか?」
何となく視線は防犯カメラのまま千尋が尋ねる。
「うん。最近休み無しだったから心配してるみたい」
藤井が苦笑いする。
歩夢も元々同じ店でバイトをして、千尋も知っていた。
もちろん二人の関係も…。
「とにかく、今日はもう帰って休んで下さいください」
千尋がようやく微笑む。「いいですね?休んで下さいね。言ってる『意味』解りますよね?」
「千尋くん…やっぱり貫禄すごいよ」
藤井が再び苦笑いした。
0
あなたにおすすめの小説
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
告白ごっこ
みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。
ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。
更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。
テンプレの罰ゲーム告白ものです。
表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました!
ムーンライトノベルズでも同時公開。
うちの家族が過保護すぎるので不良になろうと思います。
春雨
BL
前世を思い出した俺。
外の世界を知りたい俺は過保護な親兄弟から自由を求めるために逃げまくるけど失敗しまくる話。
愛が重すぎて俺どうすればいい??
もう不良になっちゃおうか!
少しおばかな主人公とそれを溺愛する家族にお付き合い頂けたらと思います。
初投稿ですので矛盾や誤字脱字見逃している所があると思いますが暖かい目で見守って頂けたら幸いです。
※(ある日)が付いている話はサイドストーリーのようなもので作者がただ書いてみたかった話を書いていますので飛ばして頂いても大丈夫です。
※度々言い回しや誤字の修正などが入りますが内容に影響はないです。
もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。
なるべく全ての感想に返信させていただいてます。
感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます!
ビッチです!誤解しないでください!
モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃
「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」
「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」
「大丈夫か?あんな噂気にするな」
「晃ほど清純な男はいないというのに」
「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」
噂じゃなくて事実ですけど!!!??
俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生……
魔性の男で申し訳ない笑
めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる