君の手の温もりが…

海花

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「はい」
藤井が葵にココアを手渡す。
葵が来るようになってから、藤井の家の冷蔵庫にはココアとクリームが常備されるようになっていた。
場所をリビングに移し葵は藤井の部屋着を借りている。
「ありがとうございます」
葵が笑顔で受け取った。
「まず……何から話そうか……」
藤井が自分はコーヒーを飲みながら困った様に微笑んだ。
「……さっきの人と……別れたのは…俺のせいですか?前に……俺が二股のこと責めたから……」
葵らしい真っ直ぐな言葉だ。
「それは違う。歩夢と別れたのは……葵以外に関心が持てなくなったから。他の人間と過ごすなら葵と過ごしたいと思ったし…その手で葵を抱きたくないと思ったから…かな……」
昼間……結局、莉央も抱けなかった。
「本当にもう!」と笑っていたが、結果…莉央も傷付けた……。
「そんな……俺は……そんなふうに思ってもらえる程の人間じゃないです……」
──俺は……最初藤井さんを俊の代わりにしたかっただけに過ぎない……
葵が俯いて唇を噛んだ。
「それは俺が決めることでしょ?……それに、これは葵が気に病む必要は一切無い」
藤井がきっぱりと言い切った。
「俺の気持ちの問題だから。葵がどんなに価値がある人間だったとしても……命を掛けて俺を愛してくれたとしても、自分でそう思わなければ俺は……平気で裏切るよ」
葵が藤井を見つめた。
葵の中の『藤井直斗』という人間と余りにも掛け離れている。
それでも……自分への思いに嘘は無いと切ない程伝わってくる。
「どうして……俺なんですか……莉央さんは!?……まさか莉央さんとも……」
葵が顔を歪める。
一度会っただけだったが、二人は本当に信頼し合っている様に見えた。
「……莉央も…俺が葵に本気になってるのは知ってる。……それでもあいつは離れないと言ってたよ」
葵は複雑な表情を浮かべた。
自分が俊輔の代わりを藤井に求めたことで、少なくても二人の人を傷つけていたのだと初めて知った。
「なんで葵なのかは……正直俺にも解らない。最初葵に泣きつかれた時は慰めて『彼』の代わりをしてやればいいくらいに思った。……それが気が付いたら葵しか見えなくなってた」
藤井がまた困ったように笑った。
本当は兄の元に帰すのも嫌だった。
出来るものならずっと手元に置いておきたかった。
二人でゲームの話をしたり、スイーツを食べたり……。
そんなくだらない時間ですら藤井には掛け替えのないものになっていた。
「……他に……前に…とか……好きになった人は……いなかったんですか?」
葵が率直な疑問を投げかける。
藤井は俯きしばらく黙ってから口を開いた。
「……一人だけ……本気で好きだった人はいたよ。……まだ高校の頃の話だけどね」
「その人とは……」
葵は言葉を探した。
藤井のことを知りたいと思ったが、どこまで聞いていいのか決め兼ねる…。
「一緒にいられなかった。……誰よりも大事で、俺は一生そいつといられるもんだと思って疑わなかったけどね」
藤井が悲しげに笑った。
「だから……自分を全て投げ出してもいいと思えるのはそいつと…葵だけだよ」


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