君の手の温もりが…

海花

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不安

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家に着くと俊輔の足のガムテープだけを外し部屋まで連れて行った。痛み止めが切れてきたからなのか無理をしているからか、藤井の脇の痛みは少し前から戻ってきていた。
「葵は少し休んでおいで。薬が切れるまで俺が彼のそばにいるから」
「藤井さんこそ休んでください!俊は俺が見てるから……」
葵が慌てて藤井の袖を掴んだ。隠してはいるが痛みを我慢しているのを分かっていたからだ。
「冗談でしょ……。彼と葵を二人きりにして、俺が休んでいられると思う?」
薫の家での俊輔とのキスが頭に蘇る。怪我をしているのに一緒に俊輔を連れに行き、空き巣まがいの事までさせて、挙句目の前であんなことまであったら……。穏やかでいられる訳がないと、葵にも解る。
「彼には何もしないし、させないから」
そう言って葵の額にキスをすると俊輔の部屋のドアを閉めた。


葵はしばらくの間俊輔の部屋の前で迷っていたが、リビングに戻りソファーに座った。しかし二階の様子が気になり休む気になれない。
笑ってはいるが藤井が怒っているのも手に取るように解っていた。
ふと……俊輔とのキスを思い出し唇に指で触れた。
『葵……大好きだよ』そう言って自分に微笑みかけキスをした……。
薬のせいだと解っていても胸が苦しくなった。
ずっと……望んでいた……ずっと……俊輔の唇に触れたかった……。
「———俊………」
葵は自分でも気付かないうちに愛しい名前を口にしていた……。


「息苦しい思いをさせてごめんね…」
ドアを閉めるとベッドに座る俊輔の元に行き、まず口のガムテープを剥いだ。
すると俊輔はガムテープで巻かれたままの両手で藤井の胸ぐらを掴み
「葵と別れてくだい」
瞳で真っ直ぐに藤井を捉えた。
「笑えない冗談だね」
「冗談じゃありません。葵を返して下さい」
俊輔が掴む手に力を入れた瞬間、藤井が俊輔を押さえつけベッドに捩じ伏せた。
「あまり…ふざけない方がいい…。笑えない冗談に付き合える程、機嫌がよくなくてね」
俊輔の顔が痛みで歪む。
「……葵と別れて下さい………」
それでも言い続ける俊輔を見下ろし、押さえつける手に力を加える。俊輔の顔が一層苦しげに歪んだがすぐまた藤井を睨み
「———葵を…返して下さい………」
絞り出すように声にした。
藤井はしばらく俊輔を見つめていたが、軽く深呼吸をすると俊輔を押さえつけていた手を離した。
「葵に君に何もさせないし、しないと約束してある。協力してくれると……助かるんだけど……?」
そう言いながら俊輔の手首のガムテープを取り始めた。俊輔も今度は大人しく藤井を見つめている。
藤井の言葉に納得したのか、俊輔はベッドに横になり黙ったまま天井を見つめている。藤井はドアの前に俊輔の勉強机の椅子を移動させそこから俊輔を観察していた。
葵が思って止まない相手が目の前にいる。
自分とは随分似ていない様に思える。兄に拒絶されて自分を求めたと思っていたが……。
どう見ても…お互い思い合ってる様に見え……胸に不安が巣食い出した……。
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