君の手の温もりが…

海花

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スペアキー

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葵が電話を切ると再び部屋に沈黙が訪れた。俊輔が背中の向こうから自分を見ているのが不思議と分かる。
「……あの人……?」
俊輔が沈黙を破った。
「そう…」
葵は背中を向けたままそれだけ答えた。何を言って返したら良いのか解らない…。
「葵………昨日…ほとんど寝てないんだろ…?」
「———え⁉︎」
俊輔の言葉に振り返ると、視線がいつもの優しい笑顔とぶつかる。
「寝ぼけた?……少し休もう…俺も……疲れたし……」
そう言って俊輔は葵の返事を待たずにリビングを後にした。
俊輔の背中を見つめながら葵は何も言えないまま立ち尽くしていた。
本当に寝ていなかったから、その所為かもしれない……。
ただ……衝動的に俊輔にキスをしていた。望むまま……欲望のままに……。
以前の様な居心地の良い空間は一瞬で終わりを告げた。


「でも良かったぁ……。私の取越苦労で……」
笑顔を向ける結衣に俊輔が少し困った様に笑い返した。

昨日の電話で自分達が心配していた様なことは何も無かった、と葵から聞かされていた。それでも一応連れ帰って来たと……。

昼少し前に電話をすると結衣はすぐに俊輔の元を訪れた。
「でも……やっぱり望月くんとは……距離を置いた方が良いと思う……」
結衣が上目遣いで俊輔の様子を窺った。昨日しつこく言い過ぎて呆れられたのを思い出したからだ…。
———また大袈裟って言われるかな………。
しかし俊輔は俯くと
「そうだね……。そうするよ……」
そう答えた。
結衣の中に一抹の不安が生まれる……。

———本当は何かあったんだ……。でもきっと……俊輔の為に葵は言わなかった……。

「結衣……昼食べたの?」
「———え…?」
「まだなら…何か作ろうか…?」
俊輔が冷蔵庫を見に行く。これ以上薫の話を続けたくなかったし、自分が葵にしてしまったことを思い出すのも怖かった。
———また……もし……我慢ができなくなったら……
「そう言えば……葵は?まだ寝てるの?」
結衣の言葉にほんの一瞬、俊輔の動きが止まった。そして何も無かった様に
「あの人の所……今日は帰らないかもって」
そう言って、
「結衣…何食べたい?」
いつもの優しい笑顔を結衣に向けた。



玄関の外で人の気配がした様な気がして藤井は耳を澄ませた。特に何の音もしないが妙に気になって玄関へ向かいドアを開けた。
するとドアのすぐ横に葵がうずくまって座っている。
「———葵⁉︎」
葵が黙ったまま顔だけ上げ不安そうに藤井を見上げた。
「どうしたの⁉︎何で…入らないで座ってるの⁉︎」
昨日帰り際、歩夢から取り上げたままずっと一緒にしてあったスペアキーを葵に渡しておいた。藤井にしたら願掛けのつもりもあったのだろう……葵がこれを使ってくれる様にと……。
何も言わない葵の横にしゃがむと
「今日はここで過ごす?俺は…葵と一緒ならどこでも良いけど?」
そう言って微笑んでみせた。

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