最後の君へ

海花

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子猫が昨日買って貰ったばかりのおもちゃの猫じゃらしを咥えて紡木の足元に持ってきた。

「お前……適応能力すごいね……」

紡木が笑いながら子猫の頭を撫でおもちゃを受け取る。

───俺とは違う……。

猫じゃらしで遊んでやりながら直斗の言葉を思い出す。

───本気なんだろうか……

猫が嬉しそうに猫じゃらしにじゃれつく。──もし……本気だったとしたら…………俺は……どうすればいい…………?

───どうしたい………………?

紡木が遊ぶ手を止めても子猫はじゃれついている。
恋人などもう作る気はなかった。
死ぬまで一人でいいとさえ思っていた。
またあんな辛い思いをするくらいなら……。
自分が直斗に惹かれているのは解っている。
けれど、受け入れていいのか……
受け入れたいのかは……分からなかった。
子猫がピクッと耳をそばだてる様子を見せると来客を知らせるチャイムが鳴った。

───?……誰だろう……

ドアを開けると目の前についさっき帰ったばかりの直斗が息を切らせ汗びっしょりになって立っていた……。
直斗は苦しそうに壁に手を当て呼吸を整えようとしている。

「……どうしたの!?忘れ物!?電話くれたら届けたのに……」

「……ちがっ……あんたに………会いたくて…………」

息を切らせながら直斗が告げた。
コンクリートの床に直斗から汗がポタポタと落ちて染みを作っている。

「…………会いたくてって…………さっき帰ったばかりじゃない…………」

「そうだけどっ…………もう……会いたく……なった……」

紡木の顔が微かに歪んだ……。

──俺に……会うために……こんなに息を切らして…………

「あっちぃぃ!!……」

直斗が着ている服を掴むとパタパタと風を送り込む。

「タクシー…使った方が絶対時間掛かるから……走ってきたけど……マジ暑い!」

顔にもびっしょりと汗をかいて直斗が笑った。

──この子は……どうしてこんなに…俺の中に入り込んでくるんだ……

「……とにかく入って…。何か飲まないと」

「サンキュ……冷たいのがいい」

「あ……俺スポーツドリンク買ってくるよ」

そう言う紡木の腕を直斗が掴んだ。

「あんたに会いに来たのに……あんたがいなくなったら……意味ないじゃん」

紡木の鼓動が『トクトク』と激しく打ち始める。

「……コンビニ行くくらい……すぐだよ…」

「すぐでも何でも、嫌なんだよ。あんたと一緒にいたいんだから」

やっと呼吸が戻った直斗が面白くなさそうに紡木を見つめる。

「それと………今は飲み物より、あんたにキスしたい」

直斗が紡木の腰に手を回した。

動けなくなって……言葉も出てこない……
直斗の唇がゆっくりと触れる。
アルコールと微かにタバコの匂いがして、忘れたい記憶が蘇る。

───もう一度……誰かを好きになっても……いいんだろうか…………

紡木は直斗を受け入れている自分に気付いた……。



麦茶と氷の入ったマグカップが汗をかいて机に水滴を落としている。
直斗は紡木から渡されたタオルで汗を拭くと2杯目の麦茶を一気に飲み干した。

「久々にこんだけ走ったから、死ぬかと思った……」

「どれくらい走ったの?」

「んー……店からだから……4、5キロくらいじゃない?」

「お酒飲んでそんなに走ったの?」

紡木が苦笑いする。

「そんな飲んでねぇよ。だって…この時間、絶対走った方が早いもん。服……脱いでいい?汗でびっしょだ……」

「着替え……持ってくるよ」

紡木が立ち上がると

「あ!……あんたと……その……ちゃんと話もしたかったんだ……」

「話?」

「そう……その……結構…大事な話……」

───なんだろう…………。

「とりあえず着替え持ってくるよ」


直斗が着替えを済ませると神妙な顔をしてソファーに黙って座っている。

──そんなに……真面目な話なのかな……

紡木は直斗の様子を窺っている。

「俺さ……その…何にも知らなくて……」

直斗が不意に話し出した。

「さっき店で……初めて聞いて……」

紡木が心配そうに首を傾げた。

「何を……?」

「そのっ……男同士のやり方……」

「───え……?」

───やり……かた…………?

「いや!すぐどうこうじゃなくて!もし……あんたがその気になって……俺を少しでも…好きになってくれたら……」

───…………え?………………

「俺は……その……男とって経験ないからさ……。聞いて…ちょっとびっくりしたけど…………」

───何の…………話…………

「けど!あんたの事…本気で好きだから!あんたが…もし……タチって言うの…だったら……俺…………頑張るから!」

直斗が真面目な顔で紡木を見つめている。
すごく……真剣な顔で……。
紡木は直斗の真剣な顔が愛しく感じて思わず困った様に笑った。

──本当に…………この子は…………

「俺は……藤井くんとなら……別にどっちでもいいよ。好きな人となら……」

「───え……?……」

「好きな人と出来るなら……俺は藤井くんが望むままでいいよ……」

紡木が顔を赤くして俯いた。心臓がこれ以上ない程早くなってるのが分かる。

「……それって……つまり……俺のこと好きだってこと……?」

直斗が信じられないといった風に目を見開いた。
変なとこばかり見られていたし、そう簡単に好きになってもらえるなんて思っていなかった。

「……嘘じゃないよね?」

「嘘じゃない」

直斗の子供みたいな言葉に思わず笑いながら見つめる。

「……マジで…………嬉しいんだけど……」

直斗が顔を真っ赤にして嬉しそうに笑ってから、床に座っている紡木の手を引いて抱き寄せた。

「じゃあもう…遠慮なくキスしていいよね……」

言うなり紡木を抱き締めキスをする。
紡木も少し戸惑いながら直斗の背中に腕を回した……。









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