最後の君へ

海花

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過去

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直斗がバイトを初めてから一ヶ月が過ぎた。
零との約束通り浮気もせず仕事が終わると真っ直ぐに家に帰る、このひと月まるで嫁の尻に敷かれるサラリーマンの如く真面目に過ごしている。

「直斗ぉ!たまにはアフター付き合えよ!」

常連の客に絡まれる事もしばしばで……。

「付き合わねぇよ!ここはキャバじゃねぇっての!」

直斗はいつもの如く吐き捨てる様に返した。

「ダメダメ。コイツ尻に敷かれてるから」

「何とでも言え……」

笑うノブに直斗は不貞腐れた様に酒を口にした。

「コイツの嫁、学校のセンセーの卵だから怖いんだよ」

そしてニヤリと笑うノブの言葉に思わず直斗が酒を吹き出した。

「──なんでそれっ!……」

「おい!汚ねえな!」

それがモロに掛かった客が叫び、店中の注目を集めている。

「康平!てめぇ喋ったろ!?」

しかし客の言葉など耳に入らないのか直斗は奥の席で女の子達と飲んでいた康平へと怒鳴りつけた。
康平はというと……チラッと一瞬直斗に視線を向け、直ぐに女の子達との会話へと戻る。

「───康平!ちょっと来い!」

カウンターの中から直斗が再び怒鳴ると、康平が仕方なし「うるせぇなぁ……」と愚痴りながらカウンターへとやって来るのを、客におしぼりを渡しながらノブはそれを見て笑いを噛み殺している。

「お前!零のことノブに話したろ!?」

「……いいじゃん別に……減るもんじゃ無し…………」

康平が『やれやれ』と言いたげに肩を竦める。

「………お前……───何で買収された?」

直斗が康平に言いながらノブに視線を向ける。

「えー……飲み代タダにしてくれるって言うから…………」

「──お前ら………本当!最悪だな‼︎」

直斗は二人を交互に睨みつけた。




───へえ……。先生の卵で……『レイ』ねぇ…………。

「ねぇシモン、この後どうする?」

カウンターから少し離れた席で、どう見ても直斗達と同い年かそれ以下の少年が一人の男に寄り添っている。
『シモン』と呼ばれた男はカウンターから少年へ視線を移すと

「どうするも何も…ホテル行きたいんだろ?」

少年を抱き寄せ耳もとで囁いた。

「……急に機嫌良くなっちゃって……どうしたの?」

先程までの機嫌の悪さでは、今日ホテルに行くことは無いと思っていた。

「ん?……お気に入りのおもちゃでまた遊べるかなぁ…と思ってね」

男が少年に優しく微笑む。
しかしその瞳は目の前の少年を見ていなかった。
目に映るものではなく……何かを思い出しているような、どこか遠くを見ている様な……。

「………何それ…」

少年は少し呆れた様に肩を竦めてから

「そんなことより、今日…『あれ』ある?」

そう言いながら男の首に腕を回した。

「……お前、本当好きな」

男は楽しげに笑うと

「俺本当は……普段大人しい奴の淫乱っぷりを見る方が好きだって知ってた?」

独り言の様に呟いた。

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