神殺しの花嫁

海花

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子狼

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「…………これ……なに?……キツネ?」

「うさぎだろ!?……そんな顔してる」

「……どうして……琥珀の布団で寝てるの?……」

「どうせまたどっかで拾ってきたんだろ?……ぜってぇまた黒曜に怒鳴られるぜ」

どこか遠くから子供の話し声が聞こえる。
そして朧気に覚めかけた意識の中、頬に柔らかい何かが触れ、その柔らかい何かがぷにぷにと自分の頬をつつく。

───なんで……俺の部屋に…………

「おいっ!やめろよ蛍!起きちまうだろ!?」

「…………柔らかい……」

「え!?……本当に……?」

「…………ほんと……」

夢から覚めつつある幸成の両頬を今度は三本の指が同時につついた。

───清吉……?……違う………あれ……ここ…………

「本当だ……柔らかい……」

「…………柔らかい……」

遠くで聞こえていた声がボソボソとした小声ではあるが、自分のすぐ傍で話していると気付き、それに加えて執拗につつかれる頬に意識が完全に戻された。

───俺の部屋じゃない…………!!

突然目を開け飛び起きた幸成を、初めて見る子供が3人……大きく目を見開いて見つめる。

───誰…………!?……

お互い動けず見つめ合う瞳が…………

「───うわーーーッッ!!」

三人の耳を裂くような大声へと変わった…………。




つい少し前まで幸成の寝ていた布団の上に十歳くらいだろうか、男子おのこごが二人、女子おんなごが一人……膝を正し座っている。
そしてその前には、咎めるように胡座をかいて座っている犬神……。

夜中突然自分達の布団に来た山神を怪しんで、目を盗みこっそり部屋に入り込んだのだ。
そこで眠る幸成を見つけ…………結局叱られている。

「勝手に俺の部屋に入るなと何度言ったら解る?」

ため息と共に吐いた言葉に

「……琥珀だって…………昨日おれ達の布団に勝手に入ってきたじゃん……」

叱られることに飽きてきたのか、『翡翠』と呼ばれていた翠色の瞳をした男子が口を尖らせボソッと言い返した。

「──それは…………」

言葉を詰まらせた山神にここぞとばかりに翠色の瞳が嬉しそうに後ろに座っていた幸成を振り返った。

「どうせこの女に振られたんだろ!?だからおれ達の布団に来たんだ!」

「───えッ…………」

いきなり話の矛先が向き、幸成も言葉を詰まらせた。

「振られてねぇわッ!それに…こいつは女じゃねぇ!男だ!」

それにまたムキになる山神に

「………男に……振られたの……?」

蛍と呼ばれていた女子もボソッと口にする。

「うゎー………格好わる……」

「だからッ!振られてねぇって言ってんだろ‼︎」

まさに形勢逆転と言うのか、ムキになっている山神を子供達が揶揄っている。
それに思わず幸成がクスクス笑うと

「あー……もういい…。飯だから早く支度しろ……」

どこか面白くなさそうに諦めて立ち上がった山神をまだ揶揄いながら子供たちは部屋から飛び出しって行った。

「…………何が可笑しい…………?」

笑っている幸成を不貞腐れた瞳が睨む。
しかし昨夜のような冷たい瞳では無い。

「……昨晩とは……山神様の印象が大分違ったもので……」

そう言いながらまだ笑っている幸成に、余計面白くなさそうに「チッ」と口の中で音を鳴らした。

「───琥珀だ」

「…………え…………」

「オレの名だ。……“山神”なんてのはお前達人間が勝手に付けた名だろう」

「………………琥珀……様……」

「……“様”はいらねぇ」

目を逸らしばつが悪そうに頭を掻きながら

「……長持ながもちの中にオレの着物がある。適当に着てお前も早く来い」

部屋の隅に置かれた箪笥代わりの木の箱を視線で教えた。

「……来い……とは……」

「飯だよ。まさかチビ共の前で襦袢姿で過ごすつもりか?」

「───あ………………」

子供達の突然の襲来に自分が女物の襦袢姿だとすっかり忘れていた。

「…………着替えたら早く来い」

慌てて胸元と裾を押さえる幸成を残し、また頭を掻きながら琥珀は静かに襖を閉めた。


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