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「───なッ何を朝からッッ!!」
「俺との“約束”を忘れた訳じゃねぇだろ?」
布団の上に身動き取れない様に閉じ込められ、頬を熱くしていた熱が、身体へも広がっていく。
「……な……なんのことだか……」
早くなった鼓動を気付かれたくなくて、幸成は目を逸らしボソッと口にした。
誤魔化せると本気で思ってはいないが、そう言うのが精一杯だった。
僅かに反応し始めている身体を自分で分かっている。
「…………嘘つくなよ。“オレにいつ抱かれるのか気になって仕方がない”って顔に書いてある」
「─────!?」
夕べ、優しく髪を撫でた手が着物の裾をめくり柔らかい脚に這わされ、幸成の身体がビクッと震えた。
「───あ……ッ…………」
「……お前も……隙を見て、オレの首を狙うん?」
囁くような声が耳をくすぐり熱くする。
そしてそれをちゃんと分かっていて、その熱を移す様に耳元から首へ唇がゆっくりと触れながら降りていく。
「……それは………ぁッ…………もう……」
触れられた場所が熱を持ち、それに身を捩らせながら幸成が口にすると琥珀は動きを止めた。
「…………“もう”……なんだ……?」
「…………それは……もう……やめました……」
幸成の返事に訝しげな瞳が、紅く染まった顔を見つめた。
「……蒼玉と約束しましたから………蒼玉も、蒼玉の大切な人達も……誰も傷付けないって……」
「それでお前はどうする……?」
「…………どうするとは…………?」
「帰るのか?……自分の家に…………帰れるのか?」
「……………それは…………」
先程までの悪戯っ子の様な瞳が、今は真剣に幸成を見つめている。
琥珀にも解っているのだ。
父が寄越した幸成が、なんの成果も得られず、そう簡単に帰れる筈がないと。
「…………けど……蒼玉と約束したので……それに……昨日も言いましたが、父も兄も俺があなたを殺せるとは思っていません」
無理して、困った様に笑う幸成を琥珀の瞳が見下ろす。
「………なら、何故お前はここに来た?……何の為にだ……」
「───あなたに…………殺される為です……」
重い沈黙が部屋を埋めた。
昨夜琥珀の温かさに溶かされた筈の、不安や憤りが、また幸成の中に堰を作り始めていく。
───その為に俺は……ここに来た……。
「…………なら、お前はオレの好きにする」
暫くの沈黙の後、琥珀がニヤリと笑った。
「────え!?……」
「構わねぇだろ?……オレに殺されに来たのなら、その命はオレのモノだ。なら好きにさせてもらうさ」
そう言いながら琥珀は起き上がり、布団の上に座ると、長い髪を器用に紐で結んだ。
「だいたいお前が何の目的で来たかなんて、オレには関係ねぇ。オレからすりゃ毎年差し出される贄でしかねぇ。そうだろ?」
意味が解らないと言いたそうな、唖然とした幸成の手を引き隣に座らせると、またニヤッと笑った。
「……少しばっか違うのは、今年の贄は男で……オレがそいつを気に入ったってだけだ」
琥珀の手が不意に幸成の頬を撫で、顔が僅かに上げられた。
「だからオレの好きにする」
言葉と共に幸成の無防備な唇に、琥珀の唇が触れた。
「…………傷の具合はどうだ?」
何が起こったのか理解出来ず呆然としている幸成にクスッと笑うと、琥珀は突然耳元で囁くように言った。
「───え!?……あ…………すぐ手当てしてもらったので…………大丈夫です……」
視線を腕の包帯に移し答えた幸成に、今度はケラケラと声を上げて笑った。
「馬鹿……そっちじゃねぇよ」
「────え…………?」
「思い出さない程度には良くなってるってことだな」
まだ笑いながら、幸成の顔を自分に向けると再び口付け
「朝が嫌なら……今晩ゆっくり可愛がってやる。……そのつもりでいろよ」
髪をクシャッと撫でると、幸成を一人残し琥珀は朝餉の支度へと向かった。
そして全ての意味が理解り、幸成が首まで紅く染めたのは、それから数分経ってからのことだった……。
「俺との“約束”を忘れた訳じゃねぇだろ?」
布団の上に身動き取れない様に閉じ込められ、頬を熱くしていた熱が、身体へも広がっていく。
「……な……なんのことだか……」
早くなった鼓動を気付かれたくなくて、幸成は目を逸らしボソッと口にした。
誤魔化せると本気で思ってはいないが、そう言うのが精一杯だった。
僅かに反応し始めている身体を自分で分かっている。
「…………嘘つくなよ。“オレにいつ抱かれるのか気になって仕方がない”って顔に書いてある」
「─────!?」
夕べ、優しく髪を撫でた手が着物の裾をめくり柔らかい脚に這わされ、幸成の身体がビクッと震えた。
「───あ……ッ…………」
「……お前も……隙を見て、オレの首を狙うん?」
囁くような声が耳をくすぐり熱くする。
そしてそれをちゃんと分かっていて、その熱を移す様に耳元から首へ唇がゆっくりと触れながら降りていく。
「……それは………ぁッ…………もう……」
触れられた場所が熱を持ち、それに身を捩らせながら幸成が口にすると琥珀は動きを止めた。
「…………“もう”……なんだ……?」
「…………それは……もう……やめました……」
幸成の返事に訝しげな瞳が、紅く染まった顔を見つめた。
「……蒼玉と約束しましたから………蒼玉も、蒼玉の大切な人達も……誰も傷付けないって……」
「それでお前はどうする……?」
「…………どうするとは…………?」
「帰るのか?……自分の家に…………帰れるのか?」
「……………それは…………」
先程までの悪戯っ子の様な瞳が、今は真剣に幸成を見つめている。
琥珀にも解っているのだ。
父が寄越した幸成が、なんの成果も得られず、そう簡単に帰れる筈がないと。
「…………けど……蒼玉と約束したので……それに……昨日も言いましたが、父も兄も俺があなたを殺せるとは思っていません」
無理して、困った様に笑う幸成を琥珀の瞳が見下ろす。
「………なら、何故お前はここに来た?……何の為にだ……」
「───あなたに…………殺される為です……」
重い沈黙が部屋を埋めた。
昨夜琥珀の温かさに溶かされた筈の、不安や憤りが、また幸成の中に堰を作り始めていく。
───その為に俺は……ここに来た……。
「…………なら、お前はオレの好きにする」
暫くの沈黙の後、琥珀がニヤリと笑った。
「────え!?……」
「構わねぇだろ?……オレに殺されに来たのなら、その命はオレのモノだ。なら好きにさせてもらうさ」
そう言いながら琥珀は起き上がり、布団の上に座ると、長い髪を器用に紐で結んだ。
「だいたいお前が何の目的で来たかなんて、オレには関係ねぇ。オレからすりゃ毎年差し出される贄でしかねぇ。そうだろ?」
意味が解らないと言いたそうな、唖然とした幸成の手を引き隣に座らせると、またニヤッと笑った。
「……少しばっか違うのは、今年の贄は男で……オレがそいつを気に入ったってだけだ」
琥珀の手が不意に幸成の頬を撫で、顔が僅かに上げられた。
「だからオレの好きにする」
言葉と共に幸成の無防備な唇に、琥珀の唇が触れた。
「…………傷の具合はどうだ?」
何が起こったのか理解出来ず呆然としている幸成にクスッと笑うと、琥珀は突然耳元で囁くように言った。
「───え!?……あ…………すぐ手当てしてもらったので…………大丈夫です……」
視線を腕の包帯に移し答えた幸成に、今度はケラケラと声を上げて笑った。
「馬鹿……そっちじゃねぇよ」
「────え…………?」
「思い出さない程度には良くなってるってことだな」
まだ笑いながら、幸成の顔を自分に向けると再び口付け
「朝が嫌なら……今晩ゆっくり可愛がってやる。……そのつもりでいろよ」
髪をクシャッと撫でると、幸成を一人残し琥珀は朝餉の支度へと向かった。
そして全ての意味が理解り、幸成が首まで紅く染めたのは、それから数分経ってからのことだった……。
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