神殺しの花嫁

海花

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「……る…………瑠璃……さん……?」

「………すみません……幸成殿…………本当にあなたに夢中になる琥珀様の気持ちがよく解りますよ」

何とか笑うのを堪えようとしながら、それでも止まらない笑いを噛み殺し、瑠璃はやっと言葉にした。

「……あーぁ……可笑しい………幸成殿……私は男ですよ……?」

「………………え…………でもッ…………だって、お腹に紫黒様の子が…………」

「私達眷属は、主が望めば男でも子は孕めます」

「───男でも…………」

「そう、男でも。それに……紫黒様は男色しかされませんから」

「────え…………」

───男色………しか………

その言葉くらいは知っている。僧侶は女人禁制ということもあり少なくないと耳にしたことがあった。
しかし………………

「えっと…………つまり……瑠璃さ……瑠璃殿は男で、紫黒様の眷属で……その……お腹の中に紫黒様の子が……いる……と…………」

「はい。紫黒様が私との子を望んで下さったので……」

それは幸せそうに言った瑠璃を見つめながら「はぁ……なるほど……」と幸成は小さく呟いた。
なるほどとは言ったものの頭は混乱している。

『男色』は分かる。
昨夜自分も男でありながら琥珀に抱かれた。

しかし子を孕むとは…………。

───もしかして…………琥珀にも…………

不意に先程瑠璃が口にした名前を思い出した。
台所に来る前に部屋の隅に座っていた黒髪の男。
紫黒が「黒曜を“眷属として”傍に置きながら……」そう言っていた。
あの男が琥珀の眷属で、もし……瑠璃と同じ立場にいるのなら…………
自分のことを毛嫌いしても不思議では無い。

「あの……琥珀にも…………眷属が……」

「…………いますよ。一人だけ……」

「…………一人だけ……」

「幸成殿も、もうご存知でしょう?……黒曜です」

───やはり…………あの男性ひとが…………

初めて見かけたその男は瑠璃とは違い、見てくれからして男らしく、凛とした姿で座っていた。
あの姿は初めて見るが、ここの来た夜、琥珀の口が『黒曜』と呼んだのを覚えている。
ここまで自分を運び、隙あらば殺そうとした黒毛の狼…………。
先程も琥珀が怒りに身を委ねそうになった為に駆け付けたと言っていた。

───そんなにも深く結ばれた絆…………

「………………だから…………」

───きっとあの男性も…………琥珀と………

しかしその考えを止める様に、瑠璃は口を開いた。

「………幸成殿が思われる様なことは、一切ありませんよ……」

「───え……」

「琥珀様は黒曜のことを我が子のように思っておられます……。ですから、紫黒様と私の様な間柄にはありません」

そう言った瑠璃の顔がどこか切なそうに見えて、幸成は言葉を飲み込んだ。
なぜ瑠璃に自分の考えていた事が分かったのか不思議であったが、そのことをこれ以上聞いてはならないと思ったのだ。

「───おいッ!」

すると突然鋭い声が響き、二人はその声の方を振り返った。


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