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「つまらねぇ事グダグダ話してんなよ。焦げくせぇぞ」
「───あッ!」
幸成と瑠璃が揃えた様に声を上げ、同時に振り返った網の上には、先程の豆腐の田楽が既に黒く焦げ始めていて、瑠璃は慌ててそれに手を伸ばした。
「あっつッッ!」
「何やってんだ……馬鹿……。変わってやるから水で冷やして来い」
瑠璃を退かすと、近くに置いてあった箸を手に取り、黒曜は器用に焦げた豆腐を皿に移し始めた。
「まったく……つまみが無くなったから取りに来たら……この様だ……」
「…………でも……」
火傷した方の手を押え、瑠璃は幸成へチラッと視線を向けた。
黒曜が幸成の存在を面白く思っていないことくらい、冷静を装ってはいるその背中からひしひしと伝わってきている。
「………何もしやしねぇよ……」
「───でも…………」
「──いいから!すぐ冷やして来い!お前に傷でも付けようもんなら、あの馬鹿烏が怒り狂うだろ」
「ばッ……馬鹿烏とは失礼なッ!! 紫黒様は確かにお馬鹿さんな節はありますが、それでも列記とした神使なんですからッ!私以外が馬鹿と言うのは…………」
「うるせぇなぁ……早く行けよ!」
「─────ッ!幸成殿ッ!すぐ戻りますからね!何かされそうになったら大声をあげるんですよ!」
「…………え………………あ……………」
幸成の手を掴んで、黒曜の背中に当て付けがましくそう言うと、瑠璃はまだブツブツと黒曜への文句を口にしながら井戸へ向かった。
「………………豆腐かせ……」
二人きりになると、網から視線を外さずに黒曜は幸成へ手を差し出した。
「あ…………はッはい」
受け取った豆腐を、無言のまま焼いている背中を窺う。
あの夜以来、黒曜と顔を会わせるのは初めてだった。
「あいつは……琥珀は、お前の手に負える様な奴じゃねぇ」
徐に突き放す様な冷たい声が幸成の耳に届いた。
白みがかった翠色の杯に並々と酌まれた酒を、琥珀は一息で飲み干すと、また新たに手酌で杯を満たした。
紫黒にしろ琥珀にしろ、相手の杯に酌をする様なことはせず、お互いに好きに酒を飲む。
昔から変わらない風景だった。
「瑠璃の腹の子はどうだ?」
独り言のように琥珀が口にすると、紫黒はどこか嬉しそうに口角を上げた。
「すくすく育ってるさ。ずっと瑠璃が望み……やっと瑠璃に根付いた子だ……。必ず無事に産まれる」
「そうだな」
それに琥珀も子気味よく笑った。
瑠璃のことは紫黒の元に来た時から知っている。
旅の途中で迷い、怪我を負ったオオルリに一目惚れをした紫黒がどれ程瑠璃を大切にしているのかも。
「それより白姫のことだ……」
手の中の杯を空にすると、紫黒は酒を酌みながら声を低くした。
「…………怪我はあったのか……?」
「まさか───あいつが人間なんぞにやられる訳がねぇ。ただ……」
口元まで杯を運んだ手を止めると、琥珀はそこで言葉を濁した紫黒を見つめた。
「あいつの大主が……立腹したらしく……しばらく天上に留まるよう言われたらしい……」
「……天上に…………?」
「……ああ」
「それでは……」
「ああ。……神使まで不在となれば、あの地は自ずと荒れてくだろうな」
そう言うと紫黒は酒を一息で飲み干した。
「人なんぞ」「人間風情が」……そう口では言ってはいるが紫黒も人を嫌いではない。
それ故に人の世に留まり、その地を守っている。
「……仕方ねぇだろ……?それも人間が自ら選んだ道だ」
紫黒がどこか自分に言い聞かせる様にそう言うと、琥珀は持ったままだった酒をゆっくりと身体の中へ流し込んだ。
「───あッ!」
幸成と瑠璃が揃えた様に声を上げ、同時に振り返った網の上には、先程の豆腐の田楽が既に黒く焦げ始めていて、瑠璃は慌ててそれに手を伸ばした。
「あっつッッ!」
「何やってんだ……馬鹿……。変わってやるから水で冷やして来い」
瑠璃を退かすと、近くに置いてあった箸を手に取り、黒曜は器用に焦げた豆腐を皿に移し始めた。
「まったく……つまみが無くなったから取りに来たら……この様だ……」
「…………でも……」
火傷した方の手を押え、瑠璃は幸成へチラッと視線を向けた。
黒曜が幸成の存在を面白く思っていないことくらい、冷静を装ってはいるその背中からひしひしと伝わってきている。
「………何もしやしねぇよ……」
「───でも…………」
「──いいから!すぐ冷やして来い!お前に傷でも付けようもんなら、あの馬鹿烏が怒り狂うだろ」
「ばッ……馬鹿烏とは失礼なッ!! 紫黒様は確かにお馬鹿さんな節はありますが、それでも列記とした神使なんですからッ!私以外が馬鹿と言うのは…………」
「うるせぇなぁ……早く行けよ!」
「─────ッ!幸成殿ッ!すぐ戻りますからね!何かされそうになったら大声をあげるんですよ!」
「…………え………………あ……………」
幸成の手を掴んで、黒曜の背中に当て付けがましくそう言うと、瑠璃はまだブツブツと黒曜への文句を口にしながら井戸へ向かった。
「………………豆腐かせ……」
二人きりになると、網から視線を外さずに黒曜は幸成へ手を差し出した。
「あ…………はッはい」
受け取った豆腐を、無言のまま焼いている背中を窺う。
あの夜以来、黒曜と顔を会わせるのは初めてだった。
「あいつは……琥珀は、お前の手に負える様な奴じゃねぇ」
徐に突き放す様な冷たい声が幸成の耳に届いた。
白みがかった翠色の杯に並々と酌まれた酒を、琥珀は一息で飲み干すと、また新たに手酌で杯を満たした。
紫黒にしろ琥珀にしろ、相手の杯に酌をする様なことはせず、お互いに好きに酒を飲む。
昔から変わらない風景だった。
「瑠璃の腹の子はどうだ?」
独り言のように琥珀が口にすると、紫黒はどこか嬉しそうに口角を上げた。
「すくすく育ってるさ。ずっと瑠璃が望み……やっと瑠璃に根付いた子だ……。必ず無事に産まれる」
「そうだな」
それに琥珀も子気味よく笑った。
瑠璃のことは紫黒の元に来た時から知っている。
旅の途中で迷い、怪我を負ったオオルリに一目惚れをした紫黒がどれ程瑠璃を大切にしているのかも。
「それより白姫のことだ……」
手の中の杯を空にすると、紫黒は酒を酌みながら声を低くした。
「…………怪我はあったのか……?」
「まさか───あいつが人間なんぞにやられる訳がねぇ。ただ……」
口元まで杯を運んだ手を止めると、琥珀はそこで言葉を濁した紫黒を見つめた。
「あいつの大主が……立腹したらしく……しばらく天上に留まるよう言われたらしい……」
「……天上に…………?」
「……ああ」
「それでは……」
「ああ。……神使まで不在となれば、あの地は自ずと荒れてくだろうな」
そう言うと紫黒は酒を一息で飲み干した。
「人なんぞ」「人間風情が」……そう口では言ってはいるが紫黒も人を嫌いではない。
それ故に人の世に留まり、その地を守っている。
「……仕方ねぇだろ……?それも人間が自ら選んだ道だ」
紫黒がどこか自分に言い聞かせる様にそう言うと、琥珀は持ったままだった酒をゆっくりと身体の中へ流し込んだ。
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