神殺しの花嫁

海花

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幾つかの店が立ち並ぶ道で、琥珀は不意に足を止めた。
店先に並ぶ品物が気になったのか、じっと見つめる琥珀に気付き黒曜も足を止め、その視線の先を追った。

「……何見てんだよ」

紫黒も気付き琥珀の後ろから肩越しにヒョイと覗き込んだ。

「…………かんざし?……お前……あのチビに買ってくつもりか!?」

呆れた口振りの紫黒に、返事もせず品物を見つめる琥珀に肩を竦めると、紫黒も並んでいる美しい髪飾りを眺め始めた。

「俺の瑠璃なら……どれも似合いそうだな……」

その中のひとつ、『瑠璃』の飾りが付いた簪を見つけると紫黒は嬉しそうに手に取り、まじまじとその美しい細工を角度を変え見ている。
そして琥珀も布で覆われた台の上に飾るように並べられたひとつを手にした。

「あいつはいつも髪を結んでんだよ……」

ポツリと独り言の様に言った琥珀に黒曜が小さく溜息を吐き、呆れた様に“男には無用”に思える美しい髪飾りに視線を向けた。




不安に胸を駆られながら幸成は山道を走り続けていた。
手首を強く掴む翡翠の小さな手がまたその不安を駆り立てる。
どんどん険しくなる道とも言えない様な道を、ただでさえ山道に不慣れな幸成が、本来狼の翡翠に着いていくのはそれだけで必死だった。
途中何度も転び、木に肌を掠めたが、それでも急かす翡翠に冷静な判断すらも出来なくなっていることにすら気付いていない。

この時胸に不安さえ抱えてなければ、或いはこれ程急かされていなければ、事態のおかしさに気付いていたかもしれない。
あれだけ『危険だから』と山には連れていかなかった幸成を、その場へ呼び出す様な事を琥珀がする筈が無いと。


もうどれくらい走り続けたか分からなくなり、胸が苦しく、呼吸も儘ならなくなっていた。
それでも幸成は琥珀の元へ行かなければ……その思いだけに囚われていて、目の前を走っていた翡翠が、いつの間にかいなくなっている事に気付きさえせずに走っていた。

不意に足元を何かが掠め、幸成の足を引き、既にただ闇雲に走っていた身体が宙を舞う様に転び、大きな音と共に地面に叩きつけられた。

「───くッ…………」

運悪く木の根に胸が当たり、幸成は痛みに身体を丸めた。
しかしそこでやっと僅かに冷静さを取り戻し、辺りを見回した。

「…………翡…翠……?」

鬱蒼と茂った木が傾き始めた陽の光を遮り、まだ陽が沈む前とは思えない程薄暗くしている。
何度か翡翠の名前を呼んだが、返事どころか気配すら感じられない。
翡翠と逸れてしまったのだと、幸成は身体を起こしもう一度辺りを見回した。
しかしやはり葉を揺らす音すらしない。

───翡翠を探さなきゃ…………

まさか自分の様に転んではいないとは思うが、まだ小さな翡翠をこんな山の中で一人にしておく訳にはいかず、幸成は痛みを堪え立ち上がった。

すると、突然周りに幾つもの紅い光がふわりふわりと灯り始め

「あーあ……怪我しちゃったね」

声と共に、その明かりが灯る時と同じ様にふわりと一人の男が姿を現せた。



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